異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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アリスとその周辺(前)

4月18日 火曜日 1週6日

 

「あ、アリスさん!? いったい何を――」

 

 放課後、昨日に引き続き涼花のマンションを訪れた私は、リビングに通された直後に土下座した。

 

「蒼汰が私のことを好きって言ったんだ。涼花の恋敵は私だった。あれだけ涼花のことを応援すると言っておきながら――」

 

 昨日の今日でこんな事を告げたら、今度こそ愛想尽かして絶交されるかもしれない。

 私を親友だと言ってくれた涼花に対して酷い裏切り行為だと思う。だけど――だからこそ、隠したままでいることはできなかった。

 

 涼花が近づいてきて、しゃがみ込む気配がする。臆病な私は体を竦めた。

 

「謝罪は無用ですわ。蒼汰さんが誰を好きになるかなんて、アリスさんに責任はありませんもの」

 

「涼花……」

 

 私は涼花に抱きしめられていた。

 

「それに、蒼汰さんの想い人のことは既に知っていましたから。それも含めてわたくしは昨日、アリスさんの謝罪を受け入れておりますわ」

 

「知っていたの……?」

 

「告白をお断りされたときに蒼汰さんから……ですが、もし聞いていなかったとしても、それくらいわかりますわ。わたくしは誰よりも蒼汰さんのことを見ていたのですから」

 

「で、でも、私と蒼汰は男同士で――」

 

「アリスさんから見たらそうなのかもしれませんけど。わたくしから見たお二人はお似合いのカップルにしか見えませんでしたよ? ……本当、悔しいほどに」

 

「そ、そうなんだ」

 

「わたくしアリスさんにライバル心を燃やして牽制していたこともありましたのですけど……気づきませんでしたか?」

 

「言われてみれば……」

 

 そんなこともあった気がする。

 涼花に蒼汰との関係を疑われたことは一度や二度ではない。

 だけど、そんなことはありえないと、その都度一笑に付していたから、記憶に残っていなかったのだ。

 

「そういうことですから、わたくしのことは気にしないで下さい。それで、お二人はお付き合いされるのですか?」

 

「いやいや……それはあり得ないでしょ」

 

「どうしてですか?」

 

「だって、相手は蒼汰だし……」

 

「? 蒼汰さんのことをお好きではないのですか?」

 

「親友としては誰よりも信頼しているけど、そういうのとは違うというか……そもそもあいつと恋人になるなんて想像もできないよ」

 

 私がそう言うと涼花は上品に笑った。

 何がおかしいのだろうと訝しんでいると、

 

「想像するも何も――お二人は恋人同士ですることはもう大体経験されているのでは?」

 

「ふぇ!?」

 

 変な声がでた。

 確かに蒼汰と一緒に居る時間は多いけど……

 デートも――カードショップやゲーセンに二人で行くのをデートと呼ぶのならば――何度も行っている。

 必要に迫れてとはいえ体の関係もある。

 ……身体の相性も悪くはないと思う。

 大きすぎるアレも一応受け入れることはできているし、最近は大分馴染んできたというか、その……って、違う!?

 

「と、とにかく! 今の私は誰かとどうなるとか考える余裕なんてないから」

 

「ふふ……もしそれを考えるときが来たらわたくしに遠慮なんてしないで下さいね? わたくしはお二人を応援しますわ」

 

 涼花に応援されてしまった。

 

「……あ、ありがと」

 

 あまり強く拒否するのも失礼かと思って、私は曖昧に言葉を濁すしかなかった。

 

   ※ ※ ※

 

 涼花から絶交されずに済んで安心したのも束の間、次は翡翠と話をする予定が入っていた。

 私は一度家に帰ってから、翡翠の家である神社の社務所に向かう。

 相変わらず飾り気の無い翡翠の部屋に入り、ベッドに座る翡翠の隣に腰を下ろした。

 

「優奈から聞いたわ。蒼汰はあなたに気持ちを伝えたのね」

 

「……うん」

 

「それで、アリスはどうしたい? ……蒼汰のこと好きなの?」

 

「親友としては好きだけど、恋人としての好きとは違うよ」

 

「……そう」

 

 相談した全員から同じことを聞かれるのは、傍から見たら私と蒼汰はそういう仲に見えるのだろうか。むぅ……複雑だ。

 

「蒼汰とは今まで通りでいたいと思うんだけど……そういう訳にもいかないよね。私は翡翠の恋人なんだし」

 

 蒼汰が自分に恋愛感情を抱いているのを知っていて、変わらず親しくするのは良くないことだろう。それは私が受け入れて良い感情ではない。

 

「でも、今は距離を置くのも難しくて、どうしたらいいんだろうって……ごめん、こんなこと翡翠に言っちゃダメだよね」

 

「……やっぱり、そんな風になってるのね」

 

「え?」

 

「優奈から聞いていたのよ、アリスがロジックエラーを起こして思考の迷路に入り込んじゃってるって」

 

「ろ、ロジックエラーって……」

 

 優奈のあんまりな言い方に苦笑せざるを得ない。

 

「それから怒られた。恋人として縛るんだったら、ちゃんとアリスのことを支えてよねって」

 

「ご、ごめん!」

 

 優奈のやつ。翡翠になんて失礼なことを――

 

「いいの、優奈の言うことは正しいわ。私はアリスの恋人という立場を得て安心してしまっていた。蒼汰とのことは今だけだからって見ないようにしていたの。こうなったのは私の責任なのに――」

 

「翡翠のせいなんかじゃないよ」

 

 何度繰り返したかわからない問答。だけど、やっぱり翡翠は首を振って認めなかった。

 

「だから、私は優奈の提案を受け入れるつもりよ」

 

「……提案?」

 

「蒼汰もあなたを支えることを認めるってこと……悔しいけど、今のあなたにはあいつが必要みたいだから」

 

 翡翠に誠実でいるのなら、私はすぐに否定しないといけなかったのだと思う。

 だけど、私は直ぐに答えを出すことができなかった。それだけで翡翠が確信するには十分だったようで、翡翠は私に微笑みながら首を振る。

 

「アリスはアリシアのことだけを心配していればいいの。私が無理強いしてまで恋人になったのは、あなたのことを支えたかったから。それなのに、逆に苦しめてしまったら本末転倒だわ」

 

「……ごめん」

 

「そのかわりと言ったらなんだけど、二人きりのときは、もっと頼ってほしい。私はアリスの居場所になりたいの」

 

「私からすれば、十分頼ってるつもりなんだけど……」

 

「さっきアリスは言ってたよね、蒼汰の好きはアリスの好きとは違うから受け入れられないって。それって、私の好きも一緒だったりしない?」

 

「そ、それは……」

 

 翡翠の言うことを否定できなかった。私はどこか無意識のうちに翡翠との間に壁を作っている自覚がある。

 

「アリスは心に嘘をつくのが苦手なんだと思う。だから考えたの、演技をするのはどうかなって」

 

「演技? ……それって嘘と違うの?」

 

「全然違うわよ。嘘は他人を騙すもの、この場合の演技は自分を騙すものだから。他人を騙すのは気が引けても、自分を騙すのに罪悪感はないでしょ?」

 

「……そんなものかな」

 

「だからね、二人きりのときは私がアリスのママになってあげる」

 

「へ……?」

 

 ママって……え、なに?

 

「私なりにいろいろ調べたの。アリスが私に甘えてくれるにはどうすればいいかを。男の人ってママに甘えたい願望があるんでしょ?」

 

 ちょっと待って。

 それは、いろいろおかしい気がする。

 

「いや、私普通に母さんいるんだけど……」

 

「母親じゃないの、ママ。徹底的にアリスのことを甘やかす存在だよ?」

 

 意味がわからない。

 

「自分で変な事を言っているのはわかってる。でも、他に方法が思いつかなかったの。だから、試しにやってみようよ。上手くいかなくても損することはないんだから」

 

「え、ええ……まぁ、いいけど」

 

 翡翠が私のために考えてくれていることなのは間違いはない。だから、私はその提案を受け入れることにした。

 

「それじゃあ、手を叩いたら始めるね?」

 

「う、うん」

 

 翡翠の手が軽く打ち合わされて、パンッと音が鳴った。これで、翡翠は私のママになったらしい。

 ……どうすればいいんだ、これ?

 

「アリス、おいで?」

 

 両腕を広げて私を誘う翡翠。

 おずおずと近づくと腕が閉じられて、私は翡翠の胸に柔らかく受け止められた。

 そのまま抱きしめられて後頭部を撫でられる。

 

「よしよし、ママですよー」

 

 そんな台詞を照れながら言うものだから、なんだか私も恥ずかしくなってくる。

 体は固定されて逃げ出せないので、かわりに翡翠の胸に顔を埋めて表情を隠した。

 

 あ、柔らかい……

 

 ブラもインナーもつけている筈なのに翡翠の胸はふかふかだ。顔を左右に動かして柔らかさを堪能する。

 

「ふふっ、ママにいっぱい甘えていいからね?」

 

 背中をポンポンと優しく叩かれて、それからゆっくり上下に撫でられる。全身溶かされていくような安心感。

 

「アリスはがんばってる。えらいね」

 

「んっ……」

 

 今のは少しやばかった。私は込み上げてくる何かに耐えるため、翡翠の背中に腕を回し返してぎゅっと抱きつく。

 

「……翡翠」

 

「ママ」

 

 優しく叱るように。

 

「えっとーー」

 

「二人きりのときはママって呼んで?」

 

「……ママ?」

 

「うん、ママだよ」

 

「ママ……」

 

「よしよし、私のかわいいアリス」

 

 それは蠱惑的な免罪符だった。

 ママだから甘えてもいい。

 ママからの好きを受け入れるのは当然のこと。

 それは、あたたかいーー湯船に浸かっているような感覚。ストンと体中の力が抜けて、ズブズブとお湯の中に沈んでいくみたいな。

 

「大丈夫、だから……泣かないで」

 

 泣く? 誰が泣いているのだろう。

 ……私?

 

「なんでーー」

 

「いいのよ、ママは全部わかっているから」

 

 ぎゅっと、強く優しく包まれて。

 

「……ママ、ママぁ」

 

 感情のままに縋りつく。

 

「うん、うん」

 

 全部受け入れてくれる。

 

「アリス、大好きよ。好き、好き、好き……」

 

 耳元で囁かれるあいのことば。

 それは、心という容れ物に好きを注ぎ込まれていくかのよう。容器が好きで満たされていくにしたがって、それ以外の感情がこぼれ落ちていく。

 

「それじゃあ、ゴロンしようね」

 

 翡翠が背中から倒れこんだ。私は翡翠に抱えられながら、一緒に並んで横たわる。

 

「アリスはおっぱい好きだね……それじゃあ、今からおっぱいの時間にしようか?」

 

 眼の前で翡翠のワイシャツのボタンが外されていく。飛び込んでくる白いレースのブラ、おっぱい。圧倒的ボリュームのおっぱい。

 

 それを前にした私はただ本能に従うのみで――それが男としての本能なのか、幼子だった頃の本能なのか、それ以外なのかは分からないけれど。

 

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