「『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァァァッ!!!』」
ドドドゴシャアッ!!
「グボアァァーッ!!?」
『G・E・R』の凄まじいラッシュを喰らったディアボロは、なす術もなく打ち据えられ壁に叩きつけられる。余りの衝撃に裁判場が揺れ、埋め込まれていたモニターすらもガタガタと揺れて今にも外れそうになる。
「や、やったッ!何が起きたのかさっぱりわかんねーけど、アイツの『キング・クリムゾン』は苗木っちの『G・E・R』に手も足も出なかった!苗木っちの勝ちだべ!」
「…本当に、なにがあったというのだ?奴は確かに時を飛ばそうとした筈…。なのに次の瞬間にはまるでそれが敗れたかのように慌てふためいていた。『レクイエム』とは一体…?」
「もう十神君!そんなことはどうでもいいじゃあないですか!私たちは勝ったんですよ!もっと喜びましょうよ!」
「…ええ、終わったのね。これで、全てが…」
「…終わって、なるものか…ッ!!」
『ッ!!?』
ハッとして視線を向けた先には、満身創痍ながらも憎悪の籠った視線でこちらを睨むディアボロが居た。
『ディアボロッ!貴様、まだ生きていたのか!?』
『しぶてえ野郎だ…』
「ゴキブリかっつーの!?」
「黙れッ…!俺は、まだ闘えるッ…!俺には、帝王に返り咲くだけの力がまだ残っている…!今度はもう油断せん…、『レクイエム』が発動するよりも早く、貴様に『ディスペアー』を届かせてやる…ッ!」
もはや半ば残骸となりかけた『キング・クリムゾン』を執念で動かし、ディアボロは身構える一同に対し再び時を飛ばそうとする。しかし…
「…無駄だ、ディアボロ。もうお前にそんなチャンスなど残ってはいない…」
「何…!?」
そんな中で一人、全く身構えることなくディアボロを見つめる苗木が静かに言い放つ。
ギギ…ギ…
「もうお前は、どこにも向かうことはない…。どこにも『辿りつく』ことは出来ない…。特に、『真実』に到達することは…決して…」
ギギギギッ…ギッ…!
「な…!?それは…」
メギャッ!!
「どういう…」
『…なんだ、呆気無…』
グチャアアッ!!
「ひいっ!?」
「う、うおおおおッ!?デ、ディアボロがッ…!」
苗木の言葉に疑問を返す前に、ディアボロは真上から落ちてきたモニターによって押し潰されてしまった。
「…これが、黒幕の最期か…!」
「うはーッ!スプラッタ!18禁!!18禁!!」
「ち、血が…あんな一杯…」
「…どう考えても即死ね。確かにこれでもう苗木君に仕返しすることはできなく…ッ!?」
黒幕の死に安堵する一同であったが、モニターの潰れた部分をよく見てみるとその安堵の表情が歪む。
「…おい、これはどういうことだ…!?」
「な、なんだべ?」
「…あのモニターの下の部分を見て」
「モニターの下ぁ?んなモン見てもヤローのミンチしかねーだろ…」
モニターの下部、、無残に砕けたそこには大量の血痕は残っていたものの、一番無くてはならないものが存在していなかった。
「…し、死体が…」
「ディアボロの死体が…無えべッ!?」
「まさか、逃げたのか…?」
「あり得ねーッ!つかどっからよ?」
「分からない…でも、死体が無い以上どこかに行ったとしか考えられない…!」
「…苗木君ッ!教えて、アイツは何処へ行ったのッ!?」
「………」
「…!?」
ディアボロが目を覚ましたのは、荒廃した街並みの中に打ち棄てられた車のボンネットの上であった。
「ここは…?俺は、あの瞬間…何かに潰されて…」
『…んあ?ここどこよ?つか、なんで生きてんの?』
「江ノ島盾子…!?貴様まだいたのか!」
『いや、まだいたも何もアタシの体だから。…つーかマジでどうなってんの?アタシらさっき死んだ筈だよね?』
「死んだ…だと?馬鹿な、だとすればここはあの世だとでも…」
グサッ…
「…?」
脇腹に感じた奇妙な感触に顔を向けると
モノクマの仮面を被った男が自分の脇腹に包丁を突き刺していた。
「なッ…!?き、貴様ァッ…」
「…絶望」
「な、何…?」
「絶望ッ…!」
グサッ
「ぐおおッ!?き、貴様やめ…」
「絶望…絶望、絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望ゥッ!!皆みんな、絶望しちまえばいいんだぁ~ッ!!」
グサッ!グサッ!グサァッ…!!
意味不明な言葉を発しながら、男はディアボロを包丁で滅多刺しにしていく。
「ぐ、ああああッ!?こ、この…このディアボロが、こんな奴なんぞに…ッ!」
『…ア、ハハハァ。因果応報…って奴かな?まあこれはこれで絶望的かも…』
「ふ、ふざけるなぁッ!お、俺は、ディアボロだぞッ!それが、こんな…こんなッ!」
「…ハッ!?」
失血から気を失ったディアボロが目を覚ますと、そこは先程とはうって変わってどこか近未来的などこかの施設の中のようであった。
「い、一体どうなっている!?俺は、助かったのか?…!傷が無い…。だ、だが…さっきのあの痛みは確かに…」
『…何なのコレ?死んだと思ったらまた生き返って、まるでやり直してるみたい…』
と、そこで江ノ島は今自分たちに起きている事態を理解した。
「…江ノ島盾子?」
『…う、ぷぷぷぷぷッ…!アーッハッハッハッハ!成程ね、これが『レクイエム』か!…くっくっく、苗木ィ…やっぱアンタ最高だよ…♡』
「貴様、何を言って…?」
『…ん?誰だあいつは』
「ッ!」
どこかから聞こえてきたスピーカー越しの声に顔を上げると、壁の上の方にある窓ガラスの向こうに5人ほどの子供たちがこちらを見ているのが見えた。
「…なんだ、あの餓鬼どもは?」
『おかしいな~?こんなところに侵入者がいるだなんて聞いてないんだけどなぁ?』
『…あっ!ていうかよく見たらあいつ『オトナ』じゃないか!』
『お、オトナ!?オトナがなんでここに…?ま、まさかここがバレた!?ぼ、僕チンのせい!?』
『…いえ、違うでしょう?どう見てもあっちも混乱してますし、…それにあの残念そうな顔じゃあスパイにも見えませんわ』
『どちらにせよ、ここを見られた以上生きて返す訳にはいかない…。どうする?モナカちゃん』
『ん~…、そうだねえ。…じゃああのおじさんには、『完成版モノクマちゃん』の記念すべきオトナ退治第一号になってもらお~!』
「モノクマだと…!?」
ガーッ…
「!?」
車いすに座った少女の言葉と共に、ディアボロの正面の壁が開きそこから何かが現れる。
「なんだ…ッ!?」
怪訝な顔でそれを見やるディアボロであったが、やがてそのシルエットが明らかになるとその表情は驚きのものに変わる。
現れたのは、幼児程の背丈のクマの形をしたなにか。白と黒のツートンカラーと紅い片目は見慣れたモノであったが、ディアボロの知るそれよりどこか機械的な印象を感じるソレの名は…
「モノクマ…だとッ!?」
そう、少女の言葉通り、それは紛れもないモノクマであった。
『…ああ、なるほど。ここはあそこだった訳か。だったらあの子たちがここに居るのも不思議じゃあないねえ…くっくっく』
「何…?おい江ノ島、貴様奴らの事を知って…」
『やっちゃえー!モノクマちゃーん!』
『イエーイ!』
少女の言葉を受けて、モノクマはノリのいい声を上げてディアボロに襲い掛かる。
「フン…、こんなガラクタ程度…ッ!?」
ディアボロは所詮モノクマと鼻で笑って『キング・クリムゾン』で迎え撃とうとし…そこで異変に気が付いた。
「…す、スタンドがッ、『キング・クリムゾン』が…出ないッ!?」
スタンドを出そうとした瞬間、得も知れない虚無感を感じてみれば己の力の象徴である『キング・クリムゾン』の存在を全く感じなかったのである。
「な、何故だッ!?『キング・クリムゾン』が、消えたとでもいうのかッ!?そんな馬鹿なことが…」
『…あー、多分間違いないと思うよ』
「何ッ!?」
『苗木が言ってたっしょ?『レクイエム』の能力はあらゆる事象を『ゼロへと還す』能力。…つまり、アンタの『キング・クリムゾン』も『ゼロ』の状態…スタンドを発現する『以前』の状態に戻されちゃったって訳よ。アンタがどうやってスタンドを得たのかは知らないけど、もっぺん『矢』にでも刺されない限りもう戻ってこないだろうねえ~』
「なん…だと?…ふ、ふざけるなぁッ!苗木誠ォォォォォッ!!」
あらん限りの憎悪の叫びを上げるディアボロに一切躊躇なく、モノクマは鋭い爪を振りかざしてにじり寄る。
「お、おいッ!これもモノクマなら貴様の言うことぐらい聞くだろう!?なんとかならんのかッ!?」
『無理だね。これは学園のやつとはタイプが違うからアタシの制御は受けないよ。無駄無駄、…それにこんな楽しいこと止めるだなんてとんでもないからねえ~♡』
「楽しい…?きっ、貴様こんな時にまで何を言って…!?」
怯えるディアボロを嘲笑うかのように、モノクマは一切の躊躇なく爪を振り上げ…
『オトナ一匹、討伐完了~♡』
「ま、待っ…」
力の限り振り下ろし
ズチャアアアアッ!!
ディアボロの顔面を、易々と引き裂いた。
「うわあああああああああッ!!?」
「…ハッ!?」
次にディアボロが目を覚ましたのは、蝋燭の明かりだけが存在する薄闇の中であった。
「ど、どうなっている…!?ま、また場所が変わって…。…夢?だ、だが…さっきの顔面を引き裂かれた痛み、とても幻覚とは……ッ!?」
と、妙な束縛感を感じたディアボロが周りを見渡すと、自分が今置かれている状況に気が付いた。
動き辛さの理由は、自分が今石の台の上に拘束されて寝かされているからであった。そしてその自分の周りには、モノクマの仮面を被ってフードを羽織った幾人もの人影が蝋燭の明かりに照らされて見受けられる。
「なんだ…こいつらは?おい、貴様らこれはどういう…」
ディアボロがそう問おうとした時、その中の一人がディアボロの傍に歩み出てその他の連中に向けて言い放つ。
「…これより、我らが『絶望』の象徴たる『江ノ島盾子』様への生贄の儀式を始める!」
「いけ…にえ?…この俺が、生贄だとッ!?」
生贄、その言葉を聞いた時、今の自分がどういう立ち位置に置かれているのかということをディアボロは理解できた。キリスト教徒の様に江ノ島の写真を崇めて祈る大勢の人々、縛られ身動きのできない自分、…そして今声を放った男の手に握られた、血の染みがついた木槌と鉄パイプ程度の太さがある大ぶりな釘。そこから連想される自分の未来はわざわざ『エピタフ』を使うまでもなく明らかであった。
「や、やめろッ!貴様ら、分かっているのか!?この俺の中には、貴様らが崇めるその江ノ島盾子がいるのだぞッ!?そんなことをして、ただで済むと思っているのか!?」
しかし、そんなディアボロの叫びなどまるで聞こえていないかのように、その男はディアボロに向き直ると胸に釘をあてがい、手にした木槌を振り上げる。
「江ノ島盾子様と我らに、限りの無い『絶望』あれ…!」
「く、糞ッ!一体何が起こっているッ!?このディアボロともあろうものが、さっきからこんなふざけたことで…!?」
とそこで、ディアボロはようやく自分の身に起きている現象に思い至る。
「ま、まさかこれが…『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』のッ…!?」
ブシャアアアッ!!
「…な、苗木君?」
「『探す必要はない』って…どういうこと?」
「言葉通りさ。…もう奴はどこにもいない…いや、『辿りつけない』。わざわざ僕らが捜すまでもなく、奴は既に終わっているんだ」
「どういうことだ…?説明しろ苗木ッ!?」
「…二度目に『レクイエム』に至ったことで、僕はようやくこの力の全てを理解することができた。僕の『レクイエム』の力、…それはあらゆる事象を『ゼロへと還す』能力…」
「ゼロ…?」
「そう。この力の前では、この世のあらゆる事象は全て始まる以前…つまり『ゼロ』の状態に戻されてしまう。どんな兵器による攻撃だろうと、どんなスタンド能力だろうと…たとえ『死』であろうと」
「ッ!?」
「奴が死んだとしても、その死んだという事実自体が『ゼロ』に戻され、再び生きている状態に戻される。…だが『死んだ』という『真実』そのものが変わった訳ではない以上、奴はすぐに再び死ぬことになり…また蘇る。…奴はもうどこへも向かうことはない。特に『真実』に到達することは決して…、『死ぬ』という『真実』にさえ到達することは永遠にない…『無限に』」
『永遠の…生と死の輪廻…』
「終わりのないのが『終わり』…それが、『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』…!」
「…おじちゃん、蹲って、お腹痛いの?」
「…ハァッ!?」
横合いに立っていた少女からかけられた声ですら、今のディアボロにとっては恐怖の対象でしかなかった。死んでは生き返り、またすぐに『異なる死因』による死の繰り返し…終わることない死の『無間地獄』は、ディアボロの精神を既にへし折り、今の彼にはこの世の全てが自分を害する『敵』に見えていた。
(お、俺は何回死ぬんだ!?次はど、どこから…い、いつ『襲って』来るんだ!?…俺は、俺はッ!)
「俺の傍に近寄るなぁーッ!!!!」
『アーッハッハッハッ!!最高ッ!最高だよ苗木ィ~!やっぱりアンタは『希望』そのものだったんだ!だからこそ『絶望』を望む者ですらもそれを『拒否』してしまうほどの『絶望』を与えることができる!無限に与えられる異なる『死の絶望』ッ!最高の『希望』であるからこそ、アンタは最悪の『絶望』を与えられるんだッ!!…アンタと出会えたことは本当に『運命』だった!愛してるよ苗木ィ~ッ!!アーッハッハッハッハッ!!!』
…黒幕である江ノ島の消失により、もはや王無き城と化した学園の廊下を苗木達は歩いていた。先頭を行く苗木の手には、ディアボロが潰された跡に落ちていたスイッチらしき物、戦刃曰く『脱出スイッチ』が握られている。
「…そもそもの話、ディアボロと江ノ島さんはそりが合う訳が無かったんだ」
「自分にすら『絶望』を望む真正の異常者と、他人には『絶望』を、自分には『希望』を望む小悪党…成程、確かに釣り合いがとれるとは思えんな」
「こうなることは当然の結果だった…ということかしらね」
「けど、アイツの場合全然カワイソーとは思わねーがな!」
「ちょっと葉隠!そんな言い方戦刃ちゃんに悪いでしょ!」
「…ハァーッ、これだからコイツは殺す気にならねーんだよな。これぽっちもビビッとこねえ…」
「……」
「…心配するなむくろ。どうせディアボロの精神はそう永くはもたない、いずれ掻き消えて江ノ島さんが表に出てくるだろう。そうなったら…頃合いを見て解放してあげるよ」
「ッ!?ほ、本当に…?」
「おい、そんなことをして大丈夫なのか?奴は…」
「まあ、なんとかなるでしょ。いつか世界が在るべき形に戻って、江ノ島さんの存在を皆が忘れかけてきた時まで…ね。僕らの所で面倒見れば世の中への影響も抑えらえるだろうし、江ノ島さんも流石に今の僕相手にまたやらかすことはないだろうからね。…最も、江ノ島さんのことだから今の状況をむしろ楽しんでるかもしれないけど…」
「…それはあり得るかも」
「どんだけだべ江ノ島っちは…」
『…フン、相も変わらず甘っちょろい奴だ』
『ま、ナエギらしいけどよォ~』
『フフ…』
和気あいあいとした会話をしていた面々であったが、目的の場所…未だに分厚い鉄の扉で閉ざされた玄関に到着するとその会話も途切れる。
今まではどうしようも無かった存在であったが、苗木が手にしたスイッチを使えばこの扉も開けることができる。しかし、一同の歩みはその扉の前で止まってしまう。
「……」
「……」
「……」
「…ねえ、いつまでこうしているつもり?」
「…いや、なあ…?」
「なんていうか…これで終わりかと思うと、少し…ね」
「ぶぇっくし!」
「あ」
「…はれ?ここ何処?黒幕とか学級裁判は?」
「…もう全部終わったよ」
「ほほ、ホントに!?…っていうか、苗木アンタ何時の間に元に戻ってんのよ!?」
「…記憶が戻ってもやっぱ共有はしてねーとかメンドクセーべな」
「…もう知らん」
「でも、これでやっと外に出られるんだよね!?」
「…と言っても、肝心の外は『絶望』かもしれんがな」
「…それでもいいさ。どんな道であろうと、僕らは前に進むだけだ。今の僕らには、その『覚悟』と『希望』があるのだから…」
「うん…」
『…ならば、俺達とはここでお別れだな』
「え…!?」
「ブチャラティ…!?」
不穏な言葉に振り返ると、舞園からいつの間にか出ていた『S・フィンガーズ』…いや、霧切の『ムーディ・ブルース』と戦刃の『エアロスミス』からも煙のようなものが漏れ出し、それはやがてそのスタンドに宿っていた人物…ブチャラティ、アバッキオ、ナランチャの姿を形取る。
「ど、どうしたの…!?」
『…別に不思議なことじゃあねえさ、ただ『時間』が来た…それだけのことだ』
「時間…?」
『俺達は、ディアボロを倒せなかった無念、そして苗木を守る為に『矢』が起こした『奇跡』の残照…残留思念のようなものに過ぎない…。ならば役目が終わった今、消えるのは当然のことだ…』
「そ、そんな…」
『あー…、その、よお…。あんま悲しまないでくれよぉ。俺たちはとっくに死んでたんだ。またあの世に戻るだけなんだから、その…』
『…ま、そういうことだ。俺たちはもう満足したんだ。別に心残りなんかありゃしねーよ。…ああ、スタンドの事なら心配すんな。俺たちという『人格』が消えるだけだからスタンドそのものは残る…』
「そういうことを言ってるんじゃあありませんッ!!」
『うおッ!?』
「今迄…今まで一緒に闘ってきたんじゃあないですか!?だったら…お別れなんて、悲しいに決まってますよ!」
「そうだよ!アンタ達に心残りが無くても、私たちにはあるの!…っていうか、ミスタさんとかトリッシュさんのことはいいの!?」
『う…』
『…チッ、これだから女って奴は…』
涙目で怒鳴る舞園と朝日奈に、流石の三人もたじろぐ。二人だけでなく、戦刃や霧切もどこか名残惜しそうな視線を向けており、気持ちは同じだということが見て取れる。
…と、そんな二人の肩に苗木が手を掛ける。
「!苗木…」
「…あまり無茶を言っちゃあ駄目だよ二人とも。折角ナランチャが我慢してるのに、僕らが我慢できないんじゃあ恰好がつかないよ」
『なっ!?…お、おいナエギ!余計なことを…』
「だ、だって…苗木君は悲しくないんですか!?苗木君の大切な仲間なんでしょう!?だったら…」
「…確かに、僕も悲しいさ。アバッキオにはまだあの『歓迎のお茶』の仕返しが済んでないし…」
『ケッ…』
「ナランチャとも、一緒に学校に通って馬鹿やっていたかった…」
『…お、オマエェ~!そんな事言うんじゃあねーよぉ~ッ!グスッ…』
「…なによりブチャラティ、僕はまだアンタとの『約束』を果たせていない」
『苗木…』
「それなら…」
「…でも、もう彼らをこれ以上引き留める訳にはいかない。彼らは既に死んでいる…僕らとはもう『在るべき場所』が違うんだ。ならばもう僕らに彼らを引き留める権利はない。どんな存在であろうと、自分が『在るべき場所』の枠組みを超えることは許されない。死人が決して蘇ることが無いように、それがこの世界の『ルール』なんだ」
「苗木君…」
「…だからこそ、僕はこの別れを受け入れる。彼らと共に進むことは出来なくとも、彼らの『思い』を受け継いで『先』に進む!それが、僕が彼らにできる唯一の『弔い』になるのなら…」
苗木は懐から『矢』を取り出す。
「皆が命を賭けて僕に繋いでくれたこの『矢』…。例えこれが原因で再び争いが起きることがあったとしても、僕はこの『矢』は破壊しない!皆の『思い』が籠められたこの『矢』と共に…僕は前に進む!…ブチャラティ、それがアンタとの『約束』の代わりだ」
『苗木…俺はもう満足している。俺達が生きることが『勝利』なんじゃあない。俺たちがここまで到達できた…それこそが完全なる『勝利』なのだ。運命とは『眠れる奴隷』だ。俺たちはそれを『解き放つ』ことができた。それこそが『勝利』なんだ。だからこれでいいんだ、全てな…』
やがて彼らの幻影は一筋の煙となり、天へと昇っていく。
『キョーコ、その馬鹿がまた無茶しねーようしっかり手綱握っとけよ!』
「…ええ、分かってるわ」
『ムクロ~!今まで楽しかったぜぇ~!』
「うん…、私も…ナランチャ!」
『サヤカ…もう迷うことはない。君は、君の信じた道をゆくがいい…』
「…はい!分かりました!」
「…アリーヴェ・デルチ(さようなら)、僕の大切な友よ…」
『…アリーヴェ・デルチ、我らが永遠の『スペラーレ(希望)』よ』
天へと昇っていく誇りある友たちの魂。苗木達はそれが消えるまで、ずっとずっと見送っているのであった。
「…さて、そろそろ俺達も行くぞ」
「ああ、そうだね…」
十神に促され、苗木達は改めて扉に向き直ろうとし…
「…あっ!」
そこで葉隠が素っ頓狂な声を上げる。
「な、何!?」
「…なんだ葉隠」
「いや…ちょっと思ったんだけどよ、今苗木っちって吸血鬼なんだよな?」
「そうだけど…」
「だ、だったらよ…外に出て、お日さんの光を浴びたりしたら…溶けちまったりしねえよな?」
「…ッ!ど、どうなんですか苗木君!?」
こんな時にと思える質問ではあるが、苗木が吸血鬼という伝承にしかない存在になってしまった以上、無理もないことであった。
その問いに、苗木はしばし考えた後こう答える。
「…確かに、僕のように石仮面をルーツに持つ吸血鬼は太陽の光にすごく弱い。実際、あのクソ親父の最期は日の光で霧散したって聞いたしね。…でも、不思議と大丈夫な気がするんだ」
「…本当に?」
「うん。これは想像でしかないんだけど…『レクイエム』になった時に『ゴールド・E』の元々の能力が作用して体のつくりが更に書き換えられたんだと思うんだ。今の僕は吸血鬼としての特性を持ちながら、日光を浴びても平気な体になっている…そんな気がするんだ。都合が良過ぎるかもしれないけどね」
「そ、そうか…」
「…こいつが大丈夫というなら問題ないだろう。それより、さっさと扉を開けるぞ」
「うん」
疑問も晴れたところで、皆は再び扉に向き直る。
「…これで、さくらちゃんとも本当にお別れなんだね」
「また来るさ。いつまでも皆をこんなところに置いておくわけにはいかない…。いつか必ず、また皆をここに迎えにこよう。それまでの…しばしの別れだ」
「外の世界は、本当に滅茶苦茶なんでしょうか…?実は全部嘘だったりしたら、いっそ楽なんですけどね…」
「…あまり期待はしないほうがいいわよ。あの江ノ島盾子がそんな嘘をつくとは思えないもの…」
「フン。どんな世界だろうが構わん。どの道この世界は、この俺が創り直す。十神財閥の復興と共に、世界は在るべき形に戻るのだからな」
「す、ステキです白夜様ッ!」
「オメエら、困ったらいつでも俺を頼れよ!オメエらだったら特別にタダで占ってやっからな!」
『…3割シカアタンネーンダカラ、2択ノ時ハアテニシネー方ガイーゾ』
「うるせーって!!」
「…私は、どんな世界でも大丈夫。苗木君が一緒なら、どこまでも頑張れるから」
「うんうん!外に出たら、皆でドーナツパーティしよー!」
「…ドーナツ屋がなかったらどうすんだべ?」
「だったら自分で作ればいいんだよ!材料が無かったら小麦から作ればいい!何もかも、1からやり直せばいいんだよ!人間はそれができるんだから!」
「…ああ、そうだね」
「ええ…。不安ばかりだけど、私は少し楽しみよ。貴方と一緒に生きることができれば、そんなことでも大丈夫。…そんな気がするわ」
「うん…」
「…どうしたの?」
「これって、さ…やっぱり『卒業』なのかな?」
「…フン、だとしたらさっきのアレはさしずめ卒業式か?」
「あんな血みどろの卒業式なんて前代未聞だべよ…」
「しかも学園長(仮)は行方不明…ホントにとんでもなかったけど、…ま、こういう卒業もアリなんじゃない?」
「…そうですね!皆と一緒に前に進む、それが本当の『卒業』なんだと思います!」
「そうだね。…じゃあ、押すよ」
『(コクッ)』
ピッ
プシーッ…ガガガガガ…
苗木がスイッチを押すと同時に、重々しい鉄の扉が起動し、轟音を立てて開いていく。
「いよいよ、だね…」
「どんなことがあっても、私はもう挫けません!」
「この先にあるのは『絶望』ではない、この俺が築く『希望の未来』の礎だ!」
「か、書ける!きっと書けるわ!私と白夜様、あとその他大勢の未来の物語がッ!!」
「待ってろ金ヅル共!『絶望』しきったオメエらの心を、俺の占いで『希望』に変えてやんべ!」
「…これから私の償いが始まる。でも、きっと大丈夫。皆がいるから…」
「さようならお父さん…。私は、貴方の『希望』を背負って、前に進むわ…!」
「…行こう、僕らの『明日』に…!」
扉が開いた先から漏れ出す光が、彼らを包み込む。
そして一陣の風が、彼らを吹き抜ける。
あの時とは違う、まだ見ぬ『未来』へ踏み出そうとする彼らを『祝福』するかのように
黄金色の『希望の風』が吹き抜けていった。
…もうちょっとだけ続くんじゃよ
次回からはエピローグです