異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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神代翡翠(内湯)

 洗い場に背を向けた状態で俺は浴槽に浸かっていた。背後の洗い場からは翡翠が体を洗っている物音が聞こえている。

 

 ……俺はどうするべきなのだろうか。

 

 早々にお風呂を出る?

 当面の危機は脱することができるけど、それは明確に翡翠を拒絶してしまう事になる。そうなれば、旅行は台無しになってしまい思い出が欲しいと言った翡翠の願いを無碍(むげ)にすることになるんじゃないだろうか。

 

 だったら、このまま一緒に温泉に入るのか?

 翡翠に恋人としての関係求められたなら俺は応えることは出来ない。だけど、一緒にお風呂というのは微妙なところだ。

 異性の友人であったなら明らかにアウトなケースだが、同性の友人であったなら一緒にお風呂くらいは普通のことだろう。

 俺が今後翡翠と築いていきたい関係は同性の友人としてのものなので、それならば、通常のスキンシップの範囲であるとも言えるのかもしれない。

 

 だけど、それは本当に許される事なのだろうか?

 現に翡翠の裸を見る事に期待している自分がいるのは否定出来ない。そんな俺が翡翠の体を見るのは裏切り行為のように思えてならない。

 

「どうしたの? 難しい顔して」

 

 傍らからした声に俺は顔を上げて応える。

 

「このまま翡翠とお風呂一緒に入っちゃってもいいのかなって……」

 

 振り向いた先には髪をタオルで巻いた翡翠がいて……

 

「うわぁぁぁ、ひ、翡翠……!?」

 

 俺は慌てて翡翠に背を向けて飛び退く。

 見てしまった。見事な曲線を描いている翡翠の胸のふくらみ、そして先端部の桃色の突起部も。

 

 でかい。

 大きさは明らかに優奈より上だった。それがすべてじゃないけれど、サイズはそれだけで分かりやすいインパクトがある。

 そんなこと考えてる場合じゃないって、わかっちゃいるけど、脳裏に焼き付いた肌色と桃色が頭から離れない!

 

「……別に逃げなくてもいいじゃない」

 

 背後から何かが覆いかぶさる気配がして、両肩越しに白くて長い腕が伸びてきて俺を拘束する。

 そのまま俺は後方に引き寄せられた。小柄な俺の体は翡翠の力でも簡単に動かされてしまう。

 

「ひゃぁ!?」『……んっ!』

 

 体勢を崩した俺は思わず悲鳴をあげる。

 後ろに倒れ込んだ俺の頭は、柔らかいふたつの膨らみに受け止められた。左右の膨らみに後頭部が埋もれるように沈んで、反動でぽよんと押し返される。

 気がついたら、俺は完全に翡翠の膝の上で抱きかかえられる格好になっていた。後頭部は翡翠の胸の谷間に収まっている。

 

「ちょ、翡翠!? 何を……!」

 

 俺は慌てて体をくねらせて逃げようとするが、後ろから翡翠に両腕でがっちりと拘束されていて逃げだす事はできない。動く度に後頭部を包み込む翡翠の胸がふにふにと形を変えて、柔らかさを伝えてきてやばい。

 

「ただの女同士のスキンシップじゃない、大げさね」

 

「ただのってレベルを超えてる気がするんだけど!?」

 

「だって、優奈ちゃんとも時々こうやって一緒に入ってるんでしょ?」

 

 優奈はいったい何を翡翠に話してるんだ。

 ……というか、家のお風呂で後ろ抱っこになるのはスペース的な理由で仕方なくだと思う。

 そもそも、優奈にはここまで体を預けたりはしていない。

 

「アリスはとても抱き心地がいいって自慢されたから、羨ましいって思ってたの……確かにこれは癖になりそうね」

 

 優奈は何を自慢してるの!? それに、癖になるって……確かに最近は当たり前のように優奈の膝の間に収まってた気がするけど……え? ええ!?

 

「優奈ちゃんと入ってるなら、私とも入ってくれていいでしょ? こんなの、女同士なら当たり前のスキンシップよ」

 

「わ、わかったよ……」

 

 女子は男子と比べてスキンシップを好むという話を聞いたことがある。だから、ひざ抱っこでお風呂に入るのも案外普通のことなのかもしれない。

 それにしても、さっきから耳元で囁くのはやめて欲しい。なんだかくすぐったくて、ぞわぞわしてしまうのだ。

 

 俺が受け入れたことで、肩の後ろから回されていた翡翠の腕の拘束が外された。

 

「逃げたりしないから、上半身だけ起こさせて……」

 

 懇願するように俺は翡翠に言う。このままでいると俺の理性がやばい。これは男をダメにする柔らかさだ。このままだと何か間違いを起こしてしまうかもしれない。後、黙っているアリシアが怖い。

 

「……仕方ないわね」

 

 翡翠は俺の提案を受け入れてくれた。俺は体を起こして桃源郷から離脱する。

 柔らかさの暴力から開放されて、ようやく俺はほっと一息つくことができた。

 

「……大丈夫、重くない?」

 

 下に敷いてしまっている翡翠が気になって俺は翡翠に声をかけた。

 

「全然平気よ。アリスは軽いもの……ほんと、無駄なお肉が全くついていないのね。少し憎らしいくらい」

 

「ひゃっ!?」『ひゃぃ!?』

 

 突然翡翠の両手がお腹に触れてきて、俺は思わず悲鳴をあげる。

 同時に今まで沈黙していたアリシアの悲鳴も聞こえてきた。

 

「あら……アリシア?」

 

 翡翠はそのまま俺のお腹を撫で回してくる。

 

『ちょ……ヒスイさん!? 待って……それ、くすぐったいですからっ!』

 

「ちょ……翡翠っ……やめっ……!」

 

「感覚共有してるのって、なんだか不思議ね……」

 

 翡翠は両手の指をわきわきさせてお腹をくすぐってくる。こそばゆいような焦れったいような刺激に俺は体を強張らせる。

 

『ふぁっ……んっ……くぅ』

 

 頭に響くアリシアの悩ましい声が俺の思考を溶かしていく。

 翡翠の右手の人差し指がヘソの穴をなぞるように動いて、同時に左手の指が恥骨の辺りを探るように蠢いている。

 

「だめぇ……翡翠っ……!?」

 

 危機感を覚えて俺は静止の声を上げる。()()は絶対にスキンシップの範囲じゃないのは俺でも分かる。

 

「……あら、やっぱり生えて無いのね」

 

 翡翠はそれを確認して満足したのか、それ以上その部分に手を進ませる事はなく、手を離したので俺はほっと一息ついた。

 

 だけど、安心したのも束の間、翡翠の左手が今度は太ももに置かれた。

 

「ここもすべすべね……羨ましいわ」

 

 指先で内太ももに触れるか触れないかくらいのタッチで撫でてくる。肌の表面がぞわぞわするような感触に体を震わせる。

 翡翠の右手の指は俺を拘束がてらおなかのヘソ周りを弄んでいて、俺達は翡翠の指の動きに翻弄されるがままに声をあげさせられた。

 

 しばらくして翡翠の手が動きを止める頃には、俺の息は絶え絶えで、頭の中はぐちゃぐちゃに掻き乱されてしまった。

 温泉に浸かっていることもあり、すっかりのぼせてしまった肌は上気して桜色に染まってしまっている。

 

   ※ ※ ※

 

『ヒスイさん、どうしてこんなことを……?』

 

 俺が息を整えている間に、息の乱れることのないアリシアが、翡翠に問いかける。

 

「アリシアが余裕綽々だったのが、ちょっとイラッとしたから……かな?」

 

 翡翠から帰ってきたのは棘のある言葉だった。彼女がストレートにこういう台詞を使うのは珍しい。

 

「アリシアはどうしてさっきの間ずっと黙っていたの? ずっと、私達のこと見ていたんでしょう?」

 

『イクトさんとヒスイさんのお話でしたから、私が口を挟むべきじゃないと思ったからです』

 

 念話はグループで繋いでいる間は参加者同士が個別に話す事は出来ない。だから、今アリシアが話せばそれは翡翠にも聞こえることになる。

 

「私の考えは前に伝えたよね。あなたはそれでいいの?」

 

 前……文化祭のときに翡翠とアリシアの二人で話したときのことだろうか?

 翡翠の問いに、アリシアは返答をしかねている様子だった。

 その態度は、翡翠の癪に障ったようで苛立った表情を見せる。 それは、幾人として見たことの無い翡翠の表情で、俺は困惑する。

 

「……なによそれ、正妻の余裕ってやつ?」

 

『そういうのじゃ無いです……』

 

 ……何でこんなことになっているのだろう? さっぱり訳がわからない。

 

『イクトさんのことは、イクトさん自身が決めるべきです』

 

「あなた自身の考えはどうなのよ? あなたは幾人が誰を選んでも平気だって言うつもりなの!?」

 

『……っ!』

 

 アリシアの感情が高まっているのがわかる。だけど、それ以上言葉は紡がれることはなく、アリシアはそのまま押し殺すように口を閉ざした。

 

「……わかったわ。あなたは私と同じ土俵にあがるつもりも無いってこと」

 

 俺の体がひょいっと持ち上げられて、翡翠の上から退かされる。

 翡翠はそのままお湯からあがると、温泉から出て部屋に戻っていった。

 

 ……え? これは俺にどうしろと……?

 

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