異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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夜の街で

「……どうすればいいんだろう」

 

 告白された後エッチして、いつもどおり家まで送ってくれようとした蒼汰に用事があるからと言って断り、私は街中をあてどなく歩いていた。

 

「蒼汰の好きな人が私だったなんて」

 

 ショックだった。

 蒼汰が親友であることは何があっても変わらないと、私は無邪気に信じていたのだ。

 裏切られたなんて思う気持ちはない。

 私のことを好きになってしまったことで、蒼汰はずいぶん悩んだはずだ。それに――

 

「最初から蒼汰に事情を打ち明けなかった私のせいだよね」

 

 そのせいで蒼汰に勘違いさせてしまったかもしれない。申し訳ないと思うのは、蒼汰に失礼だろうか。

 それにしても、私はあいつにどれだけ無神経でいたのだろう。

 蒼汰の好きな相手を聞き出そうとしたのは数え切れないほどだったし、頑なに隠そうとする蒼汰のことを、水臭いやつと非難したりもした。

 そのあたりの言動を思い返すと、自己嫌悪で気が重くなる。

 

「……こんなところに公園なんてあったんだ」

 

 歩いているうちに、ビルが建ち並ぶ繁華街の路地裏に公園を見つけた。

 敷地はテニスコート二面分くらいの広さで、人影はなくひっそりと静まりかえっている。

 足の疲れを感じた私は、ベンチで少し休憩することにした。

 

「……ふぅ」

 

 日中は体を動かすと汗だくになるくらいだが、夜はまだまだ肌寒い。だけど、考え事で少し熱っぽくなっている頭を冷やすにはちょうど良い。

 

 お腹に手を置いてみる。

 蒼汰との行為を思い出して体がとくんと反応した。思わず頬が熱くなる。

 

「今日もいっぱい出てたな……」

 

 蒼汰ので満たされていると思うのは複雑だけど嫌ではない。これはアリシアと私を繋いでくれる唯一の道標だから。

 

 でも、以前はもっと抵抗があったように思う。これは慣れなのか、諦めなのか、それとも別の……

 

「ねぇ君、どうしたの。どこか悪いの?」

 

 不意に話しかけられて私は顔を上げる。

 私の前には2人の軽薄そうな男が立っていた。

 話し掛けられる前から気配は気づいてはいたけれど、自分には関係ないと意識から外していた相手だった。

 

「大丈夫ですから、放っておいて下さい」

 

 純粋に心配して声をかけてくれた可能性もあるので丁重にお断りしておく。だけど、彼らはにやにやと笑いながら話し掛けてくるのを止めなかった。

 

「もしかして家出? だったら俺たちと一緒に遊ぼうよ。行くところないならうちに泊めてあげるからさ、パーティしようぜ」

 

「結構です」

 

 話しかけてきたのはナンパ目的か。どうやら見た目通りの軽薄さらしい。

 

 ……いや、訂正する。

 どうやらもっと下衆な輩のようだ。

 

 ベンチの背後の茂みにもう1人、息を潜めている気配を感じる。ナンパに失敗したら強硬手段に出るつもりでいるのだろう。

 

「こんな暗い公園に女の子一人でいると危ないぜ? 悪い男に襲われてしまうかもしれないよ――こんなふうにね!」

 

 男が軽く手を掲げると、私の後ろの気配が動いた。

 

「――!」

 

 私の口を塞ごうと右から伸びてきた手を、反対側に倒れて交わし、そのままベンチで回転して横に逃げる。

 

「こいつっ!?」

 

 私の動きが想定外だったのだろう、男たちはあっけに取られていた。その間に、私は身体能力向上の魔法を使い、半身に構えて体勢を整える。

 

「反省して二度としないと約束するなら、まだ許してあげなくもないけど……?」

 

 私の言葉で我を取り戻した男達は、まだ自分達が圧倒的に優位な状況だと思い直したようで、再び下卑た笑いを浮かべ出す。

 

「許すだぁ? 何言ってやがる。こいつ、状況が全くわかっちゃいねぇ」

 

「ここは俺たちの溜まり場なんだよ。この時間は近づくやつもいねぇ。助けなんてこねぇぞ」

 

「言うことを聞くなら痛くしないでやる。大人しく俺たちについてきな」

 

「絶対にお断り」

 

 以前の俺なら、妊娠するチャンスだと思っていたかもしれない。だけど、今の私はこんな男たちに抱かれるなんてのは、まっぴらごめんだった。

 そんな風に考えて、ふと気づく。

 

「……あれ? 私、蒼汰とするのは嫌じゃない?」

 

「何ぶつぶつ言ってやがる。構わねえ、取り押さえて個室に連れこめ!」

 

 その言葉を合図にして、三人が一斉に襲いかかってきた。だけど、連携が取れているとは言い難い動きだ。

 体が動くままに任せていれば、危険はないだろう。この男たちの得意分野は暴力であって戦闘ではない。

 そんなことよりも――

 

「え、嘘!? いつから!? 優奈と一緒にしたときから……?」

 

 あの日から、私は蒼汰に気持ちよくさせられるようになった。義務的にやっていることとはいえ、気持ちよくないよりは気持ちいい方がいいに決まっている。それで、抵抗感がなくなったとか……?

 

 両腕を広げて突っ込んできた男をしゃがんで避けて、腕を掴もうとしてきた男の手を払って、逆に小指だけを狙って掴んでひねりあげる。

 

「いでぇ!!」

 

 静かな公園に鈍い音と男の悲鳴が響いた。

 蹲った男に蹴りを入れて地面に転がす。

 

「てめぇ!」

 

 蹴り足を戻しながらステップを踏んで、上体を反らして拳を避ける。体をねじりながら地面に手をついて跳ねた。

 

「……違う気がする」

 

 蒼汰のセックスが変わる前も、よく考えてみれば嫌ではなかったように思う。

 体は馴れなかったけど、蒼汰をちゃんと気持ちよくできていることにある種の満足感はあったし。

 必死に私を求めてくる蒼汰のことは嫌ではなかった。目の前にいる男たちから同じことをされたらと思うだけで、鳥肌が立つほど嫌悪感を覚えるのに。

 

「くそっ、ちょこまかと――」

 

 回し蹴りを叩き込む。制服のプリーツスカートが宙にふわりと舞った。筋力を強化して全身をバネにしていてもなお私の蹴りは軽い。

 それならば、軽い攻撃でも致命傷になる箇所を狙うまでだ。

 フェイントを入れつつ距離を詰めて一気に懐に入り込むと、飛びかかるような勢いで股間に蹴りを一撃

 ぐにゃりと足に嫌な感触がした。

 

「ぐぇ……」

 

 泡を吹いてゆっくりと崩れる。

 めちゃくちゃ痛そう。

 

「もしかして、最初から……とか?」

 

 もちろん、セックスすることに抵抗がなかった訳じゃない。でも、それは私の内面の問題で、蒼汰に抱かれるということには、最初からそれほど抵抗感はなかった……?

 

「あ、ありえない!」

 

 そりゃ蒼汰は親友だから他の誰よりも安心できる相手だったのだろうと思う。だけど、私は男に抱かれるなんて絶対に嫌なはず。だって、私は……

 

 右、左、右、左、リズム良く拳でワンツーを刻む。続けざまにローキックで脛を強打、男の体勢が崩れる。

 

 前のめりになった男の後頭部にローファーの踵落とし。確かな手応えを感じながら、後ろに離れる。

 どさりと、男は地面に倒れた。

 

 これで、公園に立っているのは私一人になった。

 

「……ふぅ」

 

 ……認めざるをえないようだ。

 どうやら、私は蒼汰に抱かれる事自体はそれほど嫌じゃなかったらしい。

 男だったときの性対象は女性だけだったから、私は女として蒼汰のことを男として見ていることになるのだろうか。

 知らない男から性的に見られるのは嫌だけど、蒼汰からは嫌じゃなかった。なんというか必死すぎて微笑ましいというか、しょうがないなぁ……って気持ちになって赦してしまうのだ。

 

 だからって、蒼汰のことを恋愛対象として見られるかと言われれば、そうじゃない。

 そもそも、私が好きなのはアリシア一人だ。

 

「……でも」

 

 思い浮かぶのは翡翠のこと。彼女の好意は真っ直ぐ私に向けられている。ただでさえアリシアのことで中途半端になっているのに、蒼汰相手にも気持ちが揺れているようでは彼女に申し訳ない。

 

「まだ、やる気……?」

 

 男たち三人のうち一人は倒れたままだったが、残り二人は起き上がろうとしていた。

 

 正直に言うと体を動かしたことで、むしゃくしゃした気持ちが少し晴れた。感謝なんて絶対にしないけど、役得だと思うことにする。

 

 好きとか嫌いとかもこんな風にわかりやすく決着がつけばいいのに……

 

 一瞬、私を奪い合ってウィソでデュエルする二人の姿が思い浮かんだが、流石にそれはない。

 

「なんなんだこいつ。ふざけやがって……!」

 

 どうやら、まだ戦意喪失はしていないようだ。

 ジャケットの懐に手を入れて……携帯ナイフでも持っているのかな。まあ、どうでもいいけど。

 冷めた視線で見下ろしていると、

 

「お巡りさん、こっちです!」

 

 と叫ぶ女性の声が公園の入口の方から聞こえてきた。

 

「やべぇ!?」

 

「おい、逃げるぞ!」

 

 その声を聞いた男たち二人は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。おいおい、倒れている奴も連れて行ってやれよ。

 

「っと、私も逃げないと」

 

 警察に事情聴取されるのはまずい。補導されてしまうかもしれない。

 それに、つい先日父さんに危機管理をしろと言われたばかりなのだ。こんなことが、家族に知られたら大目玉を食らうだろう。

 

「アリス!」

 

「――って、優奈?」

 

 公園の入口に居たのは優奈だった。

 

「なんでこんなところに……?」

 

「スマホで位置を――じゃなくて、それはこっちの台詞だよ! こんなところで、何をしているの!?」

 

「ごめん、ちょっと考え事してて……その、警察は?」

 

「嘘よ。居ないわよ、そんなの。それより何があったの?」

 

「それは、その……何でもない」

 

「嘘ね」

 

「……うん」

 

 一瞬、蒼汰に悪いと考えて黙っていようとしたけど、優奈に隠し事ができるはずもなかった。

 

「まぁ、詳しいことは後で聞くわ。まずは、ここから離れましょ」

 

「わかった」

 

   ※ ※ ※

 

 帰りの道すがら、私は優奈に事情を話した。

 

「あちゃぁ……蒼兄、告白しちゃったんだ……」

 

 優奈に話したらそんな反応だった。

 蒼汰が私のことを好きなこと自体に驚きはないらしい。

 

「返事はしたの?」

 

「ううん、それは私が落ち着いてからでいいって」

 

「アリスに返事をさせなかった、と……まぁ、そりゃそうか」

 

「私、どうしたらいいんだろう……」

 

「保留しとけばいいんじゃない? 翡翠姉と一緒で」

 

「う、うん……」

 

 蒼汰は大切な親友である。

 だけど、恋愛対象として意識したことは全く無かったし、今の私はアリシアのことしか考えられない。それに、翡翠という恋人もいる。

 今、答えを出すのなら告白を拒絶することになるだろう。でも、それをするのは少し怖かった。親友で居られなくなるんじゃないかって。

 だから、先送りできるというのは私にとっても都合の良い話ではあるのだ……基本的には。

 

「ダメなの?」

 

「どっちつかずでいると落ち着かないんだ」

 

「どっちつかずって言っても、アリスが好きなのはアリシアでしょ。そんなことは二人も承知してるんだし、気にしなくていいんじゃない?」

 

「蒼汰の気持ちを知ってしまったから難しいよ。蒼汰といるとき、どうしても翡翠のことを考えてしまうんだ……エッチのときだって浮気しているみたいでどこか集中できなくて。多分、翡翠と居るときも蒼汰のことを考えてしまうと思う」

 

「それは……あんまりよくない状態ね」

 

「それに、さっきしているとき蒼汰も感情を押し殺しているみたいだった。多分感情を露わにすると私を困らせるから気遣っているのだと思う」

 

「……あー」

 

 お互い黙り込んでしまう。

 少しの間、無言で考え事をしながら夜の街を歩く。

 やがて、ぽつりと優奈が言った。

 

「二人で居るときは、一緒にいる相手のことを好きになるのってのはどうかな?」

 

「……できないよ、そんなこと」

 

 二人共なんてあまりに不誠実すぎる。

 

「そもそも、アリスは翡翠姉と恋人ってことになっているのに、少し距離を置いているよね」

 

「……そう、かな?」

 

「それは、相手の気持ちに応えられない罪悪感がアリスの中にあるからじゃないかな? 今の蒼兄に対しても同じ。いや、二人になった分余計に拗れているんだと思う」

 

「……そうかもしれないね」

 

「大体、翡翠姉も蒼兄も自分勝手すぎるよ。アリスはアリシアのことで精一杯なのに、自分の気持ちを押しつけて……それだけアリスのことが好きってことなんだろうけど」

 

 優奈は大げさなリアクションで怒ってますアピールをして、思わず笑いがこぼれてしまった。

 不意に真剣な表情になって私に訴えかける。

 

「でも、このままだとアリスが壊れちゃう。そんなのはダメだよ。それに、そんなことは二人とも望んでない。誰よりもアリスのことが大切な二人だもの」

 

 壊れてしまうって大げさだな、と思った。

 私は大丈夫なのに……

 

「二人ともアリスに甘えているんだ。だから、アリスも二人に甘えて、受け入れてしまえばいい。受け入れないままでいるから心が軋むんだ」

 

「優奈……」

 

「今のアリス酷い顔してる。正直、見ていて辛いよ」

 

「ご、ごめん……」

 

「ほら、そうやってあたしにも気遣う。いいんだよ、心配くらいかけても……あたしには心配することくらいしかできないし」

 

「ありがとう、優奈」

 

 優奈の言う通り、何も考えずに相手に委ねられたら、なんて楽なのだろうと思う。

 だけど、そんなこと許されるのだろうか。

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