異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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窓の外の紅葉

10月1日 日曜日 25週5日

 

 今日から10月。と言っても、四六時中ベッド上でトイレとご飯以外は横になっている私の世界に変化はない。

 

 日々変化を感じるのはお腹の大きさくらい。アリサが780g、アリシアが630gになった。

 

 お腹が大きくなるに伴って、張りやすくなっているようで、張りを抑える点滴の濃度は4つあるうちの最高の濃度になっていた。

 

 これでも張りが治まらなくなったら、より強力な点滴になる。そっちは副作用が強くなるみたいで、今から不安だった。

 ここ最近は、お腹の張りを調べる毎日のノンストレステストを祈るように受けている。

 

 昨日と今日とで蒼汰が面会に来てくれていた。ゲームやアニメのことを話していると、時間が経つのがあっという間だった、

 お見舞いに来てくれるのは誰でも嬉しいけれど、一番気兼ねなく馬鹿話ができるのはやっぱり蒼汰だった。

 

 蒼汰の家で一緒に暮らしてる優奈に手を出さないように重ねて釘を刺しておく。さすがに今は何もしてあげられないから、ご褒美はツケ払いで。

 

 ちゃんと私のことを考えてしてるから大丈夫だって? そうか……なら、よろしい。

 

 ……ん? よろしいのか?

 

10月7日 土曜日 26週4日

 

 アリサが886g、アリシアが752g。

 

 今日は優奈と涼花が見舞いに来てくれた。

 涼花とはメッセージアプリでやり取りはしていたが、こっちに来るのは初めてだった。入院で弱った私の姿を見たとたん、涼花はぼろぼろと涙をこぼして手を握り締めてきた。

 アリスさんばかりどうしてーーと、涼花は私の境遇を嘆いてくれたが、大抵が自業自得で、それに周りを巻き込んでしまっている自覚のある私としては、逆に申し訳なくなる。

 また見舞いに来ると宣言してくれたけど、受験生なんだから無理しないでね? ありがたいけど。

 

 ちなみに、涼花からの差し入れはウィソの新しいカードセットのボックスだった。

 今は遊ぶことはできないけれど、カードを見たり匂いを嗅いだりしていると落ち着くし、デッキを作ってスリーブに入れてシャッフルしているだけでも気が紛れた。

 その様子を看護師さんに見られて、男の子みたいだねって笑われた。

 

 こう見えても心は男だし……一応……多分……

 

10月15日 日曜日 27週5日

 

 アリサ1002g、アリシア880g。

 

 アリサが1kgを超えた。二人とも平均より小さめではあるが順調に育っている。このまま1日でも長くお腹に留まって、大きくなってほしい。

 

 優奈に指摘されて、念話で赤ちゃんたちと会話できることに気がついた。

 と言っても、もちろん赤ちゃんからは意味のある言葉は伝わってこない。楽しいとか、安心とか、そういった言葉になる前の感情を微かに読み取ることができるだけだ。

 アリシアの記憶が受け継がれていたら、もしかしたら返事が返ってくるんじゃないかと期待していた私は少し落胆したけど、子供たちの楽しそうな感情を聴いているとすぐに気持ちは回復した。

 

『二人とも元気かなー? ママですよー』

 

 私の声がわかるのだろうか。

 お腹の中の子から、喜んでいるっぽい反応がある。

 

『あたしもママですよー』

 

 と優奈が話しかけると、きょとんと不思議そうな反応が返ってきた。おばさんじゃないかな? って突っ込んでいる訳ではないと思う、多分。

 

 初めての念話で興奮したのか、赤ちゃんはお腹の中で元気に動き回っていた。というか暴れている。

 

 ……嬉しいのはわかったから、もう少し大人しくしてほしい。お腹を蹴られるのは内臓に響く。

 

 子供たちを落ち着かせるために、歌を歌ってみることにした。旅の途中で聞いたアリシアが居た世界の歌だ。

 

『ーー♪』

 

 歌詞は自然と出てきた。その意味はもうわからないけど……もし、機会があれば、エイモックに聞いてみるかな。

 

10月20日 金曜日 28週2日

 

 アリサ1180g、アリシア958g。

 

 ついに、強力な張り止めの薬を使うことになった。

 ノンストレステストの後の検診で先生にそのことを告げられた。

 何度も針を挿し直して蒼くあざになっている腕に新しい点滴を打たれる。

 

 ぽたぽたと落ちていく点滴が、毒を身体に注入しているように感じて、ぎゅっと目を閉じて耐える。

 

 点滴を打たれてしばらくすると、体が熱くなって、全身に力が入らなくなっていた。

 お腹が張らないように筋肉を弛緩させる作用が全身に及んでいるという理屈はわかってはいるけれど、実際に体に力が思うように動かなくなるというのは思っていた以上に不安になる。

 頭がぐらぐらして、全身がむくみ、扁桃腺も腫れていた。何もやる気がでない。

 

 それなのに、トイレに行く回数が多くなっていて、それがしんどい。喉がものすごく渇くので、水をよく飲むからだ。

 この薬が体に有害なので、排出するように本能がそうさせるらしい。

 

 吐き気もして、食欲もない。

 

 それでもーーこれは今の私には必要な薬だった。

 どれだけ体が辛くて、生きるのがしんどく感じても、お腹の張りは抑えられている。

 

 子供たちが、無事に育つため。少しでも長く私のお腹の中にいられるように。

 

11月1日 水曜日 30週0日

 

 アリサ1380g、アリシア1058g。

 アリシアも1kg超えた。

 

 子供が大きくになるに伴って、お腹もぐんぐん大きくなっていた。まだ子供は倍以上大きくなるはずなのだけど、その前に私のお腹が裂けてしまうんじゃないか心配になる。

 強力になった張り止めの点滴は3段階あるうちのレベル2まで上がっていた。

 濃度が上がると副作用も大きくなる。

 みるみるうちに体力が低下して、目の焦点も合わず、頭の中にもやが常にかかっているような感じになって。私の体は入院生活で確実にボロボロになっていた。

 

 ぼんやりと想像していたマタニティライフとは全然違う。

 お腹の中の子供の成長を喜びながら、運動とかランチとか旅行とか楽しんで、日々穏やかに過ごす。そんなのが、私の抱いていた妊婦のイメージだった。

 

 だけど、実際は違っていた。別の命を生み出すために、体中のあちこちに負担をかけているのが妊婦だった。

 

 新しい体や血を創るために栄養を持っていかれて、貧血やビタミン等もろもろの栄養が不足しがちになる。

 かといって、下手に食べると糖尿病や肥満になりやすい。また、食べられないものも多い。

 ホルモンバランスが崩れて、肌や髪の毛も傷む。

 お腹の中のを大きくなった子宮に占拠されて、胃や腸などの内臓は体の隅にぎゅうぎゅうに押し込まれて機能に不具合が出る。

 胎動は動いたという穏やかなものではなく、お腹の中で暴れるといったことも多く、夜中に起こされることもしばしば。

 

 誰もがしていることだからと、妊娠を軽く考えていたことは甘い考えだったと思い知らされた。

 

 母さんにそのことを話して、私を産んでくれたことにお礼を言ったら、母さんは複雑そうだった。

 

11月6日 月曜日 30週5日

 

 アリサ1460g、アリシア1120g。

 

 今日は助産師との面談があった。

 出産後の入院病棟の説明とかの後、バースプランをどうするか聞かれた。

 バースプランとは、出産前後の予定のことで、そのときになると余裕が無くなるため、予め打ち合わせておくものらしい。

 私は帝王切開なので、それほど決めることは多くない。私としてはとにかく無事に産まれてきたらそれでいいという想いだった。

 

 手術の経過を知りたいとか、臍の緒をどうするかとか、出てきた胎盤を見るとか、特に興味はない。産まれて直ぐの写真撮影は無理に一緒じゃなくてもいいかな。

 それから、産まれて直ぐの授乳をどうするか。

 翡翠とのプレイを思い出してしまったけど、そうじゃない。リアルな授乳だ。

 

 私が授乳、するんだよな……

 

 ……できるのかなぁ

 

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