ダンジョンへ行かずに恋人と過ごすのは間違っているだろうか? 作:翠星紗
朝稽古も終わり店に帰宅すると、中ではすでに数名の店員が開店の準備を始めていた。
カイトとリューの帰宅に気づいた店員――シル・フローヴァ――が嬉しそうに駆け寄ってくる。
「お帰りなさい。リュー、カイトさん」
「遅れて申し訳ないシル。すぐに着替えて私も手伝う」
「気にしなくてもいいのに。それに…二人の時間を邪魔しちゃ悪いでしょ♪」
「なっ!?/// わ、私達は稽古に行っていただけです!!///」
そういって、顔を真っ赤にさせたリューはすぐに店の奥に入って行った。そのあとをカイトがついていこうとすると、シルが彼の服の裾をクイクイっと引っ張る。
どうしたの?と、首を傾げるとシルはどこか楽しそうに笑みを見せた。
「二人の時間を邪魔しない様に、朝から頑張ってたんです」
腕を胸元に持ってきて私頑張りました!!とポーズを見せるシル。ただ、彼女が何が言いたいか分からないカイトは首を軽く傾げていた。
そんな彼を見て今度はお腹辺りに両手持っていき…
「朝から頑張ったからお腹が空いちゃいました♪」
あぁ、そういうことか……。理解したカイトは笑みを見せて頷き、制服に着替える前に調理場に向かった。
ついでに他の皆の分も作っておくかな、と考えているとひょこっと厨房をのぞき込む頭が出てくる。
「朝からデザートなんかあったら、より頑張れちゃいます♪」
「……」
別に良いんだけどね。
――――――――――――――――――
豊穣の女主人は夜だけの営業ではない。朝から喫茶店を行い、夕方頃から酒場として営業している。
なので、主に朝や昼に来る客は冒険者以外の迷宮都市に住む住民が来ることが多い。
「お客様、二名入りまーす」
店内にシルの声が響く。昼時の忙しさが過ぎた時間帯でもお店にお客が来るのは、シル目当てのお客が多い。他にも女性の店員……カイト以外は全員女性のため、それぞれ女性店員目当ての客がいてることだろう。
そんな女性店員の中でキャットピープル――猫の獣人――二人組がカウンターに座り込みダラダラと怠けていた。
「この時間帯はまだマシニャンだけどニャ~」
「これが夜になると酒に飢えた冒険者どもが押し寄せ来て…」
「憂鬱だニャ~」
ニャアニャアと鳴いているユルフワな髪が目印のアーニャと黒髪のクロエの獣人二人組。
そんな二人組を見てため息を漏らすのはルノア――人間――だ。
アーニャ、クロエ、ルノア、シル、そしてカイトとリューもこの豊穣の女主人で住み込みながら働いている。ただ、カイトとリューが付き合い始めたのをミアが知ってからは…
「アンタら付き合ってんなら二人で一つの部屋にしな。無駄に部屋を使うんじゃないよ」
とのことで、カイトの部屋が取り上げられてリューと一緒に暮らしているのは、ここでは別のお話。
だらける二人に近づきルノアは腰に手を当てて注意する。
「おーい、そこの猫二匹。サボってると、またミア母さんにどやされるよ」
何時ものやり取りを厨房で聞いていたカイトは楽しそうにクスクスと笑っていた。そんな彼を見てリューは少し笑みが漏れる。
相変わらずのやり取りでこの後ルノアが二人を仕事に戻すのだが…
「だって今日は少し眠いのニャ」
「仕事中に欠伸しない。寝不足になるほど何してたのよ」
ふわぁ~と、口を開けて欠伸を見せるアーニャ。それを窘めるルノアだったが……
「隣の部屋が昨日はお盛んでうるさくて眠れなかったのニャ」
パリィンッ!!
カウンターに上体を預けて今にも眠ろうとするアーニャの出た言葉に一同停止。彼女を掴み起こそうとしていたルノアはほんのり頬が赤くなっており、クロエに至っては何処か楽しそうにカイトを見つめる。
仕込みの準備をしていたカイトは危うく指まで切り落とすところだった。
リューに至っては手に持っていた皿を床に落としてしまい、そのまま硬直状態。その音を聞きつけたシルが接客から慌てて戻ってきた。
「どうしたの? お皿が割れる音が聞こえてきたけど……って、リューッ!?」
「シル……ち、違います/// あれはカイトが!///」
「えっと……なんのこと?」
どうやら客や接客をしていたシルたちには聞こえていなかったようで、顔を真っ赤にして自分に訴えてくる彼女の言動がよくわかっていなかった。
ただ、言動がしどろもどろで目をぐるぐると回すリューにシルも動揺しているみたいで、唯一正気なクロエがやれやれとカウンターから離れてシルの背中を押した。
「別に問題ないからシルはクロエと接客に戻るニャー」
「え? ちょ、ちょっとクロエ。本当に大丈夫なの!?」
「ルノアー。あとは任せるニャ」
「へぇ!?/// う、うん///」
クロエに声を掛けられて意識を取り戻したルノアは、煽情的な妄想を頭から払いのけてカイトとリューを見た。
カイトは仕込みに戻ってはいたが、異様に汗が流れてどこか挙動不審。リューに至ってはしゃがみこんで頭を抱えてブツブツと何かを言っている。エルフ特有の尖った耳は先端まで真っ赤に染めあがっていた。
「ちょ、ちょっとリュー大丈夫だから! こ、恋人同士ならそれぐらい当たり前だから!!///」
「違うんです…あれはカイトが声を出させるようなことをするからであって/// 私は我慢していたのですが///」
「お願いそれ以上は言わないで!!/// 私まで想像しちゃうから!!///」
「うニャ~。リュー静かにするニャよ」
「アンタが変なこと言いだすからでしょうがぁ!」
そのあとミア母さんがやってきて寝ているアーニャは叱られて、リューとカイトに関しては…
「やるなら静かにやりな!!」
「「/////」」
とても恥ずかしい思いをしたのであった。