ダンジョンへ行かずに恋人と過ごすのは間違っているだろうか? 作:翠星紗
ミア母さんに厳重注意されたカイトとリュー。
ルノアにはどこか距離を置かれ――二人の顔を見ると要らぬ妄想をしてしまうから――アーニャとクロエにいじり倒されていた……
「「リューはエロいにゃ~♪」」
「え、エロくなどありません!!///」
バキィッ!!
「「ふにゃあぁ!?」」
「あ、す、すいませんやり過ぎてしまいました…」
ただ、弄るたびにリューに反撃されてボロボロになって戻ってくるのだからいい加減やめればいいのに。
また今回の騒動を理解したシルは……
「リュ…リュー///」
「シル? 少し頬が赤いようですが? もしや風邪でも―――」
「こ、子供ができたら私にも抱っこさせてね!!///」
「こ、こどッ!?///」
本気か冗談か……毎回リューの脳内をクラッシュさせる発言を繰り返していた。
――――――――――――――――――
あれから一週間が経ち、ようやく今回の件が落ち着き始めたころ。
開店と同時にお客が豊穣の女主人に数名入ってきた。それぞれ接客をこなし、カイトも注文された品を造り終えて一息していたその時…
「あんたはアンナを売ったっていうのかいっ!?」
店内に女性の怒号が響き渡った。それは厨房で昼の仕込みをしていたカイトの所まで届いており、流石に視線を店内に向けていた。
「厄介ごとなら止めてきな」
共に準備していたミア母さんがそれだけ言うと仕込みが優先とばかりに作業に戻る。
彼はミア母さんに頷いて、店内に入ると今度は人の男が叫び出していた。
「何見てやがる……見せもんじゃねぇんだぞ!! てめぇらは不味い飯でも食ってろ!」
叫びながらコップの水を周囲の客や店員にぶちまけた。
それを見た同じ席に座っていた女性は止めに入っているが、頭に血の昇った男には聞こえるはずがない。
これ以上暴れられてはさすがに迷惑だと思ったカイトは、すぐさま止めに入ろうとしたが自分よりも先に動く女中の格好をしたエルフの姿が見えた。
そのエルフはすぐさま男の腕をとると関節を決めて抑え込んだ。ギリギリと悲鳴を上げる腕に男は痛みの余りに叫び声上げる。
「あだだだだだだあぁぁっ!? な、何しやがる!!」
「……訂正しなさい」
テーブルに男の身体を打ち付けてさらに攻撃を止めないリューに対して、流石のルノアも慌てて彼女を止めに入った。
「ちょ、ちょっとリュー!? 流石にやり過ぎだから!!」
「この男はカイトの料理を食べもしないで不味いと罵った。腕の一本でも折るに値する」
「そこまでする!? あんたも腕折られたくなかったら早く謝りなさい!!」
「いでででぇッ!! わ、悪かったエルフの嬢ちゃん!!」
「謝るのは私ではない」
「あだだだだっ!? 料理を悪く行ってすまねぇ!! 頼むから離してくれぇーッ!!」
数秒後、リューは男を開放して少し離れた。
男はその場で倒れ込み、彼の奥さんであろう女性が近づき安否を気遣う。
そんな二人にリューは…
「気を付けてください……私は少しやり過ぎてしまう」
「「「「「「「「「(やり過ぎだ!!)」」」」」」」」」
と、この場にいた全員が心の中で想いはしたが口には出さなかった。
目の前にエルフはまだ怒りが収まっていないからだ。
そんな状況で動き出したのは二人だけだった。
クシャ…
「んっ……どうしたのですかカイト。人前で頭を撫でられるのはその…///」
少し困った笑みを見せながらリューの頭を優しく撫でるカイト。
彼のおかげで怒り心頭のエルフは急激に熱を冷やされて、今では別の要因で熱が上がりかけている。
そんな二人をよそにもう一人――シル――は騒ぎの原因である夫婦に近づいた。
「ちょっと物騒な話が聞こえてきましたけど。何かあったんですか?」
歩み寄ってきたシルに対して、二人は顔を見合わせて言いにくそうにしている。数分の沈黙の後、夫を支える妻の口が静かに開いた。