現場へとも向かう道中で終里から事情を聞いた苗木達は全速力で教室へと走っていた。
「…まさか、狛枝さんがスタンド使いだったなんて…!」
「つーか七海までかよ!…クッソ、なんでこんなことになっちまってやがんだよ!」
「オレが知るかっつの!」
「お前ら!無駄口叩いてる暇があったら速く走れ!…間に合ってくれよッ!」
走りながら聞こえてくる破壊音と爆発音に嫌な予感を募らせながら、4人と4匹は一心不乱に走っていた。流石にこの音は他の教室にも聞こえているらしく、道すがらの教室から生徒たちや先生が顔を覗かせて不思議そうに顔を見合わせている。その中には、78期生の面々も含まれていた。
「なんだべこの音?」
「奥の教室から聞こえてくるけど…」
「…けどなんかヤバげな音じゃね?」
「触らぬ神に祟りなし、と言いますしここはあえてスルーしたほうが…」
と、教室から顔を覗かせた彼らの目の前を苗木達が猛スピードで駆け抜けていった。
「今のって…」
「苗木…だよな?」
「…まさかまたスタンド使いの騒ぎか?」
「フン、はた迷惑なことだ。放っておけ!」
苗木の事は気になるものの、また前回のように巻き込まれては危険なので後ろ髪を引かれつつも傍観を決め込もうとした時、ふと朝日奈が気が付く。
「…あれ?」
「どうした、朝日奈よ」
「あ、大神さん…。あのね、舞園ちゃん知らない?さっきから姿が無いんだけど…」
「ああ、舞園っちならトイレ行くって言ってたべよ」
「…ちょっと待って、トイレって確か向こうにあったんじゃあないかしら?」
霧切がそう言って指差したのは、先ほどから異音が轟く奥の廊下の先。もし、舞園がその先で起きているであろう事態に巻き込まれていたとすれば…
「…舞園ちゃんがヤベェッ!」
「急ぎましょうッ!」
「無論だッ!」
放っておいてと言われた苗木は仕方ないにしろ、舞園が巻き込まれているかもしれない状況を放っておくほど皆は冷酷ではない。乗り気でない十神と腐川を引っ張って、彼等もまた音の発信源へとひた走るのであった。
ドガアァァァァンッ!!
「…へえ、なかなかやるね」
「それはどうも…ッ!」
一方77期生のいる教室では、狛枝の『キラークイーン』と七海の『法王の緑(ハイエロファント・グリーン)』の闘いが激化し、教室は七海の後方にいる生徒たちのスペースを除いて半ば残骸と化していた。
「ほら、もう一発いくよ…!」
そういうと狛枝は足元の電子黒板の欠片を拾い上げ、『キラークイーン』がそれに手をかざす。
「『キラークイーン』、第一の爆弾…ッ!」
するとその欠片が一瞬発光する。その光はすぐに消え、見た感じは先ほどと何ら変わった様子はない。しかし、既にこの欠片は人一人ぐらいなら簡単に消し飛ばせるほどの爆弾と化しているのである。
これが『キラークイーン』の第一の能力、『触れたものを爆弾に変える』能力である。『キラークイーン』に直に触られた物体は、金属であろうと生物であろうとはたまた人体であろうと爆弾と化す。しかもその威力は尋常ではなく、百円玉程度の大きさの爆弾であっても人の頭をグシャグシャにするぐらいなら容易く行える程であった。
「そら、プレゼントだよ七海さん」
そう言って狛枝は欠片を七海に投擲する。あとは爆発の射程距離に入りさえすれば、『キラークイーン』が右手のスイッチを押すだけで七海の頭は跡形もなく消し飛ばせるであろう。しかしこの行為、既に十数回に及んで繰り返されたものであった。それなのに何故未だ七海がかすり傷程度の負傷しかしていないのかというと。
「『ハイエロファント』ッ!」
『任せろッ!』
七海の指示とほぼ同時に、『ハイエロファント』が正面に立ちはだかり、両手を突出し包み込むような仕草をする。すると、その手から緑色の液体が零れだし、次第に手の中で激流となって溢れだす。
『もう一度喰らえッ!この『法王の緑』の必殺…ッ!』
そして『ハイエロファント』が両手を捻ると、その激流がまるで宝石のような形を成して凄まじい速度で発射された!
『『エメラルド・スプラッシュ』ゥゥゥゥッ!!』
手から放たれた文字通りエメラルドの形をした破壊のエネルギーが、飛来した欠片を粉微塵に破壊し爆弾としての機能を停止させ、あぶれたエネルギーがその後を素通りし狛枝と『キラークイーン』へと殺到する。
『フンフンッ!』
『キラークイーン』も黙って攻撃を受ける筈もなくパンチでそれを打ち落とすが、『キラークイーン』自体の格闘能力はさほど高いものではないため、その全てを止めることはできず何発かが狛枝に命中する。
「ぐふっ…ッ!」
『エメラルド・スプラッシュ』を喰らった狛枝は後方に吹き飛ばされるが、その表情には未だ余裕がある。これまでも何発か喰らってはいるのだが、命中したのはいずれも二の腕や太腿、あるいはかすっただけというだけで再起不能に至るほどのダメージには至っていなかった。
「…流石『超高校級の幸運』の才能の持ち主なだけはあるね。これだけ『エメラルド・スプラッシュ』を喰らってまだ闘えるなんてちょっと驚き…」
『なんという『幸運』…いや、攻撃自体は喰らっているから『悪運』と言うべきか…』
「お誉めに預かり光栄だね…。僕みたいなしょうもない才能の持ち主でも、君を相手にして生き延びられる程度にはラッキーみたいだね…」
狛枝と会話しながらも、七海は後方の生徒たちの中にいる負傷した小泉の方を気にかけている。『超高校級の保険委員』罪木蜜柑による適切な応急処置によって何とか止血はできたものの、これほどの戦闘が行われている状況では舞い散る粉塵や瓦礫などから雑菌が入る恐れがあるため一刻も早い本格的な治療が必要となっていた。しかし、
「…ハァ…ハァ…」
「小泉おねぇ…ッ!…もうッ!早く助けなさいよゲロブタ女ッ!」
「ふええっ!?そ、そうしたいのは山々なんですけどぉ…」
「…狛枝の奴が入り口にあんなもん仕掛けちまった以上どうしようもねえだろうが…ッ!」
「糞ッ!卑怯じゃぞ狛枝ァァァッ!!」
悔しそうに向けられた視線の先には、教室の入り口にぽつんと置かれた机が存在していた。無論、ただの机ならば気にも留めず小泉を医務室に連れて行っただろうがそういう訳にもいかない状況にあった。出て行こうとした瞬間、狛枝が彼らにこう言ったのである。
「あ、その机もう爆弾に変えてあるからね。出て行こうとしたら起爆させるよ」
その言葉に、皆の表情が凍りついた。狛枝曰く威力は入り口付近の物体をまとめて消し飛ばせるほど。スタンドこそ見えないものの先ほど小泉の手を消し飛ばしたのを見ているため、進もうにもやはり恐怖心が先行して足が竦んでしまっていたのである。
(…これ以上時間をかける訳にはいかない。苗木君か日向君が来る前に爆弾をなんとかするか、せめて狛枝君を動けない様にしないと…。『ハイエロファント』、『結界』の展開状況はどう?)
(…現時点でおおよそ70%といった所だ。普通なら再起不能にすることも十分可能だろうが、相手はこれほどの悪運の持ち主だ。うまくいくかどうかは分からんぞ…)
(それでも、やるしかない…よね?)
小泉の為にも最後の『切り札』を切る決意をした七海が動こうとしたその時
「あ、あの…皆さんこれはどうしたんですか?」
ふと聞こえてきた声に振り向くと、そこには教室の入り口で状況を把握できず立ち尽くす舞園さやかの姿があった。
「…ッ!いけない、逃げてッ!」
「へ?」
「…待っていたよ、この時を…ッ!」
予想外の人物の登場に焦った七海が舞園に警告しようとした、その時を狛枝は待っていた。この展開になるのが分かっていたからではない。ただ狛枝は信じていたのである。自分の才能を、『超高校級の幸運』を。だからこそ、七海の注意が逸れたこの時に迅速に行動することができた。
「『キラークイーン』第二の爆弾…ッ!」
『切り札』を隠していたのは七海だけではなかった。『キラークイーン』が左手を突き出すと、そこからなにやら駆動音のような音が鳴りだし、
「『シアーハートアタック』ッ!」
七海が反応するのとほぼ同時に左手から髑髏の顔をした小さな物体が射出される。
『コッチヲ見ロォォォ~』
不気味な声を上げながらキュラキュラとキャタピラを駆動させて接近してくるそれは、一見手のひらサイズほどしかないミニカーのような物であったが、それが危険なものであるということは違えようのない事実であった。
「『ハイエロファント』!」
『了解!『エメラルド・スプラッシュ』!!』
警戒する間を惜しんで『エメラルド・スプラッシュ』が放たれるが、『シアーハートアタック』は真正面からそれを喰らってなお突き進んでくる。
「ッ!硬い…ッ!」
『どうする七海!?』
「仕方ないね…この際だから、一気に行くよ!」
『承知ッ!』
その言葉と同時に、周囲の空間がゆらゆらと蠢きだした。異変に気付いた狛枝が辺りを見渡すと、その理由が明らかとなる。
「これは…!驚いたよ、いつの間にこんなものを仕掛けてたんだい?」
教室中の至る所に張り巡らされていたのは、『ハイエロファント』が伸ばした触脚であった。七海は闘いながらも、こっそりと『ハイエロファント』の下半身を糸状に伸ばして教室中に展開していたのである。
『触れれば直ちに『エメラルド・スプラッシュ』が放たれる『ハイエロファント』の結界!貴様の動きは手に取るように探知できるッ!もちろんその爆弾もだッ!』
結界の中心で、七海と『ハイエロファント』が力強く言い放つ。
「『喰らえ狛枝!半径3メートル、『エメラルド・スプラッシュ』をーッ!!』」
縦横無尽に張られた『ハイエロファント』から放たれた無数の『エメラルド・スプラッシュ』が狛枝と『シアーハートアタック』に殺到する。その数は既に数百をゆうに超えており、辺り一帯を覆い尽くすだけでなく空振ったいくつかが床や天井を破壊し朦々と砂塵が舞い上がって狛枝を隠してしまうほどであった。
「や、やったか!?」
「馬鹿豚足!フラグ立ててんじゃあねーよッ!」
「もしや今のが噂に聞く『やってないフラグ』ですか!?」
偽十神が立ててしまったフラグの通り、土煙の中から姿を現したのは
「…今のは少し危なかったよ。もう少し気づくのが遅かったらやられてたかもね」
衣服が多少ぼろぼろになりながらも、ケロッとしている狛枝であった。
『なんだと!?一体どうやって…!?』
「…多分直撃する瞬間に爆発を起こして『エメラルド・スプラッシュ』を押し返したんだよ。ほら、証拠に狛枝君の周りだけ瓦礫とか粉塵がきれいに無くなってるでしょ?」
七海の言うとおり、狛枝の周囲は不自然なことに放射状にコンクリートの欠片一つないほどにきれいな状態にあった。
『馬鹿な…、あれほどの至近距離で爆発を起こせば自分とてただでは済まない筈…!なのにどうして無傷でいられるのだッ!?』
「確かに普通なら大けがしていただろうね。けど、僕の才能は分かってるでしょ?」
「『超高校級の幸運』…!」
「そう!たまたま爆風が上に吹き上がって、たまたま弾かれた『エメラルド・スプラッシュ』が僕の周りを飛び散って爆風を防いでくれたんだよ!いやあ、僕の運もまだまだ捨てたもんじゃあないみたいだね!」
『あり得ない…!そこまでの『幸運』を持っているとは…。いや、ここまで来るともはや『運』どころではない、いっそ『呪い』の様だ…!』
「呪いか…言いえて妙だね。けど千秋さん、僕なんかを見るよりもっと気をつけるものがあるんじゃあないの?」
「…?」
狛枝の言葉に首を傾げていると
『…ッ!!千秋ッ!上だぁッ!!』
「!?」
『ハイエロファント』の警告に上を見上げると、そこにはあちこち壊れながらも自分目掛けて突っ込んでくる『シアーハートアタック』が存在していた。
『コッチヲ見ロォォォ~!!』
「あ…」
不気味な声を上げながら既に至近距離まで到達している『シアーハートアタック』に対し、七海が対抗する手段はもはや無い。
「『シアーハートアタック』に……」
『千秋ッ!!』
そして狂気を孕んだ特攻兵器が
ドガアアアアンッ!!!
「…弱点は無い…!」
七海を巻き込んで爆発した。