異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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入院生活

 切迫流産というのは、流産しそうな切迫した状態であるということで、流産したという訳ではない。最初に切迫流産と診断されたとき、私はそれを勘違いして絶望しかけた。

 子供たちはまだ生きている。

 それでも、危険な状況であることは間違いなくて、私は即座に緊急入院となった。

 

 子宮と膣をつないでいる管のことを子宮頸管という。子宮の断面図を思い浮かべてーーと聞いて、すぐにピンと来たらエッチな人だと思う。

 妊娠しているときの子宮頸管は、赤ちゃんが子宮から出てしまわないように硬く閉じて蓋をしている。

 一般的な妊娠初期の子宮頚管の長さは35~40ミリほど、これが妊娠の経過によって短くなっていき出産直前には25~32ミリ前後になる。

 だけど、私の場合は妊娠中期で23ミリしか無かった。

 この状態で普通に過ごしているとお腹の中の子供が出てきてしまう危険性がある。お腹の中の赤ちゃんは、まだ外で生きられるほど育っていないのに、だ。

 だから、私は先生に絶対安静と言われて、ひたすらベッドに横になることとなった。

 

 腕にはお腹が張るのを止める点滴がつけられている。これは24時間付けっぱなしになるらしい。

 横になっていると、動悸が早くなって身体が熱くなってきた。

 気分も悪くなってきて回復魔法を使ったら、頭がすっきりしたけれど、同時にお腹が強く張ってしまいナースコールを押した。

 どうやら、これらの症状は薬の副作用だったらしく、回復魔法は薬の作用ごと打ち消してしまったようだ。

 より強くなった点滴を受けながら、朦朧とした意識の中で、ようやく落ち着いたお腹の痛みに安心して涙がこぼれた。

 

「ごめんね…アリシア、アリサ……」

 

 自分の考えなしの行為で子供達を危険に晒してしまったことに恐怖して、点滴の副作用で震える手でお腹に触れながら謝ることしかできなかった。

 

 寝てるのか起きてるのかも定かではないようなぼんやりとした時間を、ひたすら何もなく無事に過ぎ去るように祈って過ごした。

 

 お腹の中で二人がぐりぐり動いている。

 あまり激しく動くとお腹から出てきてしまいそうで心配だった。

 大人しくしていて欲しい、お願いだから。

 

8月28日 月曜日 20週5日

 

 絶対安静の日々は続いている。

 点滴の副作用にも慣れた。楽になった訳じゃないけれど、気分が悪い状態が日常になった感じだ。

 

 母さんと優奈と翡翠で、面会時間には必ず誰かが付き添ってくれていた。

 

 ずっとベッドに横になっているというと、だらだらできて楽のように思えるかもしれないが、24時間起き上がることができないというのは苦痛でしかない。

 身体中が軋むように痛むし、寝ながら食べるご飯は食べづらい。

 

 何より一番辛かったのはトイレだ。

 小の方は尿道に管を通しているので、出したのを見られることに慣れたら、そこまで問題はなかったけど、大の方はそう簡単ではない。

 ベッドの上でお尻の下に差し込み式の便器を入れてもらってすることになるのだけど、準備から後処理まで全部看護師さんにお願いしてしてもらうのは抵抗しかなかった。

 かと言って、するのを我慢しているとお腹が圧迫されて張りやすくなると言われると我慢する訳にもいかず。

 初めてしたときは恥ずかしいやら、情けないやらで、涙目になりながら、終わった後もなかなか消えないにおいに消えてしまいたい気持ちになったりして……事務的にこなしてくれる看護師さんの態度がありがたかった。

 

 父さんと蒼汰も病院に来てくれるけど、面会は短時間にしてもらっている。申し訳ないと思うけど、おしっこの管とか臭いとかやっぱり気になるので。

 

8月31日 木曜日 21週1日

 

 気がつけば今日でもう夏休みが終わるらしい。私にはもう関係ないけれど、優奈と翡翠と蒼汰は今日で地元に帰ることになる。

 ということで、今日はみんなが面会に来てくれた。これからは、毎週末に3人のうちの誰かが面会に来てくれるらしい。片道電車で半日ほどかかるというのに。

 無理しないで、という気持ちはあるけど、個室で家族以外見知った人と話す機会がない入院生活は心細いので、正直嬉しかった。

 

9月6日 水曜日 22週0日

 

 今日で22週になった。今日からは、私の症状は切迫流産ではなく切迫早産と呼ばれるようになる。

 それは、お腹から赤ちゃんが出ても、生きられる可能性が出てきたということだ。

 なんとか、今日という日を迎えられたのは、素直に嬉しいと思う。

 かといって、まだまだ気は抜けない。

 早産になればなるほど、赤ちゃんに障害が出るリスクが高くなる。だから、可能な限り一日でも長くお腹の中に居て育ってもらわないといけないのだ。

 お腹の中の赤ちゃんたちは400g程度と平均よりも小さめなのも気になるところだ。

 

 幸いお腹の張りは落ち着いていて、点滴も弱い物に戻っている。

 何より食事とトイレだけは体を起こしても良くなったのが、ありがたかった。

 

 日中は、だらだらスマホでアニメを観たりゲームをしたり。ときどき勉強もするけれど、体を起こせないので教科書を見るくらい。

 何よりずっと気怠いのが続いていて集中できない。

 

 普通なら四人部屋に移動するらしいけど、部屋が開いていたこともあり、個室を継続してもらっている。どうしても私は周囲から浮くと思うので、余計な心労を抱えたくなかった。

 

9月9日 土曜日 22週3日

 

 今日は優奈が来てくれた。

 学校が始まってクラスのみんなは休学した私のことを寂しがってくれているらしい。

 

9月20日 水曜日 24週0日

 

 入院生活について。

 規則正しく不健康な生活を送っている。

 

7:30

 

 エコーと血圧測定。

 

8:00

 

 朝食。パンとおかずとヨーグルト。

 

9:00

 

 検温して、温かいタオルで清拭。

 髪がごわごわしてにおいが気になる。

 浄化の魔法を使いたい欲求が30分置きくらいに湧き上がってくるけど、魔法が子供に悪影響があるかどうかわからないので我慢する。

 明日はシャワー浴びれるかな。

 シャワーはさっぱりするんだけど、立っているとお腹が張って不安だったり、刺さったままの点滴が邪魔だったりで、落ち着かない。

 

 ……ゆっくり、お風呂に入りたいな。

 

10:00

 

 ノンストレステスト。

 胎児の心拍と胎動、それからお腹の張り(子宮の収縮)を確認するため毎日している検査である。

 名前とは裏腹に結構ストレスが溜まる。

 

 お腹の上に胎児の心拍を測る円形の器具を二人分とお腹の張りを測定する機械を乗せて、20分くらいじーっとしていなければいけない。

 

 移動して心拍が確認できなくなったり、双子の心拍が重なったりすると機械を動かさないといけないし、お腹の中で寝たままだったりすると機械で起こしてあげないといけないし、とにかく双子の動きはフリーダムで困らされる。

 

 お腹の張り具合によって、点滴の濃度が濃くなったりするので、落ち着かない。

 

12:00

 

 お昼。

 食事は数少ない楽しみのひとつで、毎日メニューが違っていて嬉しい。

 

14:00

 

 面会開始時間。基本的に母さんが来てくれる。洗濯物とか差し入れとか。

 

15:00

 

 先生の診察。貧血気味らしいので、これからは食後にシロップを飲むことになった。

 

18:00

 

 夕食。

 和食洋食選べる。基本は洋食を選んでいる。

 シロップは最初は甘かったけど、後味は鉄の味だった。

 

20:00

 

 面会終了時間。と言っても最近の母さんは早めに帰ることが多い。

 親と四六時中一緒に居ても、そんなに話すこともないんだよね、うん。今日も2時間くらいで帰った。

 再び、エコーと血圧測定。

 

21:00

 

 消灯。おやすみなさい。

 夜中にお腹が張らないといいなぁ……

 

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