ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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番外編が間に合わなかった…。次こそは…!


ジェノサイダー・リターン

「うきゃああああああああッ!!?」

 パラシュートをはためかせ落下していくこまる。情けない悲鳴を上げながら、しかしちゃっかり残った女のプライドでスカートが捲れないよう抑えた状態で、こまるはどこかのビルの屋上に不時着する。

 

「あだッ!」

 …しかし、減速の仕方など分かる筈もないこまるは落ちてきた勢いそのまま屋上へと足を着き、着地の衝撃で痺れた足をもつれさせ倒れ込むように降り立った。幸い役目を終えたパラシュートが巻き込むようにこまるを包んだため怪我こそなかったが。

 

「痛たたたた…生きてる、よね?はあっ、良かっ…全然良くないよ…」

 どうにか生きていることにひとまず安堵し、次いで腕のリングが目に入って再び沈鬱とした雰囲気になる。

 

「あの子たち…本気、だよね?どうしよう…またモノクマに見つかったら、今度こそ私…」

ガシャ!

「ひっ!?」

 突如聞こえた音に身構えるこまる。

 

ガシャ…ガシャ…

「な、なんなの…?」

 びくびくしながら、音の発信源を探るこまる。やがて、屋上をぐるりと囲んだ金網…こまるの正面にあったそれから、『そいつ』が現れた。

 

ガシャッ!

「ッ!?」

 金網の外側の下から伸びてきた、鋭い爪を生やしたツートンカラーの腕。顔を見るまでもなく、こまるにはその正体が分かった。

 

「も、ものッ…!」

 その名を叫ぼうとして、ハッとなって口を噤みパラシュートにくるまって身を隠す。どう見ても外側から丸わかりの無駄な抵抗でしかなかったのだが、こまるにはそうすることしかできなかった。

 

ガショ…ガショ…

ガショ…ガショ…

 無機質な足音が、『ステレオ』で聞こえてくる。どうやらあの1体以外にも周りには仲間がいるらしい。だがこまるにはそんなことはどうでも良かった。1体だろうが2体だろうが、この『絶望的状況』には変わりはないのだから。

 

「助けて下さい、助けて下さい、助けてください…ッ!」

 現実から目を塞ぎ、小声で助けを求めるこまる。聞こえる筈もないことなど百も承知だが、それでも何かに縋らずにはいられなかった。

 そして、足音がいよいよ間近に迫ったその時、こまるは深い『絶望』を感じながら真に助けて欲しいその名を呟く。

 

「…助けてよ、お兄ちゃん…ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「弾けろ『メタリカ』ァァァァッ!!」

 

ドズドズドズドズゥッ!!

「…え?」

 女性らしき叫び声の後に聞こえてきた、何かを引き裂くような鈍い音。その音に思わず顔を出したこまるの視界に入ったのは

 

 

 

 

 

 体中を『内側』から『鋏』で貫かれたモノクマたちと、その中心で仁王立ちする『黒髪の女性』。

 

「くたばれポンコツ…!」

 そして、女性のそんなドスの利いた呟きと共に、

 

ドザァ…ッ!

 モノクマはその場に倒れ伏した。

 

「……」

 余りにも突然の出来事に、茫然とするこまる。そのこまるの眼前で

 

 

「……アヒャヒャヒャヒャヒャ!こんなの全然萌えねーッ!!」

 女性は唐突に笑い出す。

 

「あ、あの…」

 狂ったように爆笑する女性に、恐る恐るこまるは声をかける。すると

 

「…あぁ~ん…?」

 女性はゆっくりと振り返り、視界にこまるを捉えると口角をゆっくりと釣り上げる。

 

 

「見~っけ…!」

 

ドガァァンッ!

 それと同時に、モノクマが損傷に耐えきれなくなり爆発する。

 

「キャッ!」

「シャアッ!」

 爆風に思わず目を背けたこまるに、女性は懐から『鋏』を抜き出し一気に詰め寄る。

 

「ねえ、アンタ苗木こまるっしょ!?ね、そうっしょそうっしょ!?」

「え、え、ええ?」

「…違うんなら早く言ってよ。バラしてスライスしてパック詰めしてスーパーに並べてやっからよ…!」

「ぴぃッ!?」

 手にした鋏を首筋に突き付け、こまるに問いかける女性。再び訪れた命の危機に怯えるこまる。…が、

 

 

「…ああ?」

 突如、女性が怪訝そうな声を上げる。

 

「…テメーは黙ってろよ根暗ァ。今はアタシがこいつに聞いてんだっつーの」

「…?」

「…安心しろって。マジで殺る訳じゃあ……チッ、しゃーねーな。好きにしろや」

 そう言うと同時に、ガクンと項垂れ、瞬時に顔を上げる女性。しかし、顔を上げた女性の顔つきは、先ほどとは全く別物であった。

 

「…ハァ、神経使うわ。まったく、便利になったんだか面倒になったんだか…」

 ついさっきまでの下品に舌を垂らした狂人染みた笑みは何処へやら、うって変わって卑屈染みた暗い表情へと変化した女性。そのまるで『別人』のような豹変に、こまるはますます戸惑うばかりである。

 

「あ、あの…?」

「…やっと見つけたわよ苗木こまる」

「え…?私の事、知ってるんですか?」

「…ま、憶えてないと思ってたけどね。アンタは忘れてるかもしれないけど、アタシはアンタと一度会ってんのよ」

「え?」

 思わぬ言葉に首を傾げるこまる。

 

 

ガショ…!」

「「!」」

 しかし、再び響く金網が揺れる音が、二人に言葉を交わす余裕を与えない。

 

「…話は後ね。とりあえず逃げるわよ!」

「…あ、はい!」

 女性に手を引かれ、こまるは屋上から建物の中へと逃げ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

「…ここまでくればとりあえず大丈夫そうね」

「ハア…助かった…」

 屋上から階段を駆け下り、1つ下の階層の踊り場で二人は一旦息をつく。

 

「……助かったとも限らないんだけどね」

「え?何か言いました?」

「なな、なんでも無いわよぉッ!」

「す、すみません!…ところで、あなたは…?」

「ああ、そうね…私は『腐川冬子』。『未来機関』ってとこの機関員よ…一応」

「未来機関…もしかして、十神さんの知り合いですか?」

「ッ!!」

 十神の名を聞いた瞬間、腐川はこまるの肩を掴んで揺さぶる。

 

「や、やっぱりアンタ白夜様と会ってたのね!」

「え、ええ!?」

「分かるもの!アンタの体から微かに白夜様の『匂い』がするものッ!」

「匂いッ!?」

「教えなさいッ!白夜様は何処!?アンタなんか知ってるんじゃあないのッ!?」

「わ、私はあのマンションで別れたっきりで…あそこには居なかったんですか?」

「アンタが居たマンションなんかとっくに探したわよッ!居なかったんだから聞いてるんじゃあないの!他に行き先聞いてないのッ!?」

「うにゃああッ!?…そ、そんなこと言われても…知らないよぉ…ッ!」

 前後に揺らされ目を回しながら答えたこまるに、当てが外れた腐川は渋々手を放す。

 

「…チッ、つ、使えないわね…」

「うう…、酷いよぉ…」

「ふん…、口を開けば泣き言ばかり…。『アイツ』とは正反対ね」

「アイツ…?」

「…アンタの『兄ちゃん』よ」

「…えっ!?」

 思わぬ兄との関係者に、今度はこまるが腐川に詰め寄る。

 

「ふええッ!?ちょ…何よ!?」

「あ、あの!お兄ちゃんの知り合いなんですか!?」

「し、知り合いも何も…アタシも白夜様もアイツの『クラスメート』なんだから当然じゃない…」

「だったら!お兄ちゃんと連絡とかとれませんか!?きっとお兄ちゃんなら、あの子たちをなんとかしてくれると思うから…」

 

 と、そこまで言った所で、こまるは腐川があからさまに目を逸らしたのに気が付く。

 

「……」

「…え?ちょ…どうしたんですか?クラスメートなら、電話とかできるんじゃ…」

「……アタシ」

「え?」

 

 

 

 

 

 

「…アタシ、アイツとの連絡方法とか知らないもの」

「…………ええッ!?」

 あんまりといえばあんまりな返答に、こまるは素っ頓狂な声を上げる。

 

「な、なんで!?携帯番号とか、それぐらい知ってるでしょ!?」

「しし、知らないものは知らないのよぉ!…一応、未来機関のウチの支部にはアイツとの『通信装置』があるけど、基本的に報告は白夜様か霧切の奴がやってるからアタシはする必要ないし…。だ、大体!あそこ使ってるのは白夜様を除けばアイツの『嫁連中』ばっかりなのよ!?何が悲しくてそんな砂糖吐きそうなピンク空間に混ざらなきゃいけないのよ!アンタケンカ売ってんの!?白夜様とイチャイチャできないアタシにケンカ売ってんの!?」

「ご、ごめんなさい…」

 どうやら触れてはいけない部分に触れてしまったことを悟ったこまるはおとなしく謝り、露骨に話題を逸らそうとする。

 

「まったく…」

「そ、それより…さっきの腐川さん凄かったですね!…でも戦ってるときと今となんだか雰囲気が違うって言うか…」

「……絶対笑わないって約束する?」

「え…いいですけど…」

「…私、『二重人格』なの」

「え?」

「だからぁ…!アタシは『二重人格者』なの!さっき暴れてたのは『ジェノサイダー翔』って方の人格なのよ!」

「………」

「…あ、アンタ今心の中でアタシの事嘲け笑ったでしょ!」

「え!?そ、そんなこと…」

「いーえ、絶対に信じてないわね!全部アタシの妄想と思ってるでしょ!?ブスで臭くておまけに妄想癖とか痛すぎるって思ってるでしょ!?」

「…そんなこと思ってないですって!確かに、信じられない話ではあるけど、私もここまでこの間までなら絶対信じられないような目に遭ってきましたし…。第一、私を助けてくれた腐川さんが『嘘』を言うなんて思ってないですから!」

「…あ、あらそう…」

 思ったより大声で真剣にそう断言するこまるに、流石の腐川の卑屈っぷりも鳴りを潜める。

 

「…けどこんな簡単に人を信じるなんて、アイツと同じで『大物』なのかただ『バカ』なだけなのか…。…多分後者ね。ま、その方が話が楽でいいわ」

「ただ、その『ジェノサイダー翔』って言うの…どこかで聞いた事が有るような…?」

「…まあ、今じゃ隠す意味が無いからいいけど…。だいぶ前にワイドショーを騒がせたみたいね」

「ワイドショー…あっ!もしかして…」

「もしかして…何よ?」

「あ…。いや、前に似たような名前の正体不明の『連続殺人鬼』がどうとかって聞いた事が有るんですけど、まさかですよね…」

「…その『まさか』よ」

「…え?……ええええッ!!?」

「けど!アイツに好き勝手やらせてたのはもう昔の事よ…。学園に居た頃にアンタの兄ちゃんにこっぴどくやられて以来、アイツも下手したらマズイことが分かったのか我慢してたみたいだし…。それに、『メタリカ』を手に入れた今となってはアタシはアイツを完全にコントロールしていると言ってもいいわ…」

「『メタリカ』って…もしかして腐川さんも『スタンド使い』なんですか?」

「良く知ってるわね…。そうよ、アタシのスタンドは『メタリカ』。能力は『周囲の鉄分を操る』能力。さっきアイツがモノクマを内側から鋏で串刺しにしてたのはそういうことよ」

「へえ…あれ?でもあの時スタンドは見えませんでしたけど…」

「『メタリカ』の本体はアタシの『体内』にいるのよ。本来なら気色の悪い群生体なんだけど、色々試した結果その意志を一つに纏めて、そこに『ジェノサイダー翔の人格』を移すことができたのよ。だからアタシが『表』に出ているときはアイツがスタンド、アイツが『表』に出ているときはアタシがスタンドの人格になってんのよ…」

「そうなんですか…」

「…あの腹立たしい『ディアボロ』の真似をしてやってみたんだけど、思ったよりうまくいったわ…!これでアタシは完璧に『ジェノサイダー翔』の力を使いこなせる…。白夜様もきっと喜んで下さるわぁ…!う、ウヒッ!ウッヒェヒェヒェヒェ…!」

「…で、でも!それならモノクマだって楽勝ですよね!あのモノクマはロボットだから、腐川さんの『メタリカ』なら簡単に…」

「…そう簡単な話じゃあないのよ」

「え?」

「さっきも言ったけど、アイツと交代しているときはアタシの人格がスタンドに移ってるのよ。でもその状態があんまり長く続くと、アタシの『魂』…ていうか人格がスタンドに『固定』されちゃうのよ。もともと意志の希薄なスタンドの人格を乗っ取ってるようなものだから、いくら『基本』がアタシにあるとはいえ長時間変わっているとアイツが『主人格』になっちゃうのよ…」

「そ、それは困りますね…」

「タイムリミットは精々『5分』。それがアイツと決めた『制限時間』でもあるわ。一応約束は守る奴だけど、下手に『ターゲット』になる奴を見つけでもしたら反故にされかねないわ…。…煩いわね!分かってるんだから話しかけるんじゃあないわよ!アタシが痛い奴に思われるじゃないッ!」

「へ、へえ…」

 話の最中に虚空に向かって怒鳴る腐川。話からするに、スタンドになっているジェノサイダー翔と話しているのであろう。スタンド使いからすれば大しておかしくはないが、つい最近まで一般人だったこまるにとってはやはり異様な光景であった。

 

「…で、アタシからもアンタに聞きたいんだけど、なんで白夜様と同じ『ハッキング銃』をアンタが持ってんのよ?それは白夜様とあの『占いバカ』しか持ってない筈よ?」

「あー…それは…」

 

 

 

 

 

少女説明中…

 

 

 

「…って訳なんです」

「…成程ね。道理で何も知らない筈だわ。全部白夜様に丸投げして逃げ出したなんていい度胸じゃない…!」

「ふええッ!?そ、それは…ごめんなさい…」

「ま、白夜様がそう言った以上アンタを責めても仕方ないから別にいいわ。…で、話を聞く限りだとアンタがスタンド使いになったのはつい最近ってことでいいのね?」

「あ、はい…。私、まだ自分のスタンドがどんなのかも見てなくて…十神さんにもらったこれが無かったら、死んじゃってたと思います…」

「ふん、精々感謝しときなさい…!…とりあえず、アンタは自分のスタンドを早いとこ発現させなさい。アタシの能力に『制限』がある以上、アンタがメインで闘ってもらうしかないんだから」

「ええッ!?そ、そんな…。スタンド使えなくたって、腐川さんのほうが強いんじゃ…」

「ば、バカじゃないのッ!?強いのはあくまで『ジェノサイダー翔』の方であって、アタシはただの『文学少女』なのよッ!大体アンタの方が若いんだから先陣切って闘いなさいよッ!」

「そ、そんなの無理だよぉッ!」

「弱音ばっか吐くんじゃあないわよッ!こっちは未来機関での戦いの日々で『無理』だとか『無駄』みたいな言葉は聞き飽きてんのよ!どうせやらなきゃ殺されるのよ、死ぬ気でやれとは言わないけど、生きるために抗う『覚悟』ぐらいはしなさい…!」

「『覚悟』…」

「…ま、本当にヤバかったらアタシも闘ってあげるわ。でも最初っからアタシを頼りにするのは御免被るわよ。どこぞの宗教臭いオヤジが言ってたけど、『救い』っていうのは救いだけを求める奴には訪れないらしいわよ。そいつが目いっぱいにやれることをして、それでもどうにもならない時に助かることが『救い』なんだから。要するに、アタシはアンタを甘やかしたりなんかしないってことよ」

「…はい」

「ともかく、まずはここから出るわよ。早くしないと上にいる奴らが降りてくるかもしれないから…行くわよ、『苗木…おまる』ッ!」

「おまるッ!?」

 

 

 

 

 

 

 電気が落ちているのか薄暗いビルの中を探索しながら、こまると腐川は脱出の為に下を目指す。

 

「…思ったより静かだよね。これならうまく…」

「安心するんじゃあないわよ。そうやって徹底的に油断させたところをガブッ!と行くのが連中のやり方なんだから…」

「はあ…、詳しいんだね」

「あの手の連中とは散々やりあったからよ…。あのモノクマには流石にビビったけど、偶にあんな風な『殺人マシーン』とも闘ったことがあるからね…」

「そ、そうなんだ…」

「…大方あの『機械バカ』の仕業だと思うけど、まさかとは思うけど今回の件に絡んでたりしないでしょうね…?」

「機械バカ?」

「なんでもないわよ…!いちいち細かいことにクビ突っ込んで来るんじゃあないわよ」

「ご、ごめんなさい…」

 ぼやく腐川に貶されながらも、1人でないことに多少の安心を感じたのかこまるの口調は明るくなっていた。

 

「にしても…ここって『病院』なのかな?」

「そうかもね…暗くて、じめじめして辛気臭いし…まるでアタシみたいね」

「そ、そんなこと…?」

 と、こまるは暗がりの奥に壁にもたれかかった『何か』を見つける。

 

「なにこ…ヒッ!?」

 しばらく薄暗い院内を歩いたことで夜目が利くようにこまるの視界に入ったもの。

 

 

 

 

 

 

 それは、首筋から腰にかけてを3条の『爪痕』に引き裂かれ息絶えた、白衣姿のナースの死体であった。

 

「こ、これって…腐川さん!この人死んで…」

「………」

「…腐川さん?」

「…待ちなさいよ、今心の準備をしてるんだから」

「準備…?」

「スゥー…ハァー……いよっし!」

 深呼吸をして気合を入れ、こまるの指差す死体に向き合う腐川。

 

「……ッ!!ぎ……ッハァッ!た、耐えきったわよ…!」

「あの…どうしたの?」

「…私、『血』が苦手なのよ」

「え…?」

「あっ!今アンタ、もう一つの人格が殺人鬼の癖になにブリッ子かましてるんだって思ったでしょ!?」

「お、思ってないよ!」

「嘘つきなさい…。私だって、ぶっちゃけそんなのどうでも良かったわよ。でも、『アイツ』に影響されて白夜様や『陰険探偵』とか、『水泳バカ』や『アイドル崩れ』…しまいにゃ『占いバカ』までどんどん『成長』していって…アタシ一人だけ立ち往生してるのが馬鹿らしくなったのよ。白夜様の受け売りだけど…『人は成長するからこそ価値がある』のよ」

「い、意外とポジティブなんだね…」

「意外とは余計よ、アタシだって前向いて歩くぐらいの『覚悟』は持ってんのよ。…知らないうちに敬語じゃなくなってるし、アンタも大概に失礼ね…」

 そんなことを話しているうちに、二人とある部屋の前へとやってきた。

 

「ここは…?」

「どうやらここは『機械室』みたいね。…『電源盤』でもあれば明るくなって動きやすくなるんじゃない?」

「本当!?じゃあ入ってみよう!」

 喜び勇んでこまるは機械室へと入る。機械室も外と同様に薄暗いままであったが、その中に淡く赤い光を灯すコンパネのようなものを見つける。

 

「あれが電源盤みたいね…」

「でも…あんなところにあるんじゃあ届かないよ」

 こまるの言うとおり、電源盤は壁の天井付近についており、こまるや腐川の身長ではどうあっても届かなかった。

 

「困ったわね…なんとかして『動かせ』ればいいんだけど…」

「『動かす』…あっ!」

 その言葉に反応し、こまるはハッキング銃のメモリを『動』に変えて電源盤に銃口を向ける。

 

「もしかしたら…お願い、『ウゴケ』ッ!」

 願いと共に放たれた緑の閃光が電源盤へと命中する。モノクマを撃ったときは欠片も効かなかったそれは、電源盤に命中するとその機能を正しく起動させ待機状態の赤い光から起動状態の緑の光へと変化させる。それと同時に、院内の電源は復旧し非常電源によって機械室もまた明りに照らされた。

 

「やった!腐川さ…」

 頭上の蛍光灯が点いた事で成功を喜ぶこまる。腐川と喜びを共有すべく、いきなり明かりが点いたことで目をしょぼしょぼさせている彼女の方を向いたこまる。

 

 

 

 

 

 そんな彼女の目に飛び込んでいたのは、無防備な腐川の背後に迫る一体のモノクマであった。

 

「ッ!?腐川さんッ!」

「え?なに…」

 相手が機械であったからか、殺気を読み取れずにいた腐川は反応が遅れる。気づいた時にはもう遅かった。

 

『喰らえーッ!』

「ぐえッ!?」

 カエルが潰れたような悲鳴を上げ、こまるはモノクマの一撃によって壁に叩きつけられる。

 

「…痛ったあッ…!この…!」

『ぐへへへ~!』

 間一髪で受け身をとれたおかげか意識こそ保てたものの、頭を打ったのかなかなか起き上がれずにいた。そんな腐川にモノクマは嗤いながらにじり寄る。

 

「ふ、腐川さん!早くジェノサイダーに!」

「…分かって、るわよ…!でも、アタマがぼうっとして、アイツの声が…」

「そんな…!」

 再起困難な腐川にどうしたものかと焦るこまる。が、己が手にしている物を見てハッとする。

 

「…そうだ!こんな時こそ…」

 ハッキング銃のメモリをすぐさま『壊』へとずらし、モノクマへと銃口を構える。

 

「…お前!腐川さんに近づくな!」

『ん?』

 腐川から意識を逸らすべく叫んだ声に、モノクマが反応し首を向ける。

 

(この距離なら、外さないッ…!)

 一瞬動きを止めたモノクマに、こまるは弱点の『左目』目掛けて引き金を引き…

 

 

 

 

 

 

 

カチン

「……あれ?」

 放たれたのは、そんな引き金の空振る音であった。

 

「ど、どうしたのよ…?」

 勢い勇んだ割に何も起こらないことに疑問の声を上げる腐川。一方予想外の事態にこまるは心中パニックになっていた。

 

(な、なんでなんで!?なんで『弾が出ないの』!?こんなこと無かったのに…!だって、レストランで使ったときはあんなに…)

 そこでこまるははたと気づく。これは曲がりなりにも『銃』であること、そしてあの『召使い』が言っていた『デチューン』…すなわち『弱体化』の意味。その二つからこまるが導き出した結論は…

 

 

 

「…もしかして、『弾切れ』?」

「…はぁッ!?」

 思い返してみれば心当たりがある。飛行船の中でのモノクマとの闘い、後半はともかく当初は弱点を狙うのに四苦八苦し何度も無駄弾を撃った。デチューンされてから使った時があそこしかなかった以上、アレが原因とみて間違いはないだろう。

 

(でも、なんでこんなときにぃ~!?)

 しかし、そんなこまるの都合などモノクマにとっちゃ知ったことではない。

 

『イェ~イ!』

「ヒッ!た、助けて腐川さん!」

「アンタね…助けようとした奴が助け求める側になってんじゃあないわよッ…!」

 ターゲットが自分に変わったことで、闘う術を失ったこまるは腐川に助けを求める。求められた腐川もなんとかしようとするが、未だに体は言うことを聞かない。

 

「こんな…こんなのって…!」

『とどめだー!』

「い、嫌ぁぁぁッ!」

「おまるッ!」

 鋭い爪の付いた腕を振り上げ、モノクマは悲鳴を上げて蹲るこまるへと振り下ろす。腐川の叫びも虚しく、それはこまるの頭蓋へと突き刺さる…

 

 

 

 

 

 

 

ガキィンッ!

「………え?」

『はにゃ?』

 しかし、こまるの耳に聞こえたのは自分の命が終わる生々しい音ではなく、何か『堅いモノ』によって爪が弾かれる音であった。

 

「なにが…」

「お、おまる…!アンタ、それ…」

「え?」

 ようやくハッキリしてきた腐川が指差した先、自分の背後を振り返ったこまるの目に入ったのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 痩せ細った体躯と、頭上に鳥の羽の冠を被った人型の『ナニカ』であった。

 

「…ふええッ!?あ、あなた…誰ですか!?」

「誰も何も…アンタの傍に居るんだからアンタの『スタンド』なんじゃあないの!?

「え!?あ、あなたが…私のスタンド…?」

『……』

 その存在は答えない。だが、こまるは本能的に確信した。こいつこそが自分のスタンドのビジョンであると。

 

「す、スタンドなら…何かできるでしょ!さっさとそいつやっつけちゃいなさい!」

「え…あ、はい!…でも何かってなんですか?」

「ハッ!?…そんなの、アタシが知るワケないでしょぉッ!」

「ええッ!?」

 こまるのマヌケな質問に怒声で返す腐川。そんな二人にお構いなく、モノクマは再びこまるへと突貫する

 

『生意気だぞー!』

「ひぃ来たッ!あ、あなた何ができるんですか!?」

『……』

「答えてよぉ~!」

「…アンタが考えるのよッ!」

「え?」

「スタンドは自分自身『イメージ』よ…。アンタが『できる』と思ったこと、理屈も理由もなくてもできると『確信』していること、それが『スタンド能力』なのよッ!」

「私が…できること」

 

 腐川の言葉に、こまるは無意識の内に弾切れの筈のハッキング銃をモノクマへと向ける。

 

(そうだ…あの時も…!)

 思い出すのは、ヘリから投げ出されたあの時。あの時も、無意識の内に自分はハッキング銃を構えていた。その時の感覚が、こまるの脳裏に鮮明に蘇る。

 

「私ができるのは…今この場に必要な『音』は…!」

 眼前へと迫ったモノクマに、こまるは銃口を向ける。その瞬間、背後のスタンドがか細く、しかし確かにこう呟いた。

 

 

 

 

『イン・ア・サイレント・ウェイ…!』

 

 

 

 

「『ドカーン』ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ドカァァァンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 こまるへと迫っていたモノクマの脅威は消えた。…文字通りに、『消えた』のである。

 

「あ、アンタ…何したのよ…?」

「さ、さあ…?」

 目の前で起きた事態に困惑する腐川と、引き起こした張本人である筈であるが訳が分かっていないこまる。そんな二人の目の前には…

 

 

 

 

 

 

 

 

 轟音と共にモノクマごと吹き飛んだ、『大きな穴の開いた機械室の壁』が存在していた。

 




今回ここまで。
こまるのスタンドは当初の予定通りイン・ア・サイレント・ウェイになりました。
ただ、サンドマンのように音を立てて発動するのではなく、サイレン型のハッキング銃の形状を利用してこまるが実際に口にした「擬音」を具現化させるという用途に変更しました。
無論「コトダマ」ではないので人間にも効きます。
細かいことは後後考えていくので意見があったらどうぞ聞かせてください
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