今日も今日とてバイトである。
仕事が板についてきたとまでは行かないものの、多少は慣れた。お客さんもあまり多くないので、大半が接客ではなく掃除である。
「む、コーヒー豆が少ないかな」
カウンターの台拭きがてらに色々確認した所、置いてあるコーヒー豆の残りが少なかった。
裏の倉庫に取りに行こうと身を翻すと、肩を軽くつつかれる。誰だろうと振り向けば、少し得意気な表情のリゼだった。
「倉庫、行くんだろ? 手伝うよ」
「ありがとう。助かるよ、1人で運ぶのは結構辛くて……」
リゼはよく気が回る。困っていることがあればすぐ助けに入ってくれるし、接客も料理もこなす。
ぶっちゃけ僕いらないのではないだろうか。
はやく仕事を覚えてもっと役に立とうと意気込みながら倉庫に入る。
部屋の壁際は背の高い棚が並んでおり、その中には大きさや形が様々な瓶、麻袋や紙袋、ダンボールが詰め込まれている。
コーヒー豆の袋の群れから必要な種類のものを選別し、持ち上げる。
「よい、しょっと……重ッ」
「あ、おい。1人で無理するなって」
コーヒー豆の入った袋を無理に持ち上げて足と腕が重量過多で震えるが、すかさずリゼが助けに入ってくれた。
非力な僕を許してくれ……
「体力落ちたなあ」
ため息混じりに呟く。筋力も体力もガタ落ちだ。受験勉強で運動をする機会が殆どなかったから仕方がないか。それにしてもここまで落ちるものなのか。
じくじくと痛みを訴える腕を摩りつつ考えていると、肩をつつかれる。
「だったらさ、私と一緒に体力作りでもしないか?」
「いいね、やろうよ」
「じゃあ、今度の土曜日に公園でやろう。ラビットハウスも休みだし」
◆◆◆◆◆
公園
春の早朝の心地よい涼しさを感じつつ軽くストレッチをしてから、歩いたりジャンプしたりして身体をほぐす。
「──よし。じゃあ走るぞ」
そう言ってリゼが走り出す。
マラソンかあ。1人だと続きにくいから、人と走るのはいいかも。
「……って、速いな!?」
リゼが走り出してから凡そ3秒。僕も負けじと走り出す。
「おーい、もう少しゆっくり行くかー?」
「大丈夫だよー!」
僕にも男の意地ってものがあるのだ。負ける訳にはいかないとギアを上げた。
10分後
「お、おい大丈夫か?」
「……だ、大丈夫」
反射的に答えたが、肺は潰れたみたいに痛みを発しているし、足には巨大な鉄球を付けたような重さがある。
無理に歩こうとすると、よろけて転びそうになってしまう。
「ハクヤっ!」
リゼが支えてくれた。
感謝と情けなさを感じ、気が緩んだからか、僕の意識はそこでぷつりと切れた。
◆◆◆◆◆
「──っ」
眠い。意識は半ば覚醒しているが、目はとじたままだ。というかすごい寝心地がいい。なんだこの枕。こう……暖かくて、弾力があるっていうか。
あんまり心地がいいので手で触ってみる。
「ひゃんっ」
……ん? なんだ今の音。
そういえば、何してたんだっけ。ああ、そうだ。
リゼとマラソンしてて、そのまま──あ。
「……おはようございます」
「っ、なっ! ハクヤ、やっぱり起きて……!」
ぱちりと目を開く。すると、目の前に映った紫色が一瞬で消え、同時に後頭部の暖かい弾力も消えた。
恐ろしいく早い撤退だったが、間違いない。
膝枕ださっきの。僕でなきゃ見逃しちゃうね。
「……ええと、迷惑掛けちゃってごめん」
「いいよ、気にするなって。」
「あー、それでさ」
広い部屋の中にはベッドや勉強机の他に、ぬいぐるみが置いてある。
「ここはリゼの家って事でいいのかな?」
「あ、ああ。そうだぞ」
「そっか。じゃあさ、そこにいる方々は……?」
ちらりとドアから除く人達を見やる。
サングラスを掛けてスーツを着た女性だ。
「な、お前らっ!」
リゼの表情が驚愕に染まると同時に、スーツ姿の女性の群れが流れ込んできた。
「やはりあの方はお嬢様の──」
「いやっ、だから違う!」
「嘘をつく必要はありません。我々はお嬢様を応援しています。ですから、これを」
黒い服の方々は、リゼに四角い紙箱を渡し、そのまま部屋から出ていった。
「我々はこれから見回りに行ってきます!部屋には虫1匹入れさせませんので、どうかご安心下さい!」
部屋に残るのが僕とリゼの2人きりになると、
リゼが手に持っていた箱を握り潰し、そのままゴミ箱へ叩き込んだ。
普段と違う様子だったのでつい気になり、問いかけずにはいられなかった。
「あー。リゼ、何を貰ったの?」
「……知りたいのか?」
頬を染めながらばつが悪そうにするリゼを見て、聞いて良かったのかと一瞬思うが、好奇心の方が強かったので頷いてみる。
「──だ」
「え?」
「だめだ、やっぱり言えない……!」
◆◆◆◆◆
「もう12時かあ」
「チノ達……ラビットハウスには連絡してあるから大丈夫だぞ。ほら、ご飯だ」
「本当に、何から何までありがとね」
ロールパンとコーンスープだ。
リゼがスープをスプーンですくってこちらに向けてくる。……え?
「ほ、ほら。あーん」
「あ、うん」
反射的に口を開け、そのままスプーンを咥える。
「ど、どうだ?」
「……美味しいよ」
味を感じる余裕は無かったけど。
というか、食べさせてもらうのって思ったより食べにくいものなんだな。スプーンが歯にぶつかるというか。
なんて別の事に思考を割いて羞恥から逃げる。
「なあ、ハクヤ。そういえば私の家で護身術を教える約束をしてたな」
「うん。僕がリゼと会ってすぐの時にね……まあ、このザマじゃあ先に体力づくりからだなあ」
「その時は、私も付き合うよ。……また倒れたら目も当てられないしな」
悪戯っぽく笑いながら揶揄ってくるリゼ。
むっとしたので僕もニヤリと笑い、負けじと言い返す。
「そしたら、とても優しいリゼさんが倒れた僕の事を自分の部屋に連れ込んでくれるからね」
「なっ、男がそんな言葉を使ったらだめだぞ!大体──」
この後。ちょっとした言い合いというか、揶揄い合いになり、しばらくの間お互いに顔を見るとその事を思い出し、恥ずかしくなったりしたらしい。
あけましておめでとうございます(激遅挨拶)
大分前になりますが、この作品が日刊ランキングに乗ることができました。本当にありがとうございます。
とはいえ、まだまだ拙く穴だらけの展開・文章です。これは他でもない作者の技量不足によるものですので、『この文章はおかしい』とか『こうすると良くなる』といった指摘やアドバイスを頂けると嬉しいです。