異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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名前を呼んで

8月23日 水曜日 20週0日

 

 今日から妊娠6ヶ月目だ。一般的には今日で妊娠生活の折り返しと言われている。

 ただ、双子は早めの出産になるそうで、私も帝王切開の予定が12月18日(36週2日)に決まっていた。

 なので、妊娠生活はもう残り半分を切っていることになる。

 

 この前の健診で、二人とも女の子の可能性が高いと先生に言われたので、赤ちゃんに名前をつけることにした。

 

 一人はもちろんアリシア。

 そして、もう一人はアリサに決まった。

 

 私とアリシアがアリから始まるので、一人だけ仲間外れにならないようにと考えた名前だ。

 

 アリサ、アリシア、そして私アリスで、『さしす』と並ぶのも個人的に気に入っているところである。

 

 優奈は「だったら、次はアリセとアリソか……ちょっと難しいね」って言うけど、次の予定なんてないので。

 

 体重は二人共200グラムを超えていた。やっぱり小さい方がアリシアのようで、アリサと比べると成長が遅いのが少し気がかりだ。

 

 そうそう、昨日から翡翠と蒼汰が引越し先のマンションに遊びに来ている。

 

 今はお昼が終わってリビングでみんなで勉強をしているところだ。

 

 優奈は夏休みの宿題、私はそれに加えて二学期で習う部分を自主学習。

 翡翠と蒼汰は受験勉強をしている。二人とも進学するらしい。

 

 翡翠は市内にある国立大学志望で、市外は、考えていないのだそうだ。四年のうちに私を養える力を身につけると宣言していて頼もしい限りだ。

 

 蒼汰は実家の神社を継ぐために県外の神道科のある大学に進学すると聞いた。4年間離れ離れになると思うと少し寂しいけど、仕方ない。

 

 二人とも同い年なのに将来をしっかり考えていてすごいなぁ……

 

 私なんて行き当たりばったりで、人に頼ってばかりだ。

 食い扶持くらいは自分で稼ぎたいと思うのだけれど……この子たちがある程度大きくなってからかなぁ……

 

「あ、動いた」

 

 お腹の内側がぐりぐりと刺激される。

 

「本当? 触ってみてもいい?」

 

「どうぞどうぞ」

 

 すっかり大きくなったお腹を翡翠に向けて、ゆったりしたトップスを肌着ごと捲る。

 

「えっと、このへん……」

 

 動いたところをさすって場所を教えると、翡翠は恐る恐るお腹に触れてきた。

 

「こんにちは、アリサ」

 

 お腹の中に宿る魂が見えているのだろう。翡翠は迷うことなく名前を呼んだ。

 

「……すごい、動いているわ」

 

 名前を呼ばれて嬉しいのだろうか? アリサがうねうねと動く。それに刺激されたのか、アリシアもうにうにし始めて少し痛い。

 

「アリシアも元気そう……二人とも小さいけど力強い魂をしているわ」

 

 翡翠の手が動いてアリシアの入っている方を撫でる。

 

「こんにちわ、私は翡翠。あなた達のもうひとりのママよ」

 

「……いや、お前はママじゃないだろ」

 

 蒼汰が翡翠に突っ込みを入れる。

 

「私とアリスは家族なの。だから、アリスの娘は当然私の娘でもあるわ」

 

「何が当然だかさっぱりわからないんだが」

 

「もちろん、あたしの娘でもあるんだからね!」

 

 とドヤ顔の優奈が参戦する。

 

 ……うーん、そんなにママが多いと混乱しちゃうんじゃないかな。

 

「なぁ、俺も触ってみてもいいか?」

 

「もちろん、ダメよ」

 

「って、なんでお前が返事するんだよ!?」

 

「だって、さっきから妊婦のお腹をいやらしい目で見て……汚らわしい」

 

「そんな目で見てないからな!?」

 

「あ、私は気にしてないから大丈夫だよ?」

 

「アリスも、なんで俺が欲情している前提のフォローなんだよ!?」

 

 いや、蒼汰だからねぇ……

 

「いいから蒼汰も触ってみてよ、ほら」

 

「お、おう」

 

「……仕方ないわね」

 

 不満そうな態度で、けれど素直に翡翠は離れた。

 そして、今度は蒼汰が私のお腹に触れる。

 躊躇する手を「このへんだよ?」と導くと、蒼汰は顔を赤くして触れてきた。

 

「アリサ、アリシア。パパですよー?」

 

 うにうに、うにうにと反応がある。

 

「ほんとだ、動いてる……すげぇな……」

 

「すごいよねぇ、ほんと」

 

 お腹の中に二人も入っているなんて不思議で仕方ない。まさしく人体の神秘というやつだ。

 

「無事に産まれるといいな」

 

「うん」

 

 今のところ、妊娠生活は概ね順調である。

 ときどきお腹がきゅーっとなるのが気になるけど、これはお腹が張るという状態で、子宮が収縮しているらしい。続くと良くはないのだけれど、妊婦なら誰もが日常的に経験することみたいだから、あまり心配しすぎる必要もないのかな。

 

 夜は三人が川の字になって布団で寝る。

 

「こうしていると将来の予行演習みたいね」

 

「え……?」

 

「私とアリスと優奈。そして子供たち……近い将来こうやって家族全員でこんなふうにみんなで寝るのかなって思ったから」

 

「えっと、蒼汰は一緒じゃないけど……」

 

「あいつと一緒に寝るわけないでしょう。アリスもあんなケダモノと同衾なんてしちゃダメよ? それにあいつは県外に行くでしょ。なんなら、そのまま戻ってこなくても、私たちが居るから問題ないわ」

 

「……おーい、聞こえてるんですけどー」

 

 私たちの寝室と隣り合うリビングから蒼汰の抗議の声がする。

 

「……ちっ」

 

「まぁまぁ、蒼兄も翡翠姉も仲良くだよ。子供たちの前で喧嘩はダメだからね」

 

「仕方ないわね」

 

「ええと、俺一方的にハブられてるだけじゃない!?」

 

「蒼汰ちょっと静かに。子供たちが起きちゃったじゃない」

 

 お腹の中がぽこぽこ動きだした。

 

「す、すまん……」

 

 まぁ、夜のこれくらいの時間に動き出すのは最近良くあることだけど。

 本音を言うと眠れなくなるから夜中は静かにしていて欲しい。ただでさえおしっこが頻繁になっていて、夜中に目が覚めがちなので。

 おかげで最近寝不足気味で、日中寝ることが増えている。

 まぁ、学校も無いから特に支障はないのだけど、体の気怠さが抜けなくてしんどい。

 

 でも、みんなでこんなふうに過ごしていると本当に家族って感じがして、これからのことが楽しみに思えるのだった。

 

8月24日 木曜日 20週1日

 

 お昼前にお腹が強く張ってしくしくと痛んで、トイレに行くと生理の一番多い日よりも血がでていた。

 母さんに病院に電話して貰って状況を伝えると、すぐに受診するようにと言われたので、車で連れて行ってもらう。

 病院につくとすぐに受診して貰えた。

 診断結果は切迫流産、私は即座に緊急入院することになった。

 

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