「…嘘だ」
最も確率が低い、いや最も自分が望んでなかった結果が事実になってしまうことが嫌だったから、苦しまぎれに否定した。
「嘘じゃないわぼうや。これはぼうやが受けとめるべき事実よ」
「嘘だッ!!!」
口先ではそう言うものの、あの光景を見てモヤモヤしたものが消えていた。そして、色んなものが溢れ出てくる。
すごいスピードできた車に轢かれそうになった子どもを助けるために、俺が犠牲になったこと。俺が親戚の人の家にいるときに陰で罵詈雑言を並べられていたこと。俺の母さんや父さんが死んでしまったことを親戚から聞いたこと。
俺は心から否定したかった。でも、俺の心は思ったよりも素直だった。親がいない寂しさ、親戚の醜さへの失望、自分さえいなければという責任感や自分に対する殺意。色んな記憶が溢れ出たことにより、一気に負の感情が押し寄せてくる。
そして何よりも、自分の境遇が分かってしまったことによる絶望。あまりの負の感情に自己嫌悪してしまいそうだった。
さらに紫はダメ押しとばかりに証拠を突きつけてきた。
「ぼうや、あなたは少し周りと考え方がずれている。大人びているのよ。それは何故か分かるでしょう?
あなたが親戚からの悪口のせい、ということも」
そんなこと分かってる。分かってるけど認めたくない。こんな悲しいこと、認めたくない。
こんな絶望しかない人生を、認めたくなんかないッ!!!
そんなことを思っていると、紫はさっきとは打って変わって、俺を抱きしめた。
「ぼうや、あなたの気持ちはよく分かるわ。でも、これは受けとめないと新しいところには行けない。受けとめるしかないのよ」
「分かりもしないくせに…分かりもしないくせにッ!!!」
俺は泣いていた。でも、そんなのに構う余裕なんてなかった。
「お前はわからないだろッ!!!分かったように偉そうな口を聞きやがってッ!!!
分かってないからあんなに辛いことが言えるんだ。分かってないからお前は俺をこんなに辛くさせたんだッ!!!」
俺の言っていることが正しくないなんて分かってる。分かってるけど、止まらない。止められない。
こんなことなら記憶を失わずに、あのまま生活しておきたかった。あのときみたいに感覚が麻痺していた方がよっぽどマシだった。
「なんで事故のときに死ななかったんだろうな、俺は。そうすれば、こんな思いしなくてよかったのに」
つい漏らしてしまう。その漏らした一言に紫は反応した。
「ぼうやが死ななかった理由は奇跡でもなんでもないわ。
こいしがぼうやを助けたからよ。」
「…えっ?」
あまりにも衝撃的だったので涙も止まってしまった。
こいしが、俺を、助けた?
「あの子は偶然ぼうやが事故にあったときに居合わせたのよ。そして、子どもを助けたぼうやを庇うようにして車に轢かれたのよ。」
「なんで、俺を」
「分からないわ。でも、なんとなくだけど、自分と似てたからじゃないかしら」
「似ている?」
それは初耳だ。考えてみればこいしの過去なんて全然知らない。
「あの子はね、もともと人の心を読む妖怪だったの。でも、あの子は自分で自分の能力を無くした」
「なんで、自分の唯一の取り柄を無くしたの?」
「他の人の心を読んで、その醜さに心を折られたのよ」
「俺と…同じ…」
ありえないと思った。あんなにも元気な姿を見て、そんな過去があったなんて。
なんでそんな過去を抱えながら元気に暮らせるんだ?
「元気になんか暮らしてないわ。あの子は逃げたのよ」
「えっ?」
言っている意味がわからなかった。あんなにも元気になるということは立ち直ったということじゃないのか?
「あの子は自分の能力を失って、新しく無意識を操る程度の能力を得たのよ」
「無意識を操る能力?」
「そうよ。それを使えば、相手から認識されない。認識されなければ誰もこいしのことを思わないのよ。
だからあの子は逃げたと言っているのよ」
確かにそうだ。自分のことを認識されなければ、自分に対して何も思わない、いや思えないんだ。
「そして逃げた代償はそれなりに大きい。あの子は認識されなくなって最初は喜んでいた。でも、大切な人からも認識されなくなったのよ。そこもぼうやと似ているところかしらね」
人は見かけによらないものだな。こんなつらい過去を抱えながらも、元気に生きている奴もいると思うと少しだけ心が軽くなる。
そして余裕が出てきたからかどうなのか知らないが、こいしには同情してしまった。俺はまだ温もりを知らなかったが、あいつは温もりを知ってしまっている。それを失うことがどれだけつらいことか。
想像するだけでも嫌だ。
「それにあの子自体も無意識になってしまった。無意識に感じて、無意識に行動するようになった。だからあの子が意識を取り戻さない限り、能力は戻らない。
それと、ぼうやが何故こんなところにいるか分かる?」
いきなり聞かれてびっくりしたが、分かるわけがない。そう答えた
「まあ私にも詳しいことはわからないけど、ぼうやとあの子が似ているってことが1番理由になると思うわ。それに、多分ここはあの子の意識の世界よ。ぼうやも無意識になるぐらい、いや無意識にならないといけないぐらい日常に追い詰められていた。今もこうやってぼうやの意識がないのは事故の怪我もあるだろうけど、あなたが望んでないからよ。日常を」
あれだけ負の感情が出でくるということはそういうことなのだろう。紫はどこまでもお見通しなのかと思ってしまう。
「だからぼうやの無意識とあの子の無意識が混ざったんじゃないかしら?」
「なんとなくそんな気がするよ」
「そこでぼうやには提案があるわ」
色んなことを見通してきた紫が言うことだ、多分従ったほうがいいのだろう。
俺は紫の言葉を待った。
「ぼうや、あの子を助けてあげて」
「…えっ?」
これには流石に驚きを隠さない。どうやって助ければいいのかもわからない。
「あの子のそばにいてあげて。あの子とぼうやは似ている。だからあの子にもぼうやには何か感じるんじゃないかと思うわ。
それに、この日常からも抜け出せるわ」
「それはいくらなんでも紫でも無理だよ。あの親戚たちをどうにかしないと」
「親戚たちなんていなくなるわ。あの子の面倒を見させるために、ぼうやを攫うわ」
「攫う?」
「ぼうやにはここに来てもらうわ」
そう言い、紫は扇子で空間を切り裂いた。その先にはこの世界にあるのかと思うほど美しいところがあった。
「…こんなところ、あるんだ」
「ここは幻想郷って言うのよ。忘れられたものが集まるところ。ここに連れていけばあいつらは入ってこれない」
まさか、こんな形で助けられるとは思わなかった。俺を助けてくれた恩人に対して思わず涙を浮かべてしまう。
「助けてくれて、ありがとう」
「助かるのはまだ早いわ。さっさと目を覚まして来なさい」
「うん!」
そんなことを言うと、俺の体は白くなり始めた。意識が戻るのだろう。
「あっ、最初にあったときに色々しておいたわよ。こいしのことは認識できるようにしてあるわ」
「それ言い忘れたらいけないよ」
なんでも見通しているのかと思いきや、少し抜けてる恩人に感謝しながら、俺はその場から消えた。
「……んっ」
天井からぶら下がっている電球が眩しい。そんなこと思いつつ意識を覚醒させていく。親戚たちはもういなくなっていた。
俺の周りには誰も人はいない。いるとするならば、誰にも認識されない奴がいる。
「ねえ、そこにいるんでしょ?こっちに来てよ」
そう言って窓の方を見ると、窓の外にある木で俺を見ていたこいしが驚きながら、しかし嬉しそうにこちらに寄ってくる。
「ねえ、なんで私のことが見えるのー?私と一緒に遊んでくれるのー?」
そう笑いながら聞いてきたので、僕も笑いながら返した。
「そうだよ。僕は君とずっと一緒に遊ぶんだ。だからね、ずっと、ずーっと一緒に居ようね!!!」
こいしはまた驚いていた。でも少し経ってから満面の笑みで
「うんっ!!!」
と言った。
そんな光景を隙間から覗いて幸せそうに微笑む奴もいた。
とりあえずシリアスが向いてるとかの次元じゃないのにレミリアのやつどうしよう…ってなってるところですねw
とりあえずこれで終わりという感じにします
またなんか話思い浮かんだらおまけとしてなんか書くと思います
まあなんかあったら感想で色々お願いします