異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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女になるということ(その2)

 女性には生理があり、毎月出血を伴う腹痛がある。

 保健体育や身近な異性からの知識で、そんなことは俺も知っていた。だから、俺の体がその状態になっていることは直ぐに検討がついた。

 けれど、突然訪れたそれに、どう対処すればいいかはさっぱり思い浮かばなかった。

 

 授業は中断し、立ち上がった俺は血を垂れ流したままで、クラス中の注目を集めて固まっている。そして、俺の席は血で汚れている。

 さらに、お腹が重苦しくて、針で刺されたかのような痛みが断続的にやってきている。

 

 いっそ、倒れて意識を失ってしまっていれば楽だったのかもしれない。だけど、1年間の異世界生活の中で俺は血や痛みに耐性が出来ていた。

 

「アリス大丈夫?」

 

 教室の沈黙を破ったのは優奈だった。気がついたら側に立っていて心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。

 

「……結構辛い」

 

 体調は最悪と言っていいくらいだ。

 

「アリス今日しんどそうだったものね」

 

「急に来たの? 大丈夫?」

 

 いつのまにやら純と文佳、そして他にも親しくしてくれているクラスの女子達が俺を取り囲んでいた。俺を男子の視線から隠してくれているらしい、ありがたい。

 

「保健室に行こうか……歩ける?」

 

「あ、うん……多分大丈夫だと思うけど、これ……」

 

 俺は太ももに垂れてきている血の筋を見る。

 優奈はタオル地のハンカチを取り出して俺に差し出た。

 

「これで拭いて」

 

「でも、汚れちゃう……」

 

「そんなの構わないから……それとも私が拭いたげようか?」

 

 こんな所で百合姉妹なんて披露したくない。俺は優奈から素直にハンカチを受け取ることにした。

 太ももに垂れた血を拭う。スカートの中も拭いてしまいたいけれど、注目を浴びている状態でそれをするのはあまりにもはしたないように思えた。

 とりあえず、スカートの裾から手が届く範囲で我慢しよう。

 

「先生、アリスは体調不良のようですので、保健室に連れて行きます」

 

「あ、ああ……お大事にな」

 

 壮年の古文の男性教師は優奈がそう言うと、ほっとしたように息をはいて保健室行きを了承した。

 

「付き添いは、誰かお願い出来る? あたしはここを片付けをしないといけないから」

 

「優奈が付き添いなよ、掃除はボク達でやっとくからさ」

 

 純がそう申し出る。

 

「けど……」

 

「純の言う通りよ。片付けは私達で終らせておくからアリスと一緒にいてあげて?」

 

 文佳が純に同意した。他の女の子も同じように優奈をうながして、俺と一緒に送り出そうとしてくれている。すでに、先生に許可を貰って雑巾とバケツを取りに行った娘もいるようだった。

 

「わかったわ……みんな、ありがとうね」

 

「……みなさん、ごめんなさい。ありがとう」

 

 汚いものを処理させてしまうことに非常に申し訳ない気持ちになりながら、俺は皆に謝罪と礼を言う。

 

「気にしないの。困ったときはお互いさまなんだから、ね?」

 

「先生も授業を中断してしまい申し訳ありませんでした……失礼します」

 

 俺は優奈に手を引かれるようにして教室を出る。

 垂れてこないように内股でひょこひょこ歩きになってしまって情けない。

 

 教室から出た俺達がまず向かったのは、教室のすぐ隣にある女子トイレだった。

 まずは、この酷い有様をなんとかしたかった。

 

「あたし着替えを取ってくるから、その間に綺麗にしておいてね」

 

 トイレの中で優奈と別れて俺は個室に入った。

 

『ごめんなさい、イクトさん』

 

 個室の中でアリシアが俺に謝罪してきた。

 俺は、スカートを脱いで落とす。

 真っ赤に染まった下半身が目に入って思わず息を飲む。

 

『……どうして謝るの? アリシアはこうなるってわかってた?』

 

 迷ったがショーツも脱いでしまうことにした。

 血塗れのものを履いているのは気持ち悪いし、衛生的にも良く無い。

 替えが無かったらそのときに考えよう。

 

『わたしも経験が無かったことなので思い至りませんでした……ですが、ミンスティア様の御加護が切れて、わたしに掛かっていた老化減退の恩恵もなくなっていました。いつかはこの日が来とわかっていたのですから、わたしがもっと気をつけておくべきでした……』

 

 俺は、ショーツを脱いで便器に腰を落とす。

 ポタポタと血が白い便器に落ちて濃い朱の花を咲かせていく。

 ちょっとグロいな……

 

『あれ? それって本当の話だったんだ。てっきり成長が遅いことに対する言い訳だと……』

 

『へぇ……イクトさんはそんな風に思ってたんですか』

 

 やばい、失言だ。

 

『とにかく、知らなかったものは仕方ないさ……それより、これって落ちるのかなぁ』

 

 脱いだスカートを掲げて見ると、お尻の部分が赤く汚れてしまっていた。

 

浄化(ピュリファイ)で汚れは落とせますけど、白以外の服だと色も纏めて落としてしまうんですよね……』

 

 アリシアの法衣が基本白一色だった理由が思いがけず判明する。

 汚れが落ちることを祈りながらスカートを畳んでおいて、脱いだショーツをその間に挟み込んで隠して、トイレのタンクの上に置いた。

 

『ですが、大丈夫ですか? その……こういったものを他の人に、特に男性の前で晒してしまったのは、抵抗のあることだと思いますけれど……』

 

 下半身裸になった俺は、トイレットペーパーで汚れを拭きとっていく。

 個室内には酸っぱい臭いが漂っている。

 

『俺はそこまで気にしていないかな……多分そんなに実害は出ないと思うよ。ただでさえ、男子には触れづらい話題だし』

 

 うっかりからかおう物なら、クラスの女子から総スカンされる危険性もある。

 男子の間でこっそりとエロネタとして話されるのはあると思うけど、まあ、これは仕方ない……アリシアには申し訳ないけれども。

 

『それよりも、この痛みが毎月来るって思うとそっちの方が憂鬱だよ』

 

 気持ちが落ち着くと、その分お腹の痛みが改めて意識されて辛い。

 

『……そうですね。わたしも存在は知っていましたけど、実際経験してみると思った以上にしんどいものですね』

 

 俺達は二人して溜息をついた。

 

 一通り清め終えた頃に優奈が帰ってきてドアがノックされる。

 

「アリス、着替え持ってきたよ。鍵を開けて」

 

 今下半身裸なんだけれどな……とも思ったが、今更優奈相手に気にしても仕方ないか。

 俺は個室の鍵を開ける。

 

「アリス、体の具合はどう?」

 

 心配そうな顔で覗きこんできた優奈は手に紙袋を持っていた。

 

「体操服持ってきたわ。後は保健室で替えのショーツ借りてきたからこれ使って……あと、これナプキン、使い方はわかる?」

 

「……そんなのわかる男子高生は居ないと思う」

 

「わからない女子高生も居ないと思うけどね……それじゃあ、教えてあげるから中に入るわね」

 

 優奈が個室に入ってきて後ろ手に鍵を閉める。

 それから、トイレに座って新品のショーツを膝まで履いた状態で、優奈のナプキンの使い方講座が始まった。

 

 ……これって、誰かに見られたらすごく恥ずかしい状況だよね。

 

 けれど、優奈は俺のことを心配して真面目に教えてくれているので、変なことは頭の外に退けて話に集中する。

 

 女子がポーチを持ってトイレに行くことがある理由がわかった。

 ……てっきり化粧道具とかが入っているものとばかり思ってたよ。

 

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