異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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兄妹(本当の気持ち)

「……横に座るね」

 

 着替えを部屋の隅に置いた優奈は、ベッドに座った俺の隣に並ぶようにして腰を下ろした。

 握りこぶしひとつ分も空いていないくらい密着しているのは、これからすることを考えたら当然とも言えるが、俺の内心は平静では居られなかった。

 優奈が身じろぎする度に剥き出しになった腕や肩があたる。優奈との肌の接触なんて数え切れないほど経験していることなのに、胸の鼓動が抑えられない。

 優奈からふんわり柔らかい柑橘系の香りがほのかにする。

 

「……優奈、香水つけてる?」

 

「うん……アリスは嫌だった?」

 

「そんなことない。いい匂いで、その……」

 

『イクトさん、どきどきしちゃってますね。ユウナ、すごく色っぽいです』

 

「「……っ!」」

 

 アリシアの開けっぴろげな感想に、俺と優奈は揃って顔を赤くして黙り込んでしまう。

 だが、気まずい沈黙は、その後に続けられたアリシアの言葉で直ぐに破られた。

 

『それじゃあ、最初はキスからしましょうか』

 

 アリシアは事も無げに言った。

 

「ちょ、ちょっとまってアリシア! 優奈のファーストキスを俺が奪ってしまうのはまずい! それに俺だって――」

 

『イクトさんと一緒だから、身体を重ねるのは浮気じゃないって話ですよね。だったら、キスだけダメっていうのはおかしくありませんか?』

 

「そ、それはそうかもしれないけど……」

 

 あの翡翠ですらキスは遠慮したのだ。女の子にとってキスが特別っていうのは、俺でも何となくわかる。

 ……それに、俺だって初めてだし。いや、男のファーストキスなんてどうでもいいんだけど。

 

「いいよ、キスくらい。それに、あたしのファーストキスは小さい頃にお兄ちゃんにあげちゃってるから、いまさらだよ?」

 

「そ、そうだったっけ……」

 

「やっぱり覚えてないかぁ……まあいいわ、さっさとしちゃいましょ?」

 

 そう言って優奈は俺にむけて少し俯き気味に唇を突き出して、目を閉じた。

 口と口を重ねる。言葉にすると、ただそれだけの行為なのにいざというとなかなか踏ん切りがつかない。幼い頃はノーカンとしても、自分の意思でキスをするのなんて初めてだった。

 

『イクトさん、ユウナに口付けを……』

 

 じれったくなったのか、アリシアが囁くように俺を促してくる。俺は考えることを止めて、顔を優奈に近づけていく。

 眼前に目を閉じて待っている優奈の顔が迫り、俺も瞳を閉じた。

 ふんわりと柔らかい感触が唇に触れる。

 

「ん……」

 

 柔らかい箇所が重なって、温もりが伝わってくる。

 俺は鼻息が優奈に掛からないように、呼吸を浅くする。

 

『はぅ……』

 

 上気した吐息のような声をアリシアはこぼした。

 

『イクトさん……舌をユウナの口に入れて下さい』

 

 アリシアの指示に、優奈が一瞬ぴくりと緊張したのが触れた唇から伝わってきた。だけど、優奈からの反論や抗議はこなくて……それどころか、行為を促すように唇が少しだけ開いた。

 

 既に梯子は外されている。

 いくばくかの逡巡の後、覚悟を決めて俺はキスを深くした。

 

 口をうっすら開いておずおずと舌を伸ばしていく。

 舌先が優奈の唇に触れて、優奈がぴくりと震えた。舌を唇の形を確認するように這わせてから、開かれた隙間から優奈の口内にゆっくり侵入させていった。

 

 柔らかく湿ったものが触れる、優奈の舌だ。

 俺は挨拶をするように舌先で突っついた。

 ざらりとした感触がして、敏感な粘膜同士が触れ合う。

 電流が走ったかのような快楽に脳が震えた。

 その感覚を確かめるように、舌を優奈の口内で動かした。

 その度に快感が引き出されて、俺は夢中になって優奈の口内を(むさぼ)る。

 やがて、優奈が俺の舌に合わせるようにおっかなびっくりで舌を動かし出す。

 粘膜が触れ合い、お互いの唾液が混ざり合う。全身の感覚が舌先に集中したかと思えるくらいに没頭していた。

 俺達は舌を絡め合って、お互いの快感を引き出していく。

 

『ふぁ……イクトさん……もっと、もっと欲しいです』

 

 アリシアの睦言を聞きながら、行為は加速していった。

 手で優奈の頬を支えて顔を固定して、舌を奥へと侵入させる。意思をもった生物のように舌が絡み合い、はしたない水音を響かせる。

 

『はぁ……キス、気持ちいいです。イクトさん……』

 

 目を閉じてアリシアの声を聞きながらキスしつづけていると、一瞬、アリシア相手にキスをしているような錯覚に陥る。

 求めても叶わないものを求めるように、俺はさらに夢中になって行為に没頭していった。

 俺とアリシアと優奈が、混ざりあって溶けていく。そんな感覚に身を委ねた。

 

 ――どれだけの時間が経ったのだろうか。

 俺は呼吸が苦しくなっても行為を続け、優奈も俺が求める限り応えてくれた。

 唇が離れたとき、唾液が唇の間に一瞬糸を引く。

 ぼんやりとした視界のなかに、とろんとした表情の優奈がいた。二人の唾液で口の周りがべとべとになっている。

 お互い息も絶え絶えになって、はぁはぁと肩で息をしていた。

 

『……とても、素敵でした』

 

 うっとりとしたアリシアの声が脳内に響いた。

 

「……キスってすごいんだな。俺、こんなに気持ちいいものだなんて知らなかった」

 

『わたしも知りませんでした……いっぱい、濡れちゃいましたね』

 

 俺の体の状態はアリシアに筒抜けだ。

 だけど、その状況を優奈に聞こえるように言うのはやめてほしい。

 俺は思わず優奈の様子を気にするが、彼女はさっきの言葉も耳に入らなかったようで、黙ったまま俯いていた。

 

「……どうした、優奈?」

 

「ご、ごめん……大丈夫だから。ちょっとぼーっとしちゃってて……」 

 

 無理もない、優奈もキスの経験なんて無かっただろうし初っ端から刺激的すぎる行為だっただろう。

 

「そう言えば、今日のアリスって口調が昔のままなんだね」

 

「あ、そうだね……さっき考え事をしてからなんだか戻っちゃってて……気になるなら戻すけど、どうする?」

 

 アリスの口調はすっかり体に馴染んでいて、普段は幾人だったときの口調は無意識レベルでしか出てこない。

 今口調が戻ってるのは妹を強く意識したからだろうか? だけど、戻そうと思えば問題なく戻せるはずだ。

 

「べ、別にそのままで大丈夫だけど……」

 

 優奈は何故か視線を背けながら、そう言った。

 

『ユウナもイクトさんの呼び方をお兄ちゃんって戻してもいいんですよ?』

 

「な、なっ……なんで!?」

 

『だって、ユウナはイクトさんの事大好きじゃないですか。わたしやアリスに対する好きとは別の気持ちですよね?』

 

 ……それって、優奈がブラコンってことだろうか。

 

「ち、ちが……そんなことない! 私の好きは家族としての好きなの。私はあなた達のお姉ちゃんだもの」

 

『それはイクトさんがアリスになってからの話ですよね? ……別に隠さなくてもいいと思いますよ、わたしは』

 

「で、でも、そんなの普通じゃないもの。兄妹でなんて周りから白い目で見られるし、パパもママもきっと悲しむ」

 

『ほんとにそうですか? 今のイクトさんとユウナは血の繋がりはありません。それに、女同士って時点で普通では無いと思いますよ。だから、もういいんじゃないですか? ユウナのその気持ちを開放してあげても』

 

「でも、お兄ちゃんに拒絶されたら、私……」

 

『イクトさんはユウナのことを妹としてしか見ていませんでしたけど、わたしの我儘に応じてこんなことまでしてくれています。そんなイクトさんが、ユウナのこと拒否する訳無いじゃないですか』

 

「そんな、どうしよう。私……」

 

 優奈が俺の事を好きだった、今の話はそういうことなのだろうか。

 もし、俺が幾人のままだったなら、それは決して受け入れてはならない想いだったと思う。

 だけど、アリスになった今なら、その好意を受け入れてしまってもいいのかもしれない。女同士なら致命的なことにはなり得ないから。

 

 ……まあ、妹にあれこれしようとしている時点で今更ではあるけど。

 

 そもそも、俺はアリシアの事が好きなのに、他の人とどうこうするのはいいのかと言った根本的問題があるが……まあこれも今更だな。行為はアリシア自身が望んでいる事だし。

 

「優奈の事を拒絶なんてしないさ。俺が好きなのはアリシアだからその気持ちに応えることは出来ないけど、俺にとって優奈は大事な家族だし、特別な女の子だから」

 

「お、お兄ちゃん……」

 

『よかったですね、ユウナ』

 

「ずっと隠さなきゃって思ってきたの、あたしは妹だからお兄ちゃんを好きになっちゃダメって……でも、もういいんだよね。この気持ち伝えてしまっても」

 

 ユウナは胸元で手をぎゅっと握る。

 

「あたしはお兄ちゃんが好き。妹じゃなく、ひとりの女の子として」

 

 その瞳には涙が溢れていた。兄を好きになったことで優奈がどれだけ悩んだのか俺にはわからない。だけど、辛い事が多かったのじゃないかって事は想像できる。

 

「お兄ちゃんにはアリシアがいるって、わかってる。だから、あたしも翡翠姉と一緒でいい。思い出だけでいいから……」

 

 俺の後ろをいつも付いてきて生意気を言っていた妹の優奈。

 アリスになってからは姉として俺を支えてくれた優奈。

 そして、幾人だった頃の俺に兄妹として以上の感情を抱えていたと告白する優奈。

 

 どの優奈も大切で愛おしく思う。それはやっぱり家族としてのものに近いけど、今だけでも、ひとりの女の子として優奈を見ることにしよう。

 

「……だからね、お兄ちゃん。あたしのこと抱いて下さい」

 

 泣き笑いのような表情で、優奈はそう告げる。

 そのとき、俺は本当の意味で妹を抱く覚悟を決めた。

 

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