ダンジョンへ行かずに恋人と過ごすのは間違っているだろうか?   作:翠星紗

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女神の微笑みは白兎だけに向けられているのは間違っているだろうか?

ビギナーズラックという言葉を知っているだろうか。賭け事などで初心者が往々にして得る幸運のことを言う。

カジノで働くディーラーに話を聞くと時にそうした人はいるとのこと。賢い者は引き際を知り多くの金を得る。しかし、引き際を見失いカジノの沼にはまり抜け出せなくなる者もいるという。

ビギナーズラックとは引き際を見失うと金貨で輝く世界が一瞬にして何もない暗闇の世界に変わってしまう。

 

ルーレットのディーラーをしていたウサギの獣人の女性は奇蹟を見たという。

綺麗な少女に連れられてやってきた白髪の少年を相手にゲームを始めた。少女の旦那であろうエルフの男性にルールを教えてもらっていた。

明らかに素人。進められて数枚のチップを置いたのは一番配当が少ない赤一色。

ウィールを回しボールを弾く。止まったのは赤の1番。プレイヤーの勝利。配当分のチップを渡すと白髪の少年は真後ろに立っていた青年に嬉しそうにはしゃいでいた。

青い髪の青年は優しそうに白髪の青年の頭を撫でる。その際、両サイドの二人に睨まれていたのは見ないことにしよう。

次に置かれたのは数字縦一列にチップを置く。それを確認してウィールを回しボールを弾く。結果は的中。二連続的中はそう珍しくもない。運を多分に含むこのゲームに関してよく見る光景である。さらに初めてということでビギナーズラックだろうとディーラーは思った。

 

少年はまたチップを置く。チップ8枚横二列数字六つ賭け。配当6倍。

 

 

的中―――

 

 

チップ10枚。線上数字四つ賭け。配当9倍。

 

 

的中――

 

「あ、ははは……ま、まぐれ」

 

 

チップ30枚。横一列数字三つ賭け。配当12倍。

 

 

ウィールは回転を失いボールはランダムに動き出し、カランと音を立てて止まる。回転が止まりそれを見たディーラーは口元を引き攣らせる。

 

 

「う、嘘……」

 

 

またも的中。最初は数枚のチップが今では360枚のチップまで増え続けた。これをビギナーズラックで片付けていい物だろうか?

そんなはずがない。でも不正は見られない。彼の周りにいる人たちも現状の光景が信じられないようで目を疑っている。冷や汗が止まらない。こんなことありえない。

 

 

「つ、次は―――」

 

 

少年に浮かれた様子はない。それどころか最初の戸惑いはなくなり慎重になっていく。まだ続ける気かこの少年はと…ディーラーの女性は悪い夢だと言い聞かせる。

少年のゆっくりと、しかし迷うことなく置かれたチップを見て息を呑んだ。

 

 

高額チップ300枚。一点数字一つ賭け。配当36倍。

 

 

配当も高いが当たる確率などかなり低い。これで少年は負けるはずだ。なのに、ディーラーは底知れぬ恐怖を感じていた。そんな簡単に当たるはずがない。自分に言い聞かせボールを弾く。

全員が回るボールを見つめ息を呑む。

 

この時、ディーラーの女性には一瞬だけ白髪の少年に今まで見たこともないような美しき女神が見えたという。見惚れてしまった。そして、女神は自分の方を向き優しく笑顔を向けてきた。

 

あぁ、これはやっぱり悪夢だったんだ。こんな幸運なんてあるはずがな―――

 

 

「やったぁあああああッ!!」

 

 

女神と視線が逢い微笑みに魅入られていた時、大声が聞こえハッと目の前を見る。ありえない……ルーレットを眺めるとボールは彼が賭けた黒の2番。

ディーラーの女性は両腕をテーブルに着き項垂れた。あれは私に笑いかけたのではなく、目の前の少年に幸運を呼び込む女神だった。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

ベルの騒ぎ声に周りの客は視線を向ける。テーブルの上には多量のチップ。それを見た客はさらに声を上げ、騒ぎは水面に落ちた水滴の波紋のように広がっていく。

 

 

「あの白髪の少年が勝ったのですが?」

 

「おぉ! あの白髪は間違いなくリトル・ルーキーではないですか!?」

 

「先日、戦争遊戯(ウォーゲーム)の覇者!!」

 

「お? ベルちんどったのこのメダルの量?」

 

「やるじゃねぇか、リトルルーキー!! お前はどんだけ幸運なウサギなんだよ!!」

 

「ウサギって何ですか!?」

 

 

騒ぎの合間を抜けてルイとモルドたちが戻ってベルに詰め寄る。それに対応しきれずあわあわと動揺し始めた。

カイトも一瞬この勢いに呑まれかけたが、すぐに意識を戻しシルとリューの肩を叩く。それに気づいた二人は静かに頷いた。

 

このチャンスを見逃すわけには行かない。シルが言った通り色を付けて返してもらう。

 

リューはすぐにチップをかき集めて騒ぎがこれ以上大きくなる前に撤収作業を開始する。その間、シルはベルに近づき彼の手を握る。

 

 

「ありがとうございますベルさん! この恩はまたお店で♪」

 

「え? あ、はい!」

 

「よし! 次は俺達の金でもう一勝負だ!」

 

「えぇ!? そ、そんなの無理ですよぉ!!」

 

 

モルドに焚きつけられるが首が取れんばかりにブンブンと振って断るベル。そんな彼らを見ながらリューとシルは足早に離れていく。ここから先は二人で行動してもらわなければならない。マクシミリアン夫妻として招待されている二人に馴れ馴れしく近寄る人間が居てると怪しまれる。

カイトが出来ることと言えば、彼女らが手に入れたチップをもとに起こす騒ぎを早く広めるために噂を流すことだろう。

 

そうして、カイトもこの場を離れようと静かに足を動かす。ルイだけはこちらを見ていたが、それよりベルが弄られている方が面白いのかこちらに来ることはなかった。

リュー達が向かう場所は恐らくカジノが有利に働くディーラーとの勝負を行うゲームではない。客同士の勝負となるゲーム”ポーカー”を狙うはずだ。

 

 

 

「ずいぶんと見知った顔がいると思ったら、まさか貴様まで居るとわな」

 

「ッ!!」

 

 

目の前に現れた女性にカイトは顔を強張らせた。自分と似た碧い髪と瞳を持つ少女。現ガネーシャ・ファミリア団長。二つ名象神の杖(アンクーシャ)

 

 

 

シャクティ・ヴァルマ

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