通路を徘徊するモノクマを不意打ちで撃破しながらこまるは歩き続ける。そしてやがて、大きな扉のある踊り場の前へとやって来た。
「ここ…なのかな?ていうか、ここであって欲しい…。流石にもう限界だよ…」
なまった体で慣れないスパイまがいの闘いを強いられたこまるは、疲労困憊の体を引きずって扉の前に立ち、ゆっくりとその扉を押し開ける。
その先でこまるを待っていたのは…
キーンコーンカーンコーン
仁王立ちする赤毛の活発そうな少年。
ランドセルを背負った覆面の内気そうな少年。
薄桃色のブロンドヘアーのツインテールが特徴の小悪魔的な少女。
青みがかった癖毛の理知的な少年。
扉の向こうの大広間には、そんな少年少女たちがこまるを出迎えた。そしてこまるには、彼らの風貌に見覚えがあった。
「…あ、あなた達って…!テレビで喋ってた子供…!?」
「あちゃ~、俺っちてば有名人?背中にサインなら、いつでも書くぜ!」
「僕チン…『彫刻刀』でしか字を書けないんだけど…、それでも良ければサインを書いてあげるよ…」
「プレゼントも受け付けていますのよ。…ただし、甘いものに限りますわ!『油芋』みたいな塩っ辛いものを持ってこようものなら極刑ですわ!…あ、キャワイイものでもオッケーですのよ!」
「………」
調子に乗ってはしゃぐ『赤毛の少年』、ぼそぼそと物騒なことを呟く『覆面の少年』、どこかブリッ子めいた『ツインテールの少女』、高圧的にこまるを睨む『知的な少年』。皆ちくはぐな対応であったが、共通しているのは『モノクマを倒してきたはずのこまるを全く恐れていない』ということであった。
「え、えっと…?」
そんな子供たちに少し気圧されながらも問いかけようとすると
キュラキュラキュラキュラ…
「え?」
「あ!」
「おお…」
「あは♡」
「ん…」
大広間の向こうから『車いすに乗った少女』がやって来る。子供たちは彼女を見ると、自然に道を開けて少女をこまるの前へと向かわせる。少女はこまるの前にやってくると、そこで停止してにっこりと笑いながら話しかける。
「初めまして、『苗木こまる』さん。お姉ちゃんが来るのを、ずっと待ってたにゃん♡」
「……え?」
名も知らない少女の口から出た自分の名前に、こまるは思わずポカンとしてしまう。
「え?なんだよ『モナカちゃん』、そいつ知ってる奴なの?」
「ううん、初めて会ったよ。でも言ったでしょ?この街には『大事なお客さん』が居るって」
「…それがそいつなのか?」
「そうだよ!このお姉ちゃんは私にとっての『最優先事項』なのだー♡」
「ふ~ん…。モナカちゃんほどキャワイくはないですけど、本当にそんな価値があるんですの?」
「そうだよ?このお姉ちゃんこそが、私たちの『計画』の為の『最後のピース』なんだから!」
「も、モナカちゃんがそういうなら…間違いないんだろうね」
「え?え?…ええ?」
一方的に自分の事で盛り上がる子供たちに、こまるは狼狽えることしかできない。
「…あ、ごめんねお姉ちゃん。お姉ちゃんは私たちの事を知らないんだよね?じゃあ、まずは自己紹介から始めよー!」
「おっし!まずは俺からだな」
まず最初に名乗ったのは『赤毛の少年』。
「俺っちこそ希望の戦士の『リーダー』、皆をズバババッ!と纏め上げる『勇者』、『大門大』様だいッ!得意科目は『体育』で『超小学生級の体育の時間』なんて呼ばれてたぜ!運動ならなんでもこい!24時間マラソンだって朝飯前だぜ!…うぇへへへ、『リーダー』で『勇者』で『超小学生級の体育の時間』だなんて他の奴らにはできないことをやってのけるだなんて、俺っちてばみんなに痺れて憧れられちまうな!」
「そ、そうなんだ…」
「自分で言ってりゃ世話無いな…」
「じゃんけんで勝っただけの癖によく威張れるもんですわ」
「いーじゃんか!それでも俺っちがリーダーなんだいッ!!」
「ハイハイ分かりましたよリーダー。…それじゃ、次は僕かな」
地団太を踏む大門にやれやれとため息をつきながら、今度は『知的な少年』が名乗りだす。
「僕は『新月渚』。希望の戦では『副リーダー』で『賢者』を担当している。小学校に居た頃は『超小学生級の社会の時間』って呼ばれてたりもしたけど、基本的に体育以外に苦手なものは無い。…ま、『将来のエリート』ってことを期待されての『超小学生級の社会の時間』って意味だったみたいだけどね」
「へ、へえ…」(…なんかこの子、十神さんに雰囲気似てるな)
「ま、モナカちゃんを除いた希望の戦士の『お守り』と考えてくれていいよ。『希望ヶ峰付属小学校』時代はそんな感じだったからね…」
「…え!?希望ヶ峰って…あの『希望ヶ峰学園』ッ!?」
「…それがなんだ?」
「あ…、いや、付属小学校があったなんて知らなくて…」
「…ふん、無知な女だ」
(…やっぱりこの子将来十神さんみたいになるな)
「で、次は誰だ?『蛇太郎』か?」
新月に呼ばれて歩み出たのは、『覆面の少年』。
「え、えっと…僕は、『僧侶』…?の、『煙蛇太郎』…だったかな?得意科目は『図工』で、『超小学生級の図工の時間』なんて呼ばれてたりもして…。あ、そうだお姉ちゃん。この世のどこかに、『石仮面』っていうかっこいいお面があるらしいんだけど知らないかなあ…?」
「え、ええ…?」
「…そいつの得意科目は『図工』で、希望の戦士の『僧侶』。お前はこれだけ憶えておけばいい。よし次」
「ああっ!酷いよ新月君、僕の言いたかったこと全部言っちゃってー!」
「あなたは要領が悪すぎるんですの。私の自己紹介の時間を取らないでくださる?」
毒づきながら次に前に出たのは『ツインテールの少女』。
「えっと…」
「あ、蛇太郎くんのことは気にしないでください。彼は『鍵っ子』なんです。…精神的な意味で。でもでもー、私って『鍵っ子』って嫌いじゃあなんですよ!ほら、『心の鍵』ってなんか不思議パワー的な響きがあるじゃないですか!私の心、アンロック♡…みたいな?」
「そ、そうなんだ…」
「…つまらない反応ですわね」
「ええッ!?」
「あ、申し遅れました。私、希望の戦士の『戦士』を担当しています空木言子と申します。戦士だなんて言いますけど、きちんと生物学的には女の子なんですのよ!キャワイイものと『剥いてある栗』が好きな、割とベタな女の子なのでーす!小学校では、『超小学生級の学芸会の時間』だなんてちやほやされてましたが…ま!どうでもいいことなので気にしないでくださいね。私、過去は振り返らない女なんですの」
「……」
「ところでところで!お姉さんは知ってました!?カタツムリはオカマちゃんだから誰とだって子作りが…」
「…もういいだろう。次はモナカちゃんだぞ」
マシンガンの様に言葉の飛び出す言子に新月がブレーキをかけ、いよいよ『車いすの少女』が前に進み出る。
「おっけー!モナカはねー、モナカって言うんだー。希望の戦士で、『魔法使い』をやってるのー!小学校に通っていたころは、『超小学生級の学活の時間』って呼ばれてたんだよー。学活に『超』も『凡』もないかもしれないけどー、人をまとめられるのも立派な『才能』なんだってー!」
「…うん、その辺は…なんとなく分かる、かも」
『人をまとめる才能』という言葉に、ボスとして多くの人間をまとめていた兄の姿を思い浮かべる。そして同時に理解した。彼女こそが、この少年少女たちの本当の意味での『中心人物』なのだということを。
「学活っていうのはー、難しい言い方だとホームルームっていうんだけどねー。私は、皆が自分の思っていることを話し合う学活が大好きなのじゃー♡だから、希望の戦士でもムードメーカー役を担っているのだー!…あ、お姉ちゃんは希望の戦士のことを知ってるんだっけ?」
「う、ううん…」
「やれやれ、無知なオトナだ…」
「ではご説明しましょう。希望の戦士とは、世界を『魔物』から救う救世主なのです!どうです?素晴らしいでしょう?」
「一緒に魔物退治をするパーティなんだけど、僕チンは嫌われてるから半分仲間外れなんだ…」
「そして俺っちが、その希望の戦士のリーダー、この街の一番の支配者なんだぞー!」
胸を張り、誇らしげに自分たちの活動を語る希望の戦士たち。その瞳には、自分たちに行動が正しいと信じて疑わない『意志』が見て取れた。
「…で、僕たちはこうして自己紹介をしてやったんだ。お前も年上なら名前ぐらい名乗ったらどうだ?」
「え…?あ、そう、だよね…。私は…」
「ああ、お姉ちゃんのことなら知ってるよ」
自己紹介をしようとしたこまるをモナカが制する。
「…え?」
「えッ?モナカちゃんこいつのこと知ってるの?」
「うん、皆には言ってなかったけど、私がこの街を希望の戦士の拠点に選んだのはこのお姉ちゃんがいたからなんだよ」
「そ、そうなのぉ!?」
「…信じられませんわ、こんな鈍くさそうなお姉さんにモナカちゃんが気に掛けるほどの価値があるだなんて…」
「モナカちゃん、こいつは何者なんだ?」
「ん~…。このお姉ちゃん自体は特別な訳じゃあないよ。ただ、このお姉ちゃんの『立場』が特別なだけ」
「立場…?」
首を傾げるこまるに、モナカは微笑みを浮かべて問いかける。
「…そうでしょう?苗木こまるさん。どこにでもいる普通で平凡な女の子で…『苗木誠の妹』さん?」
「ッ!!?」
モナカの口から放たれた兄の名に、こまるは思わず息を吞む。
「苗木誠?誰そいつ?」
「苗木誠はねー、オトナの中で一番強くてー、一番偉くてー…一番ずる賢い…、例えるなら、『魔物』たちを率いる『魔王』なんだよー」
「ま、魔王!?…ってことは、このお姉ちゃんは魔王の妹なの!?」
「それはそれは…確かに大変なことですわね」
「成程…。流石はモナカちゃん、目の付け所が違うね」
「ちょ、ちょっと…!」
自分の事だけでなく、兄の名前まで知っていておまけに『魔王』呼ばわりする子供たちに、流石にこまるは待ったをかける。
「お兄ちゃんが『魔王』って…どういうこと!?それに、さっきから『魔物』とか『支配者』とかって…ふざけてるんだよね?」
「…ふざける?」
瞬間、空気が凍った様な感覚を感じる。
「だ、だって…君たち、子供でしょ?子供『なんか』が支配とか、言っちゃ駄目でしょ?」
「…子供、『なんか』?」
「えっ…?」
こまるとしては、年上としてのそれなりの常識を以てかけたつもりの言葉。だが、こまるは知らなかった。その言葉こそが、彼らの琴線に触れるものであったということを。
「あーあ…。これはもう『あーあ』としか言いようがありませんわね。もう『魔王』の妹とか関係ありませんわ。こいつはぶち殺し確定ですわね」
「な、何…?どうしたの?」
「いいか、よく覚えておけ。『子供』だとか『オトナ』だとか、そんなものの序列なんて、『力』さえあればどうにでもなるんだ。…『僕らのモノクマ』を使えば、お前らなんて敵じゃあないんだよ。お前なんかあっという間にグッチャグチャだぞ…!」
「グチャグチャって分かる…?全身の肉がひき肉みたいになって、ソーセージみたいなのが零れて…」
「およしなさい蛇太郎君。その手の残酷発言は安く見られますわよ」
「僕らの、って…じゃあやっぱり君たちがあのモノクマを!?」
「おう!モノクマは全部、俺っち達の言いなりなんだぜー!いーだろー!」
「…モナカちゃんの『魔法』のおかげでね」
「さっすが希望の戦士の魔法使いだぜ!杖も魔法陣もなくても魔法を使えるなんてなー!」
「えへへ…それほどでも、あるのじゃー!」
「きゃーん!モナカちゃんの笑顔は可愛いですわねー!メープルシロップかけて食べちゃいたいですわー♡」
「……」
「…さて、状況が飲み込めたところで覚悟はできたな?」
呆然としているこまるに、厳しい表情の新月が低い声で問いかける。
「か、『覚悟』って…何?」
「決まってるだろ…。『魔物』…『オトナ』のリーダーの『魔王』の妹であるお前を、生かしておくと思っているのか?」
「ふぇえッ!?」
「僕らの『楽園』建設の為にもすべてのオトナは倒さなくちゃならない…。『魔王』も含めてだ。お前には、その先駆けになってもらうぞ…!」
「いきなり中ボス退治とか、俺っちってばついてるなぁ~!」
「最も、中ボスに見合った強さがあるとは思えませんわね。強さで言ったらチュートリアルで闘う雑魚キャラ程度ですわ」
「き、きっとイベントバトルの中ボスみたいなものなんだよ。ほら、絶対負けるイベントの逆で絶対勝てる戦闘みたいな…」
「どうでもいいさ。この場で死ぬ奴のことなんかな…!」
「ひっ…!」
笑みを浮かべてにじり寄る子供たち。その眼に宿る確かな『殺意』が、今まで機械でしかないモノクマだけと闘ってきたこまるの恐怖心を増幅させる。
だが、それに待ったをかけたのは意外な人物であった。
「ちょーっと待った―!そのお姉ちゃんを殺すのは駄目なのだー!」
陽気な声で皆を制したのは、仲間である筈のモナカであった。
「も、モナカちゃん…?」
「モナカちゃん!なんで止めるんだよー!?」
「今は殺しちゃ駄目なんだよ。そのお姉ちゃんには、大事な大事な『使命』があるんだからー♡」
「使命…?」
「で、でもモナカちゃん!ここであのお姉さんを殺せば、『魔王』に精神的大ダメージを与えられるんですのよ!?」
「てんで弱っちいとはいえ、『魔王』と合流されると厄介だ。後の禍根を残さないよう今ここで始末すべき…」
「…うう~っ…!」
「…あッ!」
「し、しまった!」
顔を歪ませ、涙声で唸りだすモナカに、皆は自分たちの説得失敗を悟る。しかし、もう遅かった。
「だ~め~な~の~!殺しちゃ駄目って言ったら駄目なの!モナカにはいいアイデアがあるのぉ~!」
泣きじゃくり、年相応な癇癪を上げて駄々をこねるモナカ。一見思い通りにならないことに対する苛立ちかと思われるが、それに対する他の子供たちの反応は異常であった。
「わ、分かった!分かったから、僕が悪かったよ!モナカちゃんの言うとおりにする!」
「そ、そうですわ!私も言い過ぎましたの!」
「モナカちゃんの言うことならなんだって聞くから、泣き止んでくれよ!」
「そ、そうだよ!モナカちゃんの言うことなら白も黒になるし、犬だって猫になるよ!」
皆の必死の慰めの甲斐あって、ひとしきり泣いた後モナカは再び笑顔を見せる。
「ぐすっ…えへへ、にぱー♡良かったー、皆優しくてモナカは嬉しいのだー♡」
「よ、良かった…」
「…まったく、お前のせいで大変なことになったんだぞ!」
「ええ…?」
あんまりなとばっちりにこまるは戸惑うが、子供たちはそんなことなど意にも解さない。
「けどモナカちゃん、殺さないのならこいつをどうするつもりなんだい?」
「うん、今は殺しちゃ駄目って言ったけど、それは『今』であって『ずっと』って訳じゃあないんだー」
「え?ええ?」
「つまりー…、お姉ちゃんにも『ゲーム』に参加してもらおうと思ってるんだー!」
「…ああ、成程!それは面白そうですわね!」
「ゲーム…?」
「…一応教えてやる。これからこの街では、僕らとオトナによるある『ゲーム』が行われる。お前には、そのゲームに参加してもらうことになる」
「えへへ…。すっごく面白いんだよ、神ゲー間違いなしだね!」
「何しろ、モナカちゃん考案のゲームですからね」
「その名も…『デモンズハンティング』!じゃんじゃーん!ルールは簡単、この街に『ターゲット』となる『オトナ』を放ち、希望の戦士の誰が最初に『決められた人数』を狩れるかを競うゲームなのだ!ターゲットの数は全部で『72人』!その内の半分、『36人』を先に狩った奴が勝者だ!」
「けど、わざわざ地道に『36人』を倒す必要はない。ターゲットには『ボーナス』がある奴が居て、そいつを倒せば一匹で数人分のポイントを稼ぐことができるのさ」
「うわー!面白そうですわ、さすがモナカちゃん!」
「ちょ、ちょっと待ってよ…私がそのゲームに参加するって、それってつまり…」
「そういう訳だ。…おい、準備しろ」
新月がこまるの後方にそう呼びかける。そしてこまるがその方向を向くよりも早く
ガチャン
こまるの腕に、モノクマの顔が描かれた『腕輪』が着けられた。
「…ふぇっ!?」
「おっと、無理に外そうとしないほうがいいよ。下手にいじくると…『ボンッ』だからね」
「えっ!?ボンッ!?」
こまるに腕輪をつけた張本人、先ほどの『召使い』は悪びれもせずそう告げる。
「ちょ…なんなのこの腕輪!?なんか変なのまで背負わされてるし!」
腕輪だけでなく、ついでに何かを背負わされたこまるが抗議の声を上げるが、『召使い』は飄々とそれを嗤うだけである。
「それはゲームの『ターゲット』に配られる特注品、言ってしまえば『目印』みたいなものかな。それと背中のそれは、皆からのささやかな心配りさ。感謝しときなよ」
「か、感謝って…!」
「よーし!さっそく一狩り行こうぜー!」
「ちょ、ちょっと待ってよ…!冗談…だよね?」
「…ここまでしておいて冗談な訳がないだろう。本当におめでたい奴だな…」
「現実逃避なら『下』に行ってからやってくださいます?その方が楽ですので♡」
「い、いや…無理だって。あんな街に放り出されたりしたら、ほら…私よわっちいからすぐ死んじゃうって…」
「あらご謙遜を。貴方は簡単には死にませんよ。あの『テスト』だってクリアしたじゃあないですか?」
「テスト…?」
その言葉に、こまるはここまで来るまでの道のり、そして自分を唆した『召使い』をハッとして見る。
「もしかして…あなた、私をこのゲームに参加させるために…」
「…おや、存外勘が良いね。お兄さんから学んだのかな?」
「…ッ!」
ふざけるな、とでも叫びたかったが、この青年の得体の知れない笑みに若干気圧され、睨む程度の抵抗に終わる。
「やいやいやい!『召使い』の癖にアタマ良さソーな事勝手に喋ってるんじゃあねーゾ!」
「ゴメンゴメン、おとなしくしてるよ…」
「まったく…。さーて、んじゃさっそく始めますかー!」
「…なんで」
「ん?」
「なんで…こんな酷いことするの?私、何も悪いことしてないのに…。なのに、なんで…ッ」
こまるの弱弱しい疑念に、顔を見合わせた希望の戦士たちの返答は…
『…あーはっはっはっは!』
全員腹を抱えての大爆笑であった。
「…え?」
「あひ、あひ、あひひ!」
「うくくくく…お姉さん、反則ですわ…。面白すぎて…ほっぺ痛いですわ…あっはっはっは!」
「くっくっく…能天気もここまでくるといっそ尊敬するよ…!」
「え、ええ?」
笑われている理由に見当がつかないこまるに、大門が胸を張ってそれを答える。
「ゲームは、『楽しい』からやるに決まってんじゃん!そんな当たり前のことがなんでわかんないかなぁ~?」
「…た、楽しい…?」
「そうだよ…!オトナが苦しんで僕チンたちに助けを求めるところなんか最高に面白いよ…!」
「そ、そんなのおかしいよ!絶対間違って…」
「…おかしくなんかないよ?」
反論しようとしたこまるを、モナカの言葉がねじ伏せる。
「物事に理由を求めるのは『オトナ』のやることだ。『コドモ』はもっと単純で、純粋でいいんだよ。理由なんかいらない、僕らが楽しければそれでいいのさ」
「そうだよー!モナカたちは、楽しいからこれをやるの。本当に、ただそれだけなのじゃー!」
「……」
何時だったか、兄が言っていた。
『子供とか動物っていうのは、善悪に対する「ブレーキ」がない。無論大人にもそういう奴はいるが、そうであっても複雑に物事を捉える分どうしてもなにかをすることに対し歯止めがかかってしまう。だけど子供とか動物にはそんなことを考える必要もなければそうするつもりもない。だから、子供や動物が本体のスタンドっていうのはどうしても厄介な奴が多い。「ブレーキ」が無い分、それだけスタンドのパワーを全開で使えるってことだから、『世界』に与える影響が大きいんだ。スタンドのビジョンが『巨大』だったり、『運命』をある程度予測できたりね…』
当時はなんのこっちゃと思っていたが、今にしてその言葉の真意が分かった。『理由なき殺意』がこれほど恐ろしいものであったということを、こまるは実感していた。
「…とはいえ、僕としてはあんまりこういうことに時間を割きたくはないんだけどな。『楽園』建設の為に、やることが山積みだし、何時でも殺せるオトナなんか後回しでもいいと思っているんだけどね…」
「だ、だったらさ…やめにしない?君たちが大人に不満があるんだったら、私も掛け合ってみるからさ…」
「…そういう訳にもいかないんだよ。お前は『魔王』の妹だ。お前を倒せば、『オトナ』達の士気を下げることができるかもしれない。ちまちま『オトナ』を殺すより効率的な以上、僕が反対する理由は無い」
「そ、そんな…」
「それに…『掛け合ってみる』だと?お前は何様のつもりだ?いいか、今はお前が『下』、僕たちが『上』だ。『させてくれ』と懇願するならともかく、そんないかにも上から目線な言い方をするんじゃあない…!」
「う…」
「第一、これはモナカちゃん提案のゲームだ。モナカちゃんがやりたいと言っている以上、僕たちは全力を挙げてそれをやり遂げるのは当然だ」
「モナカちゃんはこのチームの『お姫様』だからねえ、お姫様のお願いは皆で叶えてあげるんだよぉ…!」
「モナカちゃんの好きなものは、私もぜーんぶ大好きでーす!」
「…そういうことだ。残念だったな」
「えへ♡ごめんね新月君、忙しいのにモナカの為に色々準備してくれて。よーし、お礼におとで、おいしいクッキーを焼いてあげるぞー!」
「う、うん…。ありがと…」
「あーっ!新月君だけズルいですわ!私もモナカちゃんのクッキー食べたいですわ!」
「俺っちにもー!リーダーの俺っちにもー!」
無邪気にはしゃぐ子供たち。『本来なら』微笑ましい光景である筈のそれが、こまるの目にはひどく恐ろしいものに見える。
「あ、あなたたち…なんでそんな風に笑ってられるの?そんなの…絶対に『おかしい』よ…」
「…ん~、『オトナ』から見ればそうかもしれないね。でも…でーもーでーもー!『オトナ』の言い分とか、そんなのどーでもいいのー!」
駄々をこねる様にそう言うモナカの表情が、途端に冷たく強張る。
「…それにね、苗木こまるさん。今のあなたに『選ぶ権利』なんて残されてないんだよ。あなたにはもう文字通り『道』は無いんだよ。助かる『道』も、希望のある『道』も、『道』を切り開くことも許されないんだよ。だって…今のあなたが立っているのは『道』なんかじゃあないんだもの」
「え…?」
「あなたはとっくに奈落に『落ちている』んだよ?ほら、耳を澄ましてみてよ。感じるでしょ?地の底に落ちていく『重力』の感覚を…」
「ど、どういう…?」
「つまり、こういうことだーいッ!」
意味深なモナカの言葉にキョロキョロと辺りを見渡すこまる。そのこまるの足元が、
ガコンッ!
ぽっかりと、開いた。
「…没シュートになります、…ってね」
「…ッッ!!?きゃああああああああッ!!?」
心底楽しそうに自分を見下ろす子供たちを見上げながら、こまるは足元の穴に真っ逆さまに落ちて行った。
(し、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!)
真っ暗で狭い縦穴をこまるはおおよそ数十秒後の自分の末路を想像し、その結果に絶望しながら落ちていく。
(死ぬ死ぬ死ぬし…)
やがて暗闇が終わりを告げ、光と風を肌に感じるようになった時
ブァサッ!
「……ぬ?」
背中に背負われていたそれ…『パラシュート』が開き、こまるは呆然としながらゆっくりと落ちて行った。
今しがた自分が落ちてきたであろう、上空に浮かぶ巨大な『飛行船』を見上げながら。
「コドモの耳はー?」
「「「「素敵な耳―!」」」」
「コドモの口はー?」
「「「「大きな口―!」」」」
「どうしてそんなに大きいのー?」
「「「「魔物を食っちまう為さー!」」」」
『ぎゃーっはっはっはっは!』
こまるが消えた後の飛行船の中で、希望の戦士たちは互いの士気を高めこれから始まるゲームを今か今かと待ち続けていた。
「よーし!それじゃいよいよゲームスタートだぜ!」
「アイツは『魔王』の妹だから特別に『30人』分のターゲットにしよう。あの筋肉ムキムキの白髪男より高得点だからな。早い者勝ちだぞ…」
「ゲームなら現実とは違うんだし…。あのお姉ちゃんなら嫌われ者の僕チンでも倒せそうだな…」
「あらあら、蛇太郎くんたらいくら雑魚キャラだからと言って調子に乗っちゃって。ますます気持ち悪いですわ」
「ま、どっちにしろ勝つのは俺っちだけどな!」
「…どうでもいいけど、ゲームに負けてもケンカはするなよ」
「ねえ、それよりさ…なんかコーラ飲みたくない?」
「おっ!いーなそれ。…おい召使い!コーラ持って来い!上にアイスも忘れるなよ!」
「はいはい…」
「…あ、私ちょっとトイレ行ってくるね」
そう言って皆の輪から外れたモナカ。しかし、彼女はトイレに向かうことなく飛行船の中を一人で進み、やがてある部屋にやってくると誰にも見られていないかを確認した後手早く入ってドアを閉める。
それが完全に閉まりきったのを確認した後、暗闇にいた『男』は口を開く。
「…遅かったじゃあないか」
「ごめんね『神父様』、あのお姉ちゃんが思ったよりしつこくてね」
「まあ構わないさ。それより…」
「うん、神父様の言いつけどおり街に『神父さまが選んだ36人のオトナ』と『私たちが選んだ36人のオトナ』を放してきたよ。これからゲームが始まるところ」
「そうか…感謝するぞ『…モナカ』」
「…その『名前』で呼ぶのは止めて欲しいんだけど」
「おっと済まない」
「…それよりさ、本当にこれが『盾子お姉ちゃん』の頼みなの?」
「ああ。彼女の復活の為には、最低でも『36人の悪人の魂』が必要だ。しかもただの悪人ではない、決して許されない『極罪』を犯した者でなければならない。君たちが選んだ大人ではその資格は満たされない。だからこそ、私が選んだ『邪悪な心』を持つ悪人を紛れ込ませる必要がある。彼らはいずれ現状に痺れを切らし、自棄を起こすだろう。…そしてその矛先は、街で大人を監視する『子供』へと向けられる。そうなれば…」
「…成程ねー。確かにオトナって、コドモを殺したオトナをやたらと悪人扱いするよねー。悪いのがコドモでも、『何も殺す必要はないだろう』ってねー。おっかしいよねー?『オトナ』も『コドモ』も『盾子お姉ちゃん』に比べたら等しく『クダラナイ』のに…」
「それが『大人』の『モラル』というものだよ。『大人の社会』では、それを守ることができない者は等しく『過激思想者』呼ばわりされる。口では『平等』を唱えておきながら、実際は自己の保身と自己満足な中立を心がけようとしか考えていない。救いようのない連中だよ…」
「ふ~ん…。神父様も?」
「…私も、かつてはそういう人間だったかもしれない。だが、今の私は違う…!私が信じるのは『神の教え』のみ、私が守るものは『友の願い』だけだ。故に、私のすることは常に『正しい』と信じている。…かつてある男が言っていた、『幸運とは、正しいと信じる行動をすれば勝手について来るもの』なのだと。現に私はこうして、君という『協力者』を得て、友の為に行動を成すことができる、それこそが『幸運』なのだ!」
「…ふ~ん」
男の言葉に、モナカは探るような視線を向ける。何故このような男が『盾子お姉ちゃんの友達』なのかは分からない。だが今はそんなことはどうでもいい。この男の言うことが本当なら、自分の『計画』はより完璧なものになる。ならば精々、こいつが必要となる段階までは利用してやろう。
…モナカは気づいていない。男の言う『友』が、決して『江ノ島盾子』を指している訳ではないということを。
男にとって、希望の戦士の『目的』は勿論モナカの『計画』など、眼中にすらないということを。
「…まあ、なにはともかく。期待してますにゃん、『エンリコ・プッチ神父』様♡」
「ああ、精々頑張らせて頂くとしよう…」
瞳に強い『決意』を秘めた男、『エンリコ・プッチ』は静かにそう応えた
今回ここまで
次回は番外編更新できるといいなぁ…。次の話でやっと78期組に戻れるから頑張ろう…