異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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お風呂と着替え

「ふぃぃぃ……」

 

 俺は浴槽の中で脱力していた。

 いろいろ刺激的すぎてぐちゃぐちゃになった頭の中がゆっくりほぐれていくようで――

 

『お風呂気持ちいいですねぇ……』

 

 アリシアもそれは同じようだった。

 力の抜けた声が脳内に響く。

 

 脱衣場でのやり取りの後、体を洗うのもまた一苦労だった。

 まず、髪が長すぎてうまく洗えなかった。普通にしてたらなかなか泡立たず、リンスインシャンプー(父、幾人用)を大量に使ってしまった。

 それから、肌が敏感すぎて今まで使っていた垢擦りタオルを使おうとしたら痛くて肌が赤くなってしまった。

 かといって、手にボディーソープをつけて洗おうとすれば、アリシアがくすぐったがって声を出して変な気持ちになったりとすったもんだした。

 どうやら、同じ刺激でもアリシアは自分で何処を触るのかが分からない分、他人に触られるのに近い感覚になるらしい。

 

「お兄ちゃん、アリシアさん、湯加減はどう?」

 

 優奈の声が洗面所から聞こえる。わざわざ聞きにきてくれたのか?

 

「おー気持ちいいぞー」

 

『気持ちいいですー』

 

 湯船に漂う髪がくらげのようだな、なんて思いながら優奈に返事する。

 

「それは良かった……それじゃあ、着替えここ置いとくから」

 

「わかった。ありがとー」

 

『ありがとーございますー』

 

 そう言い残して洗面所から優奈の気配が消える。

 よく気がつく妹だな、わざわざ着替えを持ってくるなんて。

 

 ん……着替え?

 

『どんな服なんでしょー楽しみですー』

 

「――しまった!? 謀られた!」

 

 俺は慌てて立ち上がっると、洗面所に飛び出す。

 水を吸い込んだ髪が重く身体に張り付くが、気にしてはいられない。

 

『ど、どうしたんですか! 野盗の襲撃ですか!?』

 

 洗面所には既に優奈の姿は無くて、畳まれた衣類が残されていた。

 

「……やられた」

 

 さっきまで着ていた法衣や、俺が準備していた着替えは優奈によって持ち去られていた。

 バスタオルで体をざっと拭いてから、置かれた着替えを手に取って見てみる。

 

 一番上に置いてあったのは、ピンク色のワンピースで、襟口や袖回り、そして胸元に白のフリルの装飾が施されている女の子らしい服だった。

 

『!? ……か、可愛い!』

 

 次に手にとったのは、黄色いパステルカラーのリボン付きキャミソールに揃いのショートパンツ。これは、さっきの服の下に着る用か。

 

『これも、凄く可愛いです!』

 

 それから、白のスリップに白地にピンクの横縞が入った女性用のパンツって……おいぃぃっ!?

 

「いったい、優奈のやつはなに考えてやがりますかね!?」

 

「何考えてるって言いたいのは、あたしの方よ。アリシアさんになんて物を着せようとしてたわけ、お兄ちゃんは?」

 

 意外に近くから返事があった。優奈は洗面所の前で様子を窺っていたらしい。

 

「アリシアじゃなくて、中身俺だから!? 服を貸してくれるのはありがたいけど、下着はダメだろ、下着は……」

 

「大丈夫。買ってはみたんだけどサイズを間違えて買っちゃったやつで、あたしには小さくて……あんまり履いてないやつだから」

 

 ……それでも、何回か履いてるのか。

 妹が着用したパンツを履く兄、人として余裕でアウトだろう。

 

「……俺のパンツだけでも返してもらえないか?」

 

「ダメ! こんなのを履いてるっていうのはあたしが嫌なの。下着は女の子にとって大事なものなのよ! ねぇ、アリシアさんもそう思うでしょ?」

 

『イクトさん、わたしも女性用のほうが落ち着きます……ダメですか?』

 

「……はぁ、わかったよ。降参、俺の負けだ」

 

 二対一になった時点で俺に勝ち目はない。

 

「着方が分からなかったら手伝うけど?」

 

「要らん! 誰が頼むか!」

 

 ……これ以上兄の尊厳を犯されてたまるか。

 

 しっかりと、バスタオルで体を拭いて(髪にやたらと時間が掛かった)から、俺は無心になって妹の服を身につけていく。

 

『この下着伸び縮みする素材で履きやすくて良いですね!』

 

 アリシアの言う通り、正直さっきまで履いていた紐パンよりも包まれる安心感があって履き心地は良い……だけど、コメントはしたくない。

 

『この服もかわいい……!』

 

 全般的にテンション高めのアリシアを置いておいて、俺は黙々と残りの服を着た。

 

 着替えが終わって俺は鏡に自分の姿を映す。

 鏡の前にはすっかり乙女ちっくな恰好になった(アリシア)が居た。

 正直かなり似合ってると思う。アリシアがこれを着ていたら素直に称賛してただろう。

 

 ……まあ、この恰好なら外に出てもそれほど悪目立ちはしないだろうし、そこは正直ありがたい。

 

 鏡とにらめっこを終えて、俺は脱衣所のドアを開ける。そこにはスマホを構えた妹が居た。

 

「ちょっ……!? 勝手に写真撮るなよ!」

 

「いいじゃない、すごく似合ってるし。その服買ったはいいけどちょっと可愛すぎてあたしには似合わなくて、そのまま着れなくなってたの。従妹にでもあげるかなーと思って、取っておいてよかった」

 

「……ネットには載せるなよ?」

 

「そんなのわかってるわよ。……けど、お兄ちゃんの写真結構出回ってるみたいよ? 地方都市に謎の外国人コスプレ幼女が出没したーって。つぶやきアプリのまとめを見たら、詳細は不明って終わってたけど」

 

 マジで。

 確かに家まで歩いてくる間、写メも結構撮られてた気もするなぁ…… 

 それにしても、もうまとめができるほどだなんて。

 まあ、個人情報につながるものが無ければただのコスプレ写真だから問題はないだろう。忘れよう。

 

「……ところで、お兄ちゃん」

 

 優奈がにやりと笑った。すごく嫌な予感がする。

 

「あたしのパンツを履いた気分は如何かしら?」

 

「なっ……」

 

 この妹、なんてことを聞いてくれますか!?

 俺が妹のパンツを履いて喜ぶような変態とでも思っているのか。

 

 そう文句を言おうと妹を見るが――妹の目は全く笑ってなかった。

 

「――お兄ちゃん例のこと誰かに話したら、お兄ちゃんが妹のパンツを履いて喜ぶ変態だって噂が世間に広まるから。だから……わかってるよね?」

 

 ……こいつ、自爆覚悟で兄の弱味を握りに来やがった!?

 

 俺は妹の必死さにドン引きしながら、黙って首を縦に振るしかなかった。

 

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