異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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兄妹(アリシアの戸惑い)

 俺は学校から帰宅すると、そのままリビングのソファーにうつ伏せに倒れ込んだ。

 あれからアリシアとは一言も話をしていない。

 

 玄関ドアの開く音がして、優奈のただいまの挨拶と物音が聞こえてきた。

 リビングのドアが開いて優奈が近付いてくる気配がする。

 

「アリス……寝てるの? 寝るなら制服着替えてからにしなさい。皺になるわよ」

 

「……大丈夫だから放っといて」

 

「そんな水揚げされたマグロみたいな状態で、大丈夫って言われても説得力無いわよ……いったいどうしたの?」

 

 コの字型に配置されたリビングのソファーの上辺に優奈が座る気配がする。ちなみに俺は中棒に頭を上辺側に向けて突っ伏している。

 

「確か部活に行くって言ってたわね……蒼兄に合って話が拗れたとか」

 

「蒼汰には今日も会えなかったよ」

 

「……じゃあ、翡翠姉と何かあったの?」

 

「……」

 

「図星……みたいね。どうせ翡翠姉に誘惑されたアリスが動揺してアリシアを怒らせたとかその辺でしょ?」

 

 優奈は鋭く核心を言い当てて来る。

 

「な……なんで、そんな事わかるんだ!?」

 

「わかるわよ、そんなの……ねぇアリシア聞いてる? よかったら、私に話してみて。アリスに聞かれたくないなら、直通念話でもいいから」

 

『ユウナ……』

 

「大丈夫? ……ふたりで話しする?」

 

『いえ、このままでいいです。イクトさん、体を起こして貰ってもいいですか』

 

 俺はアリシアの要望に応えて体を起こし、ユウナに向き合うようにして座り直す。アリシアは俺に礼を言ってから話し出す。

 

『今日の放課後のことでした。部室でヒスイさんと会いまして、クリスマスパーティの話になり、みんなで一緒に行くことになりました』

 

「翡翠姉、クリスマスパーティ来るんだね……」

 

『それから、その後の予定も開いてるとヒスイさんから間接的にお誘いがあったのですが、その日の夜はふたりで過ごすと約束していたのでイクトさんはお断りされました』

 

「……それだけ? 聞く限りだと特に問題は無いように思えるんどけど……」

 

『それは、その……わたしたちは体を共有してるのでわかってしまうんです。ヒスイさんに誘われてイクトさんの体がどんな反応したのか、とか……』

 

 アリシアの濁した言葉で優奈は事情を察したらしく、俺に対する視線が大変冷ややかなものになる。

 

「アリス、あなたねぇ……」

 

 優奈は心底呆れた口調で俺を非難する。

 

「うう、面目ない……」

 

 俺は返す言葉もない。

 温泉旅行で翡翠に誘惑されてからの俺はダメダメだ。アリシアに好きって告白しておきながらのこの体たらく、我ながら情けない。

 

「アリスが悪いのはわかった。アリシアが怒るのも無理ないよ」

 

『……違うんです!』

 

 アリシアが優奈の言葉を否定する。

 ……何が違うんだろう? 悪いのは俺のはずだ。 

 

『その事でわたしはイクトさんを責めるつもりはありませんでした。わたしがショックを受けたのはもっと別の――わたし自身のことなんです』

 

「……アリシア自身のこと?」

 

『ヒスイさんに誘われて、イクトさんは反応してしまいました。だけど、それはわたしも一緒だったんです……』

 

 罪を懺悔するような口調でアリシアは告白する。

 

『あの晩わたしは我を無くす程、快楽に溺れてしまいました。それからというもの、もう一度彼女に快楽を与えられたならと考えてしまう自分が居るのです……』

 

 あの日、翡翠によって与えられるもどかしい快楽の連続に俺は陥落してしまった。

 だけど、翡翠は俺だけの同意では満足せず、アリシアからおねだりの台詞を引き出すまで、その後も散々焦らし続けたのだ。

 

『わたしはイクトさんに身も心も捧げる事を誓ったというのに、イクトさん以外の人に体を触れられる事を期待してしまっているのです。そんな自分に気がついてしまって、わたしは怖くなってしまって……』

 

 翡翠の責めに屈してなすがままに俺が声をあげていたときも、必死で耐えようとしていたアリシア。

 俺の声に反応して俺の名前を呼びながら縋るように謝罪の声をあげていたアリシア。

 そして、翡翠の行為を拒み続けていたアリシアが、積み重なる快楽に段々と狂わされて堕ちていく様子に、俺は同じ快楽を受けながら倒錯的な背徳感に満たされていった。

 

「大丈夫だよ、アリシア……私も一緒だから……」

 

 という俺の言葉で、アリシアの最後の心の堤防が決壊して、その後はひたすら二人で翡翠に溺れたのだった。

 

『……イクトさんは、こんなわたしの事を軽蔑してしまいましたか?』

 

 アリシアは不安を隠せない口調で俺にそんな事を聞いてくる。

 

「そんな訳ないじゃないか! そもそも、原因を作ったのは全部俺だから」

 

『ですが、わたしはイクトさん以外の方から与えられる快楽にこの身を委ねてしまいました』

 

「委ねさせたのは俺だから……嫌な思いをさせてしまったのなら本当にごめん」

 

『嫌……では無かったです。ですが、わたしはそんな自分自身に混乱してて……』

 

「ちょっとごめん、いい? ……アリシアはアリス以外の人からって事を重視しているみたいだけど、二人はずっと一緒なんだから浮気とはまた違うんじゃないかな?」

 

 優奈がアリシアに諭すように言う。

 

『そう、なのでしょうか……?』

 

「アリシアはアリスと一緒だったから、翡翠姉に何をされても受け入れることが出来たんだと思う。だから、アリシアはアリスを裏切ったんじゃないかとか、そういう心配はしなくていいと思うよ」

 

 優奈の言葉に続いて俺は補足をする。

 

「そもそも私は浮気されたとか一切思って無いから。アリシアも一緒だって思ったからあれだけ私も、その……気持よくなったと思うし。それに、もしアリシアがああいうのが嫌っていうのなら二度としないって誓うよ」

 

『あ、いえ……ええと……イクトさんが嫌じゃなければ、わたしは嫌じゃないというか……正直、わたし自身も良くわからないのです』

 

 アリシアは自分自身の中に生じた感情を扱いかねて戸惑っている様子だった。

 

「そんなに気になるなら、翡翠姉に言ってみてもう一度だけ試してみればいいんじゃない? 多分喜んで付き合ってくれると思うわよ」

 

 優奈はそんな提案をする。

 

『……でも、それは怖いです。もし、もう一度ヒスイさんにお願いしてやっぱり違うってなったときに、ヒスイさんだともう歯止めがきかなくなりそうで……』

 

 一度きりという建前があるから、翡翠は俺への正面からのアプローチを控えている部分がある。

 それを開放してしまったら、どういう結果になるのかは確かに想像出来ない。

 

『……ですから、ユウナにお願いするのは、ダメですか……?』

 

 その、アリシアの発したお願いは、俺達の想像できる限界を遥かに超えていた。

 

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