異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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お買い物(その4)

 ご飯が終わって、俺達は別行動をすることになった。

 母さんと優奈は晩ご飯の材料を買いに行くので、俺はその間に本屋に行っていいと言われたのだ。

 母さんから渡されたのは大盤振る舞いの諭吉さん。

 もらえなかった今年の誕生日プレゼントを兼ねているとのことだ。

 

『本! 本! 本ですよ! 本がこんなに一杯……! 素敵……素敵です!』

 

 本屋に来たアリシアのテンションはマックスを軽く振り切っていた。かくいう俺も久し振りの書店に心が躍るのを隠せない。

 

「本気出して行くよ……」

 

 俺は買い物カゴを手に取り身体能力向上(インクリスフィジカル)(小)の魔法を使う。

 

 まずは購読している漫画や小説の新刊チェックからだ。

 ここ一年間で発売された物を見つけしだいカゴに入れていく。

 

「これとこれと……お、狩人✕狩人の新刊が出てる! それに亡国の守護者も!?」

 

『どの本もカラフルで装丁が綺麗です! それにこの絵と文章で表現された物語。こんなものがあるなんて……しかも、こんなに沢山!』

 

 一年ぶりの本屋は宝の山だった。

 購読している本以外にも目を引く作品が次々に見つかり目移りしてしまう。

 

「昨日のアニメ化された小説コミカライズもされてたんだ。これは買いだな!」

 

 次々に放り込まれる本でカゴは重さを増していく。

 だけど、魔法で筋力を強化してある俺にはこれくらいどうということはないぜ!

 

「う……本棚の上の方に届かない」

 

 アリシアの身体になって身長が頭ひとつ分以上も縮んでしまった弊害が出ていた。以前なら簡単に届いていた本棚の上段に手が届かない。

 

「いったい、どうすれば……あっ」

 

 小さい脚立が本棚の脇においてあることに気づいた。これを使えば良いのか。

 俺は脚立を本棚の前に動かして登る。

 

 ……ええと、これは何巻まで持ってたんだっけ?

 

 脚立の上で悩んでると、妙に周囲がざわついているような気がして振り返ってみる。

 どうやら皆が俺を見ていたようで、けれど、俺が振り返ると視線を逸らしていた。

 その視線の先は……

 

「あぁぁぁ!?」

 

 俺は慌てて脚立から飛び降りてスカートを押さえる。

 今の格好がミニスカートだってことをすっかり忘れていた。

 

 ……うう、アリシアのパンツを晒してしまった。

 

『……ごめん、アリシア』

 

 アリシアに申し訳ない。俺は意気消沈してしまう。

 

『わたしでも同じことをしたと思います……見られたものは仕方ないですよ。これから、気をつけましょう!』

 

『……うん』

 

 でも、それなら、上段にある本はどうしよう。

 

 俺が考えていると、不意に声が掛かる。

 

「お客様、何かお取りしましょうか?」

 

 声の主は書店の制服を着た店員さんだった。高校生くらいの女性のアルバイトのようで、スラッと背が高い。背中まである黒髪のポニーテールが印象的だ。

 

「えっと……それじゃあ、そこの本を取ってもらえますか」

 

「『恋は光る』ですね? 何巻をご所望ですか?」

 

「それが……何巻まで買ったか覚えてなくて。ここ一年くらいで出た分なんですけど……」

 

「それだと13巻、12巻、後は11巻がぎりぎりってところですね」

 

 書店員さんは少し背伸びをして該当のコミックスを取り出す。

 

「うーん、表紙を見てもわからないな……」

 

「それじゃあシュリンクを外しますね」

 

「え……いいんてすか?」

 

「全然、構いませんよ」

 

 書店員さんは慣れた手つきでビニールを外すと、中身を俺に差し出してくれた。俺はそれをパラパラと捲る。

 

「この話読んだ記憶があります。ごめんなさい、この巻はもう持ってるみたいです」

 

「いえいえ、大丈夫ですよー。次の巻も一応確認しときますか?」

 

「この巻の引きに覚えがあるので大丈夫です。主人公がヒロインから誰を選ぶのか、延々と禅問答をしていたのが印象的でしたから」

 

「続きの話もどきどきしますよー。お客様が羨ましいです、私も展開を忘れてもう一度読むことができたらって思います」

 

「その気持ちわかります」

 

『わたしもわかります!』

 

 と、俺の脳内で同意するアリシア。

 

「それでは、困ったことがありましたら、またお声がけくださいね」

 

『「ありがとうございました!」』

 

「いえいえ」

 

 俺達は書店員さんに頭を下げて別れる。

 

 ……さて、そろそろ軍資金も心許なくなってきたし頃合いかな。

 

 それに、随分と注目を集めてしまっている気がする。

 日本人離れした銀髪の少女が買い物カゴ一杯の漫画や小説を片手に軽々持って、ブツブツと独り言を言いながら店内を縦横無尽に闊歩していたのだ。おまけにパンチラ。

 客観的に見て少し……普通じゃない光景に見えなくも無い。

 これ以上目立つのもどうかと思うし、そろそろ会計にして母さん達と合流しようかな。

 

 だけど、その前にひとつだけ。

 

『アリシアは何か欲しい本とかある?』

 

『……わたしですか?』

 

『せっかくだし、何かプレゼントしたいと思うんだ。どんな本が読みたい?』

 

『わたしはどんな本も好きですけど……しいて言うなら、この国の歴史書とか地図とか読んでみたいです』

 

『うーん、そのあたりはわざわざ買わなくても家にある教科書でなんとかなるかな……他には?』

 

『……それでしたら、旅の途中でイクトさんが話してくれたアリスという女の子が出てくるお話を読んでみたいです』

 

『わかった。不思議の国のアリスだね』

 

『そう、それです。不思議なお話だったから印象的で……イクトさんはもう持っていますか?』

 

『昔は持ってたけど、今は何処にいったのかわからないな……うん、じゃあそれをプレゼントにするよ』

 

 俺は文庫本コーナーで目的の本を探した。翻訳版と原文があって試しに見てみたらアリシアはどちらも読めるようだった。魔法による言語理解すごいな。

 どちらでも良いとのことだったので翻訳版を買うことにした。俺が英語を読めないからだ。

 

 カゴに本を載せてレジに並ぶ。

 

『ありがとうございます、イクトさん!』

 

 喜ぶアリシアに少しだけ後ろめたい気分になる。

 親のお金でプレゼントを買うっていうのはちょっと情けなく思うからだ。

 

 そのうちバイトでもして、自分のお金でアリシアにちゃんとしたプレゼントを買いたいな……今の俺が果たしてバイトをできるようになるのかどうかはわからないけど。

 

 レジの人に本当に持てるのか心配されながら受け取った大きい紙袋2つを両手で下げて、俺は上機嫌で母さんと優奈の待つ駐車場へと向かった。

 

 帰りの車の中で我慢できずに今日買った漫画を一冊取り出して読んでいたら車酔いして気分が悪くなった。

 

 以前の俺ならこれくらい平気だったんだけどなぁ……

 

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