異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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帰宅

 我が家は市街地から少し離れた住宅街にある分譲地に建つ築10年の一戸建てだ。俺が小学一年生の頃新築された我が家にテンションがあがりまくりだったのを今も懐かしく思い出せる。

 間取りは4LDKで、一階はリビングと客間、二階は両親の部屋と妹の部屋、そして俺の部屋となっている。

 この家に住んでいるのは父親の幾男、母親の優希子、ひとつ下の妹の優奈、それから俺の四人だった。俺は異世界に行ってしまっていたので、現状は三人暮らしのはずだ。

 もっとも、父親は仕事で海外を飛び回っていて家に居ないことの方が多かったが。

 

 一年ぶりに見る我が家は、ほとんど俺の記憶のままだった。

 目につく違いとしてはブロック塀に貼られた色褪せた探し人の張り紙があった。張り紙には俺の名前と写真に特徴、それから母さんの携帯番号が記載されている。これだけでも随分と家族に心配を掛けさせたことがわかって胸が痛んだ。

 そしてもう一つ変わっていたのがこのインターホンで、モニター付きの物になっていた。俺はインターホンの呼び出しボタンを押す。

 ……誰か居るといいんだけど。

 

「……はい、どなたですか?」

 

 応対に出たのは妹の優奈だった。

 その声は随分訝しげだった。

 俺の今の姿なら致し方ない。居留守されなかっただけましだと思うべきだろう。

 

「私はあなたのお兄さんの行方を知っています。お話しさせてもらえませんか?」

 

「……宗教なら間に合ってます」

 

 案の定警戒されまくりだった。不幸のあった家に宗教の勧誘が来るという話は聞いたことがある。こういう話も多いんだろう。

 ……仕方ない、奥の手を使おう。 

 

「あなたのお兄さんから面白い話を聞いたのですが……小学六年生の夏の夜、突然の雷で眠れないあなたはお兄さんの部屋を訪れました。そして鳴り響く雷でトイレに行くことができなかったあなたは……」

 

 俺しか知らない妹最大の黒歴史を語ると、インターホンの向こうで声が震える気配がした。

 

「ちょ!? ちょっと待ってなさい!」

 

 どたばたという音が家の中から聞こえてきて勢い良く玄関ドアが開いた。中から出てきたのは俺の通っていた高校の制服を着た優奈だった。

 

「……とりあえず、中に入って」

 

 通されたのは一階のリビング。玄関の靴を見るに両親は不在のようだ。見知らぬ人を家族のいない家にあげるなんて無用心だぞ妹よ、と思ったけれど、今の俺の姿なら警戒が弛んでしまうのも仕方ないか。

 

『ここがイクトさんのお家なんですね』

 

 アリシアの声が久しぶりに聞こえてくる。ちなみに、先ほどのトイレの後からお互い気まずくて無言だった。

 

 それにしても懐かしい……

 居間の配置は去年俺が出て行った頃とほとんど変わっていない……俺の視界が低くなったことが、一番感じる違和感と言ってもいいくらいに。

 

『ああ。そして目の前のが妹の優奈』

 

 俺が最後にあったときは中学三年生でやや幼い印象のあった優奈はすっかり垢抜けた女子高生になっていてた。

 肩までの黒髪だった髪型は、腰のあたりまで伸びて少し明るめの茶色になっていた。

 女子の平均くらいだった身長も10cm近く伸びていて、制服のスカートから伸びる足はすらっと長くしなやかだった。

 体の成長に合わせて出るところも出ているようで、我が妹ながらスタイルが良い。

 

『この人がユウナさんですか。彼女はわたしより年下なんですよね……』

 

 対して一歳年上であるはずの(アリシア)は小学生でも通じるような完全な幼児体型なので、思うところがあるのだろう。

 

『……アリシアもそのうち大きくなるさ』

 

『イクトさん。言っておきますけど、全くもって他人事じゃないですからね?』

 

 俺は優奈に促されてダイニングテーブルに座る。座面が高くてジャンプしないと座れなかった。足が床に全くつかなくてぶらぶらしてしまうのが落ち着かない。

 

 優奈はダイニングテーブルを挟んで俺の向かいに座って、コスプレめいた格好をした俺の姿を胡散臭そうに観察していた。

 

「……それで、あなたは何を知っているのかしら」

 

「まだ小学生だったんだし、雷が怖くてお漏らしちゃったのは気にしなくていいと思うよ?」

 

「なんでそのことを……!? お兄ちゃん、誰にも話さないって約束してくれてたのに……!」

 

 ……すごい表情をしているぞ、妹よ。

 

「誰かに話したらお兄ちゃんを殺してあたしも自殺するからって言ってたの、お兄ちゃんは忘れちゃったのかなぁ……ねぇ? 君、お兄ちゃんが何処にいるか知ってるって言ったよね……」

 

 そろそろ誤解を解かないとまずそうだ。

 というか、君は兄の行方を聞いて何をする気ですかね!?

 

「誤解があるようだけど、君のお兄さんは秘密を漏らしたりなんてしてないよ」

 

「……え? だったらなんで……?」

 

「だって、俺が幾人だし」

 

俺の言葉に優奈が固まる。

 

「……いやいやいや、おかしいでしょそれは。君のどこをどうみたらお兄ちゃんになるのよ。きょうび、オレオレ詐欺でももっとましな嘘をつくわよ」

 

 まあそうなるよな。

 逆の立場なら俺も同じように思うだろう。

 

「だったら、お前の兄しか知らないことを聞いてみるといいさ。それなら、信じられるだろ?」

 

「……わかった。お兄ちゃんの好きな食べ物は?」

 

「ハンバーグ」

 

「じゃあ……」

 

 それから矢継ぎ早に質問が飛び出てきて、俺はそれに答えていく。中には俺が知るはずもない引っ掛け問題も混ぜられていて、我が妹の執拗さに嘆息した。妹のスリーサイズなんて知らんよ、俺は。

 

「……中学の卒業旅行は誰と何処に行った?」

 

「蒼太と翡翠とお前の四人で蒼太達の親戚がやっている温泉旅館に一泊二日。本当は俺達三人で行く計画だったのに、仲間はずれはズルいってお前が泣き喚くから仕方なく四人で行くことになったんだよな……お前は卒業と関係ないのに」

 

「……泣き喚いてなんかないもん」

 

「まあ、いいけどな。みんなで行けたのは楽しかったし。あれ以降みんなで一緒に何かしたりする機会なんてなかったからなぁ……」

 

 そして、高校に入ってすぐにあった修学旅行で、俺は異世界に召喚されてしまった。

 

「本当にお兄ちゃん……なの?」

 

「ああ」

 

「一年も何をしていたの? 父さんも、母さんも、あたしも、みんな、とっても心配したんだよ。それに、なんでそんな姿になっちゃってるの……?」

 

「話すと長くなる。それに普通じゃ信じられない話になると思うけどいいか?」

 

「うん……全部聞かせて」

 

 それから、俺は修学旅行でフェリーから落ちた後のことを説明した。

 異世界のこと、そして俺とアリシアのこと。

 

「そっか……じゃあ、やっぱり本当にお兄ちゃんなんだ……」

 

「……信じてくれるのか?」

 

「目の前に実物がいる以上信じざるを得ないってところかなぁ……話し方や何かするときの癖とか完全にお兄ちゃんだし」

 

 冷静に振り返ると我ながら荒唐無稽な話だと思う。

 ……優奈をファンタジーや転生物の漫画やアニメに染めておいて良かった。

 

「何はともあれ……おかえりなさい、お兄ちゃん」

 

 いつの間にか優奈の目には涙が浮かんでいた。

 その視線にいつも兄である俺に向けられていた親しみを感じられて、俺はやっと自分の家に帰ってきたという実感を得ることができた。

 

「……おう、ただいま優奈」

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