異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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神代蒼汰(真剣勝負)

「!?」

 

 普通では捉えられないはずの奇襲、だが、蒼汰はそれを受け止めていた。

 想定外の事態に俺は目を剥く。

 蒼汰も俺の速さは想定外だったらしく、同様に目を剥いていた。

 

 女子相手と思っているからか、蒼汰はまだ腰が引けていて、一歩下がって距離を取ろうとしていた。俺はそうはさせじと大きく踏み込んで、左ストレートをボディに見舞う。

 

「ぐっ……!」

 

 目で捉えることも難しいくらいの速さの撃ち込み。だが、蒼汰は驚異的な反応速度で体を反らして、攻撃は当たりはしたものの有効打にはならない。

 踏み抜いた俺の無防備な背中に蒼汰の肘が襲ってくる気配を感じて、俺は地面すれすれにまで体を小さくして攻撃をかわす。そのままバックステップして間合いを取り体勢を立て直した。

 

 一瞬の攻防を終えて、蒼汰の表情は一気に真剣な物になっていた。

 

「……完全に奇襲だったはずなのに、凌がれるなんてね」

 

「さっきのを防げたのは正直偶然さ。しかし、お前のその動き半端ねぇな……」

 

 敏捷性は筋肉によって裏付けされる。

 だから、ゲーム等でよくある小柄な人物の方が素早いという印象は、現実には当て嵌まらない。大柄な人物の鍛えられた多量の筋肉によって紡がれた素早さに小柄な人物は敵わない、これが常識だ。

 だが、魔法によって身体能力を強化した俺はその常識を覆している。今の俺はヘビー級のプロボクサーにも匹敵するほどのスピードで攻撃する事が可能だった。

 

「これで、本気で戦う気になって貰えた?」

 

「女子と思って油断してると痛い目に会いそうだ。手加減出来そうにないから……痕が残っても悪く思うなよ」

 

「かまわないよ。全力で来て」

 

 俺は手のひらを上にして真っ直ぐ腕を伸ばし、指をくいくいと曲げ伸ばしさせて蒼汰を挑発する。

 

「っしゃあぁぁ!」

 

 気合い一閃、雄叫びと共に蒼汰から右のローキックが繰り出された。俺はそれを踏み込んで躱す。

 踏み込んだ先には蒼汰の無防備な横腹が晒されていて、俺は右フックを打ち込む。

 

「くっ……!」

 

 続けざまに繰り出される蒼汰の蹴りを、体を沈ませて躱して、蒼汰の太股に回し蹴りを見舞う。

 俺の蹴りを受けた蒼汰は吹き飛んで横転し、土の上を転がった。

 追撃はしない。

 いくら俺の筋力が強化されていても、蒼汰を吹き飛ばす程の威力は無い。つまり、蒼汰は自分から吹き飛んで蹴りの威力を殺し、かつ間合いを取ったのだ。

 迂闊に追撃をすれば、虎視眈々と待ち構えた蒼汰によって手痛い反撃を受けるに違いない。

 

「本当に早いな……それに、攻撃も重い」

 

 制服についた土を払いながら、蒼汰はゆっくりと立ち上がる。

 

「身近にこんな強者(つわもの)がいたとはな……動きを目で追う事も出来やしない……これは、困った。今の俺では勝てるかどうか」

 

 口から(こぼ)れるボヤキとは裏腹に、蒼汰の表情は笑っていて、その瞳には闘争心に(あふ)れていた。

 

「……ギブアップする?」

 

「冗談、ここからが本番じゃないか」

 

 再びお互い構えて向かい合った。

 今度は俺から仕掛ける。

 フェイントを入れつつ間合いを詰めると牽制のジャブが蒼汰から見舞われる。俺はそのジャブを見切って裏拳で払い退けて懐に入り込む。

 拳を撃ち込む前に蒼汰の強引なショルダータックルを受けてバランスを崩した俺は、飛んできた拳を腕で受け流しながら、一か八かで蒼汰の脇腹目掛けて右足でハイキックを繰り出す。

 大振りの攻撃は、てっきり受けられると思っていたが、蒼汰は何故だかぎょっとした表情で体を硬直させており、脇腹に綺麗に蹴りが入った。

 

「ぐっ……!」

 

 苦痛に顔を歪める蒼汰。俺はそのままジャブで追撃するが、それは両腕でガッチリと防がれる。

 

「ちょっ……ちょっと、タンマ!」

 

 蒼汰は手の平を突き出して中断を要求して来た。

 

「……なんだよ?」

 

 真剣勝負に水を差された俺は不機嫌に応じる。

 

「その……スカートで動くと中が見えるから、その……」

 

 蒼汰は顔をそらしながらそんな事を言う。

 せっかくの張り詰めた空気が台無しだ。

 

「……だから何? パンツが気になって勝負に集中出来なかったとでも言い訳する気なの?」

 

「そんなつもりは無いが……お前、恥ずかしく無いのか?」

 

「蒼汰相手になんとも思わないよ」

 

「なんだよそれ……」

 

 他人にパンツを見られるのは恥ずかしいって思うけど、蒼汰に見られてもどうってことは無い。

 なにせ、蒼汰とは、女子に言うのも憚られるような馬鹿な事を一緒にいろいろしてきた仲だし、以前は裸の付き合いも数え切れない程だった。

 それよりも、そんな事で真剣勝負を中断させた事が許せない。

 

「パンツが気になるのなら後でいくらでも見せてあげるからさ……今は決闘に集中してよ」

 

「……マジか」

 

 蒼汰がごくりと唾を飲んだ。

 それから、血走った眼で体を舐めるように見てきて、流石の俺も若干どん引く。

 

 ……まあ、決闘の後になるから、中身が俺ってことをバラしてからの事になるんだけどね!

 

 中身が俺と判れば、流石にがっかりして萎えてしまうだろう。

 そう考えると少しだけ申し訳ない気持ちになりつつも、見事なまでの食いつきっぷりに、もう少しからかってみたくなった。

 

「私に勝ったときのお願い事、ちょっとくらいならえっちな事でもいいよ?」

 

 恥ずかしそうにもじもじと手で口元を隠す仕草をしながら、自分に出来る限りのあざとい口調で、さらに蒼汰を挑発してみる。思い返してみると、お願い事聞く権利を持ち出したときに動揺したのもエロい事を考えたからだろう、多分。

 

「……マジか!?」

 

 興奮した蒼汰はさっきから語彙が残念な事になっている。

 しかし、自分が女の子にこんな事言われたら堪らないだろうなぁ。学校で日常を共にする女友達から、不意に性を感じる瞬間ってなかなかにエロいと思う。

 

 ……少しだけ蒼汰が羨ましい。

 

『イクトさん、そんな約束をして大丈夫なんですか……?』

 

 心配したアリシアがやや呆れた口調で声を掛けてきた。

 

『大丈夫、大丈夫。負けなければ良いだけだから』

 

『でも、ソウタさんの戦闘能力は普通の人間にしてはかなりのものだと思うのですが……』

 

『それでも、魔法を使えば負ける事は無いよ』

 

『それはそうだと思いますけど……』

 

 心配性のアリシアにそう答えると、俺は改めて蒼汰に向き直る。

 

「アリス、全力で勝ちに行かせて貰うぞ」

 

 そう言い放った蒼汰は、触れば切れる抜き身のような真剣な表情だった。ピリピリとしたプレッシャーは、異世界で何度も経験した命を賭けた戦いのときに匹敵するような気もする。

 

「ちょっと、薬が効きすぎたかもしれないな……」

 

 ぶっちゃけ、ここまで本気(マジ)になった蒼汰を相手にした経験は俺も一度も無い。

 

 ……童貞のエロパワー恐るべし。

 

『……イクトさん、本当に大丈夫ですか?』

 

『だ、大丈夫だよ……』

 

 多分。

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