異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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橋本涼花(その2)

「噂が広まった経緯をお話しても構いませんでしょうか? わたくしの身の上の話になりますが……」

 

 問いかける涼花に、俺は黙って頷く。

 

「昨年までわたくしは海外で暮らしておりました。高校に進学するにあたって祖父が理事長をしている平山高校に入学することになり、わたくしは単身日本に参りましたの」

 

涼花は理事長の孫娘だったのか。……二人きりの同好会なのに会室があるのを不思議に思っていたのだけれど納得した。

 

「当時わたくしはこの言葉遣いもあり周囲と浮いてしまい、自分に自信が持てなくなっておりました。長い髪で顔を隠し、伊達眼鏡で視界を狭め、胸が目立たないように背中を丸めて日々を過ごしていたのですわ」

 

 ……そう言われて脳裏に思い浮かぶ姿があった。

 涼花が話した特徴の目立たない女生徒、幾人のときのクラスメイトにそんな娘が居た気がする。

 彼女が涼花だったのか……今の容貌からは全く面影がない。思い出せなかったとしても仕方ない。

 

「そんなわたくしでも一学期が終わるくらいには、少しはクラスの方とお話ができるようになりました。そんなある日のこと、皆さんは殿方に告白された経験を話し合っていました。わたくしにはそのような経験は無いでしょうと言われたとき、わたくしはそのようなことはございませんと、思わず口から出任せを言ってしまったのです」

 

 涼花は肩を落として苦々しげに言う。そのときのことを悔いている表情だった。

 

「皆はわたくしの言葉を疑いまして、ではどなたがという話となり、わたくしは返答に窮してしまいました。そして、わたくしが苦し紛れに口にしたのが、当時行方不明になっていたクラスメイトである如月幾人さんの名前でした……」

 

 行方不明の幾人の名前を出しておけば真実の程はわからない。万が一帰って来たとしても、戯れに話したことなんて覚えている人なんていないだろう。そう、彼女が考えたとしても不思議ではない。

 

「噂が大きくなったのは、どなたかが言い出した憶測がきっかけでした。如月さんはわたくしに告白を断られたが為に身投げをしたのではないか、と。その憶測は瞬く間に広がっていき、人の間を巡るうちに憶測は確信へと変わっていき、噂話はまことしやかに語られるようになっていきました……」

 

 涼花は一息ついて締めの言葉をいう。

 

「こちらが噂の真相になります。お義兄様(にいさま)に不名誉な噂を流してしまい大変申し訳ございませんでした……」

 

 彼女は頭を下げて謝罪をする。

 

「噂のことは気にしてないから大丈夫だよ。多分幾人義兄(にい)さんも気にしないと思う。私が太鼓判を押すよ」

 

「……そうですか。そう言っていただけるとありがたく思います」

 

「だけど、このことを蒼汰にも話してあげてもらえないかな。あいつ、幾人義兄(にい)さんが自分に話すことの出来ない悩みを抱えて苦しんでいたんじゃないかって、ずっと気に病んでいるみたいでさ」

 

「そんな、蒼汰さんはそんなそぶり、わたくしの前では一度も……」

 

「涼花先輩には心配をかけたく無かったんじゃないか? 私は蒼汰から直接聞いたから」

 

「知らなかった、わたくしのせいで、蒼汰さんにそんな思いをさせていただなんて……」

 

 涼花はすっかり取り乱した様子で、顔面蒼白になっていた。

 口元を手で押さえ、よろめくようにして椅子から立ち上がる。

 その拍子にテーブルの上のティーカップに引っかかり、ティーカップが床に落ちて悲鳴のような音を立てて割れる。

 涼花はその惨状に構うことなく、教室を飛び出していった。

 

「涼花!」

 

 俺は慌てて後を追った。

 涼花は、階段を屋上に向けて上がっていったようだ。

 階段を駆け上がると屋上に続くドアが開け放たれていた。

 

「ちぃ……馬鹿なこと考えるんじゃねーぞ!?」

 

 俺は彼女の後を追って屋上に飛び出した。

 屋上はだだっぴろいコンクリートの陸屋根で、周囲は二メートルくらいのフェンスで囲まれていて、幸い簡単に乗り越えることはできなさそうだ。

 涼花は直ぐに見つかった。彼女は正面のフェンスに右手で掴み、入り口から背中を向けて、行き場を見失った迷い子のように佇んでいた。

 

「涼花、先輩……」

 

 俺は息を切らしながら彼女の名前を呼んだ。

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