仮面ライダーメルシャウム   作:fuki

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第八話:Dance with me! Dance with you! - 2

   *

 

 二〇分ほどのジョギングののちに渡辺曜は、海岸沿いの平野から沼津アルプスに向かう勾配に並んだ住宅の間にて、舗装されていない小道を見付けた。

「ここかな?」

 表札も案内板もないが、単語カードに描いた地図が示す場所に似ていた。

 砂利を敷いた小道を登っていくと、両側の民家を越えた辺りで山沿いの森にぶつかり、道は左にカーブする。

 カーブの終わりはまた直線、その先に、木に囲まれた小さな山門が見えた。

「≪妙法寺≫……ここだ」

 山門に掲出された達筆な看板に向かい、湧き水らしき池を横目に歩を進める。

 その時、歌が聞こえてきた。

「ふーんふーんふーんふふーんふ……」

 曜は耳を疑った。

 まったりとしたそのハミングが、耳慣れないものだったからではなく、どこかで聞いたことがあり、かつ、お寺で聞こえてくるようなものではなかったからだ。

「ふーんふーんふふーんふーんふ……」

 山門をくぐった時に思い出した。

「ビックカメラのテーマ曲じゃん、これ」

 市内にあるカメラ量販店で流れているフレーズだったのだ。

「なんで、こんなところで?」

 境内に入り、軽く曲がった参道を歩いて本堂の正面まで行くと、その歌が本堂の向こうから聞こえてくることが分かった。

 踏み固められて雑草も生えていない土に下り、小振りな木造の本堂を左手へ回る。若干傾斜した境内の山裾側には住職一家が住んでいるらしき建物があるが、本堂の奥と右手には鬱蒼とした森の斜面しか見えない。

「Shall we gather at the……」

 ハミングだった歌が英語になった。だが曲調は同じ。

 本堂の狭い外廊下に沿って足早に進み、陰から現場を覗くと――

「Where bright angel feet have……」

 ――そこには小柄な少女の姿があった。

 まったりと口ずさむ歌にリズムを合せ、異様にゆっくりと両腕と両脚を動かす様に、曜は昨日見た動画を思い出し、それが太極拳らしいことに思い至る。

 つまり彼女が、善子が紹介した動画の投稿者の一人――国木田花丸のようだ。

「With its crystal tide for……」

 曜がなんとなく知っている太極拳よりもゆっくりした動きで、何秒もかけて持ち上げた足を、何秒もかけて地面に下ろし、その間も腕は淀みなく動き続けている。

 それは見た目以上に、筋力と体力とバランスが必要な動きだ。

 拳法としての太極拳の腕前は不明だが、ダンスの資質があるのは間違いない。

「よし……」

 意を決して建物の陰から出た時、

「たーんたーんたーぬきーの……」

 英語の歌詞が日本語に切り替わり、

「うぉんうぉんうぉんうぉん!」

「うわあ!」

 吠え声でつんのめった。

 本堂を背に振り返ると、いつの間にか、曜のそばに大型犬がいた。

「マジ?」

 黒と茶の艶やかな毛並みに覆われたそれは、通った鼻筋の下に並ぶ鋭い切歯と、真っ黒い瞳で否応ないプレッシャーをかけていた。

 番犬だ。

「ま、待って待って、怪しいものじゃないよ。参拝客だよ!」

 手のひらを見せて後退るが、合わせて足音もなく近付いてくる。

「うぉんうぉんうぉん!」

「うひい!」

「パフェ、Quiet(静かに)! Sit(お座り)!」

 番犬は、すっと腰を下ろした。

「お、おお……?」

「パフェ、Good Boy(いい子ずら)

 曜は、劇的な変化をもたらしたコマンドに振り返る。

 太極拳のポーズのままとまった花丸が、闖入者の顔に目を丸くしていた。

「よ……ヨーソロー。国木田さん」

「…………」

 その目が細められた。

「パフェ、Guard(警戒)

 番犬がすっくと立ち上がり、曜の方に近付いてくる。

「え! え! 待って待って、なにもしないから!」

 花丸は完全に警戒していた。

 当然だ、昨日の今日で、プールの一件を忘れているわけがない。

「昨日は悪かったよ、その、追いかけ回して!」

「そのことじゃないずら!」

「え? あ、お寺とか神社とか言っちゃってたこと?」

「≪テラ&ステラ≫ずら!」

 叫んで、だが花丸は自分の口を押さえた。

「ごめんって。顔出ししてたし、ハンドルネーム隠してたなんて知らなくて」

「オラのことじゃないずら!」

 また声を上げ、花丸は眉を斜めにする。

「ルビィちゃんは、あのプールにお忍びで行ってたずら! 軽々しく呼んじゃいけないずら!」

 そんなこと知るわけがない、と反論しようと思ったが、黒澤家のご息女であれば、そうなのかもしれない。

「分かった、ごめんなさい」

「それでいいずら」

 花丸は鼻息を漏らして言い、

「はああ! 先輩になんて口の利き方を! マルこそ、ごめんなさい!」

 と頭を下げた。

「いいよ別に、それは。それよりさ、この子、懐いてくれたの?」

 黒と茶の大型犬――パフェは、曜の周りを回りながら、日の光で暖かな毛並みをこすりつけていた。

「渡辺先輩の顔は覚えました。パフェ、Patrol(巡回)

 番犬は花丸の言葉に、曜から離れて寺の敷地を歩いて行った。警備に戻れ、と指示したのか。

 曜はようやく人心地つけた。

「番犬がいるなんて知らなかったよ」

「ジャーマン・シェパード・ドッグの国木田Perfect(パフェ)です。最近は物騒だからって、お母さんが連れてきたんです。それで――」

 と、小柄な後輩は曜に顔を向けた。

「――なにかご用ですか?」

 その目に不信感が戻ったのを見て取り、曜は人当たりのいい表情を意識した。

「今日、学校休んでたからさ。怪我でもしたかと思って」

「いえ、一日に二回も怪人に追いかけられたので、学校でなにを言われるか分からなくて」

 島郷海水浴場のロリポリに、静岡県富士水泳場のパイルアップのことだ。

「パイルアップの方は、国木田さんたちだって噂になってないよ?」

「バイクの怪人のことです?」

「そそ」

「でも、渡辺先輩、大きな声で『ルビィさーん』、って」

「悪かったって……。まあその、ルビィさんのことは何人か呟いてたけど、壁をぶち破ってバイクを投げ込んだロリポリ動画が超人気でさ」

「そんなもんずら……?」

 方言丸出しで小首を傾げる花丸に、曜は思わず噴き出した。

「そんなもんなの。だから、学校来ても平気だよ」

「分かりました。その件は、ありがとうございました」

 花丸の顔は、「それだけ?」と問うていた。

 本題を切り出さねばならない。

「ねえ国木田さん、お願いがあるんだけど……」

 だが、曜は考える。

 本当は、「ダンスの振り付けを手伝ってくれない?」と言うつもりだった。

 担当がいないからと、ダンスの振り付け係に自分から飛び込んだ曜だが、自分の資質が如何ほどのものかは、最近のみんなの反応で分かってしまった。だから、ルビィに衣装作りを手伝ってもらっている善子に、曜も続こうと思ったのだ。

 しかし、高飛込でオリンピックを目指す自分は、そもそもアイドルに詳しくない。千歌の話についていくために、スクールアイドル自体の勉強も必須になる。その二足のわらじをはきこなした上で、振り付けまでできるだろうか。

 アイドル活動が動き出してしまえば、肉体性で役に立てるだろう。

 だが、こと準備においては、自分が役に立つビジョンが見えないのだ。

 なら、いっそのこと――

「――国木田さん、スクールアイドルやってみない?」

「オラが?」

 花丸は目を大きく開いた。そんな可能性など想像もしなかったようだ。

「でもオ――私、聖歌隊に入ってますし」

「私だって、水泳やってるよ?」

「アイドルに興味なんて、ないですし」

「私もだよ。友達に誘われたからやってるだけ」

「そうなんです?」

「だから話についていくの、大変でさ」

 ズルい論調だ、と自分でも思う。

「調べてみたら、案外ね、友達の付き添いで来た子とか、親戚に勝手に履歴書を送られた子とかの方が、後になって人気が出たりするみたいだよ。安室奈美恵とか、木村拓哉(キムタク)とか」

「私や渡辺先輩の方が、人気が出るってことです?」

「いや、まあ……そうは言わないけどさ」

 この方向は藪蛇だな。

「でも私、アイドルで役に立てることなんて、ないですし」

「いやいや、ニコ動の『踊ってみた』見たけど、振り作ってるじゃん! それに『歌ってみた』もめっちゃ上手かったし――」

「――見たずら!?」

「え、うん」

「ああああれはオラとルビィちゃんの一夏の過ちずら! 封印されし『夏への扉』へはネコ一匹通してはいけないずらああああ!」

「犬じゃないの?」

 曜の突っ込みも虚しく、花丸は髪の毛を振り乱してくずおれた。これは善子の言う通り、九つの世界も海に没するかもしれない。

 その時、くぐもった音がした。

 這いつくばっていた花丸が顔を上げ、曜は音の方を振り返る。

「誰かいるの?」

 そこには逆光を浴びた妙法寺の本堂がある。

「お祖父ちゃんは出かけてますけど……?」

 膝をはたいて立ち上がる花丸を残して、曜は本堂の表に回って階段を上がった。

 太陽を象ったらしき御紋が浮き彫りにされた扉は、硬く閉ざされていた。

 いや、障子のように区切られた磨りガラスの一つが外れている。曜は拳が入るくらいの空間から中を覗いてみる。

 学校の教室ほどの一間しかない本堂には、冷たいが清潔な匂いの空気が漂っていた。部屋には壁に沿って様々な仏像が並んでおり、中でも光輪を背負って棍棒のようなものを持っている仏像は、薄暗さもあってなかなか迫力がある。

 その仏像が見下ろす先に、漆塗りの台座があった。須弥壇(しゅみだん)というのか、手のひらサイズの黄色い布団が置かれたそれは明らかに異質で、この寺の本尊があるのだろう、と曜は考える。

 だが花丸の言う通り、人のいる気配はない。

 なんだったのだろう、と振り返り――

「は?」

 ――ダンゴムシと目が合った。

 ただし、全長は二メートル近くの。

「ちょ! ちょちょちょっとちょっと!」

 後退り、扉にぶつかってガラスが音を立てた。

 その間に、ダンゴムシは七対の足で本堂の階段を上がると、逆立ちし、足を胸に折り畳み、ロリポリ・フォーメアと化した。

 一対だけ残った足が、腕のように曜に伸びる。

「ぱ、ぱ、パフェさん! パフェさん、Help(助けて)!」

「どうしました!?」

 番犬の名に応えて現れたのは、飼い主の姿だ。

「国木田さん! 来ちゃダメ!」

 無意識に手を伸ばし、節足動物らしく節のついた腕を掴む。

「あ、また! ポリちゃん! Stop(ダメ)!」

「え?」

 ダンゴムシがとまった。

 いや、花丸のコマンドを聞いた?

「怪我はないずら?」

「え、うん」

 答えてから、ダンゴムシに問うたのかもしれない、と思った。

 黒光りする甲殻で覆われた腕は、日光を浴びてか暖かい。それを握っていると、さっきまで早鐘を打っていた心臓が、急速に静まっていくのを感じる。

「ポリちゃん、Lie down(伏せ)

 花丸のコマンドに、ロリポリの胸から腹にかけて折り畳まれている足がわさわさと動き始め、再び腹這いの状態に――つまり通常のダンゴムシ状態に戻った。

 曜が足を掴んでいる必要もない。全長二メートルくらいのダンゴムシは階段を下りていき、花丸のそばに走っていった。

「ポリちゃん、Good Girl(いい子ずら)

「ポリちゃん? 女の子なの? いや、そのコマンドって……躾けたの? フォーメアを?」

 土の上をかさかさと歩くダンゴムシを指差すと、花丸は溜め息をついて言う。

「ウチのご本尊が本堂を抜け出して、これに変身してるらしいんです」

「へ?」

「昨日はヘリも墜としちゃったらしくて。いちいち出てこないで欲しいです」

 なにが主語だ?

 本堂のガラスの穴を横目に、曜はフォーメアに対する考えを改める必要を感じている。

 

   *

 

「ごゆっくり」

「はい、いただきます!」

 母の環が運んできた湯飲みを受け取った曜の横で、

「ああ、これは……なるほどずら」

 国木田花丸は深く頷いた。

 本堂左手の庫裡の縁側に腰掛けて見た、先輩から転送された振り付け動画は、凄惨なものだった。

 鋭い動作と緊張感のある構えの結合体は、ダンスというよりは拳法の型のようで、しかし時折混じるアイドル的仕草のせいですべてが崩壊していた。ボディビルダー、歌舞伎、操り人形、パントマイム、と他の部員に酷評されたのも無理はない。

「なんでこうなっちゃうと思う? ちゃんとアイドルっぽいポーズ、考えたのに」

「その発想が、根本的に違うんです」

「どういうこと?」

 断言した花丸に、相談主の曜が湯飲みに口をつけながら問うた。

「ダンスは時間表現です」

 花丸は言葉を探すように、天に指を向けた。

「舞踊という単語が“まわる”と“とびはねる”で構成されているように、常に動いています。だから“ポーズ”という考え自体が、そもそも存在しません」

 曜が英単語用らしき単語カードを取り出して、[時間表現][ポーズはない]と書いているのを見て、花丸は不安になる。

「中学校で習いませんでした?」

「ろくにやらなかったんだよね、内浦中学校(うっちゅう)じゃ。選択はフォークダンスだったし、静浦中学校(しずちゅう)の統廃合でバタバタしてたし。国木田さんは第三中学校(さんちゅう)だっけ?」

「はい。マルは――私は創作ダンスでしたから、基礎から教わりました」

 だから迂闊にも、『踊ってみた動画』など作ってしまったのだが。

 花丸は熱い湯飲みを手で覆い、曜と並んで軒下から境内を眺めている。

 先ほどまで這いずっていた巨大なダンゴムシは、カラスの襲撃に遭ってダンゴ状態になっていた。パフェが駆け寄ってきてカラスを追い散らすと、恐る恐るダンゴムシに戻ったが、カラスの姿を警戒するように触角が揺れている。

「平和だなあ」

「ごめんなさい、気が散りますね。パフェ、ポリちゃん、Patrol(巡回)!」

 花丸の指示に、ダンゴムシと犬は仲良く寺の巡回を始めた。

 入学式から始まった仮面ライダーとフォーメアの戦いなど存在しないかのような光景だ。

 花丸はお茶を口に含み、鼻に抜ける茶葉の香りとあられの香ばしさに朝食のお茶漬けを思い出して、早くも夕食が待ち遠しくなった。

「ダンスにポーズはない、か……。じゃあなにがある? ポーズじゃなくて、なにが……」

 曜は法華経を唱題するように口を動かしていて、またしても花丸は不安になる。

「あの、ポーズがない、は過言でした。決めポーズ的にとまる箇所はあります」

「そうなの? ああ、そうだよね。うーん、そっか……」

 曜はカードを睨んでぶつぶつと呟く。

「つまりですね」

 花丸は湯飲みを置いて立ち上がり、軒下から境内に出ると振り返る。

「ダンスのレッスンを受けたことはないので、上手く伝えられるか分かりませんが」

 少なくとも言葉よりは、上手く伝えられるだろう。

 花丸は頭の中に、賛美歌『Shall We Gather at the River?』のイントロを展開する。

 太極拳の時とは違い、インテンポ(本来の速度)で。

 二拍のリズムを膝で刻み、拳を腰に。

「Shall we gather at the river」

 左足を左前へ、右足を左前へ。

 左足を右前へ、右足を右前へ。

「Where bright angel feet have trod」

 右拳を前に出し、左拳を前に出し。

 右拳を引っ込め、左拳を引っ込め。

「With its crystal tide forever Flowing」

 拳と足を組み合わせる。

 ただし足は後ろ向きで。

「by the throne of God?」

 左足を左前へ、右足を左前へ。

 腰に当てた拳を下ろす。

「はい」

 歌をやめ、曜を見る。

「今の動き、どう思いました?」

「ダンスっぽい!」

 曜は胸の前で小さく拍手をした。

「なぜだと思います?」

「え、いや、なぜって」

「ダンスはポーズとポーズを繋げて構成されていません。設計はポーズでも、その姿勢になる時間は〇・一秒もないんです」

「うん……」

「さっきの動きで言うと、拳を突き出した瞬間のポーズを見てほしいわけじゃないんです。拳を出して戻す一連の動作が重要なんです。違い、分かります?」

「……現在形と現在進行形?」

「そうずら! それずら渡辺先輩!」

 花丸が手を叩き、歩いていたロリポリが驚いてダンゴに戻った。

「そっか……そっか、[時間表現]だ!」

 曜も理解に到達したか、弾かれたように膝をバタつかせた。

「分かったよ! 名乗りポーズじゃなくて、変身ポーズを考えればいいんだ!」

「ずら?」

「そうだよ、なんで分かんなかったんだろ! 絵本の変身ポーズって、腕を動かす矢印とか描いてあったもん!」

「絵本? あの……ほんとに分かってます?」

 単語カードをペラペラとめくる曜はなにかを掴んだ口ぶりだが、直前の発言でそれが正しい方向なのか、花丸には分からない。

「分かってる――けどそれを、四分近く考えるのか。しかも三曲。ウソ……」

 しゅうっと音が聞こえるほどに、曜のテンションが落ちていく。

「生徒会長が言ってた締め切りの五月一五日まで、あと三週間もないです。振り付けの完成を待って練習となると、二曲でもギリギリだと思います。ダンスの基礎練はしてます?」

「基礎練? 体力作りはしてるけど」

 していないようだ。

 花丸は考える。

 曜は、ダンスの振り付けのなんたるかを、把握しただろうか。

 ここで思い違いがあり、手戻りが発生したら、もう取り返しが付かない。

 スクールアイドルの三大要素を、楽曲、衣装、ダンスと言い切った生徒会長が、ダンスのないパフォーマンスを認めるだろうか。

 黒澤ダイヤという人物については詳しくないが、あの黒澤家と考えれば、確実に否だ。

 浦の星女学院にスクールアイドルが産まれる最後のチャンスは、そこで潰える。

 そうなれば、どう思うだろう。

 ルビィちゃんは。

「渡辺先輩」

「ん?」

 しおれていた曜が顔を上げる。

「私、入部してもいいです」

 花丸の言葉が飲み込めなかったか、曜は顔中の穴を開けたり閉じたりした。

「え? マジ? スクールアイドル同好会に?」

「はい」

「ほんと? ほんとに!? やったあ!」

 曜は縁側から太陽の下に飛び出して、花丸の横を駆け抜けた。

「よーし、じゃあ曜ちゃん、ダンスしちゃうぞー!」

 と、先ほど花丸がやってみせたダンスを再現しだした。

「なんで覚えてるずら?」

「そりゃ覚えるよ! 歌は覚えてないけど! ほら、国木田さんも!」

「じゃ、じゃあマルも!」

 と花丸も合わせて踊ってみるが、アドリブでやった一回限りのものだから、どうにも合わない。

「違うよ国木田さん、腕は斜め上一五度!」

「え、こ、こうずら?」

「そう!」

 気付くと、花丸の左隣にロリポリ・フォーメアがいて、こちらも花丸の動きを真似し始めた。

「君もやる!? 意外と動けるじゃん!」

 おかしなことになってしまった。

 でもまあ、いいか。

「じゃ、じゃあ次のセット、いくずら!」

「ヨーソロー!」

 花丸が四小節一セットをアドリブで踊り、曜とロリポリが次の四小節でそれを繰り返す。

 それを何度か繰り返し、段々複雑になっていったステップに、ロリポリが脚(という名の触角)を絡ませて転んだところで終わった。

「あー、楽しかった! スタミナあるね、国木田さん」

 曜は息を弾ませて笑った。

「じゃ、改めて! これからよろしく――」

「――待ってください。私の入部には条件があります」

 花丸が遮り、曜は肩を上下させたまま固まる。

 花丸が告げた交換条件は――

「それ……。ちょっと簡単に、ヨーソローは出せないなあ」

 ――先輩に頭を抱えさせることになった。

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