扉の開いた先、学園から出て最初に目に入った光景は…
ボゴォォォォン…ッ!
地獄だった。
「…正直、心のどっかで微かな期待をしてはいたんだけどよ…」
「現実はそう甘くはない…ということか」
遠くのビルが轟音を上げて崩れ落ちる音が聞こえてくる。ウィルスの汚染の影響かドドメ色になった空からは、誰かの悲鳴が常に聞こえてくるような、そんな感覚すら覚える。
「…滅んでるね、世界」
「はい…」
「…立ち止まっていてもしょうがないわ。予想していたことじゃない。とにかく、まずは生きている人を探しましょう」
「そうだね…」
江ノ島が言ったとおり、学園の中が天国に思えるかのような外の現状に戸惑いつつも、苗木たちは校門へと歩き出す。
「…あれ?校門の前に何かあるよ?」
「何?」
「…あ、ホントだべ…って、…あ、アレ、マシンガンけ!?」
「ええ!?」
朝日奈が示した先を見ると、葉隠の言うとおりそこ…校門前にはにはマシンガンを始めとした銃火器の類がバリケードの如く並べられている。
「な、なんであんなものがここにまであるのよぉ!?」
「…馬鹿者が、そんなことも分からんのか」
「ふぇ?」
「…学園の外に居た人たちが助けに来られなかった理由。そこにアレが関係しているとするなら…もう分かるでしょう?」
「そ、それって…!?」
「……」
その先にあるであろう光景に顔を青くする皆を余所に、苗木は一人銃火器のバリケードへと歩み寄り、その手前で止まる。
「…心の準備はできてる?」
「…う、うん」
「お、おう!」
「分かった。…フンッ!」
ゴガシャァンッ!
気合一閃、苗木が腕を振るうと同時にバリケードは破壊され…
直後、むせ返るような死臭が押し寄せる。
「うっ…!?」
「ひ、ひぃッ!?」
…バリケードの先にあったのは、夥しい数の死体の人海であった。着ている服装はちぐはぐであったが、皆一様にマシンガンによって撃ち殺されたらしく数えるのが馬鹿らしい程の銃痕が体中に空けられていた。
「こ、これ皆…私たちを助けるために…!?」
「そ、そんな…!」
「…ごめんなさい」
「…チッ」
「う、うえ…」
「は、ひぃぃぃぃ…」
「…気絶したわ」
「どうせ起きたらジェノサイダーだ、そのまま寝かせとこう」
目の前の惨状に顔を真っ青にする舞園と朝日奈(葉隠も居たが)、そして罪悪感から謝罪の言葉を何度も口にする戦刃を気遣いながら、苗木は一人死体の海へと近寄る。
「…苗木君?」
「…『ゴールド・エクスペリエンス』!」
苗木が地面に手を当てると、すさまじい生命エネルギーが放出され、それは彼らの流れ出た血を生命へと変換し、…数秒後には、死体の海は真っ白の花畑へと姿を変え、死体を優しく包み込んでいた。
「…済みません。こんなことしかできなくて。でも、僕らは前に進みます。あなた達が命を賭けてくれたことを、僕は決して無駄にはしない…!」
そう懺悔するかのように呟き、苗木は皆に振り返る。
「…行こう」
「で、でも…」
「気持ちは分かる。…でも、ここで立ち止まっていても何も変わらないし、彼らもそれを望んではない。ならば僕らにできることは、彼等の想いを無駄にしないよう前に進むことだけだ!」
「…そういうことだ。先に行くぞ」
「あ…、ま、待ってよ!」
苗木について行くように、皆は死体のそばを彼らの冥福を祈りながら通り過ぎ、街へと向かっていった。
…それからしばらく、皆は街中を徘徊していた。途中、『絶望』に浸食された連中が江ノ島の敵討ちとばかりに襲い掛かってきたが、所詮ただの人間とスタンド使いとでは勝負にならず、殺しはしなかったもののことごとく再起不能にされていった。
「…かれこれ一時間は歩いてるけど、誰もいないね」
「よく考えればここは『人類史上最大最悪の絶望的事件』の爆心地ともいえる場所…。生き残った人も自然ここから逃げて行ったのかもしれないわね」
「だとすると…やっぱりまず『あそこ』に向かうべきだね」
「…?どこへ行こうというのだ?」
「うん。でもその前に…」
苗木は周りを見渡し、あるものを見つけるとそこへ駆け寄る。
「…これなんか良さそうだな」
「これ、って…」
「ただの…ワゴン車じゃあねーか」
苗木が見つけたのは、比較的きれいな状態のワゴン車であった。
「…まさか、これで移動するつもり?」
「うん、そうだよ。…やっぱり鍵まではついてないか」
「…鍵もない車なんぞ拾ってどうする?」
「まあ見ててよ。…確かここをこうして…こうすればっと…!」
苗木はその辺に落ちていた金属片を拾い上げると、鍵穴に差し込んで弄繰り回す。すると…
ブルン…ギャルルルルッ…!
「ッ!え、エンジンがかかったべ!」
「お、うまくいった」
「な、苗木君…何時の間にそんな技術を…?」
「下っ端時代に仲間から無理やり仕込まれたんだよ。ギャングなら車のかっぱらい方ぐらい覚えとけ…ってね」
「…で、運転は誰がすんだべ?」
「僕がやるよ」
「…大丈夫なんだろうな?」
「まあ大丈夫だと思う。こう見えて国際免許持ってるんだから…試験自体はちょっとばかし強引に受けたんだけどね」
「…そう、ならお願いしましょう」
ガチャ…
ガシッ
しれっと助手席に乗り込もうとする霧切の肩を舞園が掴む。
「…何よ?」
「何よ、じゃあないですよ…。何勝手に隣座ろうとしてるんですか?こーいうのは公平に決めるものでしょう?」
「…たかが隣じゃない。いちいち目くじらを立てないでほしいわね?」
「だったらなんで霧切さんまでムキになってるんですかね?」
「…むー」
「…抜け駆けは、良くない」
バチバチと火花を散らす舞園と霧切、そこに頬を膨らませた朝日奈と恥ずかしそうに割り込む戦刃も加わり、女の闘いが始まろうとし…
「…十神君、助手席よろしく」
「あい分かった」
…始まる前に苗木の英断によって十神がするりと助手席に乗り込んだ。
「「「「ああーッ!!」」」」
「やかましい!時間が無いんだ、こんなことに余計な時間を割くなッ!…さっさと腐川を運んで後ろに座れ!」
「ごめんね。でも、今だけは我慢してくれないかな?」
「…はーい」
「仕方ないですね…」
「…ふぅ」
「…残念」
「…俺ってもしかしてハブられてんじゃね?」
『ナンダ今更気ヅイタノカヨ…』
不承不承ながらも女性陣を納得させ、全員が乗り込むと苗木は車を発進させた。
「…流石に少し狭いわね」
「これ多分6人乗りだべ?俺達8人だから…2人定員オーバーだべ」
「…私は平気。軍用車に比べればずっと楽…」
「私も下積み時代は狭いロケ車移動だったので平気です!」
「狭かったら腐川を足元にでも置けばいい」
「またアンタはそんな…!」
そんな会話を繰り広げながら、一行は無人の高速道路をひた走っていた。
「…ところで苗木、貴様いいかげん目的地を話せ。俺たちはどこに向かっているのだ?」
「あ、そうだよ。苗木、どこに行くの?」
「…さっき学級裁判に割り込んできたスタンド、『レッド・ホット・チリ・ペッパー』なんだけど、アレの本体の人は皆憶えてるかな?」
「確か…音石明さんだったかしら?一度学園に来たこともあったわね」
「空条さんにワッパかけられてたけどな」
「…あのスタンドは遠隔操作型のスタンド、かなり遠くからでも操れる。でも、そのためには本体が『安定して電気を確保できる』環境にあることが条件だ。でも、あの首都圏の惨状から目星の一つでもあったSPW財団の目黒支部の可能性は無くなった。…そもそも、目黒支部が無事なら学園の前で張り込んでてもおかしくないからね。だから、僕は『もう一つ』の目星に音石さん…もとい、江ノ島さんが言っていた『絶望に抗う人たち』がいると考えている」
「…その場所は?」
「彼らの故郷、『杜王町』さ」
杜王町のとある住宅地。他の都市に比べればまだ被害も少なく、少しずつではあるが復興の兆しが見えてきているその通りを歩く二人組がいた。
「…ハァ~、毎度のこととはいえパトロールってのもしんどいぜェ~」
「頑張ろうよ億泰君。やっとここまで人が集まって復興してきたんだ、僕らが頑張らないと!」
「…そうだよなぁ~、康一よぉ~」
荒廃した世界に似つかわしくない黒のスーツに身を包み、片方の背の低い方は『SPW財団』のキャップを被った二人の名は『虹村億泰』と『広瀬康一』。杜王町を守るスタンド使いであり、今はこの杜王町に逃げてきた人々を守る為のパトロールの真っ最中であった。
「…しっかし、俺達にもだいぶ限界きてるよなぁ~」
「うん…。僕たちの疲労もだけど、なにより承太郎さんの不在が痛いよね。…それにあの『未来機関』の連中もだよね。こっちとしては一刻も早くプッチの奴を追いかけたいのに、あの人たちそのことに全く危機感を抱いてないからどうしても足場を固めることを優先しちゃうんだよね。別に悪いことじゃあないんだけど…」
「仗助の奴がどうにかスタンドの『DISC』だけは取り返してくれたおかげで一命は取り留めたが…、あのままじゃあ埒が明かねえぜェ~」
「徐倫ちゃんも心配してるし、…僕らだけじゃあやっぱり難しいね」
「…やっぱ苗木達が頼りかぁ…」
「そうだね。音石明の話じゃあ記憶は戻ってるらしいけど、あれからテレビも映らなくなっちゃったし…どうなったんだろう?」
現状に不満を抱きながらも、今自分たちにできることをする為にパトロールを続ける二人。そこに、
ドガァァァァンッ!!
「「ッ!?」」
轟音と共に街の一角からもうもうと煙が上がる。
「康一!」
「うん!」
短く確認し合い、二人はその方向へとひた走っていった。
「う、うわああああ!?」
「助けてぇぇぇ!!」
「…この世の全てに『絶望』あれ!『希望』など全て途絶えてしまえッ!!」
爆発のあった場所では、避難民たちのキャンプに『絶望』した者達が襲撃をかけていた。彼らに明確な『目的』は無い。彼らにとってはこの破壊行為も、『絶望』という『過程』を辿る為の手段でしかないのだから。
「…皆さんッ!早くこっちに!」
「テメエら…いい加減にしつこいんだよッ!!」
故に、到着した康一と億泰の彼らに対する対応も苛烈であった。
「『エコーズ』!」
「『ザ・ハンド』ッ!!」
康一の背後に現れたのは、康一よりもさらに一回り小さい、小人のようなスタンド『エコーズAct3』。億泰の呼び出しに応じたのは人型の姿をし、胸に『$』と『\』の文字を張り付けたスタンド『ザ・ハンド』。
普段の彼等なら…特に億泰の場合はどれほどの凶悪犯であってもスタンド能力者でない人間に対しそうそうスタンドを使うことはしない。だが、今回はそうも言っていられない状況。殺すつもりはないが、できるだけ被害を抑えるためにもやむを得ないことであった。
「…未来機関の手先どもめッ!貴様らも全員絶望してしまえッ!」
「絶望したけりゃ一人でやってろ!俺たちはそんなのゴメンなんだよ!」
「間田さんと鋼田一さんの仇!今こそ取らせてもらうッ!」
そして両軍が今にも争いを始めようとした時…
…ブゥゥゥゥゥンッ!
「…何!?」
「く、車ッ!?」
キキキキキキッ!!
「うおおッ!?」
両者の間に突如一台のワゴンが割り込んできて、そのちょうど真ん中で急ブレーキをかけて止まる。
「な、何…?」
「さ、さあ…?」
ポカンとする康一と億泰であったが、絶望連中の対応は機敏であった。
「…誰だろうが構わん!あの車の中の奴も、全員絶望させてしまえ!偉大なる江ノ島盾子様への貢物とするのだ!」
『オオオオオオオッ!!』
リーダーらしき男の指示に従い、モノクマの仮面を被った大勢の人間がワゴンへと殺到する。
「や、やべえッ!?」
「中の人、早く逃げて!!」
中にいる人がここまで逃げてきた人たちだと思っている康一たちは急いで逃げるよう声を上げる。
…が、乗員が出てくるよりも早く異変は起きる。
「アアアアア…アア…あ?」
ワゴンへと向かっていった連中の勢いがだんだん失速して言ったかと思うと、次の瞬間
「あ、があああああああ…!?」
仮面の下、モノクマの顔に隠れていない部分がすさまじいスピードで『老化』していき、あっという間に老衰寸前にまで年を取った絶望連中はその場に崩れ落ちるかのように倒れていく。
「な…!?」
遠巻きに見ていたリーダー格の男、そして康一たちが声を上げるよりも早く
「…イィィィヤッホォォォォォイッ!!」
今度は車の屋根部分が切り取られたかのように吹き飛んだかと思うと、そこから三つ編みをした少女が一人奇声を上げながら飛び上がり、近くに着地した。
「…あー、狭かった。目が覚めたらおしくら饅頭状態とかキツイッつーの!つーかなんで隣があのオッサンなんだよ!?フツ―ここは白夜様だろーが!?」
「だからおっさん言うんじゃあねーべよ!」
「…貴様と密着など死んでも御免だ」
「はぁぁ~…、さ、さっきのは少し怖かったです…」
「急に運転荒っぽくなるんだから…。まあ状況が状況だし、ちょっと楽しかったからいいけど…」
「…でも、どうにか間に合ったみたい」
「ならそれで十分よ…」
少女に続くかのように、続々と車から降りてくる少年少女。その正体を、康一たちは知っていた。
「き、君たちは…!?」
「え?…あ!康一さん!」
「…ご無沙汰してました」
「お前ら、出てこれたのかよ!?…つーことはアイツも…!」
億泰達の期待に応えるかのように、運転席から現れた人物は絶望連中に向けて言い放つ。
「…聞け!お前らの崇める江ノ島盾子は、先日『希望』の前に敗れた!」
「!?なッ…、そ、そんな戯言を誰が…!」
「放送を見ていたのなら、僕らの事も知っている筈だ。ならば僕らが今ここに居ることが何よりの証拠だ!もう『元凶』は存在しない!おとなしく引き下がるか、黙って降伏して帰順するか…もしくはこの場で叩きのめされるか、選べッ!!」
目の前にいるのは、髪も目も金色なだけのただの子供。だが、その声から感じる意志の強さが、まるで心臓を鷲掴みにされるかのような圧迫感と存在感を放ち、『グレイトフル・デッド』から解き放たれ恐怖を忘れた筈の『絶望』に染まった連中をたじろがせる。
「ひ…退けッ!ここは一旦退くのだぁ!」
リーダー格の男の指示に呼応するように、モノクマの仮面を被った人々はそそくさと逃げ去っていった。そして誰もいなくなった後、たった一人で絶望を退けたその少年は康一たちに向き直り、いつもの人のよさそうな笑みを浮かべて声をかける。
「…どうも、お久しぶりです。康一さん、億泰さん」
「「な、苗木(君)ッ!!」」
今再び、『黄金の精神』を持つ者達が、この杜王町に集結した。
杜王町の庁舎を改修した『未来機関』の仮本部。その中の一室に、苗木達は集められていた。
「初めまして…になるかな?君たちの事は報告で聞いている。…よく生きてあの地獄から戻ってきてくれたものだ」
「いえ…。こちらこそ、そちらのお力になることができなかったことをお詫びいたします」
「いやいや。君たちの方も大変だったということは分かっている。…それに、希望ヶ峰学園のシェルター化には我々も一枚噛んでいた。そのことで君たちを責めるつもりはないよ」
「…ご理解のほど、痛み入ります」
会議室らしきその部屋に事前に集まっていた『未来機関』の上層部の面々と、一同を代表し学園長の娘である霧切が会話する中、緊張した様子の舞園達とは裏腹に苗木と十神はその面々を見渡しながら呟きあっていた。
(思ったより友好的で良かったね)
(…ざっと見渡してみたが、どいつもこいつもどこかで見た覚えがある。どうやら政府の生き残り…主に希望ヶ峰のOBを主体として形成された組織らしいな)
(所々に混ざっている外国人は…?)
(あの胸のバッジ…どうやら国連の関係者みたいだな。こうなると日本というより、世界中の有力者が集まっていると見ていいだろう)
(けど…気がかりなのは…)
(…分かっている。あれだろう)
十神と苗木の視線の先には、その場にいる誰よりも老人でありながらも鋭い視線で会議の様子を伺う人物…現SPW財団のCEO代理であり未来機関の最大のスポンサーであるジョセフ・ジョースターが座っていた。
(ここに来るがてら康一さんから聞いた話によると、SPW財団は『人類史上最大最悪の絶望的事件』が発生した直後から各地の民間人の救出や暴徒の鎮圧に協力していたみたいだけど…)
(…いかに天下の大財閥といえど多勢に風情…。やがて本社が陥落し、生き残った連中が比較的被害の少ないこの杜王町に避難し、一時的な拠点とした。そこに逃げてきた政府の人間が財団と協力して立ち上げたのがこの『未来機関』という話だったが…)
(あの様子を見る限り…どうやら完全に和解したようじゃあないみたいだね)
値踏みするような二人の会話を余所に、会議はいよいよ佳境へと差し迫る。
「…結論から言おう。我々は君たちを歓迎する」
「…!ありがとうございます」
「いや、礼を言うのはこちらだよ。最後の学級裁判の様子は途中で途切れてしまったために分からなかったが、ここに居るということは君たちはあの江ノ島盾子を打ち倒し、『希望』が『絶望』を凌駕したということを証明してくれた人類の英雄だ。ならばその力を、この『未来機関』の為に使ってくれるということを、我々は大変喜ばしく思う」
「じゃあ…!」
「これでやっと落ち着けるべ!いや~、長かったべ~!」
ホッとする一同であったが、次の言葉にその表情が凍りつく。
「…ただし戦刃むくろ。貴様を我が『未来機関』に受け入れることは出来ない」
「…えっ?」
「……」
「…一応聞いておきます。なぜですか?」
「我々が何も知らないと思ってもらっては困る。戦刃むくろ…『人類史上最大最悪の絶望的事件』を引き起こした『超高校級の絶望』の片割れであり、首謀者である江ノ島盾子の実の『姉』である。そんな存在を簡単に受け入れるほど、我々は愚かではないのだよ」
「で、でも!確かにむくろちゃんは最初は江ノ島盾子のスパイだったけど、それでも私たちを助けるために…!」
「だがその女が『絶望』側の人間ではないという証拠がどこにある?ひょっとすれば、ここまでの事も全て江ノ島盾子との自作自演で、いつの日か彼女が第二の江ノ島盾子となる可能性が無いと言えるのか?」
「そ、それは…」
未来機関の問い詰めに、皆は言い返せずにいた。無論、彼女がもう『絶望』ではないということは皆信じている。だが、こちらの込み入った事情を知る由もないこの連中を言い聞かせるには決定的な『証明』がない。それが無い以上、口でどうこう言おうとも信じてもらえるはずが無いのは自明の理であった。
ふと見れば、ジョセフもまた苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。これこそがジョセフにとって危惧していたことの一つであった。
…だが、自分の愛した女が疑われているというこの状況を苗木が捨て置くはずが無い。
「…それはあり得ません」
疑惑の目を向ける未来機関に対し、苗木は毅然と言い切った。
「苗木君…!」
「ほう…、何故そう言い切れる?」
「何故?…じゃあ聞くが、あんたら仮にむくろと同じ状況に立たされたとして、自分の事を憶えてもいない仲間の為に自分の身内切り捨てれるのか?」
「ム…」
「むくろは、僕たちの為に江ノ島さんと敵対した。『絶望』の首魁とはいえたった一人の肉親よりも、僕たちとの『希望』を信じてくれたんだ。だったら僕は、その気持ちに応えたい。彼女が全てを投げ打ってでも僕らを信じてくれたその心を、僕は信じる。…あんたらはそんな彼女の気持ち一つ汲んでやれないほどにちっぽけな大人なのか?」
「なっ!?…き、貴様!たかがチンピラの頭目の癖に、これまで世界の為に闘ってきた我々を侮辱するのか!?」
「…苗木君を馬鹿にするなッ!!」
「ひっ!?」
「いいんだむくろ…。僕の事をどう言おうが勝手にすればいい。だが、もし彼女に危害を加えるというなら…僕は一人でもアンタ達と『敵対』しよう」
「な、苗木君ッ!?」
「…正気かね?」
「自分の惚れた女一人を犠牲にするぐらいなら、この世界もろともアンタらもぶっ壊してやるさ」
「苗木君…」
「…ほっほ、やはりDIOの息子じゃのう。あの傲慢不遜っぷりがそっくりじゃ」
「…言わんでくださいジョセフさん」
睨みあう苗木と上層部。当初、苗木の事を『正義感ぶったチンピラ』としか見ていなかった上層部。だが、こうして自分たちに躊躇いなく啖呵を切ってきたことで、ジョセフや承太郎と言ったSPW財団の関係者が口々に気にしていた理由をほんの少しだけ理解した。
「…わ、分かった。とりあえず彼女への処分は保留としよう。だが分かって欲しい。ここに居るのは皆『絶望』に被害を受けた者達ばかりだ。彼女の本心を知る君たちはともかく、そういう連中にとっては戦刃むくろは憎むべき対象になりかねないのだ。彼女の身の安全を考えても、彼女を我々に迎え入れるには問題があるのだよ」
「……」
「…ひとまず、戦刃むくろ。君を一時軟禁させてもらう。無論、手荒な真似はしない。こちらの方で君に対する方針を決定次第解放すると約束しよう。それで構わないかな?」
「…分かりました」
戦刃が同意したのを見計らって、外にいた機関員が戦刃を外へ連れて行く。その時、苗木がすれ違いざまに戦刃に何かを呟く。
「……後でまた会おう」
「…!」
一瞬驚いたような表情を見せた戦刃であったが、すぐにもとの無表情へと戻り悟られないまま会議場の外へと出て行った。
「むくろちゃん…」
「……」
心配そうにそれを見送る舞園達とは裏腹に、苗木は直後ジョセフとなんらかのアイコンタクトを取った後、再び未来機関との会合を続けていった。
その日の深夜、戦刃は本部内の一室に軟禁されていた。
「……」
戦刃としても、この扱いは覚悟していた。理由や過程はどうあれ、自分が『絶望』に加担していたのは事実。それに対する『罰』を受ける覚悟はできていた。最悪死も覚悟していたが、この程度で済んでいるのは苗木の努力の賜物であろう。
とそこに、
ジジー…
小さな音と共に部屋の一角がジッパーが開くように裂かれ、そこから舞園が顔を覗かせる。
「…むくろちゃん、こっちです…!」
(コクッ)
外の見張りに感づかれないように、戦刃は舞園が開けたその穴から部屋を脱出していった。
杜王グランドホテルを改装したSPW財団の仮本社。舞園と戦刃が戻って来たのは、そこにある元支配人室のジョセフの部屋であった。
「ただいま戻りました!」
「お疲れさま、舞園さん」
「いえいえ!むくろちゃんの為なら当然です!」
「すまんのぅ戦刃さんや。あの連中、もうこんな老いぼれなんぞの話なんぞまともに取り合ってくれんでのう。結局止められなんだわい」
「いえ…お気遣いありがとうございます」
「さて…これで大体の面子は揃ったか」
その一室に集まっていたのは、仗助や康一を始めとした杜王町のスタンド使い達、ジョセフ、ホル・ホース、音石明といったSPW財団のスタンド使い、そして霧切たちであった。
…が、未だにこの場に一番いるべき人物が来ていなかった。
「…苗木君は?」
「ああ、苗木君なら…」
「…承太郎さんトコっスよ」
仮本社内の医務室。元々ホテルであったために大したものでは無かったが、今はSPW財団の最大限の医療設備を整えたその一室で、一人眠る男がいた。
ピッ…ピッ…ピッ…
「…承太郎さん」
男の名は空条承太郎。かつて最強のスタンド使いとして世界中のスタンド使い達に知らない者はいないとすら言わしめた男。だが今は、ある男のスタンドによって記憶とスタンドを奪われ、かろうじて一命を取り留めている状態であった。
「…父さん」
「徐倫ちゃん、間に合わなくて済まない。僕がもっと早くプッチの奴を倒せてたらこんなことにはならなかったかもしれない…」
「…いいんです。苗木さんたちが一番大変だったのは私も分かってますから。それに…こんな時に苗木さんがいつまでもしょげてたんじゃあ、父さんだってきっと怒りますよ。だから、元気出してください」
「…ありがとう」
隣にいる少女、承太郎の娘の徐倫と会話をしながら、苗木は未だ眠り続ける承太郎を見つめる。
「…苗木さん。これ…」
「ん?」
徐倫が苗木に差し出したもの…それは承太郎から抜き取られ、仗助によって取り戻された『スタープラチナのDISC』であった。
「この『DISC』…苗木さんが持ってて貰えないでしょうか?」
「え…!でも、これは承太郎さんの…いいのかい?」
「どうせこれ一枚では父さんは治らない。それに…苗木さんはこれからあのプッチと闘うんでしょう?だったら、私が持ってるより苗木さんが持っている方が何かの役に立つかもしれない。…それに、苗木さんが持っている方がずっと安全ですし」
「…分かった。僕が責任もって預かるよ。その代わり約束する。…絶対に承太郎さんを元に戻してみせる。必ずだ」
「…はい、信じてます」
「じゃあ…皆の所に戻ろうか。…承太郎さん、また会いに来ます。その時は、貴方の『記憶のDISC』を取り返して…」
「父さん、また後でね」
物言わぬ承太郎にそう声をかけ、苗木と徐倫は皆の待つ部屋へと戻っていった。
ガチャ
「ただいま」
「おー、待ってたぜ」
「これで全員揃いましたね!」
「…では、これからの方針について話し合うとしようかの」
苗木と徐倫が戻って来たところで、ジョセフの部屋に集った皆はいよいよ話し合いを始める。
「…まず僕たちがしなければならないことを確認しておこう。まず一つは、この『絶望』に浸食された世界を在るべき形に戻すこと、二つ目は承太郎さんを一刻も早く元に戻すこと。そして…その為にも、行方の知れないプッチを探し出して倒すことだ」
「一つ目に関しちゃあ俺たちと未来機関の目的が一致する。その辺は連中に任せて、俺達はそのサポートに回る程度でいいだろ。…俺達が本当にやらなきゃなんねえのは、二つ目と三つ目だ」
「エンリコ・プッチとか言ったかのう…承太郎の記憶を奪って何が目的なのかは知らんが、放っておくわけにはいかんことには変わりない」
「…でも、そこで障害になってくるのが」
「未来機関…という訳ね」
「あのお偉いさんども、俺達がどんだけ必死にお願いしても全く協力してくれねえんだからなあ…」
「スタンド使いじゃねえ以上俺達より危機感がねえのは分かんだが…承太郎がこんな状態にされちまったってのに、『個人一人を捕えるために救助や奪還のための人員を割くわけにはいかない』…ってよ」
「薄情な連中だぜぇ~。SPW財団がなけりゃこの杜王町を拠点にすることすらできなかったってのによぉ~」
と、未来機関に愚痴っているとふと舞園が気がつく。
「…そういえば、間田さんと鋼田一はいないんですか?鉄塔から動けない鋼田一さんはともかく間田さんがいないのって…?」
…その問いに、杜王町在住メンバーの顔が曇る。
「…もう、二人はいないんだ」
「…え?」
「間田の奴も、鋼田一のおっさんも、…『人類史上最大最悪の絶望的事件』の時に、死んじまった…」
「ッ!?」
「…やはり、そうでしたか」
「ああ…。元々間田の『サーフィス』は戦闘向きのスタンドじゃあねえ。それに加えてあの事件の時にこの街でもかなりの規模の暴動が起こったからな。そん時に逃げ遅れて、あいつは…」
「……」
「鋼田一さんも、鉄塔に籠っていれば安全だと思い込んでいたのが失敗でした。…まさか『鉄塔ごと爆破』されるとは思ってもいませんでした。このヌ・ミキタカゾ・ンシ…一生の不覚です…ッ!!」
「まだその設定引きずってたんけ…」
「…いつまで死んだ人間のことを引きずっているつもりだ?それより今は先に事を考える時だろう」
「んだとコラァッ!!」
「…仗助、抑えんか」
「ッ!ジョースターさん…」
「気持ちは分かる。じゃが、今は十神君の言うとおりこの先の事を考えるのが先決じゃ。さっさと事態を変えんことには、あの二人を弔うことも満足にできんからのう…」
「…チッ」
「フン…」
「で…、ともかく僕らとしてはまずプッチの行方を探る必要があるんだけど…」
「肝心の野郎に関する手がかりが無えってんじゃあどうしようもねえよな…。唯一分かってんのは、奴が承太郎の記憶にある『何か』を探していたということだけ。…でもその承太郎の記憶の『DISC』は奴の手の中。結局、虱潰ししかねえか…」
「ワシの『隠者の紫』の念写を使っても、スタンド能力が衰えたせいかピンボケ写真しか写らんくなってしまったしのう…。非力な我が身が憎いわい…」
「そうなると、索敵系の音石の『チリ・ペッパー』戦刃さんの『エアロスミス』が重要になって来るんだけど…その戦刃さんが出られないんじゃあなあ…」
「……」
「あいつら、『絶望』連中に対してはかなり非情だから、殺すことはないだろうけど当分出すつもりはねえだろうな…」
「そ、そんな!」
行動を起こそうにも未来機関がその阻害となっている事態に皆が頭を悩ませる中、今まで黙っていた苗木がジョセフに目配せし、ジョセフがそれに頷いたのを確認すると立ち上がって皆に言い放つ。
「…皆。そのことなんだけど、実はさっきから決めていたことがあってさ…聞いてもらってもいいかな?」
「苗木…?」
怪訝な顔をする一同に、苗木は意を決した表情で宣言する。
「…僕は、近日中にイタリアに発とうと思っている。むくろを連れて、ね」
未来機関disってる訳じゃあないです。原作でも大体こんな感じだったと思いますよ…?