アサルトリリィ異聞:弾薬箱に愛を詰め込んで   作:gromwell

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♯08 赤の魔女

 突然の揺れに驚く間もなく、地面が盛り上がった為にできた斜面をあざみはコロコロと転がり落ちていた。

 スモール級が出てきたと思われる穴は、揺れのせいですっかり埋まってしまった。

 しかし、そこを中心にして大きく盛り上がった地面は既に見上げるまでの高さだ。

 斜面を転がり落ちたあざみが、地面に突き刺したCHARMを支点にすると身体をくるりと回転させて素早く起き上がる。

(おおおおお!?)

 そんなあざみの目の前を弾薬箱さんが勢いよくバウンドしながら盛大に転がっていった。蓋の開いた弾薬箱さんからポロポロと手榴弾やら拳銃やらが落っこちていく。

 あっという間に転がり去っていった弾薬箱さんを見送ったあざみの視線がある一点を見つめる。

 彼女の視線の先では卵から羽化するように盛り上がった地面を突き破り、見上げるほどの大型のヒュージがズルリと姿を現した。

「……ラージ級ですか」

 醜く膨らんだ蛇を思わせる姿のラージ級が鎌首をもたげると白く濁った瞳を細めてあざみを睨んだ。

 ぶよぶよと波打つ身体は土と泥でまだら模様に汚れている。その胴体の中程から先が鋭く尖った鞭状の細い腕が左右に二本、蠢いていた。

「……ノルト・リヒト起動──」

 あざみの右手が握る銀色の剣の刃が赤く淡い光を放つ。

 その赤い刃を静かに横一文字に振り抜くと、あざみの周りに赤い霧が薄く立ちこめる。

 瞬く間に広がった霧はあざみの周囲二十メートルほどを覆った。

「──ツェアレーゲン展開完了。掃討、開始」

 すっと鋭く細められたあざみの眼から、一切の感情が消えた。

 直後にあざみの足下から襲ってくる、すくい上げるようなラージ級の腕の一撃を一歩下がる事で難なく躱す。

 しなった腕の鋭く尖った先端がゴウと大きな風切り音を残していく。

 砂ぼこりを巻き上げながら、それは大きく弧を描いた。

 続けざまに横薙ぎに襲い来る腕を地面に伏せて避けると、弾薬箱さんがバラまいていった銃器のひとつを拾い上げた。

 その間にもラージ級の左右一対の鞭による波状攻撃が石を砕き弾き飛ばしながら繰り出された。

 そんな砂嵐の如き荒々しい暴力に対してあざみはCHARMを盾にしつつ正面突破を試みる。

 鞭状の腕を身を翻してかわし、散弾のように撒き散らされる砕かれた小石の欠片を防ぎながら、赤い瞳の少女の無謀とも思える突撃は止まらない。

 赤い霧にラージ級がすっぽりと包まれるほどに接近を果たすと、あざみは左手に構えたサイレンサー付きの軽機関銃MP5SD6の銃口をラージ級の頭部へ向けた。

 いまだ止まない鞭と礫の嵐のなか冷静に狙いをつけて引き金を引く。

 ラージ級の体表を覆う彎曲結界と呼称されるバリアの前には、本来ならば何の脅威にもならないはずの小さな弾丸は──しかし、ラージ級の頭部に悉く命中し損傷を与えた。

 大きくのけぞったラージ級の頭部には痛々しく無数の弾痕が刻まれていた。

 予想外の脅威に狼狽えたのか、それともひと息に勝負を決めようと焦ったのか、ラージ級が熱線を放とうと口を大きく開ける。今にも裂けてしまいそうなラージ級の口からキィーンという耳障りな音が放たれる。程なくして防ぎようもない熱線が放たれるだろう。

 その音に構うことなく、あざみは弾倉が空になったMP5SD6をポイッと投げ捨てた。

 身に着けたジャケットのポケットから取り出した手榴弾の安全ピンを引っこ抜くとラージ級の開いた口へと向けてぶん投げた。パイナップルな見た目のそれは、綺麗なアーチを描いてラージ級の口の中へスポッと入った。

 左手の人差し指と親指を立てて拳銃のような形にすると、あざみは人差し指の指先を、浮かべた柔らかな微笑みとともにラージ級の口へと向ける。

「ばーん……!」

 囁くようなあざみの声と共に、赤い霧が立ち込めるなか、鮮烈に濃い赤が散った。

 ラージ級の頭部が吹き飛び、醜悪な身体が力無く倒れて砂煙をあげる。

 その光景を少女は赤い刃をぶら下げて静かに見守っていたのだった。

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