異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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卒業

 出産してからも大変な日々は続く。

 産後の体力の落ちた体で、3時間おきに搾乳機で搾乳して、娘たちのために母乳を用意する日々。

 

 それでも、少しづつ体は回復していった。そして、子供たちに刺さったチューブも徐々に外れていく。

 

 はじめてアリサを抱っこした日。

 その小ささに怯えながら両腕で抱えた。

 

 はじめての授乳のときは、なんとも言えない気持ちになった。胸がきゅっとなって、切ないような寂しいような気持ち。

 

 そして、アリサに続いてアリシアも。

 アリシアを再びこの手で抱きしめることができたという感動で、涙がこぼれてしまった。

 

 退院の順番は私、アリサ、アリシアの順。

 最後のアリシアが退院できたのは年が明けてのことだった。

 

 少し寂しかったけど、アリサ一人をお世話するだけでも、いっぱいいっぱいになっていたので、二人同時に退院しなくて逆に良かったのかもしれないと、後になって思った。

 年末年始が過ぎてからも、しばらくは借りたマンションで過ごして。

 1月末に部屋を明け渡して、約半年ぶりに自宅へと帰ることができた。

 

 おっぱいに、おしめに、入浴に、夜泣きに、吐き戻しに、と慌ただしく日々がすぎていく。

 家族の助けがなかったら、どうなっていたのか考えるだけで恐ろしい。

 

 二月で私と優奈は17歳になった。

 今年の誕生日パーティは心から楽しめた。

 

 春になって子供たちの首が座りだした頃、年度が替わるタイミングで私は復学した。

 久しぶりに袖を通した制服は、なんだか違和感があった。

 外見はそこまで変わっていないのにコスプレしてるかのような……心境の変化だろうか。

 「あー」とか「うー」とか言うようになった娘たちを母さんに預けて登校する。

 幸い今年も優奈と一緒のクラスだったので、心細くはなかった。

 

 ちなみに、蒼汰は県外の大学に受かって神職になる勉強をするために一人暮らしを始めて、翡翠と涼花は市内の大学に入学した。

 

 新しいクラスにも優奈のおかげですぐに馴染んで、学校生活と母親の二重生活は順調のように思えた。

 

 けれど、初夏のある日、私は職員室に呼び出された。

 娘たちの存在が学校にバレていたのだ。

 二人のことを問いただされたとき、私は正直に答えた。娘ではないという嘘はつきたくなかったので。

 

 ハーフバースデーを迎えた二人は、ちょこんと座る姿がかわいらしくて愛おしい。

 私はこの子たちのことを一番に考えたいと思っている。学校に行かせてくれた両親には申し訳ないと思うけれど……

 

 先生たちから言われて、私は自主退学することになりかけた。

 妊娠出産を隠していたのは事実だから、仕方ないと思っていた。

 

 けど、学校の方針に反対だと声を上げてくれた人たちがいた。

 文佳や純、それに今や昔のクラスメイトが中心になって、私が学校に居られるように働きかけてくれたのだ。受験の忙しい時期だというのに署名までしてくれて。

 保健の先生や佐伯先生が、他の先生たちを説得してくれた。

 卒業した涼花が、身内である理事長に直訴してくれた。

 最後に両親が、どうしたいのか聞いてきた。私は、学校を続けたいと答えた。

 

 保護者を交えた面談することになって、私は学生を続けられることになった。

 

 話し合いの部屋の前には生徒たちが何十人も集まっていて、結果を告げると自分のことのように喜んでくれた。

 

 それが嬉しくて、涙がこぼれてしまった。

 

 この学校への思い入れは、自分でも気づかないほどに大きくなっていたらしい。

 最後までこの学校で思い出を残そう。

 

 夏休み。

 はいはいをしはじめた娘たちは、片時も目が離せなくなっていた。

 リビングを所狭しと移動して、姉妹で頭をぶつけて泣いたり、少しでもドアが開いていたら廊下に出ようとしたり。

 動きは見ていてかわいいのだけど、怖い。

 後、なんでも口に入れようとするので、小さい物は子供たちの手の届くところには、絶対に置かないように徹底する必要があった。

 

 二学期が始まり、受験生である私たちの周辺は、目に見えてピリピリしてくる。

 優奈は翡翠や涼花と一緒の市内の大学に進学するらしく、夜遅くまで勉強している。

 私は進学はせずにしばらくは家で育児に専念することにした。

 母さんは進学しても良いと言ってくれていたけど、母さんにも仕事があるし、今は二人の成長を見守りたかった。

 

 秋の文化祭には娘たちと一緒に参加した。

 私が学校に居られるように協力してくれた人たちに、子供たちを見てもらいたかったので。

 

 銀髪と黒髪が特徴的な双子の娘は、行く先々で注目された。

 私のことを内心けしからんと思っているはずの堅物の先生でさえ、二人の顔を見ると口角を下げた。

 

 ただ、男子諸君。私のことをママと呼ばないように。私は君たちのママじゃない。

 

 それとは別に、私のことをエッチな視線で見てる男子も多いけど……これはもう仕方ないね、うん。

 

 後、エッチといえば音成くん。

 子供たちが彼の顔を気に入ったのかなんだかきゃっきゃと喜んでいたなぁ……

 彼は子供に好かれることはあまり無いみたいで嬉しそうだった。

 

 署名運動のときは、山崎くんたちと一緒に動いてくれたりした。彼はやっぱり良い奴だ。

 御礼として、優奈に事情を全部話して水着の写真を撮らせてもらって送った。

 ……私の写真じゃお礼にならないからね。

 

 けど、反応が微妙だったのはどうしてだろう? 優奈はスタイルも良いし、音成くんの趣味に合うと思ったんだけどなぁ……

 

 冷たい風が冬の訪れを感じさせる頃、子供たちがリビングのテーブルに掴まって、初めて立った。

 

 少ししたら、テーブルに掴まったまま歩きだして、何度も転げながらよちよちと歩くようになった。

 

 11月19日、娘たちの初めての誕生日。この日を無事に迎えることができたのは喜びだった。

 アリシアがちょっと小さいけれど、二人とも順調に大きくなっている。

 

 まだ普通のケーキは食べられないので、ヨーグルトを使ったケーキを手作りして、誕生日パーティをした。

 

 パーティは、本当に楽しかった。

 今日の主役の娘たちは、よくわかってないみたいで、不思議そうにしていたけど。

 ケーキとプレゼントのボールプールは嬉しそうにしていた。

 

 冬、クリスマス。

 今年から私はサンタとしてクリスマスプレゼントをあげることになる。

 去年はまだアリシアが入院していたので初めての大役だ。

 

 二人お揃いのアンパンさんのおもちゃ。朝目が覚めて枕元のおもちゃを見つけて、喜んでいた。

 

 アンパンさんはテレビでDVDを流してると、二人並んでしばらくじーっと座って観てくれるので助かっている。

 アンパンさんマジ偉大。

 

 そして、卒業式。

 

 人生の節目の日なので、家族全員が来てくれた。もちろん、娘たちも一緒だ。

 

 家族全員で撮った卒業写真は大切な物で、私の部屋のよく見える場所に飾っている。

 

 こうして卒業を迎えられて思うのは、本当にいろんな人たちに助けられて、今の自分たちが居るということ。

 

 幾人として入学して。修学旅行のフェリーから落ちて異世界に行って、アリシアの体になって戻ってきて、アリスとして転入。

 女としての高校生活、そしてアリシアとの別れ。

 出産のために一時休学。そして、出産。

 復学した後、出産がバレて自主退学しかけて、それをみんなが止めてくれた。

 

 楽しいこと、辛いこと全部。

 今では大切な思い出。

 

 ーーだから、最後に。

 

 春の陽気の下で。

 

 校門を振り返って、大きく頭を下げる。

 

「今まで、ありがとうございました!」

 

 心からの感謝を。

 

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