ダンジョンへ行かずに恋人と過ごすのは間違っているだろうか?   作:翠星紗

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今回はカイト視点でお送りします。


気配もない恋人の姿を視認できるのは間違いだろうか?

カイトに伝えられた言葉にベルは大きな声を上げて驚いた。周りがそれを聞いてベルの方を振り向くがそこには誰もおらず、首を傾げた。

ベルが声を上げた瞬間、カイトは彼の口を押えてその場を離れた。一緒に連れてきたベルは口を押えられて、彼の腕を叩いて放してくれと示した。

 

 

「もごご!」

 

『騒いじゃだめだよ?』

 

 

広間の端にまで移動したカイトと口を塞がれながら連れられたベル。

彼の忠告にベルはコクコクと頭を何度も下げる。それを見たカイトはゆっくりとベルの口から手をどけ、ベルは大きく息を吸った。

 

 

「大きな声を出してごめんなさい。けど、どうしてそんなことをする必要があるんですか?」

 

『……理由はいえなんだが、君の協力が必要だとシルが判断したんだ。俺達を助けて欲しい』

 

「……僕で良かったら!」

 

「なになに? 楽しそうなこと話してるねぇ♪」

 

「うわぁ!?」

 

 

ひょこっと急に出てきたのはベルと同じファミリアのルイ・ホークだった。神出鬼没な彼はベルが驚いた姿を見て楽しそうに笑った。

 

 

「ルイ! いつの間に……」

 

「ベルッちがなんか変な所に連れられるのを見てからずっと近くに居たんだけど……気づかなかった?」

 

「へ? で、でもあそこには僕しか連れられてなかったよね……」

 

「これを使えば簡単さ♪」

 

 

そうして、彼がヒョイッと取り出したのは黒いヘルム。カイトは何処から取り出したのかと疑問に感じたが、それ以上に驚いたのはベルだった。

 

 

「えぇ?! それ、ハデス・ヘッド! なんでルイが持ってるのさ!?」

 

「元はヘルメス・ファミリアに所属してたんだよ? それにこれを最初に考え着いたのは僕で、万能者(ペルセウス)が僕の考えをもとに創り上げたのがあの時のだよ」

 

 

あの時とは、以前18階層でモルドがベルトの試合で使用したアイテムのことだった。使用者をあらゆる視覚から姿が消えるように作られたアイテム。そのハデス・ヘッドはベルが戦いの際に破壊していた。

呆気にとられるベルを無視して、指でクルクルとヘルムを回しながら話をつづけた。

 

 

「つまり、考えたのが僕なら作れないわけないよね♪」

 

「でも、ホームやルイの部屋で見たことなかったんだけど?」

 

「そりゃ、今日のために昨日作り上げたからさ。いやぁ、”マッド・アルケミスト”の名は伊達じゃないね」

 

「そ、そうですか」

 

 

額っと肩を落とすベルを不思議そうに見ているルイ。”おーい、どったのベルちん?”と頭をつついている。

そんな二人のやり取りをカイトは静かに見ていた。いや、正確にはルイの手にあるハデス・ヘッドに視線が向く。それに気づいたルイがハデス・ヘッドを見つめるカイトの視線に無理やり入り込み、彼の瞳を除いてくる。

急に視線に入ってきたルイにカイトはギョッと驚いた表情を見せる。

 

 

「どうにもこれを使いたそうに見えるよ……確かにあの中に忍び込むには必要不可欠だよねぇ?」

 

「ちょ、ちょっとルイ!」

 

『何が望みだい?』

 

 

分かりやすい挑発を見せるルイ。慌ててベルが間に入り込みルイを止めようと試みるが引くつもりはない様子。

カイトも同じように静観していたが、指で文字を綴る。面白そうに指でなぞられた光る文字を眺めるルイだが、描かれた文字をすべて目に通すと楽しそうに笑う。

 

 

「話が早くて助かるよ。なら、豊穣の女主人で一週間僕たちが頼んだ料理は全てタダってことで、どう?」

 

「ちょっと、ルイ! ぼくはそんな事――」

 

『良いさ。明日からでいいか?』

 

「カイトさん!?」

 

「ククク、じゃ。商談成立ってことで……はい。あげる」

 

 

無造作に投げられたヘルムをカイトは慌てて受け取る。ルイは楽しそうに笑みを見せてベルの肩に手を回す。

急に肩を組まれてベルは少し態勢を崩しかけたがなんとか踏みとどまる。

 

 

「さ、明日からの宴会がなくならない様にモルっち達にも協力して騒ぎましょう!!」

 

「ちょ、ちょっとルイ!?」

 

「あ、そうだ。ついでにこれもあげるよ」

 

 

作戦をすべて盗み聞ぎしていたルイはさっさとモルドたちの下に行こうと足を進めていたが、思い出したようにクルリとカイトの方へ振り返った。

何かと思えば、折りたたまれた紙を投げ飛ばされる。宙に舞う紙を受け取り眺める。

綺麗に折りたたまれていた上質な紙を広げる。そこに描かれていたのはこのカジノの見取り図だった。流石の代物に驚き、地図から目を離しルイを凝視する。

そんな彼の姿を面白そうにクククと笑ってみている。

 

 

「初めての場所に来たら探索するのが冒険者の性じゃん? いろいろな道具を拾ってしまうのも仕方ないよねぇ」

 

「いや、それって泥棒おわぁ!!?」

 

「それを言っちゃダメだよ、ベルちん? さっさと行くよぉーーー」

 

 

またも急な方向転換でルイに肩を組まれているベルは視線がグルっと回ったことにまた驚く。ほぼ引きずられるように連れていかれるベル。

騒ぎを起こしてほしいとは言ったが、現状彼らが通る周囲の人たちは不思議そうに眺めていた。そういう意味じゃないんだけどな、とカイトは頬をかきながら二人を見つめ、手の中にあるハデス・ヘッドと地図に視線を落とした。

好奇心旺盛なマッド・アルケミストに今回は感謝し、カイトはヘルムを装着して周囲から姿を消した。

 

 

――――――

 

 

 

そうして、カイトは関係者用通路へ侵入しルイが手に入れた?地図をもとに貴賓室への通路を進む。ディーラーや給仕たちが開ける扉を素通りし、警備が厳重になっていく通路を慎重になりながらついに貴賓室にたどり着いた。

中を見渡すと一つの卓にエルドラド・リゾートのオーナーであるテリー・セルバンティスに扮したテッドと複数のゲスト。そして周囲に様々なドレスを着飾りゲストたちに給仕する女性たち。彼女たちはテッドが集めた女性たちであろう。

 

そして、今回の救出するべきアンナはシルに寄り添うように抱きついており、リューは彼女たちを護るように取り囲むテッドの私兵を見つめていた。

すでにアンナを救出するところまで成功したみたいで、今はリューの名推理の所だった。

 

 

「大賭博場区域に出没する悪党の特徴や情報。灰色の行いの手口。それは私たちの良く知っている者だったからだ。そして、今日お前を見たときに確信した」

 

「…なんだと…」

 

 

リューの言葉にテッドは驚きを隠せず狼狽える姿を見せる。

ハデス・ヘッドを装着しながら機会をうかがうために近づく。周りはリューを見つめていたが、リューは何かに気づいたのか視線を関係者用の入り口近くを見つめてきた。

周りはどうしたのかと彼女の視線の先に向ける。しかし、向けた先には何もない。

 

ハデス・ヘッドを装着したカイトしか。

 

 

『………』

 

 

流石にリューと視線がかち合いドキッと心臓が飛び上がる。何を発するでなく静かに確実にこちらを見据える彼女の姿。

周りはこちらを見ているが彼のいる周りに視線を泳がしているだけ。リューに見られた瞬間、ハデス・ヘッドを装着していないのかと慌てて頭を触るがしっかりとついている。

一人あたふたとしていると、またリューはテッドに向かって話し続ける。

 

彼の過去と今まで行ってきた彼に関する噂の数々、そしてアストレアに許されたにも関わらず私欲を肥やしていたテッドに対しリューは言い放った。

 

 

「お前はもう免罪の余地はない」

 

「や、やれぇ! お前らぁ!!」

 

 

テッドの掛け声で私兵たちは三人に詰め寄る。リューなら大丈夫だろうと思いながらも術発動の準備を始めたのだが、リューが動く気配がない。シルに至っては怯えるあんなに何か言って落ち着かせているが、何故落ち着いてるんだとカイトは不思議そうに見つめると――

 

 

「私はなにも二人でここに来ていない」

 

『ッ!?』

 

 

テッドに告げられたその言葉だが、それを聞いた瞬間カイトはすぐさま術を発動した。発動と同時に百歩欄干により私兵全てを光の棒で動きを止める。

急に現れた私兵を貫く光の棒に周りの人間は驚き息を呑む。テッドに至っては見覚えのある光の棒に恐怖で顔がゆがむ。

 

 

「来てくれると思っていました」

 

 

それを見たリューは何処が誇らしげに見えるのは気のせいではないだろう。謎の演出を見せようといたリューにカイトはため息を漏らしながら彼女に近づく。

静かな部屋に響く足音だけに周りは恐怖していたが、確実に足音の聞こえる先をリューはしっかりと見つめている。すでに気づいているのであろうシルは少し笑みを見せていた。

リューの横に立ちハデス・ヘッドを取り外す。急に現れた青年の姿に周りは驚きどよめく、ただテッドだけは見覚えのあるカイトの姿に震え恐怖した。

 

昔より恰幅がさらに良くなったテッドを見て、横にいるリューを見つめる。先ほどとは違い普段見せるリューの素顔に笑みが漏れる。彼女も嬉しそうに笑みを見せた後、二人はテッドを睨みつける。

 

 

「あの方に代わって、私達がお前を裁く!!」

 

 

かっこよく決めたね、リュー。そんな事を思いながら目の前のテッドを眺めるカイトだった。

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