異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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放課後の異邦人

 優奈とのあれやこれやがあって、俺達兄妹の関係はどうなってしまうのかと思い悩んでいた俺だったが、蓋を開けてみると拍子抜けするほどに変化はなくて、以前と変わらない日々を続けていた。

 優奈の俺に対する接し方は姉の態度のままで、アリシアも示し合わせたかのように普段通りで、誰もあの日の事を口にすることは無かった。

 

 そのまま数日経ったある日の放課後。俺はアリシアに念話で先日の事を聞いてみることにした。図書室の窓際のテーブルに座って、アリシアが読みたがった動物図鑑をパラパラと捲りながら。

 

『ねぇ、アリシア……その、この前の事なんだけど……』

 

『……何でしょう?』

 

『あの日の事は夢じゃないよね?』

 

『どうして、そんなことを思ったのですか?』

 

『だって、アリシアも優奈もあんな事があったのに全然変わらないから……』

 

『……イクトさんはユウナとの関係を変えたかったんですか?』

 

『そういう訳じゃないけど……』

 

『それでしたら、あの日のことは夢の中の出来事ということでいいのではないでしょうか。わたし達はそれで納得してますから』

 

『……なんで、そんな風に割り切れるのさ』

 

『それは、わたし達が女だから……ですかね?』

 

 俺も大分女としての行動が板についてきたと思っていたけど、根本の考え方は男のままということだろうか?

 俺には到底、同じ様に考えることはできそうになかった。

 

『もし、イクトさんがまた夢を見たくなったなら相談すればいいと思いますよ。ユウナはきっと協力してくれますから』

 

 事も無げにそんなことを言うアリシアに俺は何とも言えない気持ちになる。

 

『……アリシアはそれでいいの?』

 

『はい。わたしはこうしてイクトさんと一緒の時間を過ごせるだけで満足なんです』

 

 アリシアの言葉には達観した雰囲気があって――俺はすこし寂しくなる。こういうときに抱きしめることもできない自分の無力さを痛感させられた。

 

『イクトさん……何だか様子がおかしいです』

 

 気まずい雰囲気はアリシアの注意喚起の言葉で払拭された。

 顔を上げてみると、確かに空気が妙にざわついていた。

 

「……図書室の外に何かある?」

 

 生徒の視線の先を追うと、そこには四、五人くらいの男子生徒の集団が校舎裏に向かっていた。その剣呑な雰囲気は遠くからでも伝わってきて、図書室の生徒も緊張しているようだった。

 そして、俺はその中に見知った顔があるのを発見する。

 

「……あいつ!」

 

 俺は席を立つと、図書室の外に向かった。建物の外に出た俺は、上履きのままで中庭に踏み込み、男達が消えていった校舎裏に向けて駆け出した。

 

 校舎裏では蒼汰と男達が向かい合って対峙していた。

 

「蒼汰!」

 

 俺はいつでも加勢出来るように蒼汰に駆け寄った。

 蒼汰の横に並ぶと、足を肩幅に開いて構えて相手を見据える。

 うちの制服を着た男子生徒が四人。そのうち三人は制服を着崩していて見るからに不良っぽい。一人だけ几帳面に整えた制服を着ている男が居てやや違和感を思えた。

 そして、もう一人決定的に場違いな人物が一人いた。

 金髪碧眼で彫りの深い西洋人めいた顔立ち。

 黒の革ジャンに黒のスキニージーンズで、鎖やら指輪をじゃらじゃらと身につけている男は、明らかに学校関係者ではなかった。街中で遭遇したらなるべく視線を合わせたくないような手合いだ。

 校門はカメラで監視されているはずなのに、こんな怪しい輩がどうやって校内に立ち入ったのだろう?

 

「……大丈夫、蒼汰?」

 

 ある程度の戦力把握が出来たところで、俺は蒼汰に声を掛ける。俺が来たからには、この程度の人数差は苦にもならないだろう。

 

「お前、なにしてるんだよ!」

 

 それに対する蒼汰の反応は、想定外の俺に対する叱責だった。

 

「そりゃ、蒼汰を助けに来たに決まってるじゃないか」

 

 俺の言葉に周囲の不良達がドッと笑い出す。言われた蒼汰自身は頭を抱えていた。

 ……うん、まあこんな見た目だから仕方ないよね。

 

「おいおい、ヒラコーの暴れ狼ってのは、こんなちいさな女の子に助けを求めるのか?」

 

「こいつは傑作だ! お嬢ちゃん、俺達は大人のお話してるから、おとなしくお家に帰っておままごとでもしてな」

 

 侮られるのは気分の良いものではない。

 

「悪いけど私は本気だから。蒼汰に手を出す気なら容赦しない」

 

 俺は可能な限りドスの効いた声で男達を睨みつける。けれど効果の程は微妙なようだった。

 

 ……いっそ手出ししてくれないかな、もう。

 

 そうしたら、正当防衛でぼこぼこにできるのに。

 そんなことを考えていると、真ん中に立っている黒ずくめの外国人()が口を開いた。

 

「勇敢な女、そう警戒しなくとも良い。(われ)は今ここでその男をどうこうするつもりは無い」

 

 意外にその男の口から出てきたのは流暢な日本語だった。

 だが、芝居掛かったような口調は特徴的で、外見とも相まって異様な存在感がある。

 

「……だったら、何で蒼汰をこんなところに連れてきたのさ」

 

 この男の言葉を信じられる要素は全くないが、この男が何を目的に蒼汰に近づいたのか一応の理由を知りたかった。

 

「今日はただの顔見せだ。それから、提案したいことがある」

 

 その男はあくまで尊大な態度で名乗りを告げる。

 

「我の名はエイモック・ハルトール。今はチームウロボロスの盟主を務めている。そして、我はこの国の王となる定めを持つ者だ」

 

 ……何それ、怖い。

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