ダンジョンへ行かずに恋人と過ごすのは間違っているだろうか?   作:翠星紗

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あれ?
主人公不在が続いてるんですが……ま、いいか


幸運の白兎が少女の下に訪れるのは間違いだろうか?

ディーラーがカードを配り、ルーレットを回し、プレイヤーが勝ったと叫び、時には負けたと嘆きそれを見ている観衆も共に声を上げる。様々な音が響き、その一つ一つがカジノを盛り立てていく。しかし、同じカジノに居るだけで、一つの扉を隔てているだけのこの部屋に、今は音が無い。

いつもの様に連れられたオーナーが選んだ獲物を弄び、狩るだけのゲームなはずだった。それなのにどうだ?

弄ばれ、狩られているのは自分たちではないか……

 

誰も言葉を発することが出来ない部屋で、この原因を作り上げた少女が口を開いた―――

 

 

 

「皆さん、知っていますか?」

 

 

静かに問いかける。この卓についている人間しか聞こえないであろう声量のはずなのに、それは部屋中にいるすべての人間が彼女の声に反応した。

全員の視線が彼女、シルに集まるなか。手に持つグラスを傾け、カクテルを少し流し込む。最初のしおらしさや少女のような笑顔ではなく。気品ある女性のような姿を今度は魅せていた。

 

 

「神様の中には”魂”の色を見抜いてしまう女神が居るそうですよ? なんでも…彼女の瞳は魂の揺らぎを見て、子供たちの心まで暴いてしまうのだとか」

 

 

急に何を出だすのかとゲームに参加するテッドたちは彼女を見つめる。グラスに入ったカクテルを静かに見つめ、物思いに耽るようだった。

誰一人口を開くことが出来ない、抑制されているわけでもない。ただ、何かに縛り付けられているようで…

 

 

 

「もちろん。私にはそんな女神さまの瞳は持っていませんが、好きなんです人を視ることが…

 

たくさんの人がいると、たくさんの発見があって目を輝かせてしまう。それで、人間観察ってことを続けてるうちに、なんとなーく分かるようになったんです

 

 

 

その人が今何を思っているのかを―――」

 

 

「………」

 

 

この話を聞いたテリーだけは彼女の真意を探ろうとしていた。

何が言いたい? これもブラフか? それとも本当に…考えれば考えるほど彼女という沼に飲み込まれてしまいそうになる。

他のプレイヤーに関しては、もう考えることは出来なくなっていた。彼女の言ってることは真実だ。だから。すべて見破られた。何をしても、見抜かれてしまう。息が詰まる……早くここから抜け出させてくれ!!

そんな状況でも彼女の言葉は重ねていく。

 

 

「本当か嘘か? 怒っているのか悲しんでいるのか? 焦っているのか苦しんでいるのか? 白か黒か?

 

瞳は色んなことを教えてくれるんです」

 

 

彼女が言葉を発するたびに彼らは沼に引きずり込まれる。抵抗ができない。しても無駄なら早く殺してくれ!!

シルを見て恐怖する者、絶望で声を発することが出来ない者、ついには頭を抱えて現実から目を背ける者まで現れた。

ただ一人、テリーだけは彼女を静かに見つめる。王たる俺がこんな嘘かどうかも分からない言葉に放浪されている?

ふと、テリーの視線に気づいたのかシルが視線を向けた。ジッとテリーの姿を見て

 

 

クスッ―――

 

「ッ!」

 

 

可笑しそうに笑ったのだ。

何故、自分を見て笑う? 彼女の視線を辿る、そしてテリーは気づく。自分の手が震えていることに。

意識とは別に体が彼女に恐怖している。底知れぬ何かにおびえていたのだ。

 

 

「おい! 次のカードを配れ!!」

 

「は、はい。それではゲームを再開します」

 

 

これ以上、彼女の好きにさせてはならないとゲームを無理やり開始した。

配られたカードを取り、恐怖を払いのける。しかし、テリーの中には彼女に対し憤りを感じていた。

伯爵夫人? 若奥様? あれは”魔女”ではないか! 言葉という魔法を使い、次々にプレイヤーを恐怖で包み込んでしまう悪辣な魔女だ。

 

あの不気味な予告手役も、参加料の二倍払いという追加ルールも

 

起死回生の手役を待つことが出来ず、弱小の手役で勝負に出なければならないタイミングで、この魔女は確実に刈り取っていく。

全てが彼女の掌の上の出来事だった。

 

しかし、気づいた時にはもう遅く。シルに恐怖したプレイヤーたちが、一人また一人とチップをすべて無くしていき。

最後にはオーナーのテッドとシルの直接対決になった。二人だけの対決。周りに控えるテリーのコレクションで集められた女性たち、護衛の男性たちでさえ息をするのを忘れたのではないかと思うほど静かに、この勝負が最後になるであろう配られるカードを見つめる。

 

ついに二人だけになってしまい、ディーラーから配られるカードを見つめながら打開策を考える。どうやってこの局面を乗り切ろうか。

底知れぬ恐怖で押しつぶされそうになるテリー。しかし、配りきられたカードを見て彼の表情から恐怖という恐れは消えて行った。

 

 

キングのフォーカード

 

 

カードを持つ手が震える。それは恐怖ではなく、自分に訪れた奇跡にだ。この引きの強さこそまさに王。最後に勝利の女神が微笑むのは俺だ!!

漏れ出す笑みを堪えるのでテリーは必死だった。彼女が人の手役を見透かせようともはや関係ない。手にあるカードを卓に伏せ、自分の持つチップをすべて押し出す。ここで一気に流れを変えるために!!

 

 

「オールイン!!」

 

 

突如、響くテリーの声。全額札投入。オールイン。

この状況下でそのようなことが出来るのは、愚か者か絶対に勝てる手役を持っているかしかない。周りのプレイヤーは知っているテリーという人物が勝負事で愚行に走るような男でないことを。

彼等の中に一筋の光が見えた。

 

 

「……ドロー」

 

 

しかし、そんな中でもシルは一人手役を見つめているだけ。ゆっくりと二枚のカードを選び卓に伏せ、ディーラーに渡す。それを見たディーラーは伏せられたカードを回収し、新たなカードをシルの前に二枚渡す。

伏せて渡された二枚のカード。シルはそれを手に取り確認すると少し驚いた表情を見せたかと思うと、嬉しそうに笑みを漏らした。

 

 

「ふふ、ちょっとだけあやかれたら……なんて思っただけなのに―――」

 

 

カードを胸元に抱くようにして嬉しそうに笑うシル。何を引き寄せたんだ、とテリーは彼女を見つめると視線が逢った。

 

 

「ッ!?」

 

 

テリーの背筋に底知れぬ悪寒が走った。

かち合う視線。先ほどまで幸せそうに笑っていたはずの彼女の表所は消え去っており、静かに自分を見つめている。その瞳は自分を覗き込んできているような感覚を覚えた。

だが、それは彼女がこの場で作り上げたまやかしだと自分に言い聞かせ、睨み返す。すると、シルは自分のカードにまた視線を戻して自らのチップに手を伸ばす。

 

 

「私も、オールインで……」

 

「では……ショーダウン!!」

 

 

躊躇うことなくシルもテリーと同じようにすべてのチップを賭ける。この一戦ですべてが決まる。この場の全員が固唾を呑んで見守るなか、ディーラーから手役開示の掛け声でた。

 

 

「フォーカード!!」

 

 

宣言と共にテリーは自分の手役を卓に叩き付けるようにして見せる。

K(キング)のフォーカード。彼の見せるそれは、この場において自分が王だと誇張しているかのようだ。それを見たプレイヤーの数人はこれなら勝てるのではないかと少しの希望が湧いた。しかし、それを目にしてもこの卓にいる少女の顔色は一つも変わらない。

全員の視線が彼女に集まる。

 

 

「今日の私は、どうやら”幸運の兎さん”にされているみたいです」

 

 

そうして、彼女は手役をこの場に居る全員に見えるように開示する。

それを目にした者たちは驚愕の余り息をするのも忘れ彼女の手の中にあるカードから視線が外せなくなった。

 

 

 

10、(ジャック)(クイーン)、ジョーカー、エースのスペード

 

 

ポーカーのゲームで最強の役―――

 

 

「ロイヤルストレートフラッシュ」

 

 

「ぁ……そんなことがッ」

 

 

テリーはディーラー、そして彼女を監視させていた周りの護衛に不正があったのではと睨みつけるが誰一人として首を縦に振るものはいなかった。

不正でないとしたら、この土壇場で引き当てたのか!? テリーは額に青筋を浮かべるほどに怒りを露わにする。

しかし、そんなことは気にも留めずシルはもう一度手の中にあるカードを見つめ笑みが漏れる。それは道化師と共に映る一匹の”白い兎”。それが彼女には恋焦がれる一人の少年に思えてくる。自分に幸運を運んでくれたのは彼なんだと、白いウサギが描かれたジョーカーを優しく慈しむ様に抱き寄せた。

 

そうして、ディーラーによりシルの下にチップが渡される。シルはこの卓に置かれていたチップがすべて自らの手元に置かれているのを確認すると、ずっとそばで見守ってくれていたリューの方へ振り向く。

 

 

「ねぇ、リュー? これって……」

 

「はい。

 

 

――あなたの勝ちです」

 

 

 

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