異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた   作:瀬戸こうへい

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聖夜の決戦(祝福の時)

 蒼汰はステージで拾った木刀を正眼に構えてエイモックに対峙していた。対するエイモックは闇の焔に包まれた腕を広げ両方の手のひらを上にして構えている。

 

 仕掛けたのは蒼汰からだった。

 蒼汰は踏み込む前動作として腰を沈め――次の瞬間、姿を消した。

 

「「!?」」

 

 衝突音がして、視線を移すとエイモックに肩からぶつかる蒼汰の姿があった。それは、蒼汰自身を含めてこの場にいる誰にとっても想定外の動きだった。

 二人は勢いのままに跳ね飛ばされる。

 反応が早かったのはエイモックで、即座に複数の影を網状に展開して自分の体を受け止めると、拳を振りかぶって蒼汰に反撃してきた。

 だが、蒼汰もそれをなすがまま受けるような事はなく、展開されたエイモックの影を蹴って身を翻し攻撃を躱す。

 

「おおっとっと!?」

 

 大きく跳び上がった蒼汰は危うい着地をする。

 そのまま勢い余って、数メートルたたらを踏んで下がった。

 蒼汰が力を持て余しているのは明らかだろう。

 

『気をつけろ蒼汰! 身体能力向上(インクリスフィジカル)(小)で上がる肉体の強度は最低限だ。今、全力で壁に突っ込んだりしたら下手すると死ぬぞ!』

 

 念話で蒼汰に警告する。

 俺の魔力はさっきまでの戦いで殆ど尽きては居たが、念話の使用くらいなら問題無い。

 

『そういうのは先に言えよな!』

 

『……すまん、忘れてた』

 

 蒼汰の至極当然の抗議に俺は素直に謝った。

 

身体能力向上(インクリスフィジカル)(小)を使ったか。だが、その力持て余しているようだな。そんな付け焼き刃がこの我に通じると思うな」

 

 いきなり変わった蒼汰の動きの理由にエイモックはすぐに気づいたらしい。それが予め準備されたものでは無いということも。

 

「付け焼き刃でも刃がついてることに違いないぜ。通じるかどうかその身で確かめてみるといいさ」

 

「……ふん、小賢しい。ならばその自信ごと打ち砕いてやろう」

 

 エイモックが指を鳴らすと、触手のような黒い影がエイモックの影から何本も飛び出して来て蒼汰を襲う。

 蒼汰は大振りな動きで何とか躱し、あるいは木刀で受け止めて影に対処する。攻撃に投入される影の数は時間と共に増加して、四方八方から蒼汰を襲う。

 そんな蒼汰を俺は手助けも出来ず、ただ見ている事しかできない。

 

『蒼汰……!』

 

 俺は祈るような気持ちで蒼汰の名前を呼ぶ。

 蒼汰は目まぐるしく襲ってくる影を捌く合間にちらりとこちらの様子を窺い、俺と目が合うと笑顔を見せてきた。

 

『大丈夫、俺に任せとけって!』

 

 ……いや、俺に気を使ってる場合じゃないだろ。

 

 そんな蒼汰の様子に思わず呆れてしまう。影の一撃でさえも当たればダメージは馬鹿にできない。それに、一度打撃を受けて足を止めてしまったら、続く影にタコ殴りにされて致命傷になる可能性が高い、そんな紙一重の状況なのだ。

 

 ……それなのに、あの馬鹿楽しんでやがる。

 

 蒼汰の口角は上がって、不敵に笑っていた。こいつは昔から追い詰められる程状況を楽しむ性質がある、真性のバトルジャンキーだった。恐らく不良グループのメンバーに取り囲まれたときもこんな風だったに違いない。

 蒼汰は攻撃を捌く度に明らかに動きの無駄が減ってきていた。

 体に慣れてきたとでもいうのだろうか? まだ、魔法で肉体を強化して数分も経っていないというのに信じられない。

 自分で期待しておきながら、本当に魔法の強化に対応し始めている蒼汰を空恐ろしく思う。

 

『……なあ、アリシア。俺より蒼汰が勇者として異世界に行った方がよかったんじゃないか?』

 

『そ、それは……戦闘能力だけが勇者様のすべてって訳じゃないですから!』

 

 逆に言うと蒼汰の戦闘能力は俺を上回っているってことだろう。

 そう言っている間にも蒼汰の動きは鋭さを増している。今や二桁はあるだろうすべての影の攻撃を余裕を持って捌いていた。

 

『このまま続けても埒が明かないな……何か良い手段は無いか?』

 

 蒼汰が俺達に問う。

 

『ソウタさん、イクトさんが使っていた世界樹の杖を使って下さい! あれは聖属性の杖ですから、影を切り裂く事ができるはずです』

 

 そういえば、世界樹の杖はさっきエイモックに殴り飛ばされた際に取り落としていた。

 辺りを見回して探すとそれはすぐに見つかった。

 

『蒼汰、左側ステージの端に落ちてる!』

 

 俺の言葉に即座に反応して蒼汰は世界樹の杖に向かう。

 相対しているエイモックはその意図に直ぐに気付いたようだった。

 

「世界樹の杖か! やらせはせぬ……!」

 

 杖を弾き飛ばそうとエイモックが影を伸ばす。

 それは蒼汰よりも早く杖に到達し、だが、杖に触れることなく弾かれた。

 

「なんだと……!」

 

『世界樹の杖は聖属性が付与されていますから、杖自体に闇を阻む特性があるんです!』

 

「っしゃあ、ゲットだぜ!」

 

 その隙に蒼汰が世界樹の杖を拾い上げた。そのまま体を翻すと、迫っていた影を斬りつける。影は実に呆気なく切断されて消えた。

 

 蒼汰は世界樹の杖をバトンのように一回転させると、ホームラン予告をするバッターのように長く構えてエイモックに突きつけた。

 

「丁度良い準備運動になったぜ、ありがとよ」

 

 うん、ちょっと格好良く決めすぎじゃないかな。

 ……まぁ、いいけど。

 

「調子に乗るなよ、祝福の無いただの人風情が!」

 

 蒼汰の挑発に相当苛ついたらしい。エイモックは表情を険しくして蒼汰を罵る。

 そして、腕を振ると影を引っ込めて魔法を詠唱する。

 

「彼方より此方へ閉じたる扉を開き我に祝福を――(ゲート)!」

 

 エイモックの頭の直上で何かが弾けて衝撃波が広がった。俺は思わず目を細める。

 

『何が起こったんだ……?』

 

 エイモックの様子に一見何も変化は無かった。

 

『この魔法……いえ、そんなはずは……』

 

 エイモックの魔法を見たアリシアが、珍しく困惑していた。

 

『知っているの? アリシア』

 

『オリジナルの術式で詳細は不明です。多分空間操作の術式だと思うのですが……』

 

『それじゃあ、戦ってみて確認するしかないか……行くぜ!』

 

 そう言って蒼汰はエイモックに襲いかかる。

 それに対して目にも止まらぬ小振りなジャブで対応するエイモック。闇の焔を纏った拳はジャブですら致命的な一撃になる。

 蒼汰は世界樹の杖で凌ぎつつ隙を伺う。これが普通の木刀だったら燃え尽きていたところだ。

 

 エイモックの体術は驚異的なものである。

 だが、それをいなす蒼汰の動きはそれをさらに上回っていた。

 

「大口を叩いておいてそんなものかよ!」

 

 動きを重ねる毎に体のキレが増していく蒼汰。そして徐々に蒼汰がエイモックを圧倒し始める。

 

「ほざけ、影捕縛(シャドウバインド)!」

 

 エイモックが詠唱すると蒼汰の足元の影が蔦のように伸びてきて左足に絡みついた。足首を抑えつけられた蒼汰はつんのめりバランスを崩す。

 

「もらった!」

 

 エイモックは蒼汰が見せた隙に対し、掬い上げるようなアッパーを見舞って応える。

 

『蒼汰!』

 

 蒼汰は残った即座に自由な右足で地面を蹴って、捕らわれた足首を軸に体を後方に回転させてエイモックの一撃を躱す。さらに上半身が倒れこむ前に地面に手をついて、世界樹の杖で闇を薙ぎ払い拘束を解いた。

 

「ずいぶんと(こす)い手を使うんだな!」

 

 蒼汰は手の反動だけで横たわった状態から体を起こすとそのままの勢いでエイモックに切り掛かる。

 その攻撃は腕で受けられるが、間髪入れずに蒼汰は追撃を加えた。

 そして、ついにエイモックの胴体に蒼汰の横なぎの一撃が入った。

 エイモックは数歩よろめいて下がる。

 

「このぉ……ただの人如きがぁ……! よくもこの我を傷つけたな……!」

 

 エイモックは憎しみの籠った視線を蒼汰に向ける。

 

「……もうお前の勝ちは無い、おとなしく負けを認めやがれ」

 

「……負けを認めろだと?」

 

「ああ、そうだ」

 

「く……くくっ……はーっはっはっは!!!」

 

 蒼汰の言葉を受けてエイモックが大声で笑いだす。

 現実を受け入れられずに発狂しているとも思われたが、なんだか嫌な予感がした。

 

「なんという勘違い! 自惚れも大概にすることだな。本気の我の力がこんなものだとでも思ったか!」

 

「……どうやら、とことん痛めつけてわからせてやるしかなさそうだな」

 

 その時、上空に一陣の風が吹いた。

 

「……時間だ」

 

 エイモックが両手を広げそう告げると、それが起こった。

 

『まさか、これは……』

 

 上空に黒い球体があった。夕焼けに染まる空に浮かぶそれは不吉な予感を俺に抱かせる。

 風はそこから吹き荒れているようで、周辺の空間が歪んで見える。

 

 悲鳴がした。

 見ると洗脳が解けたのか、周囲に平伏せていた不良達が我先に逃げ出そうとしている。

 そして、喧騒の中で俺はどこか懐かしい感覚に包まれていた。

 

 様子を伺っていた蒼汰は、世界樹の杖を握りしめると振りかぶってエイモックに切り込む。

 

『ダメだ、蒼汰! 奴は……!』

 

 エイモックが指を鳴らすといままでの数倍にも及ぶ百近い影が包みこむように飛び出してきて蒼汰を襲った。

 慌てて世界樹の杖でそれらを打ち払おうとする蒼汰だったが、杖は影に弾かれてしまう。

 

「……なっ!?」

 

 そのまま濁流のような影が蒼汰を襲う。

 

「ぐわあぁぁ!?」

 

『蒼汰!』

 

 影に大きく吹き飛ばされた蒼汰は、床を跳ねて倒れた。

 

「くっくっく……」

 

『エイモック、あなたは……!?』

 

「我は半年程前、気がつくとこの場所に居た……そして我は気付いた。転移した際に出来た時空の歪みは完全に消滅してはいないと」

 

 エイモックは俺達の転移魔法に巻き込まれていたらしい。

 そしてその際の歪みは消えていなかった……?

 

「我は時空の歪みを解析し、そこから術式を作り出した。ゼロから門を作りあげるには祝福無しでは不可能だが、そこにある歪みを広げるくらいなら今の俺でもどうにかできる」

 

 さっきの魔法は異世界への門を開く魔法だったらしい。上空の穴の先に繋がっているのはアリシアの居た異世界だということか。

 

「さあ、我の居た祝福されし世界との門は開かれた。この世界に祝福がもたらされるのだ!」

 

 エイモックの闘気が増していく。闇の神官であるエイモックは闇の精霊神ダクリヒポスの祝福を得ている。異世界との回線ができた今その祝福を取り戻し本来の力を発揮する事が可能となる。

 

「ダクリヒポス様の祝福を取り戻した俺に児戯のような攻撃は一切通用せぬ。恐れ慄き讃えるが良い! 我こそが祝福されし神の子である!」

 

 高らかにエイモックは宣言した。

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