異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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闇の禁呪(後編)

「なんだ、漏らしたのか」

 

「――――っ!」

 

 俺の様子で何が起こっているのか察したエイモックが歯に衣着せずに言った。

 恥ずかしさやら屈辱やらで、俺は顔を両腕で隠したまま固まってしまう。

 

 エイモックが魔法を解除したらしく、俺の中にあった擬似手が消えた。体の中にあった圧迫感がぽっかりと消失して楽になる。

 そして、伸し掛かるように俺に覆い被さっていたエイモックの気配が無くなった。

 

 ぐっしょりしたショーツが肌に張り付いてきて気持ちが悪い。お尻までべっとりで、この様子だと制服のスカートやベッドまで濡れてしまっているだろう。

 独特のアンモニア混じりの臭いが、ツンと狭い室内を漂ってきた。

 

 やってしまった……

 

 この体になってから何回かお漏らししてしまった経験はあるけれど、今回のは最悪だ。

 

 何を言えばいいのか、どうすればいいのか、頭が全く働かない。思考がぐるぐる回って纏まらない。

 

 無言で固まったままでいると、入口のドアが開く音がした。

 腕で視界を隠したままなので部屋の様子はわからないが、どうやらエイモックが部屋を出て行ったようだ。

 

 席を外してくれたのか……?

 

 少し間を置いてドアがノックされる。

 返事をしないでいると、ドアが空いて人が入ってくる気配がした。

 

「……あらあら、大丈夫?」

 

 それは、さっきお店の入り口で会った色気のあるお姉さんの声だった。

 てっきりエイモックが帰ってきたものとばかり思っていた俺は慌てて飛び起きた。すっかり(はだ)けてしまっていたシャツを抑えて胸を隠す。

 

「あ、あの……ご、ごめんなさい!」

 

 俺はとにかく謝るしかできなかった。

 大変な粗相をしでかしてしまった……

 

「別に気にしなくていいわよぅ? こんなの割りとある事だし」

 

「そ、そうなんですか……?」

 

「ほら、私が後始末してあげるから、あなたはお風呂で綺麗にしちゃいなさいな」

 

「あ、いえ……そんな事させられません。私、自分でやりますから……」

 

 見ず知らずの人に自分のお漏らしの後始末をさせるだなんて……

 

「もうすぐ、お店の女の子が出勤して来るから、それまでに片付けておきたいの。恥ずかしいとは思うけど、私に手伝わせて?」

 

「わかりました……その、すみません」

 

 俺は恐縮しながらお姉さんが差し出してくれたタオルを受け取る。タオルでひと通りスカートの中をさっと拭いてから、床にこぼれないようタオルで押さえて、小走りで浴室に駆け込んだ。

 

「って……あなた、スカートとか着替えは大丈夫?」

 

 背中からお姉さんの声が聞こえてきた。

 

「へ、平気です! なんとかなりますから!」

 

 浴室はホテルにあるようなトイレと洗面台が一緒になったユニットバスだった。

 まず俺はカッターシャツとスカートを脱いで洗面台のふちに掛けた。

 次に、ショーツと靴下を履いたままの格好で空の浴槽に入り、シャワーのお湯を下半身に当てて汚れを流していく。

 それから、カッターシャツとスカートの濡れた部分をシャワーで洗ってからそれらを着直した。

 最後に、魔法を詠唱して衣服を乾かす。

 

「――乾燥(ドライ)

 

 魔力で衣類がぼんやりと輝いて、濡れた服は急速に乾いていった。

 一分くらいで概ね乾いたので、臭わないかどうかだけ確認して浴室から出る。

 

「あら? 随分早かったのね。それにスカート乾いて……?」

 

「これ、水を弾くんです!」

 

 我ながら少々無理があるとは思うが、魔法の事は話せないので強引に誤魔化した。お姉さんは最近の制服ってすごいのねぇ、と感心していた。

 

「ごめんなさい、私も片付けます」

 

 お姉さんはシーツを剥がして雑巾でベッドを拭いていた。俺は足元に置かれたバケツに雑巾を見つけると、それを手に取って絞り後始末に加わる。

 

「……それで、どうだったぁ?」

 

「どうって……何がですか?」

 

 お姉さんの質問の意図がいまいちわからなかったので、俺は聞き返す。

 ベッドの表面は防水加工されているようで、お漏らししても染みになってはいなかった……割りと良くあるというのは本当らしい。

 

「ちゃんとえっち出来たのかしら……初めてだったんでしょ?」

 

「わ、私そんな事してません!」

 

 俺は慌てて反論する。

 

「……え? でも、確かに――」

 

「ひぃぁ!?」

 

 お姉さんがおもむろに俺のお尻を鷲掴みして、わさわさと揉みしだいてきた。俺は小さく悲鳴をあげる。

 

「まだ経験していないお尻みたいね。あの人のアレが大きすぎて入らなかったとか?」

 

「は、はい……っ!? ち、違います! そもそも、あいつとはそんな事をするような関係じゃありません!」

 

「あら、そうなの……?」

 

 お姉さんは困ったような表情で俺を見ていた。

 ふたりきりで服を(はだ)けてお漏らしさせられるような事をしておいて、何を言ってるんだという顔だ。

 

「……え、ええと、エイモックにして貰ってたのは健康診断のようなもので……そういうのでは……」

 

「えーと? ……ああ、うん。まあ、いろいろ事情はあるわよね。無理に言わなくていいわよ?」

 

 ……だめだ。

 何をしていたか言えない以上、誤解を解くのは難しそうだ。

 

 お姉さんは美人で妖艶な雰囲気に反して、雑談好きの気さくな人で、片付けが終わる頃にはそこそこ親しくなっていた。

 だけど、親切心なのか自分のときの経験を赤裸々に教えてくれるのは反応に困る。特にエイモックとのアレやコレの話に至っては、どんな顔をすればいいのかわからなかった。

 

 エイモックはこんな綺麗なお姉さんと日頃エッチしてるんだ……

 

 俺はなんとなく敗北感を感じて落ち込む。

 

「大丈夫よ、ちゃんとあなたにも入るから……そんなに気にしないの!」

 

 お姉さんが勘違いしたままで俺を励ましてくれる。

 

 入れたいと微塵も思わないです。というか、エイモックが他の人とそういう事しても平気なんですね……

 

「そうだ! よかったら、私が一緒に手伝ってあげようか? 私あなたとなら嫌じゃないわ……むしろ、あなたみたいな娘の初めてに立ち会えると思うと、ぞくぞくするわぁ……」

 

 お姉さんは頬に両手を当てて熱に浮かれたような表情で言う。

 正直とてもエロい。

 このお姉さんとエッチな事をできる……

 セクシーな衣装に包まれた豊満な体の中身を想像して、俺は思わずゴクリと唾を飲んだ。

 

 ……いやいや、待て待て。

 

 お姉さんとエッチするのは良いとしても、エイモックとの3Pは有り得ない。そっちを想像してしまい一気に気分が萎えた。

 

「え、遠慮しときます……」

 

「あら、残念」

 

 お姉さんは本当に残念そうに言った。

 

 片付けが終わって休憩室の前でお姉さんとは別れた。

 お姉さんは抱えたシーツを別の所に持っていくという事で、エイモックと二人で話できるように気遣ってくれたようだ。

 お店に戻ると、エイモックは相変わらず偉そうな姿勢で長椅子に座って時代劇の続きを観ていた。

 

「これ、録画だったんだ……」

 

 エイモックの趣味がよくわからない。こいつの話し方も時代劇に影響されてのものなのだろうか?

 

「終わったのか」

 

「う……」

 

 どんな反応をするべきか迷った。

 こいつには謝るのはなんか癪だ。

 

「……それで、どうだ? 使えそうか?」

 

「……へ?」

 

「何を惚けている。魂操作(ソウル・マニピュレータ)を覚える為にわざわざ実演してやったのだろうに……よもや、喘ぐのに夢中で見ていなかったなどとぬかすのではあるまいな?」

 

「ちゃ、ちゃんと見てたさ! おかげさまで、俺もなんとか使えそうだ……あ、ありがとな」

 

 結果はさておき、俺の為に魔法を見せてくれたのは間違いない。俺はエイモックに礼を言った。

 

「この貸しはそのうちに返して貰う。だから、気にするな」

 

「うげっ」

 

 ……いや、めっちゃ気になるから、それ。

 

「それに、なかなか興趣が尽きぬ姿も見られたしな。前回の意趣返しにはなったか……くくっ」

 

「ぐっ……ぐぬぬ……」

 

 相変わらずの全く気遣いのない物言いに、少しだけあった申し訳ないという気持ちは吹っ飛んだ。

 

 ……この男、やっぱり敵だ!

 

 そんな風に俺をからかっていたエイモックは、不意に真剣な表情にかわって口を開く。

 

「我らの祖先はこの魔法の使い方を違え多数の不幸を生み出してしまった。勇者と呼ばれた貴様がこれをどう使うのか見届けさせて貰おう」

 

「わかった」

 

「もしも、貴様が見境なく他人を犠牲にするのであれば、魔法を伝えた我はこの世界に干渉しないという貴様との誓約に背く事になる……そうなれば我は貴様を討たねばならぬ。面倒を掛けぬ事だな」

 

「……心しておくよ」

 

「ああ、そう言えば……魂操作(ソウル・マニピュレータ)を使えば今すぐにでも水の巫女を助ける事はできるぞ?」

 

「え? でも、さっきは……」

 

 魂を取り出すと消滅してしまうって――

 

「そうだ。魂を他人の体に移動させる方法は見つかっていない。だが、貴様のケースは例外的にひとつだけ手段がある」

 

「アリシアを助けられるのか!? それなら、俺は何だって――」

 

「魔法で自分自身の魂を取り出せばいい。そうすれば、貴様の魂は消滅し、その体には水の巫女の魂が残る事になるだろうよ」

 

「――なっ!?」

 

「良かったではないか。これで、貴様の念願は叶うのであろう?」

 

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