異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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葬儀(その3)

 翡翠が立ち去って、無人の客間に残された俺達はやや気まずい雰囲気だった。

 幸いその空気は長く続くことはなく、次に訪れた弔問客によって払拭された。

 

「優奈さんお久しぶりです」

 

 弔問客は蒼汰と翡翠の父親である神代(かみしろ)光博(みつひろ)。それから、その息子で翡翠の双子の兄である神代蒼汰の2人だった。

 

「本日は兄のためにありがとうございます」

 

「幾人さんの事は本当に残念でした……そちらの方は?」

 

 日本人離れした銀髪で、優奈と全く一緒の服装をしている俺はただの弔問客には見えないだろう。光博おじさんが疑問に思っても不思議じゃない。

 

「私は如月アリスと申します。訳あってこの度、幾男お義父様(とうさま)の養子となることになりました。今後お見知り置きくださいませ」

 

「アリスさんですね。私は神代光博、近所の神社で宮司をしております。こちらは私の息子で――」

 

「蒼汰さんとは先日お会いしましたよね……私のこと覚えていらっしゃいますか?」

 

「……ああ、そんなに目立つ容姿を忘れるわけねぇよ。そういえば俺のこと姉に聞いたとか言ってたっけか。まさか優奈のことだったとはな……」

 

「蒼兄も久しぶり。お兄ちゃんのために来てくれてありがとう」

 

 その言葉に蒼汰の顔が引き攣る。ここに来た目的を思い出したらしい。

 二人は無言で祭壇の前に並んで座ると一礼し、線香を一本ずつ手に取り燭台の蝋燭で火をつけ香鉢に刺した。

 俺の写真を見つめた後で目を閉じて両手を合わせて黙祷する。

 神職が仏になった俺に祈りを捧げてるのは少し不思議な感じがする。

 

「幾人……すまねぇ……」

 

 苦渋に歪んだ蒼汰から零れた台詞を、俺は見逃すことはできなかった。

 

「蒼汰さん……義兄(あに)は自らの不注意で亡くなりました……貴方が責任を感じる必要はありません」

 

 勝手に責任を感じられても困る。俺の死は完全に自業自得なのだ。

 突然俺から発せられた言葉に蒼汰は呆気にとられていたが、やがて反論してくる。

 

「あいつは悩んでたんだ。誰にも言うことができずに思いつめてあんなことを……俺が相談に乗ってやれていたなら!」

 

「何も変わりませんよ。義兄の死にあなたができたことなんて無いんです」

 

 俺は蒼汰の悔恨の台詞を言下に否定する。

 

「……お前、俺を馬鹿にしてるのか?」

 

「貴方こそ、義兄を馬鹿にしているんじゃないですか? あなたの友人の幾人は女に振られたくらいで、軽々しく命を投げ出すような考え無しの男だとでも?」

 

「……っ、お前に何が判る!?」

 

「あなたよりは解るつもりでいます。……大体、好きな人ができたら幾人があなたに一番に相談しないわけが無いでしょうに。そんなことも分からないんですか貴方は!」

 

「俺だってそう思ってたさ! だけど幾人は急に居なくなって、あいつが悩んでたって聞いて俺はっ!?」

 

「ふたりともいい加減にしてください」

 

 ヒートアップしていた俺達の言い争いは、光輝おじさんの一言で遮られた。普通の声の大きさで発せられた言葉だったが、言葉に込められた気迫は十分で、俺達は思わず押し黙ってしまう。

 

「ここは死者を祀る場所です……言葉を荒らげるような場所ではありません」

 

 光博おじさんは笑顔のまま、俺達にそう告げる。

 

「……おじさん、すみません」

 

 俺は騒いだことについておじさんに謝る。

 ……蒼汰に対して謝るつもりは無い。

 

「……優奈、すまなかった」

 

 蒼汰は優奈に対して謝った。あちらも俺に謝るつもりは無いようだ。

 

「それでは、用件も終わったことだし帰りましょう。お父さんとお母さんによろしくお伝えください」

 

「……はい。ありがとうございます」

 

 二人が立ち去って無人になった居間で、再び優奈から肘打ちをされる。

 

「やりすぎよ」

 

「……ごめん」

 

「まあ、気持ちはわからなくもないけどね」

 

 優奈は肩をすくめた。

 

   ※ ※ ※

 

 夜が更けて、参列者は三々五々と居なくなり、俺の葬儀は終了した。

 俺は自室に戻り、ベッドに入ってからアリシアに話しかける。就寝前のアリシアとの語らいは日課となっていて、このとりとめない時間は俺にとって大切な時間だった。

 

『アリシアは二人のことどう思う?』

 

『二人というと……ソウタさんとヒスイさんですか? 二人共イクトさんのことを大切に思っているように感じました。だからこそ、人一倍イクトさんの死にショックを受けてたのだと思います』

 

『……だよなぁ』

 

『お二人にイクトさんのことを話さないのですか?』

 

『……話したいとは思ってるんだけど正直迷ってる。蒼汰に話すなら蒼汰の彼女の嘘を暴くことになって、あいつの交際関係を壊しかねない。翡翠は……』

 

『イクトさんはヒスイさんのこと好きだったのですか?』

 

『……わからない。幼馴染としては勿論大切だったし家族を除けば誰よりも親しい異性だったことは間違いない。だけど、それが恋愛感情だったかどうかはよくわからなかったんだ』

 

『ヒスイさんは多分イクトのこと異性として好きだったんだと思いますよ』

 

『それは薄々俺もわかってたんだ。だけど、当時の俺は心地良い幼馴染の関係が壊れるのが怖くて気づかないふりをしてた。もし、それに自覚してしまったら変わらずにはいられなくなるから……』

 

『だから、正体を明かさないんですか?』

 

『だって、もう彼女が慕ってくれた幾人はいないんだぜ。だったら、今の俺が名乗り出たとして、それは、彼女に辛い思いをさせるだけじゃないのかなって……』

 

『……わたしなら、それでも生きているなら教えてほしいって思いますけど』

 

『……そうだな。翡翠に彼氏ができてほとぼりが冷めた頃に名乗り出ようと思う』

 

『なるべく早くそうしてあげてください……彼女はきっと待ってますから』

 

『それじゃあ、今日はそろそろ寝るね。おやすみ、アリシア』

 

『おやすみなさい、イクトさん』

 

 俺は目を閉じて自分の葬儀のあった一日を終える。

 

 今日をもって如月幾人という存在は名実共に居なくなり、俺は如月アリスとして生きることになる。

 どう考えても前途多難な道のりだけれど、アリシアと二人でならどんな試練でも乗り越えていける――そう思った。

 

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