ダンジョンへ行かずに恋人と過ごすのは間違っているだろうか? 作:翠星紗
こうして始まったゲームは終始リューが優勢で進んで行く。卓に積み重ねられた掛金も一勝負終われば彼女の方に飲み込まれる。
男の掛金が減るばかり、騙欺―ブラフ―を仕掛けても目の前のエルフの女は表情を変えることなく淡々と手を温めていく。
「レイズだ」
「…レイズ」
「……ッ」
男はブラフを張り相手の表情を伺うが、動揺した表情など見せることなく自分と同じように掛金を上乗せするだけ。
相手を陥れるためのゲームに彼自身が陥れられていた。まるで底知れぬ沼に足を取られ、気づいた時には―――
「フルハウス」
「マジかよ!? あのエルフこれで九連勝目だぞ!」
息する間もなく死んでいく。
「ふざけんじゃねぇ!! イカサマだ、そうに決まってる!」
目の前で起きた結果に周りにいた男たちは口々にざわめき立つ。
男はカードを握りつぶし息を荒立て席を立ち、目の前のエルフに怒声を浴びせる。
目の前で声を荒げ肩で息をする男にリューは淡々と語る。
「心外だ。あなたが降りなければ勝てた勝負もあったはず」
「グッ…」
「私の勝ちだ。あなたの知りうる情報と彼に謝罪を」
「……てめぇ等、何もんだ?」
ふり絞ったような声で男はリューに問いかけた。
それは怒りに任せて荒れ狂う一歩手前。下手な回答は要らぬ争いを呼ぶ。
しかし、そこは愚直なまでのエルフだ。
目の前の男の感情に興味など無い。あるのは情報と謝罪――
「あなたに名乗る名など無い」
「……ッ」
怒りに身を任せた男は鞘から剣を引き抜く。それを合図に周りで観戦していた男たちも己が得物に手を伸ばす。
「てめぇら、こいつらをやっちまえ!!」
「「「おおおぉぉぉぉ!!!」」」
野太い掛け声とともに男たちは二人に斬りかかる。
周囲にいた女たちは巻き込まれまいと体を小さくして蹲る。しかし、聞こえてきたのは斬りかかった男たちの喘ぐ声と何かが吹き飛ばされる衝撃音と振動。
蹲る女の真横に壁にぶつかる音と振動が響いた。女は恐る恐る目を開けると、そこには壁に男が光の棒で貼り付けにされている。
まるで虫の標本のように手足、肩や腹に複数の棒が突き刺さっているが、何処からも血が出ている様子はない。男の意識はないが壁にぶつかった衝撃で意識を失っているからであろう。
女は周囲に目をやるとそこには異様な光景が彼女の瞳を捉える。
床や壁、天井にまで何百という光の棒が突き刺さり、その先には男たちが貼り付けにされていた。意識を失い脱力する者やかろうじて息のある者が喘いでいるぐらいだ。
ただ、その中で一人のエルフと無口の男性が静かに立っていた。
「やり過ぎてしまうとは言いましたが、流石にやり過ぎでは?」
リューの言葉にカイトはただ肩を竦めるだけ。それを見た彼女はヤレヤレとため息を軽く吐いて、壁の絵と化した男のもとへ近づいた。
「意識はあるようですね」
「なん、だ。これはよ」
「応える義理はありません。それより、あなた達が最初からクレーズ夫妻の娘を狙っていたのは知っています。彼女はどこにいる?」
「はっ。誰がこたぶへぇ!?」
「……早く答えなさい。私はいつもやり過ぎてしまう」
◇◇◇◇◇
「ひ、ひひまひゅ。いひまひゅひゃら」
顔中がぼこぼこに晴れ上がった男はほぼ意識がない状態で口を割り始めた。ただ、表情を変えることなく殴り続けるリューの姿に周囲の者は恐怖を覚えていた。
カイトに至っては軽く頭を抱えてため息を漏らす。
晴れ上がった顔のせいで聞き取りずらい箇所はあったが、アンナ・クレーズを攫ったのは交易所の人間からの依頼だ。
交易所は様々な品が取引されるなか、秘密裏に人身売買も行われている言わば
結局はこの男も利用されていただけで、交易所の人間も同じだろう。
自分の知りうる情報を曝け出した男はこれでこの悪夢から解放されると思い込んでいた。
「……これ以上の情報はなさそうですね。なら、最後に」
「へぇ?」
「彼に謝罪を入れて貰いましょうか?」
「ッ!!?!」
先ほどまでの冷静な表情とは一変して、目の前のエルフからは身震いするほどの殺気が感じられた。
殺されると感じた男は涙を流しながら、ままならない声でカイトに謝罪を続けたのであった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
カイトが使用した魔法。
BLEACHの縛道六十二の百歩欄干をもとにしています。カイト自体がスキルとして詠唱破棄を所得しているということで、魔法(縛道)も使用できるという無理設定です。
それでは…