「お前は今から俺の奴隷だ。」
拝啓、二人の母さん。
新月の真夜中、周りに充満する濃厚な血の匂いの中で、その契りは交わされた。
※※※
気付けば女の子になっていた。
何でかって?僕にも分からん。TS転生した。以上。
ただ漠然とした生まれる前の知識があるとしか言えないね。記憶は無し。あ、いや、自分が男だった事だけは覚えてる。他は一切思い出せない。
それじゃ唯の記憶喪失かもしれないって?それはない。たぶん《私》、今おかーさんのお乳飲んでます。ウマウマ。
なんでたぶんかって?目開けても視界ほとんど無いの。霞かかってる感じで全然見えません。おそらく生まれて数日の赤ん坊の状態なのです。
あ、女の子云々を知ってるのは、下半身拭いてもらった時に感覚無かったからね。○の方。
代わりと言ったら何だけど、後ろの方に付いてました。……尻尾が。
そう、私は人間じゃない種族に生まれ変わったのだ…!モフモフのモフ!
あ、眠くなってきた。そういうわけでおやすみなさい。ぐぅ…。
※※※
どうも、私です。13歳になりました。今日も元気に自慢の爪で薪割り!スパッとキレイに切れた時は快感が込み上げてきます。
あ、そうそう。私、種族は猫人でした。で、私個人は長毛種らしく、髪・耳・尻尾の部分はキューティクル抜群のフワッサラな白毛なのです。フフン♪
え、他の家事?いやー、身体を動かすって気持ちいいですね!を地でいってるので無理です、はい。
おかげで村一番の残念美人の通り名を頂戴しました。男としても女としても嬉しくないです、トホホ…。まぁ改善するつもりは現状ありませんが。
さて、無駄話はここらで終わりにして、残りの作業を済ませちゃいましょう。母さんのご飯が待っている!
※※※
空腹で死にそうです…。
結局あの後ご飯は食べられませんでした。今は馬車の荷台で村の女子供ほぼ全員と移動中です。
……手枷足枷付きで。
えぇ、捕まりました。人間に。
どうやら猫人は、人間の間で人気の高い種族だそうで。主に鑑賞用に。
気分は動物園に連れていかれる獣です。ドナドナです。殺される事は無いそうだけど。
うぁ……酔う。もうダメ、気持ち悪い……
※※※
バシャッ!
「……っ…ぷぁッ!」
溺れる!息が!
「おい、あんまり乱暴にするな!滅多に居ない極上だぞソイツは!」
あれ、どうなって……。確か馬車の揺れが酷くて気分が悪くなって。空腹も合わさってまさにグロッキーで……っておや?私一人だけ?
っていうか鼻が……!さっきのは水をかけられたっぽい。変に入ってめっちゃ鼻痛い!
「ゲホッ!ゴホッ!」
私が噎せてると、周りにいた男の一人が背中を摩ってきた。捕まった時と違って何か変に優しいんですけど。極上とか言ってたのと関係してるのかな?
「マシになったか?じゃあ立って歩いてもらうぞ。」
訂正。全然優しくないわ。誰か状況説明プリーズ。
「いいからとっとと行けや!」
「ひっ!?」
逆サイドの男からめっちゃ怒鳴られた!理不尽!さっきの水ぶっかけも絶対アイツだ!
怯えやら怒りやら色んな感情がごっちゃになってるけど、取り敢えず精一杯睨んどく。……涙目だけど。
「あ?何だよその目。今すぐ襲われてぇのか?いいぜ、犯ってやグボェっ!?」
「このクソが。コイツは商品だぞ。傷なんざつけたら俺達が食いっぱぐれちまう。おい、その役立たずを縛っとけ。」
なんかよく分からないけど……つまり私はそっちの方の需要があると?
ちょっ……無理無理無理!
「おっと、逃げようとしても無駄だぞ。既に売約済みだ。
「…っ!!」
まさかの事後報告。しかも取引先は貴族とな。当事者抜きで話決めるとか何してくれてんの?商品には関係ないってか。ちくしょう。
とにかく、これで退路は塞がれてしまった。貴族が相手なら更なる理不尽がまかり通ってしまう。立場というのはそんなものだ。
覚悟を決めるしかない。さよなら私の純潔。
※※※
「ゲッゲッゲッ。コイツは久々の超上玉じゃないか。」
金ピカ、ハゲデブ、エロガマガエル。
うん、テンプレ過ぎて言葉も出ません。こんなのが貴族なんて……。私13歳だよ?ロリだよ?お巡りさんこの人です。あ、買収済みですかそうですか。
終われこの国。
そんな事考えてる間も、金デブガエルは私のことをジロジロ視姦してくる。主に胸元を。
何を隠そう私は、身長は年相応なのに、膨らみは既に成人並。所謂ロリ巨乳という属性持ちなんです。こんな状況じゃ嬉しくないわ!
「お気に召しましたかな。」
「あぁ、期待以上だ。色を付けておいてやる。」
「ありがたき幸せに存じます。」
どうやら金デブガエルは金払いはいいらしい。執事らしき人が商人の男に、丸々膨らんだ革袋を渡して互いに中身を確認し合っている。
若干商人が冷汗をかいてるけど、そんなにヤバいの?金デブガエルは朗らかに笑ってそんな商人を見送ってるけど。
「今からお前はワシの女だ。何、不自由はさせん。存分に可愛がってやろう。」
総毛立つとはまさにこういうことだね。ノーセンキュー!男性視点から見てもカッコイイ、ダンディーなジェントルマンならまだしも、全くの真逆に位置するオッサンになんてヤダァー!
「よろしくお願い致します、ご主人様。」
けどそんな事は微塵も顔に出さず挨拶を済ませる。ここで逆らったりして只でさえ酷い状況を更に最悪になんて出来ない。とりあえず食事事情は最低限確保しなければ…!
因みに現時点で捕まってから約半日。すっかり日も暮れて街道に一歩出れば真っ暗である。加えて今日は新月。いつにも増して闇が深い。猫目の私には関係ないが。
さて、そんな危険な日に何故わざわざ暗がりをこの金デブガエルは移動するのか。
理由は単純。早く私を楽しみたいんだと。
何でもここ数日、自分の管理する領地の徴税に朝早くから深夜まで駆け回っていたんだとか。
そして最終日の今日、猫人の集団を捕獲したという報せがお抱えの商人から届き、懐事情も潤った所でこれ幸いと
あははふざけんなこら。心の準備くらいさせろや。しかもさっきから微妙なボディタッチしてきやがってぇ!徐々に女性の部分に手が近づいてくるし!
あっこら!来るな来るな来る――
※※※
……ん、あれ。どうなって――
「動くな。」
背後からの重い声に起き上がろうとした動きが止まり、その気は無かったが命令に従ってしまった。っていうか身体中が痛い……。え、まさかもう戴かれちゃった後……?
嫌な汗が背中を伝うが、よくよく周りを見てみるとまだ街道の途中、つまりは屋外である。ん?何で外?確か馬車に乗ってた筈――
「――ォエッ!」
そこでようやく、噎せ返る程の異臭に気付いた。……何か今日の私、気付いてばっかだな。
「動くなと言わなかったか?」
本日何度目かの理不尽に晒されながらも、言われた通り動きを止める。せめて鼻くらいは抓ませて欲しい。
「兄貴、やっぱり足りませんぜ。」
「こっちの馬車にも、それらしきモノは見当たらねぇです。」
人の気配が増えた。もう今日はなんなの?私振り回されまくりじゃない?クスン、お腹空いた……。
「チッ。ヤツが徴税途中で屋敷に戻ったなんて話は聞いちゃいねぇし、徴税に行ってねぇ土地があるとも聞いてねぇ。となると……」
複数の足音がコチラに近づいてくる。な、何か今日最大のピンチっぽいんですけど。鼻も鉄っぽい匂いで利かないから……鉄?
「おいお前。このクソ貴族が徴税した金の行方を知ってるか?」
「ぁ……」
分かりたくはないけど、その言葉で察してしまった。私の後ろは真っ赤な――
「振り向くなっ!」
「!!」
「そのままでいい。知ってることがあるなら話せ。」
お、おう……。落ち着け私。言うんだ。言わなきゃ多分、金デブガエルと同じになる……。言っても変わらんかもだけど……。
「わ、私の、代金として、払ってました…。」
静寂。後ろの男の顔を見てないから分からないけど、すっごい怒ってそう……。あぁ、こりゃダメそう。
「そうか。」
しかしそんな私の思惑とは裏腹に、男の声は落ち着いていた。
「金を受け取ったヤツは知ってるか?」
「お、覚えて…ません……」
これは嘘だ。あんな事してきた奴らを忘れるわけがない。けれど、言ったら多分あの商人達も、金デブガエルと同じ末路を辿るだろう。それはちょっと気が引けた。同族……母さんも巻き込まれるかもしれないし。
……水ぶっ掛けてきたやつはなって欲しいけどな!
「……ならいい。」
暫く黙っていたが、男は納得したようだ。
「い、いいんですかい、兄貴? この金の量じゃ、このガキに半分以上払ってますぜい?」
……は?半…分…?一年分の半分…半年分…?
貴族の年間収入を知らんけど、仮に50万として300万?あ、そら冷汗もんだわ。
「しょうがねぇさ。本人が知らねぇってんだからな。それによ。」
ここで初めて、男が私の前に来て、その顔を見ることが出来た。あ、普通にイケメン。爆発しろ。
「金としては無くなったが、コイツという形で残ってると思えばいい。そうだろ?」
後半部分は私への問いかけでもあるようだ。
正直、金デブガエル以外なら誰でもいいレベルではある。そう思う程あのエロオヤジは酷かった。
了承の意も込めて軽く頷く。
それに男も頷き返す。
「お前は今から俺の奴隷だ。」
拝啓、二人の母さん。
続かないよ。続けられないよ。