異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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ファーストキス

 放課後のマンションでいつも通り蒼汰と二人。

 私はまな板の上の鯉のごとく、されるがままベッドの上で美味しくいただかれるための調理をされていた。

 さっきから室内は私から出た恥ずかしい音で溢れてしまっている。

 

 ――不意に蒼汰の顔が近づいてきて、

 

「んんー!?」

 

 唇を奪われてしまった。

 驚いて固まっていると、舌まで入ってきて、

 

「ふぁ!? ちょっ――!」

 

 慌てて私は抵抗して蒼汰を引き離した。

 

「それは、ダメだろ」

 

 手の甲で唇を拭いながら、蒼汰を睨みつける。

 

「……嫌だったか?」

 

 男とキスするのが嫌じゃないわけがないだろう。そりゃ、蒼汰がするのは女の私だから抵抗が少ないのかもしれないけどさ……

 そんなことより、

 

「これって蒼汰のファーストキスじゃないの?」

 

「……悪いか」

 

「私が初めての相手ってどうなのさ」

 

「それ以上のことをしてるんだし、いまさらじゃねぇか?」

 

「そうかもしれないけど……」

 

 蒼汰にとってキスは大したことのない行為なのだろうか?

 

 たしかに私も男だった頃はセックスの前段階くらいにしか思ってなかったかもしれないけど……少しだけ、蒼汰にがっかりしてしまった。

 蒼汰は好きな人が居るから涼花のことを振ったはずなのに、それにしては少し行動が軽々しすぎる気がして。

 

 男が好きという感情と性欲を切り分けて考える傾向にあるのはわかっているつもりだけど、蒼汰はそんなやつじゃないって思いたかったというか、なんというか。

 

 ……まぁ、蒼汰にお願いしてこんなことをしている私が何を言ってるんだって話だけどね。

 

「やっぱりキスは無しでいい? こういうのは好きな人とするものだと思うよ」

 

 蒼汰が気持ちよくなれるように、私はなるべく協力するつもりでいるけど、キスは少し怖かった。

 特に舌を絡ませ合うディープキス。

 確かに気持ちのいいことなんだけど、頭の中を直接掻き回されるような刺激は、思考と同時に理性まで溶かされるような気がして。

 蒼汰との友人関係を維持するために、そこはちゃんと線引きしておきたかった。

 

「……そうか」

 

 でも、蒼汰は何故だか結構落胆しているようだった。

 なんでもない風を装っているけど、幼馴染の私にはわかる。

 

 ……そんなにキスしたかったのかな?

 

「もしかして、キスに自信がないとか? 心配しなくていいよ、別に下手じゃなかったと思うから――良かったじゃない、私で練習できてさ」

 

「そんなんじゃねーよ。他に好きなやつなんていねーし……」

 

 少し拗ねたような口調で蒼汰はこぼす。

 だけど、その言葉には聞き捨てならない内容が含まれていた。

 

「何言ってるんだよ、蒼汰。好きな人がいるから涼花のことを振ったんじゃないの」

 

「そ、それは……」

 

 私の指摘にしまったと言う顔をする蒼汰。

 

「嘘、ついたの……?」

 

 涼花は蒼汰のことが本当に好きで告白したんだ。

 それなのに嘘ではぐらかしたというのなら、私は蒼汰を軽蔑することになるだろう。

 

 涼花は蒼汰にはもったいないほどの良い子だ。

 美人で一途でおっぱいも大きい。

 それに、ウィソ馬鹿の蒼汰ためにウィソを勉強してくれるような子なんてそうそう居るもんじゃない。

 

「……嘘じゃねーよ」

 

「でも、今、好きな人はいないって!」

 

 私が問い詰めると蒼汰は苦虫を噛み潰したような顔になって、

 

「ああ……他にはな」

 

 そう、告げた。

 

「え……?」

 

 どういうこと?

 

「……お前、なんだよ。俺が好きなのは」

 

 ……え、私? ……何が?

 意味が、わからない。

 

「……だから、さっきのだって練習のつもりなんかでしてない」

 

 ……………? ええと……?

 

 蒼汰は何を言っているのだろう。

 

「じょ、冗談――」

 

「冗談でこんなこと言う訳ないだろ」

 

「……え、待って? おま……ホモ?」

 

「ちげーよ、馬鹿」

 

「で、でも、だって……! 私はお前の幼馴染で親友で――」

 

 ――男なのに。

 

「仕方ねーだろ。お前の正体を知る前に好きになっちまったんだから……」

 

「え…………え……え、ええぇ!?」

 

「お前が幾人だって知ったとき、正直かなりへこんだ。この気持ちはなかったことにしようと何度も思ったさ……でも、ダメだった」

 

 そう言って自重気味に笑う蒼汰。

 その顔からは随分と悩んだのだろうことが窺い知れた。

 

「お前が悪いんだぞ。最初から全部打ち明けてくれていたらこんな気持ちになることなんてなかったのに……正体を隠したままで、幾人が居なくなってぽっかり空いた俺の心に居座りやがって」

 

「そ、それは……」

 

 私は私だから、幼馴染の蒼汰の心地よい距離感は誰よりも熟知しているし、何が好きで何が嫌いかも、蒼汰の家族よりも詳しい自信がある。

 私は幾人だった頃と同じように、一緒におもしろおかしく過ごしていたつもりだった。

 

「……すまない、本当はこんなことお前に話すつもりはなかったんだ。ただでさえ大変な状況にあるお前を困らせるだけだってのはわかっていたから」

 

「いや、それは……私こそごめん」

 

 蒼汰を問い詰めたのは私だ。

 涼花のためなんて先走って余計な口出しして、ヤブから蛇を出してしまったのは、私。

 

 涼花の想いを断念させた原因も私だった。

 彼女になんと言って謝ればいいんだろう?

 それよりも先に蒼汰に返事をしなければいけない。

 

 ……でも、なんて?

 

 固まっている私を見かねた蒼汰は首を振った。

 

「返事はしなくていい。お前は今、それどころじゃないだろ?」

 

「う、うん」

 

 それは助かる。

 頭の中が混乱していて、まともに返事できる気がしない。

 

「俺が軽い気持ちでキスした訳じゃないってことはわかってくれたか?」

 

「……うん」

 

「ならそれでいい」

 

 指で唇に触れる。

 

 それでいいのかな?

 ……よくわからない。

 

「それじゃあ、続きをするか」

 

「え? ……ええ!?」

 

 続きって――

 

「……なんだ?」

 

「お前、この流れでするつもりなのか!?」

 

 ありえないだろう!?

 気まずいにも程がある。

 

「……やらないで、いいのか?」

 

「そ、それは……」

 

 そう言われて思い出す。

 順調にいけばそろそろ排卵日がくるはずだった。

 そして、排卵日の前日か前々日が一番妊娠しやすい日であると言われている。

 だから、今はなるべく回数をこなしておきたいところで。

 

「……やる」

 

 迷った末にそう答えた。

 今は、私の気持ちよりも、少しでも妊娠する可能性を高める方が大事だから。

 

「それじゃあ……」

 

 蒼汰の手が私の腕に触れて、

 

「ぴゃあ!?」

 

 思わず私は飛び退いて逃げる。

 

「な、なんだよ……?」

 

「なんでもないよ!?」

 

 私は自分の体を抱き抱えて、ぎゅっと目をつむって待つ。

 頬に蒼汰の手が触れる。

 

 あ……

 

 また、キスされた。

 触れるだけのキスをして蒼汰は離れる。

 

 好きな人が相手ならいいんだろ?

 

 薄目を開けて見た蒼汰の目がそう言っていた。

 

 蒼汰は私が嫌だって言うことはしない。

 いろんなエッチを試してみたがるのだって、私が蒼汰の好きなようにしてほしいと望んだからだし。

 だから、拒否したら蒼汰はもう二度と私にキスをすることはないだろう。

 

 だけど、そうすれば蒼汰を傷つけてしまうかもしれない。

 そう思うと拒絶することができなかった。

 

 これはセックスの前段階の行為だから。

 セックスと一緒……私が我慢すればいいだけ。

 

 それなら、今までと何も変わらないはずだ。

 

「ん……」

 

 私は再び目を閉じると、顎をあげて唇を差し出す。

 

 唇にもう一度訪れる独特の感触。

 女の子のそれとは違って厚みがあって大きい。

 

(舌、入ってきた……)

 

 幸い口臭は特に気にならなかった。

 私はそのまま蒼汰に体を委ねる。

 後はいつも通り。

 蒼汰がすることをされるがままに受け入れるだけ。

 

 ……蒼汰はどんな気持ちで私を抱いていたのだろう。

 

 後腐れのないセックスを楽しめてラッキーだと単純に思っていた。洋ロリ処女に無責任に中出しし放題、男の妄想を具現化したようなシチュエーション。

 

 ――でも、私が好きだという蒼汰にしたらどうなのだろうか。

 

 求められるのは体――正確に言うと種だけ。

 

 自分ならどう思うだろう……

 辛い、よな……多分。

 

 蒼汰は感情的になっているのだろう、いつもより少し荒っぽかった。蒼汰は私に告白したことを後悔している様子だった。

 

 口内と頭の中を掻き回されながら、弱いところも責められて。

 蒼汰の気持ちが入ってくる。

 

 それは、友情からくる優しさだと思ってた。

 だけど、もう気づいてしまった。

 これは翡翠と同じ、私のことを想う気持ち。

 

 きれいなだけじゃない。

 愛欲の入り混じったドロドロとした想い。

 

 ……翡翠、ごめん。

 

 これは、浮気になるのかもしれない。

 

 蒼汰の気持ちに無自覚だったことを責めるように、蒼汰は執拗に私を溶かしていく。

 好きという気持ちを流し込まれて、深く、深く。

 いつもよりも深く。

 

 それは、翡翠に似ている激しさで。

 全く似てない兄妹なのに、こんなところで似ていると思うのは不思議だと、頭の隅で思ったりもした。

 

 そのうち、何も考えられなくなる。

 

 戸惑う心は置き去りにして。

 私の体は蒼汰を拒絶しなかった。

 

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