異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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明日に向けて

4月6() 0週1日

 

 今日は春休み最終日。

 昨日に引き続き俺は春休みの宿題に追われていた。

 

「はぁ……学校に行けなくなるかもしれないのに、宿題を頑張る意味ってあるのかな……」

 

 俺は勉強机に突っ伏して愚痴をこぼす。

 学校には妊娠出産を隠して休学する予定とはいえ、それが上手くいくとは限らない。もし学校にばれて退学になったら、今俺がやっていることは無意味になるのだ。

 

「しんどいのはわかるけど、最初から諦めてどうするの」

 

 翡翠にたしなめられる。

 彼女は今日も手伝いに来てくれていた。

 

「……そうだね」

 

 まったくもってその通りだった。

 俺自身やる前から諦めるつもりなんてない。

 

 ……だけど、弱音を吐きたくなるときもある。

 

「うぅ、お腹痛いぃ……」

 

 両手でお腹を押さえる。今日は生理の二日目で一番しんどい日だった。できることなら一日中ベッドに横になっていたい。

 

「ほら、私も手伝うから、あともう少し頑張りましょう?」

 

 翡翠が机に伏せた俺の頭を撫でてくれる。

 俺はされるがまま身を任せて目を細めた。

 

「ん、気持ちいい……」

 

 だんだんと翡翠に甘えるのが癖になってきてるかもしれない。なんだかズブズブと深みに嵌ってるような気がする。

 

 そのまま痛みが落ち着くまで待って、なんとか気合を入れ直した俺は宿題を再開した。翡翠の付きっきりのサポートのおかげでわからないところも躓くことなくスムーズに進んだ。

 

 しばらくたった頃、部屋のドアが興奮気味にノックされた。

 

「アリスいるー!?」

 

 返事をすると勢いよくドアが開いて優奈が部屋に入ってきた。

 

「見て見て、大発見よ!」

 

「……どうしたの優奈?」

 

「蒼兄とエッチしなくても妊娠できる方法を見つけたの!」

 

「なんですって!?」

 

 ガタッと翡翠が立ち上がる。

 俺は訝しがりながら優奈が持ってきた雑誌を受け取った。

 

「出かけてると思ったらこんな物を買いに行ってたのか……」

 

 それはいわゆる妊活雑誌だった。

 女子高生には買いづらい本だろうに、俺のために買ってきてくれたのだろう。

 

「うっ……」

 

 かわいい赤ちゃんの写真の周囲に『授かる』をキーワードに様々なキャッチフレーズが並んでいて、なんというかとても妊娠することへの圧を感じてしまう。

 だけど、俺は誰よりも必死にならないといけない状況なのだ。この本は後で俺も読ませてもらおう。

 

「ほら、このページ!」

 

 付箋のついたページを開くとシリンジ法の紹介という記事が出てきた。

 シリンジとは針のない注射器のことで、それを使って採取した精液を膣内に注入するというのがシリンジ法というそうだ。

 購入するのに通院や診断は不要で、キットを通販で買えるらしい。

 

「これを使えば、あいつをアリスに触れさせなくてすむわ!」

 

「それじゃあ、早速これ注文しておこうか?」

 

「うーん……」

 

 盛り上がる二人に対して俺はあまり気乗りしていなかった。

 

「せっかく調べてもらって悪いけど、私はあまり使いたくないかな」

 

「どうして? アリスは蒼汰とのセックスを望むの?」

 

「まさか」

 

「だったら、納得できる理由を聞かせてもらえるかしら」

 

 翡翠は身を乗り出して、俺を問い詰めるような口調で言う。

 

「シリンジ法には、出してすぐの精液が必要になるみたいだけど、そうなると蒼汰は一人でしなくちゃいけなくなるよね?」

 

 セットには検尿のときに使うような紙コップがついていた。これを使って精子を採取するようだ。

 

「それがどうしたの? どうせほっといても猿みたいにするんだから、あいつにやらせたらいいじゃない」

 

「一日に何回もは難しいよ。男の射精って意外と繊細なんだから」

 

「……そうなの?」

 

「私がセックスできない体なら仕方ないけど、そうじゃないし……」

 

 シリンジ法は勃起不全などで性行為が上手くできない夫婦にとって有効な手段と書いてあった。つまり、セックスできるならそれに越したことはないのだ。

 

「それに、セックスをしたらホルモンが分泌されて、子供を妊娠出産しやすくなるっていう説もあるみたいなんだ」

 

 科学的な裏付けまではないみたいだけど、なんとなく俺はその説は正しいんじゃないかと思う。

 女性の体はそういう風にできている――そんな風に思うのだ。

 

「アリシアは巫女の祝福の関係で成長が止まっていたから。出産に向けて少しでも体を作りたいと思ってるんだ」

 

 蒼汰のアレなんかより比べ物にならないほど大きい胎児がそこを通ることになるのだ。それに備えて少しでも体を慣らしといた方が良いだろう。

 

「……でも、アリスはセックスしても辛いだけなんだよね?」

 

「蒼汰が気持ち良いならそれでいいよ。興奮するほど精子はいっぱい出るし、少しでも妊娠する確率を上げたいから」

 

 多分、お願いしたら、蒼汰はシリンジ法に協力してくれるだろう。

 だけど、妊娠する可能性を高めるにはなるべく多くの精子を受けることが必要だ。そうなると、蒼汰に何度も紙コップに射精する自慰を強要することになる。その後の賢者タイムは想像するだけで虚しいものになるだろう。

 

 オナニーをするときは自由であるべきだと思う。

 自分勝手で独りよがりな行為だからこそオナニーなんだから。

 俺の都合でその自由を奪うのだから、対価として蒼汰が良い思いをするくらいじゃないと釣り合いは取れない。

 俺はそう思う。

 

「……アリスはそれでいいの?」

 

「うん」

 

 それでも、処女を失う前にこれを知っていれば迷ったかもしれない。だけど、もう初体験は済ませてしまった。

 幸いなんとか蒼汰のアレを受け入れることはできている。今となっては蒼汰に抱かれることにそこまでの抵抗はない。

 ただ、目を閉じて我慢すればいいだけだから。

 

「……それなら仕方ないわね」

 

「ごめんね、翡翠」

 

 恋人である翡翠には悪いと思うけど、そもそも蒼汰を巻き込んだ計画を立てたのも彼女だからここは折れてもらおう。

 

 もちろん、蒼汰自身の意思は確認しないといけない。

 蒼汰がシリンジ法を望むなら何の問題もない。

 

 あいつには好きな人がいる。男だから好き嫌い関係なしに抱けるだろうけど、変に生真面目なあいつを苦しめているかもしれない。

 それに、親友であり元男の俺を抱くのは抵抗があるだろう。

 

「……そうでもないか?」

 

 俺は考えを撤回する。

 組み敷かれながら薄目で見た蒼汰の顔は蕩けそうなほど緩んでいて……とても気持ち良さそうだった。

 蒼汰は初めてのセックスに夢中になっているのだろう。

 まぁ、無理もないと思う。

 

 その後、話しあって取り敢えずシリンジは注文しておくことになった。何があるかわからないし、これなら、最悪蒼汰が駄目だったときに父さんにお願いできなくもないし。

 

 

4月7() 0週2日

 

 今日から高校二年生だ。

 朝一に張り出されたクラス分けを確認して教室に向かった。

 二年になっても優奈と同じクラスでほっとした。他にも純も含めた数人が去年と一緒のクラスだった。残念ながら、文佳と山崎くんとは別のクラスになってしまったようだ。

 去年からのクラスメイトには、休みの間に髪を切ってポニーテールにするようになったことに驚かれたけど、この髪型も似合ってると褒めてくれた。

 ホームルームで無難に自己紹介をして、その後、ちょこちょこ新しいクラスメイトとも話ができた。この調子だと多分すぐに馴染めるだろう……妊娠したら休学する予定だからどこまで一緒に居られるかはわからないけど。

 

 今日は始業式とホームルームだけで授業は無い。

 二日間ひたすら宿題に追われていたので、今日は気分転換したくなって俺はなんとなく部室に向かった。

 

「……よ、よう」

 

 部室には蒼汰が一人でいた。蒼汰とは一昨日に生理が来たことを伝えたっきりで、それ以降連絡を取っていない。

 俺が部室に入ると蒼汰は不自然に体を緊張させて、俺を意識してしまっているようだった。

 

「今日は、大丈夫なのか?」

 

 ……大丈夫じゃないです。

 

 生理三日目で、まだお腹が重い。

 そりゃ昨日よりはマシだけど……

 

「ごめん、今も血が出てるから、その……今日はできないんだ」

 

 親友とはいえ、女になった自分の体のことを説明するのは若干気まずいものがある。

 

「ええと、ヤりたいのはわかるけど、女の子にそんな風に聞いたら本当はダメなんだよ? ……まあ、私相手だからいいけど」

 

 蒼汰が女性の体のことをわからなくても仕方ないと思うから、今回は減点は勘弁してあげよう。

 

「ち、ちげーよ!? そういうことを聞いたんじゃなくて! 俺は純粋にお前のことを心配してだな……」

  

 どうやら、俺は質問の意図を勘違いしていたらしい。

 

「ご、ごめん……その、私は平気だから」

 

 随分恥ずかしいことを口走ってしまった気がする。

 ……これは私が減点だな。

 

 出会い頭にいきなりぎくしゃくしてしまった。

 俺は気を取り直して、ここに来た目的の物を探すことにする。

 それは、直ぐに見つかった。先日発売された新しいウィソの全カードが載ってあるガイドブックで、涼香が部室に置いてある半備品だ。

 俺はそれを手に取って、蒼汰と少し離れた席に腰を下ろした。

 本のページをめくりながら、新しいカードを使ったデッキのアイデアを考えていると、妙に蒼汰がこちらの様子を伺っていることに気がついた。

 

「ん……? 蒼汰もこの本を読みたかった?」

 

 蒼汰は慌てて首を振った。

 

「い、いや、そういう訳じゃないが……」

 

 それからもチラチラと視線を感じた。それもなんだか熱っぽいやつだ。

 

「な、なんだよ。そんなに見られると、気になるじゃないか」

 

「す、すまん……」

 

 蒼汰は顔を反らして言う。

 

「どうしたんだよ、お前。もしかして、三日できなかっただけで発情してるのか?」

 

 少しからかい気味にそう言ったら、蒼汰がギクリと体を震わせて固まった。どうやら図星だったらしい。

 え、マジか……

 いくらセックスを知ったからと言って、こんなに我慢できなくなるのか? これじゃあ、童貞だったときより余裕がなくなっているんじゃ……

 

 そこまで考えて、不意に思い当たることがあった。

 

「お前、もしかしてあれからヌいてないのか……?」

 

「……約束したからな」

 

 はじめてしたときに蒼汰とした約束。

 精子は全部私の中で出してほしいというやつだ。

 

「そりゃそうだけど、別にできないときまでしなくてもいいのに……」

 

「お前が頑張ってるのに俺だけ好き勝手はできねーよ」

 

 蒼汰は顔をそらしたまま不貞腐れたような口調で言った。多分、照れ隠しなのだろう。

 

「蒼汰……」

 

 その結果として性欲を抑えられないってのは、どこか抜けているというか、なんとも蒼汰らしい気がする。

 

「もしかして、サプリも飲み続けてる?」

 

「……おう」

 

「それは無茶だろ……」

 

 馬鹿だこいつ。

 セックス覚えたてでお預けになって、ただでさえ悶々としてるだろうに、その上に精力増強のサプリを飲むなんて。

 マゾか、マゾなのか。

 

 俺は思わず溜息をついた。

 

「明日だったらほとんど血は止まってると思う。少しは出てると思うから汚れるかもしれないけど、蒼汰が構わないならしてもいい……どうする?」

 

 明日は生理四日目だ。感染症のリスクもあるので、本当なら完全に血が止まるまで待った方がいいのだけど、今は事情が事情だから蒼汰が望むなら多少リスクは許容しよう。

 生理中のセックスでも精子は射精後一週間くらい寿命があり、排卵が早めに来た場合は妊娠できるので無駄という訳ではない。

 

「……頼む。正直お前の口からヌくとかするとか聞いてるだけで、どうにかなりそうなんだ」

 

 座っている状態なのに蒼汰のズボンの股間部分はギンギンに主張している。俺の視線を感じたのか、ソレはビクリと震えて反応した。蒼汰の息が浅い。

 

「ほんと、重症だなお前……」

 

 我慢しすぎて箍が外れかかっているようだ。普段の蒼汰なら部室で硬くなったアレを見せつけてくるようなことはしないだろう。

 でもまぁ、強力なサプリで性欲が増している状態でオナ禁なんてしたら、そんな風になっても仕方ないか。

 

「明日になったら好きなだけ付き合うから、今日は我慢できるか?」

 

「す、好きなだけ……うぅ」

 

「……想像するな、バカ」

 

 どうやら今の蒼汰には俺の姿は刺激が強すぎるようだ。

 蒼汰相手に焦らしプレイをする趣味はないので、今日は早々に引き上げることにした。カードリストはスマホでチェックすることにしよう。

 

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