異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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誕生日(その1)

 三学期が始まり、日常は普段通り過ぎていく。

 アリシアは毎週水曜日を同調を切るお休みの日としていた。

 最初こそアリシアの不在に戸惑っていた俺だったが、それに慣れてくると、むしろ丁度良かったのかもしれないと思うようにもなっていた。

 いくら大切に想っているアリシアとはいえ、自分の一挙一動を見られていることで、どうしても緊張してしまうところがあったようで。

 そんな緊張の糸を緩める事ができて、かつ不在を感じるが故にアリシアの存在の大きさと大切さを自覚できる、俺にとってお休みの日というのはそういう日だった。

 

 月が替わって2月。

 世間はバレンタイン一色だったが、我が家では別の重要なイベントがあった。

 それは、俺達兄妹の誕生日。2月8日が優奈の、一日おいて2月10日が俺のバースデーだ。それに今年は異世界で俺と同じ日同じ時間に生まれたアリシアもそれに加わっていた。

 うちでは毎年二人の誕生日の中日である2月9日に誕生日パーティをしている。

 今年もその予定だ。昨年は俺が行方不明で祝えなかったので、今年は盛大に祝おうと母さんは随分前から張り切って準備している。

 

二月八日()

 

 今日は優奈の誕生日だでもある今日は、アリシアとの同調を切るお休みの日だ。放課後に俺は一人で街中に買い物に来ていた。

 優奈とアリシアの誕生日プレゼントを買う為だ。

 

 と言っても、買う物はこの前の日曜日にアリシアと優奈とで一緒に街中に出かけたときに大体の目星は付けてある。それは、雑貨屋にあった五十センチくらいある大きなペンギンのぬいぐるみのペア。これを優奈とアリシアに一匹づつプレゼントするつもりだった。

 

 アリシアはこの前の水族館でよちよちと歩くペンギンの姿を見て、イルカの次に気に入っていたようだったから。

 そして、優奈にも同じ物をあげようと思ったのには理由がある。

 水族館で子供じゃないからと優奈はぬいぐるみをねだらなかった。だけど、優奈は俺の部屋に来る度にイルカのぬいぐるみを抱きしめて顔を埋めていたりして、本当はぬいぐるみに未練があったんじゃないかと思ったからだ。

 

 後、それとは別にアリシアから頼まれた優奈へのプレゼントとして、洋服屋で見つけたタータンチェックのストールを購入した。

 アリシアは同じように俺へのプレゼントを優奈に頼んでいるのだろう。親しき中にもサプライズありというやつだ。

 

「あら、アリスじゃない」

 

 プレゼントを買い終わって、街中を歩いていると不意に声を掛けられた。

 振り向くと、そこには翡翠と蒼汰がいた。

 

「……よぉ」

 

「珍しいね、二人が一緒なんて」

 

 この兄妹が二人で出歩いているところを見たのなんて小学生ぶりくらいじゃないだろうか。この兄妹はお互いを嫌っている訳じゃないのだが、あまり気は合わないようで二人だけで行動する事は極端に少なかった。

 

「まぁ、ちょっとな……」

 

 そして、何故かばつの悪そうにしている蒼汰。

 

「まるで逢引でも見られたかのような反応だね」

 

「あ、逢引って!?」

 

 慌てる蒼汰に対して翡翠は心底嫌そうな顔をして答える。

 

「アリス、そういう冗談はちょっと笑えないわ。蒼汰があなたへのプレゼントなんて思いつかないって言うから、私か付き合ってあげているだけよ」

 

「……お前、プレゼントの事を本人に話すなよ」

 

「別に何をあげるか話した訳じゃないんだしいいじゃない……蒼汰と一緒だと私もプレゼントの予算を上げられるから、言わば歩く財布と居るようなものね」

 

「お前、兄に対してそれはちょっと酷すぎないか……?」

 

「アリスへの誕生日プレゼントに純白の下着をプレゼントしたい、なんて言い出すような変態には正直こんな言葉も生温いと思うけど……本当に気持ち悪い」

 

 翡翠は吐き捨てるように言った。

 

「そ、そうなんだ……」

 

 俺は苦笑して応える。

 蒼汰はそれをプレゼントしたいけど、自分一人で買いに行く度胸が無いから、翡翠に勇気を出して相談を持ちかけたというところか。確実に勇気を出す所を間違えているだろう、それ。

 

「……蒼汰は、そこまでして私に白い下着を履かせたいの?」

 

「ち、ちげぇよ!? あれはただのジョークで本気じゃないから!」

 

「……本当かしら?」

 

 翡翠の冷たい視線が蒼汰を突き刺す。

 

「ま、まあ……私は別に気にしてないから、大丈夫だよ」

 

 蒼汰の性癖なんてもう全部知ってるし。

 

 ……まあ、たとえプレゼントされていたとしても、履いたところを蒼汰に見せるつもりなんて全く無かったけどね。

 

「だから誤解だって……」

 

 うん、わかってるから。

 

「そういえば、アリシアは今日は……?」

 

 アリシアの反応が無い事に気づいた翡翠が問いかけて来る。

 翡翠は見透かすような遠い視線をしていて、なんとなく彼女が今、俺達の魂を見ているのがわかった。

 

「アリシアは同調を切ってお休みする日だよ」

 

「そう言えば、今日は水曜日だったわね……大丈夫なの?」

 

 翡翠が心配そうに問いかけて来る。

 大袈裟だなぁ……

 

「うん、私は大丈夫。週に一度だけだし今はもう慣れたから」

 

「そう……」

 

 翡翠は深刻そうに顔を歪めた。俺が強がっているように聞こえたのだろうか? 別にそんな事は無いのに……

 

「お前はもう帰るのか?」

 

「うん。後はスーパーで母さんに頼まれた買い物をしたら帰るつもり」

 

「……そんな大荷物で大丈夫か?」

 

「よかったら、アリスの家まで蒼汰に持つのを手伝わせようか?」

 

 兄妹揃って俺の心配をしてくれる。こういうところは気が合うらしい。

 

「かさばっているだけで、中身は軽いから大丈夫だよ。それに、そもそも私は蒼汰よりも力は強くなれるんだからね?」

 

「……頭ではわかっちゃいるんだが、その見た目だとどうしてもそう思えなくてな」

 

「これから二人で買い物なんでしょ。私は気にせず楽しんできてよ。プレゼント貰う立場の私が言うのも変だけど……」

 

「……こいつと一緒で楽しめるかどうかはともかくとして、わかったわ」

 

「明日はよろしくな、パーティ楽しみにしてるぜ」

 

 明日の誕生日パーティには家族の他にこの二人と涼花が来てくれる事になっていた。

 

「蒼汰達がうちに遊びに来るのも久しぶりだね……前に来たのっていつくらいだったっけ?」

 

 俺が幾人だった頃は互いの家を良く訪問していたものだ。

 この体になってから蒼汰の家には何回か遊びに行ったが、蒼汰達がうちに来る事は無かったから感慨深い。

 

「……お前覚えてないのか?」

 

 そんな俺の反応に呆れたように蒼汰は返す。

 

「私達が前にあなたの家に行ったのはお葬式のときじゃない」

 

 ……そうだった。

 

「……あのときはごめんなさい」

 

「もういいわよ。無事でいてくれたんだし」

 

「それにしても、葬式の後に誕生日を祝う事になるとは思わなかったぜ」

 

「そうだね」

 

 三人揃って笑い合う。

 こうやってみんなで笑える日が戻ってきたのは嬉しい。

 

「それじゃあ、また明日」

 

「おばさんにもよろしくね」

 

 そう言って俺は街中に向かう蒼汰達と別れた。

 

   ※ ※ ※

 

「お帰りなさい」

 

 台所で明日の準備をしている母さんが、リビングに入った俺に声をかけてくれた。

 

「ただいま母さん。これ、頼まれていた買い物」

 

「ありがとう、アリス……先に部屋に上がってたの?」

 

「うん、買ってきたプレゼントを片付けたかったから……母さん、何か手伝う?」

 

「大丈夫よ。今日はまだ下準備だけだから」

 

「そっか……何だかいい匂いがするけど、今は何を作ってるの?」

 

「ケーキよ」

 

「すごい! 母さんケーキも作れるようになったんだ」

 

「せっかくだから作ってみたの。今年は特別だからね。あなたが帰ってきてくれて、アリシアと一緒にお祝いできる大切な誕生日だもの」

 

「ちょっと見てもいい?」

 

「いいわよ。お店のと違って不格好だけど……」

 

「全然そんなことないじゃない。うわー、美味しそう!」

 

 二つ並んだ少し小さめのホールケーキ。優奈が好きなイチゴのケーキと、アリシアが好きなチョコレートのケーキ。

 プレートにはアリシア、アリス、優奈、そして幾人の名前があった。

 

「母さん、これ……」

 

 思わぬ名前を不意に見つけて感情が込み上げてくる。

 

「幾人は私の大事な息子だもの。ちゃんとお祝いしないとね」

 

「母さん……」

 

「あなたは今はアリスだから、普段は娘として接するようにしているけれど、幾人であることを忘れた訳じゃないのよ」

 

 母さんが俺の頬に触れる。いつの間にか涙がこぼれていた。

 悲しい訳じゃないのに何故だか涙が止まらなくて――涙脆くなったのはこの体の影響だろうか?

 

 そんな俺が落ち着くまで、母さんは優しく抱きしめてくれた。

 

   ※ ※ ※

 

 翌日2月9日誕生日パーティ当日。

 だけど、俺とアリシアとの同調は切れたままだった。

 

 

 

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