ダンジョンへ行かずに恋人と過ごすのは間違っているだろうか?   作:翠星紗

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突き付けられた難問に頭を抱えるのは間違いだろうか?

酒場の男から情報を聞き出したリューとカイトは、裏路地を抜けて表の通りに戻った。店を出たのが深夜過ぎであったこともあって、今は少し明るくなり始めていた。

カイトは豊穣の女主人に戻ろうと歩き始めたが、リューはそこで立ち止る。

 

 

「すみません。少しよるところがありますので、先に戻っておいてはいただけないでしょうか」

 

『どこに行くの?』

 

「ヘルメス・ファミリア……アンドロメダの所に行こうと思います」

 

 

アスフィ・アル・アンドロメダ。

ヘルメスファミリアの団長にして広い情報網を持つ彼女に、今回の件を調べて貰おうということだろう。一緒についていこうとしたカイトだったが、リューに止められてしまった。

 

 

「危ない所へは行きません、手紙を出し次第すぐもどります。それにカイトはすぐに戻らないと店の準備に間に合いません」

 

 

確かに夜中抜け出した挙句、仕事に間に合わないと来たらミア母さんに怒鳴られるだけで済むはずがない。

少し葛藤した結果、カイトはため息を漏らして渋々と笑みを見せた。

それを理解したリューは「急いで戻ります」とだけ告げてカイトとは反対の方角へ進もうとした直後、カイトに腕を掴まれた。

どうかしたのかと振りむいたリューの頬に手を添えて彼女にキスをする。急な出来事にリューは目を見開いて頬を赤く染め上げる。

数秒の口づけのあとカイトはゆっくりとリューを見つめ―――

 

 

『無事に帰ってこれる、おまじない』

 

 

クスクスと楽しそうに笑みを見せていた。そんな彼の姿を見てハッと意識を取り戻し、赤くなった顔を隠すようにフードを深く被って彼に背中を向ける。

 

 

「と、とにかく! カイトも気を付けるように!!」

 

 

彼から離れるように早歩きで向かってしまった。そんなリューを静かに見送ると、彼は軽く体を伸ばしてからゆっくりと店に帰って行ったのであった…

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

翌日の夕方―――

 

仕事をしていたカイトとリューのもとに一人の客が現れた。

二人はミア母さんから許可を取り、現れた客――アスフィ――の座る席に向かった。

 

 

「昨夜の手紙でこんなにも早く来ていただけるとは思いませんでした。まさか、もう?」

 

「えぇ、貴女の手紙に書かれていたアンナ・クレーズという娘の行方を調べました」

 

 

差し出された紅茶に舌鼓しながらアスフィは、昨夜リューが置いていった手紙をテーブルに置いて応えた。

仕事の速さに二人は感嘆をした。

 

 

「あなた方には借りがあります。すべては主ヘルメスさまが迷惑をかけている原因ですが…」

 

 

そういうとアスフィは頭を押さえてため息を漏らしていた。色々と思い出すことが多いのだろう。

気苦労が絶えなさそうだと、そんな彼女にカイトは苦笑いを見せた。

彼女の言う借り…それは神ヘスティアのファミリア所属のベル・クラネルとルイ・ホークを含めた4名救出の件である。

リューとカイトはダンジョンへ救出で18階層までの同行を神ヘルメスに頼まれたのだ。

 

 

「それは構わない」

 

「いいえ、行っている生業が生業です。借りを作っておくことが私は一番怖い。返せるときに返すに越したことはありません。もちろん、報酬は要りませんが……

 

決して善意ではない。勘違いしない様に」

 

「分かっている。ありがとうアンドロメダ」

 

 

急に見せたリューの言葉と柔らかな表情に思わずたじろいだアスフィだったが、軽い咳ばらいをして眼鏡を上げる。

 

 

「ですが言わせてください。あなた達が何に首を突っ込んでいるのか知りませんが、今回の件に関わらない方が良い」

 

「…なぜ?」

 

 

思わぬ忠告にカイトは顔をしかめ、リューはアスフィに聞き返した。

一瞬の沈黙の末、アスフィは静かに口を開く。

交易所での人身売買でアンナ・クレーズが引き取られていたこと。しかし、すでに彼女は交易所におらず、取引がすでに行われていた。

 

アスフィはそこまで話すと紅茶に口を付け、軽く周りに視線を送る。彼女は静かに口を開き…

 

 

「彼女を買い取ったのは大賭博場(カジノ)の人間です」

 

「「っ!!」」

 

 

大賭博場(カジノ)

迷宮都市(オラリオ)に存在する巨大産業の一つ。ギルドでさえ、その運営に口だすことが出来ない、まさに治外法権。

過去、世界の中心とまで言われたこの都市にただ一つ欠けているものがあった。

それは”娯楽施設”だ。

 

神々の要望に応えるべくギルドは様々な国家や大都市の協力を誘致した結果、繁華街に娯楽施設が建設された。

中でも大劇場(シアター)大賭博場(カジノ)

 

この二大娯楽施設は本国本都市を上回るほどの目まぐるしい発展を遂げ、今やギルドでさえ蔑ろに出来ない経緯もあり、あくまで運営するのは出資者である他国の移設側になる。

それゆえ迷宮都市(オラリオ)の中で唯一の治外法権と比喩されている。

 

もしこの大賭博場(カジノ)に足を運ぶ都市外の大富豪たちに何かあれば都市の威信と風評に大きく関わってしまう。大賭博場(カジノ)はギルドに協力を取り付けて、認められたもの以外を排除するため都市大派閥を守衛に用いて施設に張り巡らせている。

その派閥は…

 

 

「カイト、あなたが所属していたガネーシャ・ファミリアです」

 

 

アスフィの言葉にカイトは考え込んでしまう。今回の件で自分は元家族(ファミリア)と争わなければいけない。果たしてそんなことが出来るのだろうか?

静かに黙り込んでいるカイトを見ていたアスフィはリューに視線を移す。彼女も何かを考えているのか黙り込んでいる。

 

 

大賭博場(カジノ)への侵入は不可能です。よしんば出来たとしても逃げきれず拿捕されるでしょう。リオン、Lv.4の第二級冒険者であった貴方でもあっても例外ではありません」

 

 

それからアスフィは二人を危ない橋から遠ざけるためかのように考えうる危険性を上げていく。そんな彼女の言葉を聞いていたカイトがテーブルを指で叩いて注目させた。

アスフィが視線を向けたのを確認すると、文字を書いていく。

 

 

「アンナ、を、買い取ったみ、せは?」

 

 

彼女が読み上げた文字にカイトは静かに頷いて返答を待っていた。リューも同じようで静かに彼女の応えを待つ。

カイトの問いかけにアスフィは応えるべきか悩んだが、二人を見て静かに息を漏らし口を開いた。

 

 

「”エルドラド・リゾート” 娯楽都市(サントリオ・ベガ)最大賭博場(グランカジノ)。そして、アンナ・クレーズを買ったのは最大賭博場(グランカジノ)の経営者である、ドワーフのテリー・セバスティン」

 

 

最大賭博場(グランカジノ)の経営者がアンナ・クレーズを買い取った。それは交易所とゴロツキ達を利用して、全てその男が裏で手を引いていたことが分かった。

しかし、突き付けられた難問に二人はまたも黙りこんでしまう。

 

 

「カイト、リオン…忠告はしましたよ」

 

 

これ以上言うことはないと、アスフィはお金をテーブルに置いて立ち上がり豊穣の女主人を後にした。

 

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