異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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一番の親友

5月23日 火曜日 6週6日

 

「ずるいですわ!」

 

 昨日あったことを涼花に事情を説明したら、返ってきたのは抗議の言葉だった。

 

「みんなで家族なんて、羨ましいです」

 

「えっと……じゃあ、涼花も一緒に家族になる?」

 

 そんな提案を口にしていた。

 涼花と家族になれたなら嬉しい。他ならぬ涼花なら、みんなも受け入れてくれるんじゃないだろうか。

 

「残念ですが、それは難しいですわ。わたくしは一人娘で家業の跡取りを期待されていますの。皆さんの家族になると言うのなら、両親の期待を裏切ることになります。そこまでの覚悟は今のわたくしにはありませんもの」

 

「そうか。ごめん、そうだよね……」

 

 涼花は彼女の家族を大切に想っていて、だからこそ、蒼汰とも気軽に付き合うという選択ができなかったくらいなのだ。

 軽率だったと反省する。家族というものを少し軽く考えていたかもしれない。

 

「でも、こうして全部話してくれて家族に誘ってくれたのは嬉しかったですわ。ありがとうございます」

 

「涼花……」

 

「ーーでもでもっ! やっばり、わたくしだけ仲間外れなのは、寂しいですわ!」

 

 言いながら涼花は立ち上がる。

 そのまま、私の後ろにまわって、きゅっと抱き締められた。後頭部が高級天然クッションに埋まる。

 

「ほ、ほら……涼花は私の一番の親友だから! 家族以外で私の事情を知ってるのは涼花だけだし」

 

「……なんだか、繰り上げられた感が否めないのですけれど」

 

「そ、それは……」

 

「でも、そうですわね……一番の親友。うん、悪くない響きですわ」

 

 一番、一番と涼香は何度か満足気に小さく口にする。私の親友かわいい。

 

「それにしても、アリスさん。最近こうやって抱きしめても、前みたいにうろたえたりしなくなりましたね」

 

「それは、まぁ……」

 

「わたくしのおっぱいに飽きちゃいました?」

 

「ぶほっ!? な、ななっ!? ――なんで!?」

 

「おっぱいが嫌いな殿方はいないと教えて下さったのはアリスさんですわ。それとも、やっぱり翡翠さんの方が良いのでしょうか?」

 

 そう言いながら涼花の上半身が下がり、押しつけられたままの柔らかさが、後頭部から背中へと移動する。

 

「違うくて!? 慣れただけで飽きたとか、そんなことはありえーーあっ、どっちが良いとかじゃなくて、おっぱいは全部尊いから!」

 

「そんなに慌てて。アリスさんかわいい」

 

 くすぐったいから、耳元でささやくのはやめて。

 

「な、なんでずっとくっついてるの!?」

 

 親友同士とはいえ距離感おかしくない!?

 

「女の子同士ならこんなくらいは普通ですわ。それに、今はアリスさんは誰ともお付き合いされていないのでしょう?」

 

「そ、それは……いや、私にはアリシアがいるから、その……」

 

「冗談ですわ……ふふっ、ちょっと悔しかったので、からかっちゃいました」

 

 心臓に悪い。

 最近涼花は二人きりのときに私のことをからかう頻度が高くなっている気がする。

 私が元男だと知っているのに無防備すぎじゃないかな? 涼花のことが心配になる。

 男なんてみんな羊の皮を被った狼なんだからね!

 

「……えーと、そろそろ離してくれない?」

 

 襲っちゃうぞ、がおー

 

「そうですね。それじゃあーー」

 

 背中から涼花の体が離れたかと思うと、私の頭部が涼花の手で優しく後方に導かれてる。

 ぽふんと涼花の膝に受け止められて、膝枕の体勢になった。

 

「えっと……?」

 

 上下逆さになった涼花が私を見下ろしている。涼花は両手で私の顔を包み込んで、指先でふにふにと頬をつついて弄んでいた。

 されるがまま、抵抗はしない。涼花が私に害意のある行為なんてしてくるはずがないので。

 くすぐったさに目を細める。

 

「涼花……?」

 

 指の動きが止まった。

 さっきから無言で無表情なのが少しだけ怖い。涼花は私の心の中まで見透かすようにじーっと見ている。

 

「アリスさんは強いのですね……」

 

「えっと……なんで?」

 

「わたくしは妊娠することが少し怖いのです」

 

 ぽつんと罪を告白するかのように涼花は言った。

 

「小さい頃からわたくしは両親に跡取りを期待されていましたの」

 

 別にそれが嫌だった訳ではないのです、と涼花は付け加える。結婚もことさら強制されている訳じゃなくて、涼花の選択に任せてくれているそうだ。

 そんな風に大切に思われているからこそ、できれば涼花も親の希望を叶えたいと考えているらしい。

 

「第二次成長期が来て、体の変化があってから妊娠出産をより意識するようになりました。この頃、男性を好きになることが怖いと思っていましたの。わたくしにとって人を好きになるということは、その人の子供を産む覚悟をすることと一緒でしたから」

 

 なんだか申し訳なくなる。だって、その頃の自分は、恋人ができたら気持ちいいエッチしたいくらいしか考えてなかった気がするので……男ってバカだね、うん。

 

「わたくしはこのまま人を好きになんてなれないんじゃないかと思ってました……ですが、その、不思議ですよね。本当に人を好きになったときは、そんな不安も迷いも微塵と感じずにストンと恋に落ちていたのですから」

 

 少し寂しそうに笑う涼花。

 わかってはいたけれど、涼花は本当に真剣に蒼汰のことを好きだったんだな。

 

「少し話がそれました……わたくしが言いたかったのは、女性はそうやって子供のころから妊娠出産を意識して育つのですが、アリスさんはそうじゃないってことですの」

 

「それは、まぁ……」

 

 昨年までは男だったのだから、自分が妊娠して出産するなんて考えるはずもない。

 

「突然女の子になったあなたが子供を産むことを受け入れるのに、どれだけの覚悟が必要だったのか想像もできませんの」

 

「好きな人のためだからね。ほら、涼花も人を好きになったら行動してたでしょ? あれときっと一緒のことなんだと思うよ」

 

 そんなに大それた覚悟はしていない。

 そりゃ、蒼汰とセックスするのはちょっと……いや、かなり抵抗はあったけど。

 

「それに、私は異世界に行ってたから。そこで割と肝は座ったかな」

 

「そういえば、アリスさんはそうでしたわね」

 

 異世界で冒険した日々。命懸けが日常だったあの世界で生きることと比べたら、妊娠出産も、多分なんとかなるかって思えるのだ。

 

「よかったら、異世界での話を聞かせてもらえますか?」

 

 そう言えば、涼花にはほとんだ話したことがなかった。

 

「いいよー」

 

 ええと、何から話そうか。

 大変だったことや辛いこともあったけど、今思い出すのは楽しかったこと。

 見るもの、聞くもの、触れるもの、食べるもの。何もかもが初めてのことばかりだった。

 そして、その経験がかけがえのない思い出になっているのは、隣で全部一緒になって楽しんでくれた女の子が居たからというのが大きい。

 

「……アリシアさんはあなたにとって本当に大切な方だったんですね」

 

「うん」

 

「お腹に触れてもいいですか?」

 

 涼花の手が制服のブラウス越しに私のお腹に触れた。まだ外からは目立った変化のないお腹を優しく撫でる。

 

「……ここに、いらっしゃいますのね」

 

「うん」

 

 不思議だね。

 

「わたくしも早くアリシアさんにお会いしたくなりました」

 

「仲良くなれると思うよ」

 

「楽しみです」

 

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