異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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※前話の後のエロい話(挿絵4枚付)をR18の方に投稿してます。
エロいだけなので読まなくても支障はありません。


胎動

7月17日 月曜日 14週5日

 

 今日は妊婦検診の日。

 次回からは、出産する県外の総合病院で検診を受けるので、ここに来るのは今日で最後となる。

 

 エコーに映った双子は、二頭身の人の形に成長していた。体長は大きな卵くらいあるらしい。

 それだけじゃなくて、もぞもぞ足をバタつかせたり、指をしゃぶったりと動いていた。

 

 ……生きているんだ。

 

「そういえば、子供の性別ってどうやって見分けるんですか?」

 

 ふと気になったので、先生に聞いてみた。

 

「エコーで確認するんだよ。おちんちんが見えたら男の子、無かったら女の子だね」

 

「えっと……そこで判別するんです?」

 

 遺伝子とか血液検査とか何かしら見分ける手段があると思っていた。

 

「ええ、目視ですね」

 

 エコーに写った二人の股間を凝視して見るが何もあるようには見えなかった。

 

「まだちょっと早いかな。大体16から20週くらいで判明すると思うよ」

 

「20週……」

 

「赤ちゃんの体勢によっておちんちんが上手くエコーに写らなかったりして、なかなか性別がわからなかったりすることもあるから、焦らないでね」

 

「そ、そうなんですか……」

 

 どちらの性別でも変わらず愛せる自信はあるけど、どちらかといえば女の子の方が良いかな、とも思う。

 アリシアの魂は女性の物だった。記憶が残るかどうかわからないけど、同じ性別の方が苦労はしないだろう。

 後は名前も考えないといけなくなる。男の子にアリシアというのは、どうかと思うので……

 

 まぁ、なるようにしかならないのだけども。

 

 検診が終わってから、母さんとベビー用品の専門店に行った。この手のチェーン店は街中に何軒かあるのは知っていたけど、入ったのは初めてだ。

 

「……いろんなものがあるんだなぁ」

 

 子供服、おもちゃ。ミルクに離乳食、それからお菓子。ベビーベッドやベビーカー。

 その他諸々。

 広い店内にずらりと並んだ商品に圧倒される。どうやら、妊娠出産育児に際して必要な物は、一通り取りここで揃うらしい。

 

 今までの人生で全く用事がなかったので、こういう専門店が何のためにあるのか疑問だったけど、中に入ってみて納得できた。

 

 今日の目的はマタニティ用の下着である。

 妊娠してお腹とお尻が大きくなったので、今まで履いていたショーツが少しきつくなっていたので。

 選んだのはお腹にゴムを使用せずゆったりと包み込むタイプのマタニティショーツ。

 どでんと大きい実用性に振り切った物で、色気はまるでない。流石の蒼汰も、これには反応しないだろう、多分。

 

 ……しないよね?

 

 胸も大きくなっていて、なんと谷間ができていた。出産までに平均で2カップ程サイズアップするらしい。

 それでも、涼花はもとより翡翠や優奈にも、大きさで勝てそうになかったけど……人と比べるのはやめよう、うん。

 

 私が普段使いしているのはカップの入っていないハーフトップブラなので、今のところは窮屈さを感じてないけど、今後のためにカップ付きのマタニティキャミソールを買っておいた。

 胸元が開くようになっていて、つけたままで授乳できる物だ。

 

 翡翠の分も買ってプレゼントするのはどうだろう、とふと思う。今は夏だけど冷房をつけているから、ずっと前をはだけているのは寒そうなんだよね。

 

 でも、母さんと一緒だと買えないか。

 理由なんて話せないし……うーむ。

 

「この服どうかしら?」

 

 そう言った母さんが持っているのは、ゆったりした薄桃色のワンピースだった。サイズに余裕がありそうだから妊娠中にも着られそうだし、デザインもかわいい。けど……

 

「これ、子供服だよね?」

 

 ここにはマタニティ用の服もあるけれど、それとは違うようだった。

 

「似合っているのだから、細かいことはいいじゃない」

 

「細かくはないと思うけど」

 

 似合ってるからこそ、逆に嫌というかなんというか。

 

「それに安いのよ、これ」

 

「あ、ほんとだ……」

 

 全国チェーン侮りがたし。

 でも、子供服かぁ……

 

「気に入ったなら、買ってあげるけど?」

 

「えっと、それじゃあ……うん……」

 

 服って自分で買うと結構お金かかるから、母さんに買ってもらえる機会は貴重だ。

 子供服かどうかなんて、自分から話さなければわからないよね……多分。

 

 夜、優奈に子供服のことを知られてしまい着て見せるはめになった。すごくかわいいと褒められたけど、なんだか複雑。

 

「今度はあたしも一緒に行って、アリスの子供服選びたい!」

 

 って言われたけど、行かないからね?

 

7月20日 木曜日 15週1日

 

 今日は一学期の終業式の日。

 終業式の後のホームルームで、クラスメイトに休学することを発表した。一身上の都合で一時帰国するということにしている。

 

 同じクラスの純には事前に話しておいたけど、ほとんどのクラスメイトには初耳となったためとても驚かれた。

 今のクラスは一学期しか一緒に過ごしていないのに、惜しんでくれる声が多くて。嬉しいと同時に、偽りばかりで申し訳ないとも思う。

 

 戻ってこられるのは出産後、多分来年になるだろう。

 単位は佐伯先生と保健の先生に掛け合ってもらって、課題とテストで出席日数を補えるようになった。

 留年するものと思っていたのでありがたい。

 

 笑って卒業できるといいな。

 

8月3日 木曜日 17週1日

 

 妊娠5ヶ月目となり安定期に入った。

 双子が入ったお腹は目に見えて大きくなっていた。ゆったりした服装でも知り合いに会ったらごまかせなさそうで、外出はなるべく控えるようにしている。

 

 今日は用事があって家族と一緒に車で蒼汰たちの実家に来ていた。

 

 「戌の日参り」という風習がある。

 子沢山でお産が軽い犬は古来より安産の象徴で、妊娠5ヶ月目の戌の日に安産を祈祷してもらうのだそうだ。

 

 蒼汰たちの実家は神社なので、それらのお祈りは本業として行なっている。そして、蒼汰の子供を宿している私がこの神社で祈祷をするのは、当然の流れだった。

 

 本殿は2つの家族で貸切となっている。

 まずは、光博おじさんにお祓いをしてもらい、祝詞の奏上を受けた。

 それから、翡翠による巫女舞が奉納され、最後に翡翠に腹帯をつけてもらう。

 家族たちの前で、トップスをたくし上げ、ふっくらしたお腹を晒すのは少し恥ずかしかった。

 

 腹帯とは大きくなったお腹を支えるための物で、今日つけて貰ったのはお腹に巻くサラシタイプの物だ。

 だけど、きちんと巻くのが難しかったり手間だったりして、最近は腹巻や下着タイプが主流になっているらしい。

 私も普段使い用として、それらを何枚か持ってきて祈祷してもらっている。

 

「アリスさん。母子共に無事出産できるようお祈りしております。本来、祈祷に私情を加えるのは良くないのですが……私も人の親ですので」

 

 光博おじさんは力強く穏やかな視線を向けながら言った。

 

「はい、ありがとうございます。おじさん」

 

 蒼汰たちの母親は、二人を産み落とした後、ほどなくして亡くなったと聞いている。

 同じように双子を宿した私のことを真剣に心配してくれているおじさんの気持ちは痛いほど伝わってきた。

 

 それにしても、光博おじさんは産まれてくる子供のおじいちゃんになるのか……なんだか不思議。

 

「アリス、これを」

 

 翡翠から安産祈願の御守りを手渡される。

 売店で売っているものより豪華な刺繍がされた御守りだった。

 

「俺からも」

 

 蒼汰からも別の模様の御守りが手渡される。

 

「……二人ともありがとう」

 

 その後、社務所を兼ねた蒼汰の家で昼食会が行われた。終始和やかな雰囲気で、居心地が良い。

 以前も家族ぐるみで仲良くしていたけれど、ここ最近のあれこれがあってひとつの家族と言っていいくらい親しくなっていた。

 子供たちが4人でひとつの家庭を作るという普通じゃない宣言も、親たちは否定せずに見守ってくれている。

 お腹の中の子供たちが無事に産まれてくれば、もっと楽しく賑やかになるだろう。

 その日が本当に待ち遠しい。

 

8月5日 土曜日 17週3日

 

 今日は引越しの日である。

 と言っても家財道具はそのまま家に置いていくので、準備と言っても着替えとか勉強道具とかを詰めるくらいの簡単な物だった。

 

 蒼汰と翡翠に見送られて家を出た私たちは、父さんの運転で引越し先に向かう。

 学校が始まるまでは優奈も一緒で、家族揃っての移住だった。

 

 高速道路に乗ってちょくちょく休憩を挟みながら移動する。

 道中食べる用に土産物屋でお菓子を買ったりして、ちょっとした旅行気分だ。

 

 そして、仮住まいのマンションに着いたときは、もう夕方になったていた。

 さすがに疲れたので、最低限の荷物だけ片付けたら、もうやる気ゲージが尽きた。

 

 交代でお風呂に入り、夕飯は宅配のピザで済ませることになった。

 買い物に出なくて良いし、食器も出さなくていい。ピザが引越しのときの定番である理由がわかる気がした。

 

 夜は優奈と一緒にセミダブルの布団で寝る。仮住まいの部屋は2LDKの間取りで個室はとれなかったし、優奈と一緒に寝ることも慣れたものだったので。

 

「むにゃむにゃ……もう食べられない……」

 

 優奈は旅の疲れもあって、ぐっすり眠っているようだ。

 

 自分は体は疲れているけど気が張って眠れない。

 

「……随分と遠くまで来たな」

 

 物理的な距離よりも、境遇的な意味で。

 

 今の自分自身に後悔はない。

 申し訳ない気持ちはあるけれど、今はいろんな人に迷惑を掛けながらでも我儘を通させてもらって、将来に受けた恩は返していくと決めたから。

 

「アリシア……」

 

 彼女は怒るだろうか……怒るだろうな。

 説教されるのは覚悟しておこう。

 

「それでも、もう一度君に会いたかったんだ」

 

 ぽつりと呟く。

 誰に聞かせるでもないひとりごと。

 

 だけどーーそれに応えるかのように、お腹がぽこんと震えた。

 

「え……?」

 

 もう一度、ぽこん。

 お腹の内側から伝わってくる不思議な感覚。

 

「……お腹を蹴られた?」

 

 子宮の中にいる赤ちゃんは、いろいろ動いている。そのことを胎動といって、妊娠中期から母親はその動きを体感できるようになるらしい。今のがそうだったのだろうか?

 

「アリシア……?」

 

 ぽこん。

 

「これは、どっちなんだろう」

 

 肯定なのか、名前を間違えさせられたことへの抗議なのか。そう考えていたら、今度はお腹の中の別の場所でぽこんと感じた。

 

「こっちがアリシアなのかな。それとも、赤ちゃん?」

 

 どっちかは、わからないけど。

 

「あなたたちも、私に会いたいって思ってくれているのかな」

 

 ぽこんぽこんと再びお腹の中に感じる。

 

「アリシアと赤ちゃん……」

 

 お腹を撫でる。

 性別が判明したら早めに名前をつけてあげないと。名前が無いと呼びかけ辛い。

 

 知らない場所で、少しホームシックになっていたのかもしれない。

 そんな気分は赤ちゃんたちに励まされて吹き飛んでいた。

 

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