ダンジョンへ行かずに恋人と過ごすのは間違っているだろうか? 作:翠星紗
店の騒ぎも落ち着き、シルとリュー、そしてカイトは夫婦の話を聞くために同じテーブルに座り話を聞いた。
彼等…クレーズ夫妻は魔石製品製造業と商店の手伝いで日々の生活を送っていた。夫:ヒューズは大の賭博好きで妻:カレンはそんな夫の賭博癖に頭を悩ませない日はなかった。
そして、ヒューズの賭博好きが原因で家と最愛の娘:アンナが賭博の返済分として奪われていった。
シルは言葉を失い口元を覆う。カイトは話を聞いていくうちに機嫌が悪くなっていくのが見えて今にもヒューズに掴みかかりそうになる。
リューも同じことを感じていたようで、ヒューズに対して嫌悪感を抱いていた。
「それは自分が招いた種だ。失ってから気づくとはあなたは愚か者だ」
「リュー! それは言い過ぎよ」
「シル、貴方は優しすぎる。本当にそう思っているんですか?」
「俺だって好き好んで娘を賭けたわけじゃない!!」
ダンッ!!とテーブルに両手を叩き付け頭を抱えるヒューズ。その横でカレンは口を押えて涙を流していた。
カイトは聞いてられないと席を立とうとしたがシルに袖を掴まれて動くことが出来ない。彼女を腕を無理に振りほどきたくなかったカイトはいまだに頭を抱えるヒューズを見て、肺いっぱいに深呼吸をして席に戻る。
ただ、席に座ると腕を組み静かに目を閉じていた。彼なりのもう話は聞きたくないという最後の抵抗なのだろう。
カイトが席に座ったのを確認すると、シルはまた話を進める。
「賭博をしていた相手は……もしかして冒険者たちですか?」
「……あぁ。ファミリアも違うバラバラのチンピラの集まりだったよ。あいつら最初は遊びだって言ってたのに。俺の負けが込んできたら、いきなりすげぇ剣幕で脅して来てよ…そしたら――」
―――お前の自慢の娘なら。ひとまず掛金に変えてチャンスをくれてやるって…―――
「…ッ」
腕を組んで目を閉じていたカイトだったが、ヒューズの言葉を聞いて閉じていた瞼を上げた。彼の言葉に引っかかったからだ。
カイトはヒューズの肩を軽くたたき自分の方を向かせる。そして、空中で指をなぞりだす。
指でなぞられた後を追いかけるように光の線が浮かび上がり、それをヒューズは読み上げた。
「む…すめに、ついて…おし、えろ?」
「私もあなた方の娘について聞かせて欲しい」
「「……」」
夫妻は二人の言ってる理由がわからないみたいで顔を見合わせていたが、すぐに自分たちの一人娘であるアンナについて話してくれた。
アンナ・クレーズ。気立てがよく美麗。男神達に求婚を求められるほどの容姿の持ち主。
「彼女はよく外出していましたか?」
「えっと……働いている花屋の手伝いでよく街に出て品物を届けに行ってたけど…」
夫妻の話を聞いてカイト、そしてリューは最悪の見解に気づいてしまった。容姿端麗で気立てがよく、よく外出することで周りからみられる頻度が多い。
男神が求婚を求めるほどだ。そうなれば…
娘はもとから狙われていた―――
カイトはリューに視線を送ると、彼女はそれに気づき静かに頷いて見せた。二人の仲で同じ見解に至ったことを確認できたようだ。
「でしたらギルドかガネーシャ・ファミリアに助けを求めてみたらどうですか?」
「無駄だよ。こんな届は、都市には毎日のように溢れかえってるんだ。すぐに取り合ってもらえっこないよ」
シルの提案にカレンは視線を落とし涙を堪えて口を動かす。
都市の管理機関――ギルド。そして、それと連携するオラリオの憲兵と名高いガネーシャ・ファミリア。
非公式の冒険者依頼――クエスト――を依頼しようにも、報酬に見合った金品を彼らは用意できないだろう。
彼等だけではすでに手詰まり、か。とカイトは顎に手を添えて静かに考えていた。もし、自分自身がガネーシャにまだ所属さえしていれば、話を通すことは出来ただろうが…
むせび泣きながらもカレンは必死に声を出す…
「アストレア・ファミリアがいてくれたら―――」
「「……ッ!」」
「おいやめろよ。もうなくなったファミリアの名前を出すのは!」
「でもアストレア様がいてくれたら、こんな私達にも手を差し伸べてくれていた筈さ!!
……どうして、優しいファミリアばかりいなくなっちゃうんだ!!」
カレンはこらえきれなくなった涙を止めることなくその場で泣き崩れてしまう。ヒューズとシルは彼女をなだめようとするが、シルの視線の先には黙り込んで泣きわめくカレンを無表情で見つめるリューの姿があった。
アストレア・ファミリア
女神アストレアの派閥。都市に「悪」が蔓延っていた暗黒時代。強気を挫き、弱気を助け。オラリオの秩序安寧に尽力していた組織。
そして―――
かつてリュー・リオンが所属していた、今は亡き正義のファミリアだった。
目を伏せ何も語らないリューの姿に豊穣の女主人の店員は彼女を静かに見つめていた。