異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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仕事部屋

 話が一段落ついた頃合いで、父さんがテーブルの上に見たことのない鍵を二本とメモ帳を置いた。

 メモ帳には知らない住所が書かれていた。どうやら駅前のマンションのようだ。

 

「俺がときどき仕事部屋として使っているワンルームマンションの鍵だ」

 

 意味がわからなくて首を傾げている俺に、父さんはそう教えてくれた。

 

「でも、どうしてそれを……?」

 

 仕事関係のことは極力家庭には持ち帰らないのが父さんの基本的なスタンスだった。それは、俺が今までこのマンションの存在を知らなかったくらいに徹底されていた。

 

「アリシアを宿すためにしなければいけないことがあるだろう……お前はどこでするとか考えなかったのか?」

 

「あ……」

 

 父さんに言われてはじめてそのことに気づいた。

 蒼汰の家は神社の敷地内にあり、大っぴらにそういうことをするのはあまり好ましくない。だからと言って、俺の部屋でするのも具合が悪い。母さんは在宅の仕事で基本的に家に居るし、隣には優奈の部屋もあるからだ。

 だからと言って、それ用のホテルを高校生同士で利用するのも難しい。出入りするところを誰かに見られたら確実にアウトだ。

 それに、まさか学校でするわけにもいかないだろう。

 

 そう考えると気兼ねをしなくていいマンションの部屋というのは大変ありがたい話だった。

 

「しばらく使う予定はないから、お前達で使うといい」

 

 だけど、セックスするために用意された部屋というのは、なんだかとても生々しく思えてしまう。

 うちは割りと性にオープンな方だと思うけど、これだけあからさまにセックスすることが前提の話をするのは初めてで、どうにも反応に困ってしまう。ましてや、ここに居るのは自分の家族だけじゃなくて、蒼汰の家族も一緒なのだ。

 

「あ……ありがと……」

 

 俺は手を伸ばして、机の上の鍵をメモ紙と一緒に握り込んだ。

 緊張で思わず手が震えてしまっていたのには、誰にも気づかれなかっただろうか?

 微妙な沈黙を断ち切るように、父さんはわざとらしく咳をしてから口を開く。

 

「蒼汰くん」

 

「は、はいっ!」

 

 突然話しかけられた蒼汰は、飛び跳ねるように背筋を伸ばして答える。

 

「えーと……あー、なんだ。その、うん……がんばれ」

 

 適当な言葉が思いつかなかったようで、父さんにしては珍しく歯切れが悪かった。蒼汰からは種を貰うだけの関係になるので、俺のことを頼むと言うのも少し違うんじゃないかと思ったのだろう。

 

「わ、わかりましたっ!」

 

 と蒼汰はカチコチになっていた。

 

 こいつと、する……んだよな、俺……

 

 改めてそのことを意識してしまい俺は息を飲んだ。

 手の中に握りしめた鍵は冷たくて、やたらと存在感がある。

 

「他に何もないようならこれで解散ってことでいいか?」

 

 と、父さんが言った。誰も異論は無かったため、そのまま解散となり大人たちは部屋を出ていった。

 だけど、俺達子供4人は座ったまま居間に残っていた。

 俺は蒼汰としなければいけない話が残っていたからで、他の二人はそんな俺に付き合ってくれているのだろう。

 

「ええと、これ……」

 

 俺は、鉄の輪っかから鍵を一本外して蒼汰に差し出す。

 

「お、おう……」

 

 蒼汰はぶっきらぼうに返事をすると、手のひらを上にして突き出してきた。俺は親指と人差し指で摘んだ鍵をそこに落とす。

 それから、スマホを操作してマンションの住所をメッセージで送った。

 

「…………」

 

 不意に訪れる沈黙。

 

 蒼汰にこれからのことを相談しないといけない。

 そう思いながら、どうやって切り出したらいいのか分からずにまごまごしていると、見かねた優奈が先に口を開いた。

 

「それで、アリスはこれから蒼兄とエッチするの?」

 

 身も蓋もない言葉に一瞬ぎょっとするけど、言い繕っていても仕方ないことなのでそのまま話を続ける。

 

「う、うん……蒼汰が大丈夫なら、この後お願いできたらって思ってるんだけど……どうかな?」

 

 卵子が妊娠できる期間は排卵されてから大体24時間前後らしい。その間に精子に出会えなければ、妊娠するには次の排卵を待たないといけなくなる。

 前の生理からかなりの日数が経っているので、今の俺が妊娠できる可能性は低い。だけど、ゼロじゃない以上精子を受けて妊娠できるようにしておきたいと思う。それも、なるべく早く。

 

「お、俺は別にいつでも大丈夫だけど……」

 

「そ、そっか……それじゃあ、お願いしていい?」

 

「お、おう……」

 

 頭に血が登って蒼汰の顔を見られない。

 多分蒼汰も同じようになっているんじゃないかと思う。

 

「それじゃあ、これからアリスは準備しないとだから、今から二時間後にマンションに行くってことで!」

 

 俺達が再び黙ってしまったので、優奈が仕切って話をまとめようとする。

 

「……二時間もかかるのか?」

 

 口に出た蒼汰の疑問に俺も同感だった。

 そんなに時間をあける必要はあるのだろうか。

 

「アリスは女の子だからね。これくらいでもまだ短い方だよ。だから、蒼兄はおとなしく待っててよね」

 

「わ、わかった」

 

 俺は時間を置くより、このままさっさと終らせてしまった方が良いんだけど……

 と、俺は口を開こうとして。

 

 そういえば、今日はどんな下着つけてたっけ?

 

 ふと、そんなことが思い浮かんだ。

 

 えーと……

 

「……それじゃあ、蒼汰。また後でね」

 

 少し考た後、俺はそう答えていた。

 

 ……うん。

 一旦家に帰って下着を着替えてこよう。

 エイモックのときのような失敗を繰り返すのは良くない。

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