異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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海に向かって

 エイモックによって指定された場所は、うちから徒歩で一時間程のところにある海水浴場だった。そこは、俺がこの世界に帰って来た場所でもある。

 この時期の海水浴場は閑散としているので、集会するには打ってつけの場所なのだろう。

 

 俺達は蒼汰の自転車に二人乗りして現地に向かった。

 最初はそれぞれ自転車で向かうつもりだったが、背丈ほどある杖を持ってふらふらと自転車に乗ろうとする俺の姿を見かねて、蒼汰が後ろに乗れと言ってくれたのだ。

 俺は横座りで右手に杖を抱え持ち、もう片手で蒼汰の腰に手を回して掴まって自転車に乗っていた。

 

「すまないな、蒼汰にばかり漕がせちまって」

 

 信号待ちで止まったときに、俺は蒼汰に話し掛ける。

 

「ん……気にすんな。それは戦いに必要な物なんだろ?」

 

 蒼汰は振り返ってそう答えた。

 俺は頷く。

 

「これは、魔法の魔力消費を抑えられる世界樹の杖さ。鉄よりも固くて軽いから打撃武器としても優秀なんだぜ!」

 

 俺は見せびらかすように手に持った杖を掲げた。

 

「おお、世界樹ってなんかすげー異世界っぽいな。幾人は見た事あるのか、世界樹?」

 

 蒼汰が目を輝かせて食いついてくる。そう言えば、こいつもファンタジーとか好きだったな。

 

「ああ、あるぜ……というか、登らされた」

 

 俺は遠い目をして思い出す。

 

「突風吹き荒れる中、身ひとつで枝を飛び移りながら魔獣と戦闘しつつ、数百メートルある世界樹を登っていくのは中々大変だったぜ……」

 

 俺の中でもう二度としたくない経験のトップ5には入るだろう。

 

「そ、そうか。大変だったんだな……」

 

 世界樹の杖はその際に手に入れた副産物だった。

 

「それじゃあ、その服にも何か効果があったりするのか?」

 

「おう……っていうか、そうじゃなけりゃ、わざわざこんな服着ねーよ……」

 

 今の俺が着ているのはアリシアが異世界で着ていた水の巫女の法衣だ。

 白をベースに装飾の施された短めのワンピースに、同じく白のガーターベルト付きニーソックス。清廉で神秘的なアリシアの法衣だった。

 

「この法衣は水の精霊神ミンスティアの加護が与えられているんだ。チェインメイルよりも防刃性能に優れていて、人の持つ魔力程度なら無力化する魔法耐性があり、さらに汚れや破損も自己修復する逸品なんだぜ」

 

 継続して人に与えられる祝福とは違い、一度物に与えられた祝福はこの世界でも消えないらしく、これらの特性は失われていなかった。

 

「……なんかすげぇんだなそれ」

 

「むこうでは、一式揃えるのに余裕で家が建つくらいの価値があるみたいだぜ」

 

「マジか……」

 

 こっちの世界では規格外過ぎて値段をつけられないだろうとは、性能を検証した父さんの台詞だ。

 

「ちなみに耐熱防寒機能もあるから、本当はコートも要らないんだけどな……」

 

 今の俺は法衣の上から通学に使っている紺色のダッフルコートを羽織っていた。

 

「流石にそれはどうよ……」

 

 地方都市の郊外の道を走る格好として、コスプレ紛いの巫女の格好は違和感ありまくりだ。クリスマスのイベントか何かだと思って貰える分、平日よりはまだマシだとは思うけど……

 

『……でも、なんだか懐かしいですね』

 

 感慨深げにアリシアが話しかけて来る。念話は蒼汰にも繋いでいる。

 

『そうだな。俺が巫女の姿でこの道を逆に歩いて帰ったのって、まだ半年前の事なんだよなぁ……』

 

 ここ半年は異世界での一年に勝るとも劣らない刺激的な経験が続いていた。

 最初は違和感ばかりだったこの体にも、今は随分と馴染んだ気がする……毎月訪れるアレにはまだ慣れないけど。こればかりは、もうずっと付き合って行くしか無いのだろう。

 

『しっかし、冬の海岸は寒そうだな……アリシア、前にも話したけど来年の夏は海に行こうな』

 

『それは、とても楽しそうですねぇ』

 

『……お前ら、これから敵の只中に攻め込むってのに余裕だな』

 

 蒼汰は呆れたような口調で言った。

 

『異世界では四六時中気を抜いたら命を狙われるような事が日常茶飯事だったからな……適度に緊張を抜く事にも慣れたよ』

 

 緊張しっぱなしだと心が持たない。襲われたら直ぐに動ける状態を維持しながら緊張を抜く方法は戦いの中で自然に身につけた。

 

『幾人、お前はあっちで相当な経験をしてきたんだな……』

 

『……まあね』

 

 移動時に過剰に周囲を警戒してしまう癖は、日本に帰ってきて半年経つ今でもまだ抜けきっていない。

 

 信号が青に替わり、俺達は再び漕ぎだした。

 

『涼花、必ず助け出そうな』

 

『おう!』

 

   ※ ※ ※

 

 海岸に続く唯一の道路を誘導灯を持った不良っぽい風体の男達二人組が封鎖をしていた。

 蒼汰が自転車を停めると男達は威嚇するように近づいてくる。

 

「ここから先は今日は俺達ウロボロスの貸切だぜ!」

 

「関係者以外は立入禁止だ。カップルでいちゃつくなら別のところへ行きな!」

 

 男達は俺達を追い払うように誘導灯を振る。

 

「俺はお前らのボスに招かれてるんでな。不本意だが一応は関係者ってことになると思うぜ」

 

「……お前はヒラコーの暴れ狼!? てめぇ、良く俺達の前に顔を出せたな……ぶっ殺してやるっ!」

 

「待てよ。エイモックさんからこいつが来たら通せと言われてるだろ?」

 

「だけどよぉ……!」

 

「……やるのか、やらないのか? 俺はどちらでもいいぜ」

 

「こいつ、調子に乗りやがって!」

 

「落ち着けよ。エイモックさんがこいつを呼んだのは公開処刑する為だって言ってただろ? 俺達の恨みはエイモックさんが果たしてくれるさ……ほら、行けよ。いきがってられんのも今のうちだぞ」

 

 そう言うと、不良達が道を開けた。

 再び自転車に乗って、俺達は不良達が待ち構える海水浴場の敷地に入った。

 

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