異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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お買い物(その1)

 買い物は郊外にあるショッピングモールに行くことになった。

 一箇所で全てが揃うのが便利だから、我が家の買い物はもっぱらここを利用することが多い。

 母が運転するワゴンタイプの軽自動車に乗って30分程の距離となる。

 

『わぁ……これが、車なんですね!』

 

 初めて車に乗ることになったアリシアは終始テンションが高かった。

 

『すごい……速いです! それに揺れも無くて静かで快適! 素晴らしいです! あっ、あれは何ですか!?』

 

 道中目に入るものいろんなものに興味を持つアリシアはまるで小学生のようで微笑ましい。

 普段は優奈が助手席で俺が後部座席に座るのだけど、うきうきした様子を隠せないアリシアの雰囲気で自然に後部座席に座った優奈は気遣いのできる妹だと思う。

 ……そして、何も考えずいつもどおり後ろに乗ろうとして。優奈に冷ややかな視線で助手席を指さされた俺はダメな兄だとも思う。

 

「私達、お店では幾人のことをアリシアと呼ぶわね」

 

 車の中で運転席の母さんはそう宣言した。

 ただでさえ目立つ容姿の俺が「お兄ちゃん」とか「幾人」とか呼ばれても悪目立ちするだけだろうから仕方ないと思う。

 

『……こ、これがしょっぴんぐもーる。この辺り一帯が市場なのですか……王国の中央市場でもこれほどの規模はありませんよ。すごい……!』

 

 俺達には見慣れたショッピングモールもアリシアには随分と衝撃的だったようだ。

 屋外の駐車場に車を止めた俺達は歩いて店内に向かう。

 

 買い物の目的はさておき、ショッピングモール自体は好きだ。

 おもちゃ売場や本屋等心躍る場所は多いし日本の飲食店で食べるご飯も久しぶりだったからだ。

 自然をはやる気持ちに足早になるが、いきなり優奈から駄目だしが出た。

 

「ちょっと、アリシア。そんなに大股で歩かない……パンツ見えてるよ」

 

 優奈の指摘に慌てて俺はミニスカートの後ろを押さえて立ち止まる。

 今の俺が履いているのは下着がぎりぎり隠れるくらいの丈しかないミニスカートだった。今までの歩き方だとアリシアのパンツを曝しながら歩くことになってしまうらしい。

 

「太ももの間に物を挟んでいると想定して歩くの。そうすれば自然に女性らしい歩き方が身につくわ」

 

 母さんの助言にしたがって歩いてみる。

 ……なんだかとても歩き辛い。

 

「……はぁ、なんでこんな思いまでしてミニスカートなんて履くんだろ」

 

 思わず溜息とともに愚痴が出てしまう。

 

「そりゃ、かわいいからに決まってるじゃん」

 

 と、優奈。母さんがそれに補足する。

 

「もちろんそれはあるけれど、見られていることを意識するっていうのも大切なことね。アリシアみたいにかわいいと、自然に他人の視線を集めるの。だからそれを意識しておかないとみっともない姿を晒すことになるわ」

 

 確かに母さんの言うことはわかる気がする。

 この体になってから、どこに行っても周りに見られるようになっていた。基本、誰にも気にされることが無かった男の頃とはまるで違っていた。

 

「ミニスカートを履いてると油断できないでしょ? だから、その緊張感で自然と女の子らしい所作が身につくようになるわ」

 

 別に俺は女の子らしい所作なんて身につけたいわけじゃないのだけど……心の中でズボンの購入を決意しながら歩く。

 

「……大丈夫、パンチラしてない?」

 

 俺は気になって優奈に問いかける。

 アリシアのパンツを見知らぬ野郎に見られてしまうのは嫌だ。それに、アリシアが平気でパンチラするような娘って思われるのも申し訳ない。

 

「大丈夫よ、油断しなければそうそう見えたりはしないから……頑張ってねアリシア」

 

 幾人の頃には感じなかった周りの視線が痛い。注目されるのはこの外見だからで、パンチラしているからではないと思いたい。

 

「それじゃあ、まずは下着から買いに行きましょうか」

 

「え……」

 

 俺がまず連れてこられたのは下着売場だった。下着の専門店ではなくて、ショッピングモールに入っているスーパーの衣料品売場のところだ。

 目の前にはスクール用の淡い色合いの女性下着がずらりと並んでいる。

 高校生男子には正直目の毒な光景で、俺はそれらを直視することができなかった。

 

「……何恥ずかしがってるのよ」

 

 優奈がからかうような口調で話しかけてくる。

 

「そんなこと言われても……」

 

 俺は堂々と飾られた下着を恐る恐る見る。それらはシンプルだけどワンポイントや柄が可愛らしさを主張していて、女の子の秘密を覗き見ているような罪悪感を覚えてしまう。

 

『これ全部下着なんですか……本当にこの国には驚かされるばかりです……』

 

 色とりどりの下着にアリシアは驚きを隠せないようだった。

 

「それじゃあ、まずは店員さんにサイズ測ってもらおうか」

 

 そう言って優奈が店員さんを呼んだ。若いお姉さんだった。

 

「ちょっ……」

 

 俺は言われるままに試着室に移動した。試着室でお姉さんと二人きりにされて俺は混乱する。

 

「お嬢さん……日本語で良かったかしら?」

 

「日本語だいじょぶです!」

 

 ちょっと噛んだ。

 

「ブラを買うのは初めてかな?」

 

「は、はいっ!」

 

 そんな俺の様子を見てお姉さんはクスリと笑った。

 

「大丈夫、そんなに緊張しなくていいのよ。お姉さんに任せて」

 

 俺が緊張しているのは別の理由だった。綺麗なお姉さんと狭い空間で密着して二人きりだなんてどうしても緊張してしまう。香水だろうか……なんだかすごくいい匂いがするし。

 

「それじゃあ、脱いで?」

 

「は、はいっ……!」

 

 落ち着け変な意味は無いんだ。

 俺はピンクのジャケットを脱いでハンガーに掛ける。それから、ブラウスのボタンに手を掛けようとして……女物は勝手が違ってて上手く外れない。

 

「ブラウスの上からで大丈夫よ」

 

 そう言われて俺は慌てて手を止めた。

 

「それじゃあ測るわね」

 

 メジャーを持ったお姉さんが覆いかぶさるようにして俺の背中に手を回してきた。俺は体を硬直させて待つ。香水の他にお姉さんの髪からシャンプーの匂いがして頭がくらくらする。

 されるがままに何回か測られたけど数字は頭に入ってこなくて……カーテンから顔を覗かせていた優奈が聞いてくれていたから多分大丈夫だろう。

 

『……もう、イクトさん。鼻のばしすぎです』

 

 教えられたサイズはアルファベットの最初のレターがふたつ。

 とても、慎ましいサイズだった。

 ……将来性に期待だね、うん。

 ちなみに優奈のサイズを聞いてみたら4つ目のレターだそうで……立派になったんだな、妹よ。

 

 それから実際に物を選んでいくのだけれど、基本的には優奈と母さんに丸投げだ。二人に選んで貰った物を、俺は試着室で試着していく……が、しょっぱなから躓いた。

 

 ブラジャーの着け方がわからない。

 

 どうしようとまごまごしていたら、優奈が試着室に入ってきて手取り胸取り着け方を教えてくれた。優奈は茶化したりせず真面目に教えてくれるのだけど、俺は動揺しまくりで、兄としての尊厳はがりがりと削られていった。

 

 着替えが終わって鏡に映った自分の姿を見るとシンプルだけど控えめにレースで装飾された白のブラジャーを付けた清楚なアリシアの姿がそこにあって、少しだけ大人びて見えてドキッとする。

 今は足元においてあるセットのショーツを合わせたなら、もっとその印象は強くなるだろう。

 

『……これが、この世界の下着なんですね。綺麗……』

 

「ちょうど良さそうね! このサイズでいくつか持ってくるね」

 

 その後、優奈と母さんが持ってきてくれたものを試着して結局上下セットで3セットを買い物カゴに入れた。

 それから、普段使い用として、ハーフトップやスポーツブラを数枚、三枚組で売られているショーツを3セットほど、それから、キャミソールや靴下なども合わせてここで購入した。

 

 一から揃えるので仕方ないとはいえ、随分量が多くなってしまった。レジに表示される金額を見て申し訳ない気持ちになる。

 

 次は洋服だった。優奈のお下がりが何着かあるようなので、個人的にはズボンとTシャツがいくつかあればいいくらいに思っていたのだが、優奈と母さんは全く違う考えだったようだ。

 

 その結果、何時間も俺たちは専門店街のお店をはしごすることとなり、散々着せ替え人形にさせられた。

 アリシアは嬉しそうだったが、俺は早く終わってほしいという気持ちで一杯だった。いくつか購入していたみたいだが、俺はただ出された物を着るだけの思考放棄をしていたのでよくはわからない。

 値札についていた金額を考えると正直恐ろしくなる。

 

 なんとか普段着用のTシャツとズボンを購入してもらうことができたのは嬉しかった……二人には相当渋られたが。

 

 最後に靴屋でスニーカーやローファー、それからミュールっていうサンダルを買って、ようやく買い物は一段落ついたのだった。

 

 ……疲れた。

 

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