「う~ん、白い
意識が覚醒する。先までのこともあり、体を起こし、周りを確認する。
「どこだ、ここ・・・って、さっきの夢の場所か?」
見知らぬ天上、小瓶の入った棚。そこまでは確認できたが、血溜りや、形容しがたい白い小人のようなものはどこにも見当たらない。
「どうなっているんだ・・・まだ寝ぼけているのか?」
そこまで言って、自分が体を起こせたことに気がつく。麻酔のような何かはかかっていないようだ。そして、台の上から降りる。
「自分で体を動かすこともできる・・・
そして、歩きながら周りをぐるっと見渡す。先ほどまで横たわっていたのは、診療台のようだ。部屋には扉が2つあり、片方はカギがかかっているようで、もう片方には明かりが点いたランタンが壁にかかっていた。共通して言えることといえば、どちらからも、人の気配がしないようだ。辺りからは薬品の鼻をつくような臭いが漂っている。
「んー、こんなところに入り込みたい、みたいな自虐欲求でもあったのかな・・・それとも、病院に行く予定でもあったっけか?」
そこまで言い、眠る前のことを思い出す。いや、正確には思い出そうとした。
「記憶が・・・ない?」
そう、これが夢だとしても、眠る前に考えていたことどころか、自分のことさえ思い出せないのだ。
「え・・・っと、そういう設定の夢だったり・・・?」
自分にそう言い聞かせるも、さすがに無理があると思った。自分をつねった感覚はまだしも、周りから漂う薬品の臭いや、床から聞こえる木材が軋んだ音、肌に擦れる衣服の感覚など、夢にしてはあまりにもリアルすぎるのだ。
「寝ぼけてるわけではなさそうだし、もしかして、誰かに攫われでもしたのか?」
様々な不安や考えが頭をよぎるが、両の頬を平手で叩き、それらを一旦、頭の中から全て追い出す。
「考えていても仕方がないし、まずは行動だな・・・って、なんだ?この紙」
目を向けた先、そこには、走り書きが書かれたメモ用紙が置いてあった。しかも目立つように、光り輝く硬貨も添えられて。そしてそこには、自筆の文字でこう書かれていた。
「青ざめた血」を求めよ。狩りを全うするために ~ヤクト~
メモを見て、一旦落ち着いて考え直し、出た結論はこうだった。
(・・・誰だ、ヤクト)
悲しいことに、彼は自分の名前さえ記憶になかった。故に、これが自筆の走り書きだとも分からなかった。
結果、このメモが自分の走り書きだと気づくのはかなり後半のことになるのだが、それはまた別の話。
「えっと・・・ともかく、この硬貨で『青ざめた血』とやらを買いに行けばいいのか?」
自分でも無理があるとは思ったが、このメモ以外に手がかりになりそうなものが他にはなく、自分の思考能力ではここが限界だった。
「よし、とにかく『青ざめた血』とやらを探すか」
そう言うと、メモ用紙と硬貨をポケットに突っ込み、カギがかかっていないほうの扉に手を掛けた。
「なんかいる・・・」
扉の奥、階段を降りた先、診療台がいくつか置かれた部屋の中央辺りに、夢で見たような4足歩行の獣がいる。
夢で見た獣との違いとしては、毛は黒く血で塗れておらず、よく見ると何かを貪っているように見える。
現在、部屋に入ったところにある診療台に隠れながら部屋の中を見渡しているのだが、奥に続く通路に行くには、どうしても獣に気づかれてしまいそうなのだ。
「どうすんだよ、今こっちは武器になりそうなものなんてないぞ・・・」
頭が回る者であれば、近くにある瓶や木材の破片など、手ごろなものを投げて注意を引いて、その間に走り抜けるなどといった考えも出たであろう。しかし悲しきかな、彼は産まれついての脳筋思考であった。
「やるしかない・・・よな」
そう決心し、彼は果敢にも獣に挑む。
次回、狩人死す!デュエルスタンバイ!