異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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査問会(被告人不在)

 俺は今優奈たちと合流するためにファミレスに向かっていた。蒼汰とはマンションの前で別れていて一人だ。話し合った結果、今はまだ蒼汰は二人と会わない方が良いだろうということになったからだ。

 店員に待ち合わせている旨を告げて店内に入っていくと、俺に向かって大きく手を振る優奈がすぐに見つかった。

 注目を集めてたのが少し恥ずかしかったので、席まで小走りで駆けて止めさせる。

 

「もう、優奈ってば……」

 

 文句をこぼしながら優奈の隣の席に座る。

 と、そのまま抱き締められてしまった。

 

「ちょっ――優奈!?」

 

 腕の中で軽く抵抗してみる。いつもならそれで開放してくれるのに、優奈は離してくれなかった。

 

「アリス。大変だったよね、辛かったよね……お疲れさま」

 

「う、うん……?」

 

 優奈の態度に俺は戸惑う。

 確かにいろいろ大変だったけど、なんだか少し大げさすぎやしないか。

 

「良かった。アリスが無事で……」

 

 心の底から安堵した優奈の声を聞いて、俺は回された腕の中で動きを止める。

 

「蒼兄と上手くいかなくて、アリスはヤケっぱちになってるんじゃないか心配してたんだ。部屋を飛び出して、街中をさまよっているうちに援交目当てのおじさんからの誘いを受けてしまって、事の後でホテルの部屋でひとり後悔で泣いてるんじゃないか……って」

 

「わ、私そんなことしないからね!?」

 

 俺は声を大にして否定する。

 周囲の空気がざわつくから、援交とか不穏な単語を出すのはやめて欲しい。

 それにしても、随分と想像力豊かだなぁ……

 それだけ俺のことを心配してくれていたということだから、茶々を入れるつもりはないけれど。

 

「……ごめんね、優奈。心配かけて」

 

「うん、心配したよぉ……でも、良かったぁ」

 

 ぎゅっと、抱き締められた。

 女の子らしい柔らかさと嗅ぎ慣れた甘い匂いがして落ち着く。

 うん、触れ合うならやっぱり女の子の方がいいなぁ……

 そんなことを考えていたら、

 

「私も心配した」

 

 と不服そうな声が向かい側の席から聞こえてきた。

 顔を上げると、頬を膨らませた翡翠がジト目で俺たちを見ていた。

 

「翡翠も、ごめんね?」

 

 そう謝ってみたけど、翡翠の機嫌は悪いままだった。

 

「なんで優奈の隣に座るの? ぎゅっとして慰めるのは、恋人である私の役目のはずなのに……」

 

 頬を膨らませて抗議する翡翠。

 言ってることはもっともな話なので、俺は慌てて謝罪する。

 

「今までの習慣というか……その、ごめん。そっちに座るね? ……って、優奈?」

 

 がっちり抱きしめられていたら動けないんだけど……

 だけど、回された腕は緩むことはなくて。

 

「あたしはアリスのお姉ちゃんだからね! 翡翠姉が恋人になってもこの役割は譲れないかな」

 

 と、俺を抱きかかえたまま得意げに言う優奈。

 そんな煽るような言い方しなくても……

 

「いいわよ、私がそっちに行くから」

 

 翡翠はすっと立ち上がって、置いてある俺たちの荷物を向かい側に移すと、俺の隣に座ってきた。

 

「ちょ、翡翠!?」

 

 三人掛けの席とはいえ並んで座るのは少し窮屈だ。

 それから、翡翠は優奈に負けじと頭を胸に抱えるようにしてぎゅっと俺を抱きしめてきた。

 

「アリス、お疲れさま」

 

 弾力のある胸に優しく受けとめられる。ふわっと石鹸のいい匂いが漂う。

 そして、そんな翡翠に対抗してか、優奈もさらにくっついきた。

 

「ちょ、ふたりとも!?」

 

 目立ってる、目立ってるから、ねぇ!?

 

 ファミレスの対面席で三人の女子が片方の席に詰めて抱き合ってる状況はとても普通じゃない。この時期だから、卒業で別れを惜しむ微笑ましい光景とでも思ってくれてたらいいんだけど……

 

「ふふっ、両手に花だね」

 

 と楽しそうに優奈。

 

「せ、せめて、離して……」

 

「私、本当に心配した」

 

 だから、我慢してという翡翠の無言のお達しだった。

 俺は諦めて、二人が満足するまでされるがままで居ることにした。

 

「あ、あのぉ……お客様? ご注文は如何されますか……?」

 

 俺たちのどたばたが落ち着くのを見計らっていたのか、遠慮がちにウエイトレスさんがやってきた。

 

「ええと……」

 

 もうすっかり日も暮れていた。

 変に食べると晩御飯が入らなくなるかも……どうしよう。

 

「あたし達はアリスを待ってる間に晩ご飯食べちゃったよ? ママに相談したら今日は外食にしなさいってことになったから、家に帰っても食べるものは無いと思うよ?」

 

 ……なるほど。

 それじゃあ、遠慮なくがっつり食べちゃおう。

 

 ささっとメニューを見て、目についたハンバーグセットを頼む。注文を読み上げながら機器に入力した店員さんは、並んで抱き合って座る俺たちに一礼して立ち去った。

 

『……それで、ちゃんとできたの?』

 

 優奈が念話に切り替えてその質問をしてきた。

 デリケートなことだから、聞かれないかなと思ったりもしたけれど……アリシアを助けるのに重要なことだから、やっぱりそんなことないよね。

 

『う、うん。なんとか……あっ』

 

『どうしたの?』

 

『……ううん、なんでもない』

 

 ……たれてきた。

 

 体内からどろりとそれがこぼれ出た感触。

 ナプキンをつけているから問題はないけれど、さっきまでの光景が思い出されて、頭に血が登る。

 

『それにしても、随分時間がかかったのね? やっぱりはじめては大変だった?』

 

『それもあるけど……その、一回じゃ終わらなくて』

 

『ええ!? はじめてなのに二回もしたの?』

 

『いや……それが……』

 

 俺は親指を折って残りの手のひらを伸ばして体の前に小さく掲げた。

 

『よ、よん!? えええ!?』

 

『あいつ、何考えてるの!? 殺す、絶対に殺すわ……!』

 

『はじめての女の子相手に四回って……蒼兄って案外鬼畜?』

 

 翡翠は激怒、優奈はドン引き――二人とも予想した通りの反応だった。なんとかフォローして誤解を解かないと蒼汰が死ぬ。社会的か物理的かはわからないけど、間違いなく死ぬ。

 

『い、いや、蒼汰は悪くないよ!? これは私から望んだことだから』

 

『え、アリスから……?』

 

 顔を真っ赤にする優奈。

 頭の中で蒼汰におねだりする俺の姿を思い浮かべてそうだった。

 

『ち、違うから!? そういうのじゃなくて……私は少しでもアリシアを助ける可能性を高くしたかっただけで……』

 

『それで? 実際のところどうだったの?』

 

『……痛かったけど、我慢できないほどじゃなかった』

 

『ええと……気持ち良かったりとかはしなかったの?』

 

『……よく、わからない。体の中に入ってくるのがきつくて、なんだか、気持ち悪かった。後はただひたすら耐えてたから』

 

『そんな状態なのに四回も……?』

 

『だから、これは私が蒼汰にお願いしたことなんだってば』

 

『それにしても、蒼兄だけ気持ちよくなってたってことよね。流石にそれってどうなのかなぁ……』

 

『私が納得してるからいいの。私は種が欲しくて、蒼汰は気持ちよくなる。それでギブアンドテイクは成立してるから、そのことに不満なんてないよ』

 

 そこまで言っても優奈はまだ不服そうだった。

 だから、俺は付け加える。

 

『それに……蒼汰はちゃんと優しくしてくれたから』

 

 ……途中までは確実に。

 俺は目を逸らしながら言う。

 

『あいつ私のこと気づかってた。気づかいすぎてその……アレが小さくなっちまうくらいで。だから……その……』

 

 なんだこれ。恥ずかしいぞ……

 

『……そうなんだ。ちゃんと優しくして貰えたんだね』

 

 それで、ようやく優奈は少し笑った。

 

『バージン相手に四回もするような猿が優しいとかあり得ないでしょ』

 

 バッサリ切り捨てる翡翠。

 

『……それも、そうだね』

 

 そして、優奈もあっさり同意する。

 どうやら、フォローはこれくらいが限界のようだ。四回した事実は覆らないし、そこは蒼汰の自業自得なところもあるから仕方ないよね、うん。

 

『それで――具体的にはどんなことをしたの?』

 

 目を爛々とさせた優奈が聞いてきた。

 

『そ、それは……』

 

 俺は言いよどむ。

 プレイの内容はアリシアを助ける事と関係ない。

 プライベートなことだし、蒼汰にも悪い気がする。

 それに――

 

『ええと、その……翡翠に聞かせるような話じゃないと思うから……』

 

 優奈に話すのはともかく、他の人とのプレイ内容を恋人に聞かせるとか駄目なんじゃないか。

 そう思った。

 

『私も……聞かせて欲しい。アリスに何があったか知っておきたいの。思い出すのも辛いことなら無理にとは言わないけど……』

 

 だけど、当の翡翠はそんなことを言う。

 そんな風にお願いされると断り辛い。それに、翡翠が知りたいと言うのなら、話をするのが恋人としての義務じゃないかとも思うし……

 

『わかったよ』

 

 俺が了承したのとほぼ同じタイミングで、ウェイトレスさんが来て料理をテーブルに置いてくれた。

 俺は食事をしながら、念話で俺が蒼汰にされたことをかいつまんで伝える。

 優奈はひゃぁ、とかふぁぁ、とかよくわからない声をあげながら顔を赤くして話を聞いていた。それに対して翡翠は顔色ひとつ変えないまま無言で話を聞いていて、それがとても怖かった。

 

 ……せっかくのハンバーグだったのに味がよくわからなかったや。

 

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