ダンジョンへ行かずに恋人と過ごすのは間違っているだろうか? 作:翠星紗
作戦当日―――
シルが手に入れた大賭博の招聘状を手に大賭博場区域のメインストリート沿いの巨大アーチを潜っていた。用意しておいた馬車をカイトが馬の手綱を持ち馭者に扮していた。
馬車の中ではアリュード・マクシミリアンに扮して男装するリューと、その妻役であるシルがいる。タキシードを身に纏い眼帯を付けるリューは端整なエルフに見えるのだが…
「ねぇ、リュー! 私、大賭博場に来るの初めてなの!!」
「分かりましたから、シル。静かにしてください」
先ほどから楽しそうに馬車の窓から顔を覗かせては外の風景を楽しそうに眺める。それをリューは窘めていたが、無駄だと分ったようで軽く肩を落としていた。
馬車内部からシルの楽しそうな声が聞こえてくるのに緊張感がないなと苦笑いをカイトは見せていた。
アーチを潜り目的地に近づこうとしたが、馬車は区域の入口付近までしか入れないようだった。先に来ていた馬車が列をなして中に居る要人たちを出していく。
馬車の揺れが収まったことにリューは窓から少し外を眺めた。
「どうやら馬車はここまでの様ですね」
「それで、リュー。アンナさんがいる場所は?」
「この区域の奥にある最大の賭博場……”エルドラド・リゾート”です」
二人を降ろした後、カイトは馬車を予定の位置にまで運びそこで待機しなければならない。仕方ないとはいえ、カイトは納得できていなかった。
列はカイトたちの番になり、馭者であるカイトは馬車の扉を開ける。
馬車の中から出てきた男装姿のリューを見て、周りにいた女性たちは見惚れている。当たり前だ、男のカイトでさえ彼女の凛々しく端整な顔立ちには見惚れしまう。そんなリューに対して男たちは視線を強めていた。
そんな周りの視線など気にせず、リューは馬車へ振り返り手を差し伸べた。
「ふふ、ありがとう貴方」
馬車から女性の声が聞こえ、差し伸べられた手に自らの手を添えた。胸元が大胆に開いた紫色のドレスを身に纏い、シルは馬車から降りてくる。
今度は男たちが彼女の姿に視線が釘付けになった。女性たちに至っては連れの男を急かしたり、腕を抓ったりしていた。
ここに居る誰もが、彼女らは酒場で働いているなど思いもしないだろう。カイトは二人に軽く頭を下げて扉を閉める。
「カイトさん、それでは行ってきます」
「それでは予定の位置にお願いします」
了解の意味を込めて再度頭を下げて馬車を動かした。リューは馬車が去るのを静かに見つめていると、横からクスクスと小さな笑い声が聞こえてきた。
「どうしました?」
「貴方ったら、馭者の方がそんなに気にったのですか? まるで愛する男性を見つめる乙女の様です♪」
「なッ……か、からかうのは――」
「それじゃ、行きましょ?」
顔を真っ赤にして否定しようとしたリューの口を指で押さえ、シルは彼女の腕を取り先に急がせるのだった。
予定した場所に馬車を止めたカイトは静かに時がたつのを待っていた。馬をブラッシングしてどうしようかと考えていると、こちらに近づく足音が聞こえてきた。
二つ……いや、五つの足音が近づいてくる。カイトは最悪の状態を予想して振り返るとそこには……
「やっぱりカイトさんですね!!」
「ッ!?」
そこにいたのはヘスティアファミリアのベル・クラネルがいた。なぜ、彼がこんな大賭博場にいるのか驚いていると、さらに声が近づいてきた。
「ベルちん、何してんのって……あんたどっかで見たな?」
「ったく、リトル・ルーキー勝手に行動すんじゃ……って!?」
ベルと同じファミリアに所属するルイ・ホークとベルたちの捜索の際に18階層で出会ったモルドとかいう冒険者たちだった。
ルイはあまり覚えてないようでこちらを興味ありげに見ていたが、モルドたちはすぐに気づいたらしく驚いて声を張り上げようとしていたので、すぐに近づいて彼らの腹を殴る。
「ごは!? な、何すんだよ……」
『こえをだされるのはまずくてね。すまん』
「か、カイトさんやり過ぎですよ!?」
「ありゃりゃ……もるっちたち情けねぇ。一人気絶してんよ?」
「………ブクブクブク」
「ガイルゥーーッ!!」
口から泡を出して気絶する男を見てやり過ぎたと少し反省するカイト。
モルドとスコットがガイルの胸元を掴んでたたき起こそうとしており、ルイは笑って腹を抱え、ベルはあたふたとしていた。
どういたものかと考えていたカイトだったが、倒れたガイルを見て一つ思いついた。
読んで頂きありがとうございます。
新しいオリジナルキャラについて……
ルイ・ホーク
種族:人間
性別:男
年齢:17歳
職業:冒険者・魔道具作成
クラス:3
アビリティ:解析・錬金
武器:弓(舞姫)
魔法:サンダーアロー
元ヘルメス・ファミリアの眷属だったが、自由気ままに魔道具の作成ができないことを理由に脱退。フラフラと作成したアイテムを売って暮らしていた時、ベルとヘスティアに出会う。
ヘスティアファミリアの眷属になり、自分の部屋で好きなように魔道具作りに明け暮れる日々。二つ名の”マッド・アルケミスト”とおり、変なアイテムばかり作ってはベルたちを困らせる。