異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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涼花の行方

「涼花が攫われた!?」

 

 俺達は思わず前のめりになって蒼汰に詰めよる。

 

「……多分そうじゃないかって思ってる」

 

 蒼汰から返ってきたのは微妙な言い回しの回答だった。

 

「涼花は昨日から家に帰ってないみたいなんだ。学校にも本人から休むって連絡があったらしい。さっき校門であった執事の安藤さんからその事を聞いたんだ」

 

「だけど、それでどうしてエイモックに攫われたってことになるの? 昨日の放課後に私が涼花に電話したときには特に異常は無さそうだったけど……」

 

「それに昨晩だって私達とスマホでガールズトークしてたわよ?」

 

 と俺の言葉に優奈が付け加える。

 部活動グループとは別に蒼汰を除いた女子四人でグループがあって、昨晩はそのメンバーでクリスマスのことで盛り上がっていた。

 

「もしかして、俺はぶられてる……?」

 

「ガールズトークだからね、男子には聞かせられない話もあるんだよ」

 

 涼花の恋愛関係の相談とか。

 

「お前が言うのか……まぁ、そんなことはいい」

 

 蒼汰は気を取り直して続ける。

 

「安藤さんに聞かれたんだ、『エイモックって人をご存知ですか?』って。今その人の所に居るから大丈夫だって話を涼花自身がしていたらしい」

 

「エイモックって、不良グループのリーダーよね。異世界人かもしれないっていう。涼花と知り合いだったの……?」

 

 翡翠が蒼汰に問う。

 

「安藤さんも初めて聞く名前だったみたいだったから、その可能性は低いと思う」

 

 涼花は執事の安藤さんのことを実の姉のように慕っていて、何でも相談している風だった。お泊りするような関係の知人なら安藤さんが知らないっていうのは確かに考え辛い。

 

「安藤さんも突然お泊りだなんて言い出した涼花に問いただしたみたいなんだけど、どうにも答えが要領を得ないみたいで……ぶっちゃけ、安藤さんには涼花は俺の所に居るんじゃないかって疑わてれた」

 

 まあ、一番疑わしいのは間違いない。涼花のお誘いに理性を保てている蒼汰を今は尊敬していた。

 

「だったら、何で涼花がそんな事を言ったんだろう?」

 

「攫われて言動を監視されてるとか……?」

 

 優奈が可能性を口にする。

 

「それにしてはエイモックの名前が会話に出て来てるみたいだし、昨日電話で話した涼花も自然体すぎる気がする……」

 

「名前が出たのはそいつからのメッセージかもしれないね。涼花の身柄を確保しているって蒼兄に伝わらない事には脅迫にならないんだもの」

 

「……そうかもしれないな」

 

 うーんと唸って、考え込む俺達。

 

「取りあえず、本人に電話してみたら早いんじゃない?」

 

 そんな俺達を見かねた翡翠が言った。

 

「それもそうだな。じゃあ、俺が掛けてみるよ」

 

 言うが早いか、蒼汰がスマホを取り出して操作する。さらに蒼汰が操作するとコール音が大きく室内に響き渡る。音声をスピーカーに切り替えたらしい。

 

「は、はい、涼花です! そ、蒼汰さん、どうかなされましたかでしょうか!? こ、今晩の予定ならフリーですの!」

 

 電話に出たのは普段通りの涼花だった。

 ……いや、これはクリスマスを意識していつもよりややてんぱってる涼花だ。

 素っ頓狂な声の調子に場の空気が弛緩する。

 

「……涼花、無事か?」

 

 蒼汰は涼花のお誘いを華麗にスルーした。

 涼花も俺達に聞かれてるとは思って無いはずだ。俺達の間にいたたまれない空気が流れる。

 

「え? あ、はい。わたくしは何ともないですけど……?」

 

「良かったぜ。しかし、涼花は今何処に居るんだ? 学校も休んだりして……安藤さんが心配してたぞ」

 

「えっと、わたくしは今知人の家にお邪魔しておりますの」

 

「もしかして、エイモックってやつの所か……?」

 

「蒼汰さんはエイモックさんの事、ご存知なのですの?」

 

「ああ……ちょっとな。それで、そいつと涼花とは一体どういう関係なんだ?」

 

「エイモックさんはお父様のお仕事の関係で昔から良くして下さった方ですの」

 

「そうなのか? 安藤さんはその人の事を知らないみたいだったけど……」

 

 蒼汰の疑問に涼花の言葉が途切れる。

 

「ええと……? おかしいですわね。鈴音とも面識はある……はずですけど……昔から、家族ぐるみのお付き合いをさせていただいておりまして……あら? していた、ような……?」

 

 ガタン!

 

 涼花が携帯を取り落としたのだろう。大きな物音がスマホから聞こえて来た。

 

「どうした、涼花。大丈夫か!? 涼花! 涼花!!」

 

 物音がする。落とした携帯を拾っているのだろうか?

 物音が収まり、次に聞こえてきたのは涼花では無く別人の声だった。

 

「続きは(われ)が話そう」

 

 部室に高圧的な年齢不詳のバリトンボイスが響き渡る。一度聞いたら決して忘れない特徴的な言い回し。その声の主の名は――

 

「「エイモック!?」」

 

 予想外の相手に俺達は総毛立つ。

 

「神代蒼汰か。どうだ、考え直して我に従う気にはなったか?」

 

「誰がそんな気になるかよ! それより涼花に何をしやがった!」

 

「別に大した事はしてはおらぬよ。我の興味はこの女には無い。貴様が我との約束を違えず集会に来るならば、この女の無事は我が名を以って約束しよう」

 

「……本当だな?」

 

「我との約束が果たされぬ場合は、その限りではないがな」

 

「てめえ……もし、涼花に手を出してみろ。絶対に許さねぇからな」

 

「ふん……ハマコーの暴れ狼と呼ばれる貴様との余興、楽しみにしているぞ。我を失望させてくれるなよ」

 

「せいぜい首を洗って待ってやがれ」

 

「それでは、約束された地で祝福の時にまた会おうぞ」

 

「まて! ……最後にもう一度涼花と話をさせてくれ」

 

「……いいだろう」

 

 多少の間があって、やがておずおずとした涼花の声が聞こえてくる。

 

「蒼汰さん、わ、わたくし……何でこんな……」

 

 どうやらさっきの間に正気に戻ったようだ。現状を理解した涼花の声はあわれなほど震えている。

 

「……涼花、身体は無事か?」

 

「はい、わたくしは何もされてはおりません。だけど、どうしてわたくしは……」

 

「すまない、涼花。巻き込んでしまって」

 

「蒼汰さん、すみません。わたくしは、また蒼汰さんに御迷惑を……」

 

「いや、俺の責任だ。やつの狙いは俺なんだ」

 

「いいえ、蒼汰さんが狙われるようになったのはわたくしに関わったからです。ですから……」

 

「とにかく、俺が必ずお前を助けるから。だから待っていてくれ」

 

「……わかりました」

 

「クリスマスパーティ、一緒に行くんだろ?」

 

「……はいっ!」

 

「それじゃあ、また後で」

 

「蒼汰さん、ごめ……いえ、ありがとうございます。それでは、失礼します」

 

 プツリと音を立てて通話が終了する。

 空気は重く、誰も口を開かない。

 

 涼花が敵の手にある。その事実に心がざわめく。

 エイモックは手出しをしないと言っていたが、そんな口約束を信じられる根拠は何処にもない。

 

『……認識操作魔法』

 

 沈黙を破ったのはアリシアの念話だった。集合した時点でチャンネルは全員に設定済みだ。

 

「涼花は魔法で操られたってこと? 魔法ってそんな事も出来るの?」

 

『闇の系統に属する魔法になります。ですが、わたしも詳しいことはわかりません。使い手が少なく廃れてしまっている魔法ですから……』

 

「どうして? 人の心を操れるのって、いろいろ凶悪っぽい気がするんだけど……」

 

『人の心に影響を与える魔法は魔力消費が激しく、闇魔法の素質があっても祝福を得られないとまともに使えません。そして、闇の祝福を得られるのは極めて稀でしたので、研究される事も殆ど無かったのです』

 

 失われた魔法か……闇の神殿があった魔王領では研究も盛んだったのでは無いだろうか。

 エイモックは魔王の関係者なのか……?

 

『それに精神に干渉する魔法は魔力による対策が容易で、よっぽど魔力差がある相手じゃないと、そもそも効果が無いとも伝えられています』

 

 使い手が少なく燃費が悪い上にレジストも簡単……そりゃあ廃れる訳だ。

 

『ですが、全く魔力を持たないこの世界の人にとっては、とても危険な魔法です。状況から考えて涼花さんはその魔法を受けた可能性があります』

 

 あの感じからするとエイモックを親しい知人と誤認させたとかだろうか。だが、ふとしたきっかけで魔法が切れてしまうあたり万能ではないらしい。

 

「奴と戦闘になった際の影響は?」

 

『ありません。イクトさんには魔法抵抗力がありますし、蒼汰さんにも魔力障壁を張ることで影響は排せます』

 

「わかった。そのときは頼む」

 

『了解しました!』

 

「……さぁ、蒼汰。これからどうする?」

 

「とにかく涼花が心配だ。俺は今から準備してエイモックのところに乗り込もうと思う。翡翠と優奈は俺の(いえ)まで送って行くからそのまま(うち)に居てくれ。それで、幾人は……」

 

「もちろんついていくよ。もし奴が異世界人だったなら、私の力が必要でしょ?」

 

「おう……頼む」

 

 蒼汰はまだ少しだけ躊躇したようだった。女の体になった俺の事を気遣っての事だと思う。もし負けてしまったとき、女になった俺のリスクは男の蒼汰と比べて大きいからだ。

 だけど、負けるつもりなんて無い。

 

「私は異世界で魔王だって倒したんだから、大船に乗った気持ちで任せなさいって!」

 

 俺は蒼汰の背中を強めに叩いてそう言い放った。

 

 拳を握り腕を蒼汰に向けて掲げる。

 俺の意図に気づいた蒼汰は、同じく腕を掲げて拳を打ち合わせた。

 

 ……さあ、殴り込みだ!

 

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