あべこべうさぎ   作:黒歴史マン@目指せ蘭学者

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シャロちゃんはリゼの嫁です(挨拶)
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感想を読んでたら謎の力が湧いて来たゾ…(歓喜)




いちわ

 

 

その人はとても不思議な男性でした。

 艶のある鈍色の頭髪に、見るものを魅了する緋色の瞳。整った顔立ちに、優しげな雰囲気。

そして何よりも───女性を嫌わないその心。

 

 

 現代社会に於いて問題となっている事がある。

それは、男女の人数の比率である。

 比率にして1:10───女性の割合が多く、男性が少ない。必然的に人数の少ない男性が優遇されるのである。

 極度の男尊女卑。いつからか男性は、女性を蔑み、嫌っていった。

 

 ───でも、あなたは違います。

 私を嫌わないでくれた。

 私が淹れたコーヒーを美味しいと言ってくれた。

 ねえ、ハクヤさん。

 私は、新しい生活がとても楽しみです───

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「あの、ハクヤさん」

 

 

「どうしたの?チノちゃん」

 

 

「実は、下宿しにくる方がもう一人いるんです。

それから、後でハクヤさんの部屋を紹介しますね」

 

 

 小さな声でチノちゃんが伝えてくれる。

 

 

「わかった。父さん同士の取決めで、僕がここで下宿させてもらうにあたって、代わりに働く事になっていたんだけど、制服とかないかな?」

 

 

「制服でしたら、父が更衣室に用意していたはずなので案内します」

 

 

 歩けば、こつこつと靴の裏が年季の入った床を捉える。

 息を吸えば、コーヒーの香りが鼻腔を満たす。

 

 

「……ああ、素敵な店だね、此処は」

 

 

 純粋にそう感じた。心の中に留めるつもりでいた賞賛の言葉は、自然と喉から飛び出ていた。

 

 

「ハクヤさん……ありがとうございますっ」

 

 

 嬉しそうにするチノちゃんを見て、なんだか気恥ずかしくなり、頬をかいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 更衣室は、店舗部分の裏から廊下を挟んですぐの所にあった。

 

 

「ここが更衣室です。では、私はここで」

 

 

「うん、ありがとう」

 

 

 店舗側へ戻っていくチノちゃんに礼を述べ、ドアを閉める。

 内装は幅が狭く奥行のある部屋で、そのまま歩を進める。

 

 部屋の側面に、木製の大きなクローゼットが並んでいた。他にそれらしい物はないので、制服は恐らくその中だろうとあたりをつける。

 

 

 クローゼットを開けると、まず目に飛び込んできたのは紫色のチェック柄である。

 

 それは三角形じみた形状の布で、小玉スイカと同じくらいの大きさの、ふっくらとした肌色の双丘を包んでいる。

 

 ふわりと甘い香りを感じ、視線を上げれば、透き通るアメジストが僕の呆けた顔をくっきりと映していた。

 

 

 「は、───人?」

 

 

 流れるような桔梗色の髪の毛を左右で纏めたツインテールに、どこか気の強い印象を受けるがぱっちりとした目は、容姿端麗の四字熟語がよく似合うと思った。

 

 いや、待て。ツッコミどころが多すぎる。なんでクローゼットの中に女の子がいるんだ?

 そして下着姿である紫色の下着とか健康的に引き締まった四肢とか僕は知らないし何も見てないから

 

そんな邪な思考が伝わってしまったのか、女の子は若干上ずった調子で声を上げた。

 

 

「お、お前は誰だ? 怪しいやつめ」

 

 

 ブーメランぶっ刺さってますよ。

そう言おうと口を開く──ことは出来なかった。

 原因は、女の子が構えている黒い鈍器のようなものにある。

 

 

「ぼ、僕は今日からここに下宿させていただく、烏兎 白夜です」

 

 

 僕は黒い鈍器──銃を向けられ、しどろもどろになりながら答える。

 

 

「そんな話は聞いていないぞ。先に言っておく。私に色仕掛けをしても無駄だ」

 

 

 話は通じそうにない。それに、男の僕が色仕掛けなどと支離滅裂な事を言っている。

 もしやこの子も混乱しているのではないか。そもそもこの銃も本物ではないのかもしれない。何となくだが、この女の子が犯罪を犯すイメージが湧かない。

 

 そんなことを考えながら、膠着状態になりおよそ10秒。騒がしさを感じ取ったのか、チノちゃんによってドアが開かれる。

 

 

「ハクヤさん、何かあったんですか?」

 

 

下着姿の少女から、え?と声が漏れる。

 

 

「あ、チノちゃん!この人が───」

 

 

「リゼさん!?───はっ、早く服を着て下さい!ハクヤさんの前ですよ!?」

 

 

 今度は僕の口から困惑の声が漏れる。

リゼと呼ばれた少女が慌てて制服を着る。

 

 チノちゃんが事情を説明し、誤解を解いてくれた。

 僕は何となく気まずくなって、視線を泳がせていると、女の子が、罪悪感からか頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。

 

 

「あー、さっきのは気にしてないから」

 

 

「うぅ……すまない」

 

 

「私は天々座 理世だ。名字だと噛みやすいから、名前で呼んでくれ。……それと、さっきはすまなかった。私の下着姿などを見せてしまって……」

 

 

 いえ、素晴らしかったです

口から滑り出そうになった言葉を飲み込む。

言葉に出してしまえば、チノちゃんからは絶対零度の視線で射殺され、また彼女──リゼからは罵詈雑言と共に暴力を振るわれるであろう事は想像にかたくない。

 僕は人に罵られて喜ぶような趣味は無いので無難に返す。

 

 

「ああ、大丈夫だよ。こっちこそごめん。

それに──」

 

 

 しかし、である。

謙虚は美徳だが、行き過ぎた卑下は逆効果だ。

 というか、彼女のそれは沈んだ声色や表情から察するに、本気でそう思っているようだ。

 

それはだめだ。自信を持って欲しい。

 

故に──

 

 

「──大丈夫。もっと自信を持ちなよ、かわいいんだからさ」

 

 

「なっ──なにを言ってるんだお前はぁ!」

 

 

 一瞬呆けた表情になり、リゼの顔がみるみるうちに茹で蛸のように赤く染まっていく。

 

 ……なんか今日はずっと恥ずかしい事を言っている気がする。言ってから気付くことってけっこうあるよなぁ。

 

 

「むぅ〜……」

 

 

 チノちゃんがむすっと頬を膨らませている。なんだか小動物のようでかわいい。

 

 

「ハクヤさん」

 

 

「な、何かなチノちゃん?」

 

 

「私は、どうですか?」

 

 

「え?」

 

 

「私は……その……かわいい、ですか…?」

 

 

 不安げに揺れた瞳で問うてくる。

チノちゃんの頭上の兎(ティッピーという名前らしい)が、僕を射殺さんとばかりの視線を突き刺してくる……ような気がする。

 

 もう、なるようになれ。

 

 

「かわいいよ、すごく」

 

 

「──っ、そうですか」

 

 

 その後、店をほったらかしにしている事に気が付き、慌てて準備をするのであった。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 親父以外の男の人と接したのはあいつが初めてだ。家の使用人は全員女性だし、町でも見たこともない。

 男性の殆どは女性を忌避していると聞く。

 でもあいつは違った。

 最悪な第一印象のはずなのに。

 私を嫌わずに、逆に褒めてくれた。

 

『かわいい』と言ってくれた。

 

 お、思い出したら恥ずかしくなってきたぞ…

 

 心の中であいつの名前を呼ぶだけで鼓動が速くなる。

 

 あいつは優しすぎる。

 

 今日はいつもより少し客の量が多い。

 あの獲物を狙う視線に、あいつは気づいているのだろう。あいつは平然としているが、それではだめだ。

 

 あいつが傷かないように。

 

 私が、あいつを守ろう───

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 燕尾服に着替えた僕は、チノちゃんとリゼから仕事の指南を受けた。僕の仕事はレジ打ちと雑用と注文を取ることだ。経験のないまま、ぶっつけ本番でコーヒーを淹れて提供するわけにもいかないのである。

 燕尾服なんて着るのが初めてだったので、変な所が無いか心配だったが、二人共絶賛してくれた。

 

 出かかったあくびを噛み殺す。暇だ。

かれこれ30分近く経過したが、元々客の量が少ないうえに、接客は2人がこなしてしまうので、やることが店内の清掃くらいだ。

 

 すると、カランとグラスを揺らしたような軽い音が店内に鳴り響く。

 ドアが開かれる。

 そこには、女の子がいた。

 

 

「うっさぎ〜、うっさぎ〜♪」

 

 

 澄んだ宍色をしたセミロングの髪に、花をあしらった髪留めが輝いている。

 

 

「いらっしゃいませ」

 

 

 どうやらチノちゃんが対応するようだ。接客は彼女に任せよう。

僕は客席の机を拭いている。すると、机の上に紙切れが付いた黒い箱が落ちているのに気がつく。

 二つ折りに折られていたソレには、

『かっこいい店員さんへ』と書かれていた。

 

 

「どうかしたか、ハクヤ?」

 

 

 僕の様子に気がついたのか、リゼが声をかけてくる。

 

 

「あぁリゼ、こんな物が…」

 

 

 紙切れをリゼに見せると目の色を変えた。

 僕から箱をひったくり、

 

 

「これは私が預かっておく」

 

 

 と言って店の裏へ行ってしまった。

 あまり気にしても仕方がないので、チノちゃんは大丈夫だろうかと意識を向ける。

 

 

「お好きな席へどうぞ」

 

 

 恐らく問題は無いだろう。というか今日初めて教わった僕が、ずっと手伝いをしているチノちゃんの力になれる事は少ないだろう。店内を見回すと、相変わらず他に客は見当たらない。

 すると、女の子がこちらに近づいてきた。

 

 

「店員さんっ!私、保登 心愛っていいます!ココアって呼んでね!あなたのお名前を教えてくれるかな?」

 

 

「あ、僕は烏兎 白夜といいます」

 

 

「ハクヤくんか。よろしくねっ!それから、敬語はいらないよ?」

 

 

そう言って僕に手を向けてくる。

 

 

「うん、よろしくね。ココア」

 

 

僕はココアの手を取り微笑む。

えへへ、と頬を染めココアが照れる。

 

 その後、ココアが席に着く。

 

 

「ご注文は」

 

 

「ハクヤく───」

 

 

「非売品です」

 

 

 チノちゃんに冷たく一蹴される。えげつないジョークに対するチノちゃんの塩対応……流石だ。

その後、結局オリジナルブレンドを注文。

 運ばれて来たコーヒーを見て、ココアが話を始める。

 

 

「私、今日からこの町の学校に通うの。

でも下宿先を探してたら迷子になっちゃって……」

 

 

「───香風さんってこの近くのはずなんだけど、知ってる?」

 

 

チノちゃんが僅かな驚きと共に答える。

 

 

「……うちです。」

 

 

「これは偶然を通り越して運命だよ!」

 

 

 少しリアクションがオーバーだが、この子がもう一人だったのか。

 

それぞれ改めて自己紹介をし、そのまま軽い雑談へ。

 

 

「そういえば、ここのマスターさんは留守?」

 

 

「祖父は、去年……」

 

 

 チノちゃんが目を伏せて答える。

……そうだったのか。

ココアが慰めるようとしている。

 

 

「チノちゃん、ココア」

 

 

2人が僕に目を向ける。

しんみりとした空気を帰るように、明るい調子で話しかける。

 

 

「リゼは裏に行ったっきりだけど…困った事があったら言ってね。僕に出来ることだったら()()()()()()から」

 

 

「「「ん?今なんでもするって

言ったよ(言いましたよ)ね(な)?」」」

 

 

 リゼが光の速さで戻って来た。




誤字脱字、またアドバイス等ございましたら、教えていただけると嬉しいです。

____________

7/10 男女の比率を修正。
ご意見をくださった方、ありがとうございます。



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2/16 加筆修正
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